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第十一章 大奥総取締 右衛門佐
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大奥総取締──。
大奥を統制し秩序を厳しく守る、重要な責務を担う大奥女中。御年寄の中からたった一人が選び出され、その中でも優秀で模範的な行いをする者が筆頭御年寄となり、大奥を卓越した慧眼で女中たちの生活を取り締まる。
大奥だけでなく、表向きに対しても対等に力を下す事が出来る──。
────────────────────
大奥・御広座敷 夜 ───────
「上様!! どうか私に、大奥総取締の称号を戴きたく存じ奉りまする」
次期将軍として決まった嫡男・徳川家英の祝いの宴がお開きになった後、お楽の方が御台所、大御台所、家英の眼前で将軍に直訴した。
側室は本来、大奥総取締にはなれない決まりだった。それは、将軍に寵愛された側室が大奥に権勢を意のままにする事を防ぐ措置であった。
三代将軍・徳川家光の時代、乳母であった春日局が、大奥の最初の総取締として、秩序厳しく奥を統制して来た。『大奥法度』の制定、側室選び等、様々な厳しい掟を設けて、大奥を確立させた。
しかし時が経ち、春日局が病床に臥せていた折、側室の中でも器量と才覚を持っていた・お万の方を、自身の跡を継ぐように家光に提案し、死後、お万の方は大奥総取締として大奥を監督した。それは家光死後まで、落飾せずに名を変えてまで続けられた。
その事例以降、側室が大奥総取締になったという先例は三百年経った今まで一度も無かったのであった。
「大奥総取締? そちに務まると申すのか?」
もはや家正は酔いが醒めていた。将軍の問いにお楽は頷いた、
「私は東崎殿の下で、部屋子として大奥へ参りました。畏れ多くも上様の側室として、御部屋様という身分を頂戴致しました」
【御部屋様】とは、側室の内、男児を出産したお手付き御中臈の事を崇めてそう呼ぶ。
「大奥に来てわずか二年ほどでございますが、数多くの女中たちをこの目で見て参りました。東崎殿の成される務めを間近で見て興味が湧きましてございます」
お楽は、御目見得以下から御目見得以上までたった一年を経てすべてを経験している。過去、大奥の歴史の中で、このような経緯で登り詰めた女中は誰もいなかった。
傍で聞いていた東崎は淡々と述べるお楽に絶句し、止める言葉も出なかった。それは皆も同様であったが、ただ一人は違った。
「お楽殿! そないな事、かような祝いの席で申すべき事かえ!? それに、まだ大奥へ入って間もないその方に、『興味が湧いた』というだけで総取締が勤まるわけが無かろう!! 上様に対して、無礼にも程があるぞ!!」
泰子は扇をお楽に突き付け、声を荒らげた。人として常軌を逸する行いに、泰子は憤慨しているのだ。これは、藤子に対しての気遣いもあった。俄かに起きた実姉の暴走に、藤子は居心地が悪くなった。
「仰せの通り、私は大奥で老練を経ていない、未熟者にございます! さりながら、私なればこそ、大奥に新たな風を送り込み、女中たちにとり、御台様、大御台様にとりましても、何不自由無い暮らしをさせる事をここに誓いまする。上様、何卒お考え下さいます様に、お願い申し上げ奉りまする!!」
お楽の必死の訴えを受け、家正は東崎に訊ねた、
「東崎はどう思う? お楽に任せても相違ないと考えるか?」
上段からを眺めながら藤子は東崎に、姉の願いを跳ね付けて欲しいと念じた。藤子は姉の姿を見て恐怖を感じたのだ。地位や名誉を、欲望の赴くままに欲しいと願う、理性を失った獣の様に見えた。
しかし、東崎は、皆が思いがけない言葉を口にした、
「相違、ございませぬ……」
ここに、新たな大奥総取締が誕生した。
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英弘元年(1919)二月十一日 朝
元号が安治から英弘と改まった二月十一日の朝。この日は、藤子と家正の長女・豊姫が、松平家へと嫁いで行く日であった。
嫁ぐことが決まってからおよそ二年を経て、ようやく門出へと送り出す事が出来ることに藤子と家正は大いに喜びを感じていた。
大奥・御座之間にて、家正と豊姫は親子別れの盃を交わした。豊姫は藤子が誂えさせた振袖打掛に身を包んでいる。赤い紅を差した娘の姿を見て、初めて娘を送る母の気持ちを身に染みて感じたのだった。嬉しくもあり、寂しくあった。
「於豊……元気で過ごすのだぞ」
豊姫は父の瞳を見つめてゆっくりと頷いた。
「父上様、母上様。これまでの御恩そして……大切にお育て下さり……誠にありがとうございました!」
言葉を詰まらせながら頭を下げる娘を見て、二人は娘の立派な成長に感じ入りつつ、手元から離れる事に悲喜交交であった。
下段の間には妹たちが姉の晴れやかな姿を見守っている。豊姫は駕籠へと乗り込む前に、二人の前に膝をついて声を掛けた。敏姫と順姫は、すでに涙で頬を濡らしていた。
「泣くでない……私まで泣けてくるではないか」
涙を拭ってあげながら、豊姫は二人を優しく諫めた。敏姫は泣きじゃくりながら行ってしまう姉の手を握る、
「お綺麗にございますっ姉上さまぁっ……どうか、お元気で」
我慢できなかった順姫は、重なる二人の手の上に自分の手を重ねた。
「わたくしたちの事を忘れないでくださりませねっ……」
こうして涙を流してくれる妹たちを、豊姫はすかさず抱き締めた。御座之間に控えていた女中たちは、三人の姫君たちの別れに思わず涙し、洟を啜り上げる音が響いた。
「もうそなたたち会えぬやも知れぬ……しかしのう、於敏、於順? 我ら姉妹はいつでも心は一つじゃ。その事を、決して忘れるでないぞ?」
豊姫は両の手で二人の頬に触れながら一筋の涙を流した。そして、豊姫は駕籠に乗り込んで、江戸城を出たのだった。
それから翌月の三月五日、敏姫が上杉家へ嫁いで行った。
豊姫の時とは違って、大泣きすること無く、父母に尊敬の目で見つめ別れを告げた。妹の順姫の手を借りて駕籠に乗り込むと、近くまで見送ってくれた順姫に「お先に」と敏姫は笑いかけた。
姉妹が遠く離れていても、心はいつも一緒だという事を三人は信じているのだった。
娘たちを見ていた藤子は、自分たち姉妹とは全く違う事に少し安堵し、羨ましくさえあった。
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英弘元年(1919) 四月
お楽の方が東崎局からの引き継ぎを終えて、大奥総取締となる事が正式に決まった。
御座之間にて、御目見得以上・御目見得以下関わりなく、大奥総取締就任の御披露目が催された。お楽の方は大奥総取締の任を得て後は、名を右衛門佐と改めた。
右衛門佐の手腕が大いに振るわれたのは、御披露目式が行われたすぐの事だった。
「方々に集まっていただいたのは他でもありません。これらの事に付いて、御相談致したく──」
右衛門佐は大奥・御広座敷にて老中と寄合を行っていた。手で示した先には数十冊ある幕府の記録書だ。老中首座・阿部伊勢守正保は、見限る様な素振りで右衛門佐の言葉を遮った、
「何の御相談ですかな。ははっ、我々は貴女様方、大奥の御女中方より忙しゅうございましてなぁ」
伊勢守は他の老中たちに目線を送りながら大きく口を開けて笑った。右衛門佐は前置きを省き、臆せず続けた、
「今、幕府の予算は赤字続きであると収支決算の書付を勘定方から手配し、拝見させていただきました。殊に、ほとんどの支出をもたらしたのは、我ら大奥でございました」
「左様であろうなぁ? ははは」
老中・松平上総守正景がしたり顔で伊勢守と同様、高笑いした。
「由々しきこの事態を、よくもまぁ皆様方は目を背いて参ったものでございますこと」
右衛門佐は老中方を侮蔑するような目で見つめ、吐き捨てた。伊勢守らは唖然とした。
「わ、我々は! 御触れを幾度も出しましたぞ!! それを無視したるはそちらであろう? 我々のせいにするなぞ──」
「御触れを出したのはいつの事でございます?」
「いや、その……」
伊勢守は右衛門佐が急に凄みのある目で見つめて来るので、口ごもってしまった。
「二十年も前、大御所様が公方様であられた御代にございました」
先に言われてしまい、伊勢守と上総守はぐうの音も出なかった。口を挟まなかった同じく老中の稲葉備後守正顕は前に進み出た、
「我々は、大御所様の時代の折には、各々……今の様に老中職では……ござりませなんだゆえ」
息巻いて進言したものの、訥々と説明するので右衛門佐は痺れを切らした、
「それが答えられぬ理由ですか?」
「……」
右衛門佐は持っていた扇を畳みに叩きつけ、老中方を睨めつけた、
「そのような浅はかな考えを御持ちでありながら、良くも今日まで老中職を勤められたものですね!」
穏やかな、正に公家の女らしい風貌とは想像もつかない怒声に、老中たちは二の句が継げなくなった。先ほどの威勢はどこへやら、俯いてしまってすらいた。
「公方様に大奥を一任させるなぞ、愚かで浅はかな考えにございまする。政を預かり国を動かす者ならば然様な幼稚な御考え……今すぐ御捨て去り下さいませ!」
右衛門佐はすでに見抜いていた。
大奥は将軍の私的空間だ。それ故に、幕閣は干渉せず将軍に一切の責任を押し付け、財政難の源が大奥であっても老中は知らぬ振りを貫き通している事を。
これは大奥総取締だけが知り得た。噂が容易く飛ぶように広がる大奥でさえも知らされていない事実であった。
安房守は必死に弁明しようと膝を進めたが、右衛門佐は手で制した、
「分かりました。御方々が表へ戻られた際は、過去二十年の幕府記録を御読みくださいますよう御願い仕りまする。御政務に御忙しいと仰せなれば、通常業務を果たされた後に各々の御屋敷で御読みくださりませ」
そう触れを出した後、右衛門佐は「あぁ、それから」と余裕ありげに声を漏らした、
「大奥の普請を担当した作事奉行に明日より来ていただいてくだされ。上様専用の御湯殿、未だ時を経ても空室状態である長局・五之側棟を即刻取り壊すよう御願いしてください。このご時世、大奥に入った者はここ五年間おられませなんだゆえ」
先日、大奥の実状を記した記録に目を通した折、判明した衝撃的な事実だった。ただでさえ、女中の数は千四七十五人いる。御目見得以下が六割以上を占める。五之側など無用の長物だ。
阿部伊勢守は開かなかった口を強引に開けて訴えた。
「お、お、お待ちなされ!! 上様にはど、どう申し開きなさるおつもりか!?」
「それは方々の御役目。私が中奥へ上り、上様に直接申し上げても構いませぬが……ふふ、それはいささか総取締として度が過ぎるというもの。法度を破る事にもなり兼ねませぬゆえ、代わりに老中首座であらせられる伊勢守殿? 何卒、御願い申し上げまする」
右衛門佐はこれ見よがしに三つ指をつき、老中たちに頭を下げた。とんでもない人物が大奥総取締になったものだと、背筋が凍る思いの三人だった。
大奥・御膳所 ───────
ここは、御台所や大御台所の食事を温め直し、鍋から器に盛り付け、整える台所である。煮炊きは基本大奥ではなく、女の世界とを御錠口で隔てた御広敷向御膳所で作られる。
「御台様の御膳を削減せよと……?」
今、右衛門佐は御膳所へ視察に訪れて、別室で仲居頭と二人きりになった。そして単刀直入に衝撃的なことを告げられた。右衛門佐は平然と言ってのけた後に両手を付いた、
「はい。何卒、よろしく御願い申し──」
「お、御待ちくださりませ!」
仲居頭の葛河という老齢の女中が、つい先日就任した新しい総取締が発した命令に不服を申し立てた。
「御台様や上様に出される御食事は、必ず、御毒味を通しまする。そして、害のない事を確かめた後に、御方々の御前へと運ばれまするので、十人前必要なのでございまする」
「では、毒味用の一膳、御台様に御一膳、お替り用にもう御二膳。その他の六膳は如何するのですか?」
「そ、それは……」葛河は応えに迷った。大奥で長らく継承されて来た暗黙の了解が明かされる。真っすぐと見つめる総取締に嘘偽りは述べられないと決した。「御台様付きの御年寄、御中臈の方々が食すのでございます」
「ほう、何故?」
「存じ上げませぬ」
「は?」
「大奥が出来てしばらくして生まれたしきたりなのでございましょう。言わず語らずのうちに大切に守られた御定法なのでございまする」
理由にならない理由を聞かされた右衛門佐は、小さく「けったいな」と呟いた。微かに聞き取った葛河は、ちらと顔を上げて、覗き込んだ。今の言葉はどういう意味だ? と思った。
「大奥はつくづく贅沢のし過ぎでございます。表方が常々如何に、節約倹約を求めてきているか……存ぜぬとは言わせませんよ」
右衛門佐はひとつ深呼吸して、持っていた扇を開いたり閉じたりを繰り返した、
「この先、御台様が御食事なされる折は、各々部屋へと戻り、そこで食事をするように達しを出します。何のために女中たちに扶持米を出していると御思いですか! これからは、御台様の食膳の御用意は、五膳分のみにするよう御取り計らいください!」
「さ、されど、右衛門佐様……!」
葛河が何かを訴えようとするも、きっと右衛門佐は睨んで扇を突き付けた、
「葛河殿も、云十年勤めて参った頭でありながら、斯様なことに気付かぬとは由々しき事態でございまする。それと、たとえ頭であれど、然様な絹織りの掻取を御召しになるなぞ、目に余ることでございまする! 御目見得以下の分際で、よくも東崎殿が許したものですね」
葛河は反論出来ず、ただ平伏し、承知の意を示した。右衛門佐は白髪の髪を一瞥し、「それでは、よしなに御願いいたしまする」と吐き捨て、御膳所を去って行った。
・・・・・・
「どうか! どうかそれだけはご容赦を!」
「あかん。わてとて切るのは辛いのや。せやかて、この生活を続けんのも苦労するばかりなんや。堪えとくれ正子」
七年も昔の出来事を、まるで昨日のことのように思い出す。十一年という長い期間、嫁ぎ先で虐げられてきて伯父の家でようやく平和な時が過ごせると思っていたが……とんだ勘違いであった。
大切な人を、支えてくれた人を失ったのだ。
見送ることも許されず、気付いたら……いなかったのだ。
・・・・・・
大奥・呉服之間 ───────
ここは、将軍や御台所、そして女中たちの衣裳を仕立てる部屋である。倹約を推し進める幕府の達しが出されても、その数は引きも切らないほどだった。
呉服之間に勤める御針子たちは、針の数をすべて数えてから仕事を始め、仕事の終わりに再度、針の数を数える。万一、揃わぬ場合は、見つかるまでは誰も部屋を出られず、着る着物もそのままでいる決まりがあった。仮にも将軍や御台所の着物の中に針が混入してしまい、身体を傷つけるような事があっては一大事だからだ。
「木綿を……でございますか?」
「左様です。木綿だけではありませぬ。御召、羽二重の生地を多く取り寄せ、絹織物の使用はなるべく控える様に」
右衛門佐は呉服之間頭・絹張を別室に呼び寄せて、厳しい達しを下した。
「な、なれど右衛門佐様……然様な事をなされば、大奥の皆々様が……」
絹張はこれまで多くの女中たちの打掛や小袖を仕立てて来た。仕立ての依頼があれば、ものの一日で仕上げる。自身だけでは手が回らず、他の御針子にも同様の技術を与え、女中たちからの賞賛と贈り物が届けられることもあった。
「財政の巻き返しが急を要しまする。事が順調に運べば、元の絹布を使用しても構いませぬ。とにかく、私が申したいのは、大奥の女たちは贅沢をし過ぎているということです。衣食住における衣を変えなければ大奥は滅びてしまいます」
「ほ、滅びる?」
絹張は恐怖に怯えた顔で、膝の上の置いた手で裾を掴んだ。
「そうです。路頭に迷いたくなければ、申し上げた達しを受け入れるように。それでは」
右衛門佐は打掛を大きく翻し、呉服之間を去って行った。
・・・・・・
「正子さん……なぜそこまでして……」
万寿御殿に残された江戸の書物を母は持ち込んでいた。そのことを知り、私は夢中で読みふけった。嫌いだった言葉を、冷たい抑揚を、私は必死に頭に、体に叩き込んだ。袿を捨てて、打掛を纏うようにもなった。心配する母を落ち着かせて、
「私にできるのは、これだけしかありませぬ故……」
母がなんと言おうと、私は嫌いな言葉を学び、嫌いなものを身に付けて、栄華を極めるあの城へ行かなければならない。たとえ時が掛かろうとも、這ってでも行く。そう決意したのだ。
そして五年後。宿願を果たした……。
・・・・・・
────────────────────
右衛門佐は、大奥中に嫌われても厭わず、粛清を下して行った。次第にその厳しさは増して行き、廊下ですれ違う女中が華美に着飾っていたらすかさず長局まで戻らせ、着替えさせるほどの徹底ぶりだった。
十五代将軍・徳川慶喜の時代に行われた倹約令を再度発布した。
衣服を新調するのではなく洗い張りさせ、履き捨てて来た足袋は洗って再利用させる、打掛や小袖に香を焚きしめる〈衣香〉も、三日に一度のところを月に一度にするなど、尋常ではないほどの徹底ぶりだった。皆少しずつ神経質になり、大奥を出る者まで続出した。
そのことを危惧した大御台所・泰子は大奥総取締を呼び寄せた。壱之御殿を訪ねると、まだ昼時だというのに酒を呷って顔を赤くしている。右衛門佐が下してきた粛清を咎めて来たが、折れることなく、酒は夜のみにするよう求めた。
呂律の回らない舌で、泰子は怒りを露わにした、
「その方、この大奥に新風を送り込み、我々に何不自由無く暮らせる様にすると言うておったでは無いか? それが今ではどうじゃ、不都合ばかりではないか!」
「今しばらく御待ちくだされば、何不自由なく御暮し頂く事が叶いましょう。それまでどうぞ、ごゆるりと健やかに御暮しくださいますように。大奥の者は皆、大御台様のご健康と幸せを──」
泰子は右衛門佐の言葉を遮り、扇を投げつけた。その目は虚ろながら憎悪に満ちていた。
「そなた……疫病神やな……」
その後、泰子は江戸城本丸から離れ、二ノ丸へと移った。家正と藤子に止められたが、聞く耳も持たず、亡くなるその日まで二ノ丸で過ごしたのだった。右衛門佐は詫びる訳でも心が痛むでもなく、大奥の人数が減ることに得意げになってすらいた。
半年の時が経った頃、総取締の執務室である千鳥之間にて、大奥に届けられた数々の貢ぎ物の記録に目を通していると、ある人物が右衛門佐を訪ねて来た。龍岡だった。
部屋方に茶を出させるように命ずると、龍岡は右衛門佐の前に座り、徐に両手を付いた、
「どうなされました、龍岡殿……」
右衛門佐はあくまでも正子としてではなく、大奥総取締として接した。
「お願い申します一之宮さん……どうか、これ以上、宮さんを悲しませないでくだされ」
「何のことだか……私は大奥総取締としてやるべきことをしたまでです。御台様を悲しませた覚えなどございませぬ」
「然様な御口の御利き方は御止めくだされ……私は……そのような言葉遣いを受ける身分では……」
「私は平等に接しているつもりです。この考えを覆すわけには参りませぬ」
記録に再び目を落とすと、バタッと物音がした。顔を上げると、龍岡が苦しそうに息を荒くしていた。
「龍岡殿!? 龍岡殿!」
急いで駆け寄ると、力強く腕を掴まれ思わず声が出た。
「一之宮さん……御約束くだされ……宮さんをこれ以上悲しませないと! いっ……ち」
下腹部に手を置いて途端に龍岡は苦しみ出した。右衛門佐は突然のことで必死に呼びかけた、
「龍岡殿! しっかりしなされ……た……龍岡!」
ただならぬ事態を察した右衛門佐付の部屋方が「御匙を呼んで参ります!」と言って、急ぎ部屋を出て行った。腕の中で凭れる龍岡の身体がだんだん重くなって行くのを感じた。途端に、空が暗くなり、雨が降り出した。
先刻、報せを受けた藤子は、着の身着のままに長局にある龍岡の居室へ見舞いに訪れた。案内したのは、龍岡の部屋方である軒端荻であった、
「龍岡!」
上段に厚い布団で横になる今際の際にいる龍岡が息を荒くしている。傍らに座る医師に「見立ては?」と訊ねると、医師はゆっくりと首を振った。藤子は手を握った。
「龍岡! 龍岡……何をしておる。もうすぐ夕餉じゃ……最後に給仕してくれぬか」
呼びかけるように藤子は言った。声が震えていて、御台所に付いていた松岡と龍岡の部屋方たちはそれぞれ涙を流した。もはや全快することはないという事を悟っているのだ。
「旦那様! 御台様がおいでにございますぞ。起きでくださりませ……」
軒端荻が呼びかけた。すると、
「み……みや……」
藤子は身を乗り出し、龍岡の口に耳を近づけた、「宮さん」とそう聞き取れた。
「そうじゃ、私じゃ……何をしておるのや龍岡! 私を……私を置いて行かないでおくれっ!」
女中たちがいるのも厭わず、藤子は必死に呼びかけた。徐々に、松岡たちが龍岡の名を呼んだ。すると最後の力を振り絞って、龍岡は目を開けた。医師は驚きの表情になって脈を測った。もう一度、藤子が名を呼ぶと、布団に身体を預けた龍岡は、ふっと優しく微笑み、そして二度と目を開けることはなかった。
英弘元年(1919)十二月十三日 上臈御年寄・龍岡が亡くなった。享年六十七。都から江戸まで、藤子のお供をし、京都を忘れる様に一心に仕えて来た。公家の娘とは感じられないほどの強い心で大奥という荒波を生き続け、次第に多くの女中たちの尊敬を集めていた。
その後も不幸は立て続けに起こった。
西ノ丸大奥で長らく暮らしていた、十三代将軍御台所であった天璋院篤姫が、英弘元年(1919)十二月二十日 八十三の天寿を全うした。
葬儀には、三万人もの人が集まり、譜代外様大名そして公家問わず、天璋院の死を悼んだ。
松平家へ嫁いでいた豊姫も身重の身体で天璋院と龍岡の死を知り、駆け付けた。豊姫にとっては二人は、子供のころから世話になり尊敬していた人物だった。腹の子の為にむせび泣く事はせず、ただただ静かに手を合わせた。
────────────────────
老中たちと寄合を済ませ、右衛門佐は新御殿を訪ねた。
信頼を寄せていた乳母が亡くなってひと月、藤子は食が細くなり、公の場に顔を見せなくなっていると知り、心配になったのだ。
松岡と、先日新しく御中臈になった中川に人払いさせて、二人きりになった。どんよりとした空気の中、右衛門佐は口を開いた、
「御台様、どうか御気を確かに御持ちくだされ。皆が心配しておりまする」
しかし、藤子は脇息に身体を預けたまま動かなかった。何か気の利いた言葉がないか辺りを見回すも途方に暮れた。天気のことや、吹上の茶屋が建て替えられたなど他愛のない話を切り出すも、効果は見られなかった。
やむを得ず、右衛門佐はある話を持ちだした。これは誰にも話したことの無いことだった。
「長い間、やんごとなき婚家で辛酸を嘗めさせられ、孤独だった姫宮がいた。義理の父には虐げられ、夫にも見向きもされず辛い日々を送った。夫が亡くなってようやく解放される思いで実家へ戻ったというに、今度は父親が自害。母と共に母の生家へ居候した。ようやっと、再縁することなく穏やかでゆっくりと暮らせると思うた。そして、姫宮は、乳母を失った……」
藤子は顔を上げた。その顔はひどくやつれていて哀れだった。右衛門佐は続けた、
「母の生家へ養女となると同時に、伯父から暇を出されたのやそうや。口減らしのためになぁ。長く苦楽を共にしてくれた乳母をいとも簡単に切り捨てた伯父を姫宮は憎んだ。殺してやりたいほどに……。されどそうすれば、母を悲しませることになる。それだけは避けたかった姫宮は、ようやく決心をしたのや。断絶に瀕した実家を立て直そうと。家を出て、必死に……嫌うていた江戸の言葉を姫宮は学び、そして、大奥へ参った。上様と御目文字するため、幾数年費やしたのや」
ここに来て、藤子は正子本人の物語だと分かった。事の経緯を聞かされた藤子は、驚愕したが嫉妬という思いはもはや無くなっていた。
「実家が再興されることは大奥の主、御台様のおかげで果たすることが出来た姫宮は、産んだ子を見送って後は……抜け殻同然であったそうや」
藤子は徐々に涙声になっていく姉をまっすぐ見つめた。
「じゃが……、ただ上様の側室として命の火を潰えさせるわけにはいかなかった……生きた証が欲しかった……。それで、殊に耳にする幕府の財政破綻を、立て直そうと思い至ったのや。ここにいる女たちに嫌われたとて構わなんだ。心を鬼にせねば、大奥総取締は務まらぬ。大奥に愛着が無いからこそ、姫宮は事を成し遂げたのや……」
正子の心の内を知り、今まで成して来た常軌を逸する大奥への粛清の理由が少しだけ理解できた。
ある一人を除き、過去に存在した数多の大奥総取締は気位と誇りだけを胸に生きている。そんな己自身が犠牲となる大奥の節約倹約を実行するなど、出来るはずが無かった。
正子は名誉や地位という、小さな肩書きは必要なかった。でなければ、身分に笠を着て堂々と振る舞っていたはずだ。しかしそうはせず、決して上から物事を見ることなく、下手に出続けた。じっと孤独に耐え、不遇の時代を経ていたからこそ出来たのが、大奥の粛清だった。
「姉上様は孤独だと仰せになりましたが、それは違いまする。今は私がおるではありませぬか……あなたの妹が……。どうか、これからも頼りにしてくださいませ──」
「そないな恥ずかしい真似はできひん!!」藤子は驚いた。そして右衛門佐は用意してなかった言葉を吐きだした。「 私はそなたが嫌いじゃ……佐登子もな。今も尚、そなたら二人の妹を持ったこと……悔やんでおる……」
藤子は、実の姉から嫌いだと罵られても、不思議と心が傷つかなかった。それは真の心からの言葉ではないと分かったからだ。
「姉上様が私を嫌うても構いませぬ……頼りない愚かな妹かもしれませぬが、出来得る限り、私も姉上様の力になりとう存じまする」
右衛門佐は、俄かに一礼して御殿を去ろうとした。藤子は「姉上様!」とすかさず呼び止めた、
障子に手を掛けながら右衛門佐は振り返った。
「江戸のお言葉、よくお似合いですよ?」
右衛門佐は、久方ぶりにあどけない藤子の笑顔を見て心が救われる思いだった。しかし、右衛門佐は何も言わぬまま、再び低頭して去って行った。
藤子は、脇息に寄りかかりながら、佐登子の言葉を思い出した。
廊下を速足で駆ける右衛門佐は、佐登子と龍岡の言葉を思い出した。
お互いに心の内を明かし、胸の奥深くから暖かいものが込み上げて来たのだった。
もしも、お互いに素直になれたのなら、豊姫たちのように心の通じ合った姉妹であれたのではないかと。
つづく
大奥を統制し秩序を厳しく守る、重要な責務を担う大奥女中。御年寄の中からたった一人が選び出され、その中でも優秀で模範的な行いをする者が筆頭御年寄となり、大奥を卓越した慧眼で女中たちの生活を取り締まる。
大奥だけでなく、表向きに対しても対等に力を下す事が出来る──。
────────────────────
大奥・御広座敷 夜 ───────
「上様!! どうか私に、大奥総取締の称号を戴きたく存じ奉りまする」
次期将軍として決まった嫡男・徳川家英の祝いの宴がお開きになった後、お楽の方が御台所、大御台所、家英の眼前で将軍に直訴した。
側室は本来、大奥総取締にはなれない決まりだった。それは、将軍に寵愛された側室が大奥に権勢を意のままにする事を防ぐ措置であった。
三代将軍・徳川家光の時代、乳母であった春日局が、大奥の最初の総取締として、秩序厳しく奥を統制して来た。『大奥法度』の制定、側室選び等、様々な厳しい掟を設けて、大奥を確立させた。
しかし時が経ち、春日局が病床に臥せていた折、側室の中でも器量と才覚を持っていた・お万の方を、自身の跡を継ぐように家光に提案し、死後、お万の方は大奥総取締として大奥を監督した。それは家光死後まで、落飾せずに名を変えてまで続けられた。
その事例以降、側室が大奥総取締になったという先例は三百年経った今まで一度も無かったのであった。
「大奥総取締? そちに務まると申すのか?」
もはや家正は酔いが醒めていた。将軍の問いにお楽は頷いた、
「私は東崎殿の下で、部屋子として大奥へ参りました。畏れ多くも上様の側室として、御部屋様という身分を頂戴致しました」
【御部屋様】とは、側室の内、男児を出産したお手付き御中臈の事を崇めてそう呼ぶ。
「大奥に来てわずか二年ほどでございますが、数多くの女中たちをこの目で見て参りました。東崎殿の成される務めを間近で見て興味が湧きましてございます」
お楽は、御目見得以下から御目見得以上までたった一年を経てすべてを経験している。過去、大奥の歴史の中で、このような経緯で登り詰めた女中は誰もいなかった。
傍で聞いていた東崎は淡々と述べるお楽に絶句し、止める言葉も出なかった。それは皆も同様であったが、ただ一人は違った。
「お楽殿! そないな事、かような祝いの席で申すべき事かえ!? それに、まだ大奥へ入って間もないその方に、『興味が湧いた』というだけで総取締が勤まるわけが無かろう!! 上様に対して、無礼にも程があるぞ!!」
泰子は扇をお楽に突き付け、声を荒らげた。人として常軌を逸する行いに、泰子は憤慨しているのだ。これは、藤子に対しての気遣いもあった。俄かに起きた実姉の暴走に、藤子は居心地が悪くなった。
「仰せの通り、私は大奥で老練を経ていない、未熟者にございます! さりながら、私なればこそ、大奥に新たな風を送り込み、女中たちにとり、御台様、大御台様にとりましても、何不自由無い暮らしをさせる事をここに誓いまする。上様、何卒お考え下さいます様に、お願い申し上げ奉りまする!!」
お楽の必死の訴えを受け、家正は東崎に訊ねた、
「東崎はどう思う? お楽に任せても相違ないと考えるか?」
上段からを眺めながら藤子は東崎に、姉の願いを跳ね付けて欲しいと念じた。藤子は姉の姿を見て恐怖を感じたのだ。地位や名誉を、欲望の赴くままに欲しいと願う、理性を失った獣の様に見えた。
しかし、東崎は、皆が思いがけない言葉を口にした、
「相違、ございませぬ……」
ここに、新たな大奥総取締が誕生した。
────────────────────
英弘元年(1919)二月十一日 朝
元号が安治から英弘と改まった二月十一日の朝。この日は、藤子と家正の長女・豊姫が、松平家へと嫁いで行く日であった。
嫁ぐことが決まってからおよそ二年を経て、ようやく門出へと送り出す事が出来ることに藤子と家正は大いに喜びを感じていた。
大奥・御座之間にて、家正と豊姫は親子別れの盃を交わした。豊姫は藤子が誂えさせた振袖打掛に身を包んでいる。赤い紅を差した娘の姿を見て、初めて娘を送る母の気持ちを身に染みて感じたのだった。嬉しくもあり、寂しくあった。
「於豊……元気で過ごすのだぞ」
豊姫は父の瞳を見つめてゆっくりと頷いた。
「父上様、母上様。これまでの御恩そして……大切にお育て下さり……誠にありがとうございました!」
言葉を詰まらせながら頭を下げる娘を見て、二人は娘の立派な成長に感じ入りつつ、手元から離れる事に悲喜交交であった。
下段の間には妹たちが姉の晴れやかな姿を見守っている。豊姫は駕籠へと乗り込む前に、二人の前に膝をついて声を掛けた。敏姫と順姫は、すでに涙で頬を濡らしていた。
「泣くでない……私まで泣けてくるではないか」
涙を拭ってあげながら、豊姫は二人を優しく諫めた。敏姫は泣きじゃくりながら行ってしまう姉の手を握る、
「お綺麗にございますっ姉上さまぁっ……どうか、お元気で」
我慢できなかった順姫は、重なる二人の手の上に自分の手を重ねた。
「わたくしたちの事を忘れないでくださりませねっ……」
こうして涙を流してくれる妹たちを、豊姫はすかさず抱き締めた。御座之間に控えていた女中たちは、三人の姫君たちの別れに思わず涙し、洟を啜り上げる音が響いた。
「もうそなたたち会えぬやも知れぬ……しかしのう、於敏、於順? 我ら姉妹はいつでも心は一つじゃ。その事を、決して忘れるでないぞ?」
豊姫は両の手で二人の頬に触れながら一筋の涙を流した。そして、豊姫は駕籠に乗り込んで、江戸城を出たのだった。
それから翌月の三月五日、敏姫が上杉家へ嫁いで行った。
豊姫の時とは違って、大泣きすること無く、父母に尊敬の目で見つめ別れを告げた。妹の順姫の手を借りて駕籠に乗り込むと、近くまで見送ってくれた順姫に「お先に」と敏姫は笑いかけた。
姉妹が遠く離れていても、心はいつも一緒だという事を三人は信じているのだった。
娘たちを見ていた藤子は、自分たち姉妹とは全く違う事に少し安堵し、羨ましくさえあった。
────────────────────
英弘元年(1919) 四月
お楽の方が東崎局からの引き継ぎを終えて、大奥総取締となる事が正式に決まった。
御座之間にて、御目見得以上・御目見得以下関わりなく、大奥総取締就任の御披露目が催された。お楽の方は大奥総取締の任を得て後は、名を右衛門佐と改めた。
右衛門佐の手腕が大いに振るわれたのは、御披露目式が行われたすぐの事だった。
「方々に集まっていただいたのは他でもありません。これらの事に付いて、御相談致したく──」
右衛門佐は大奥・御広座敷にて老中と寄合を行っていた。手で示した先には数十冊ある幕府の記録書だ。老中首座・阿部伊勢守正保は、見限る様な素振りで右衛門佐の言葉を遮った、
「何の御相談ですかな。ははっ、我々は貴女様方、大奥の御女中方より忙しゅうございましてなぁ」
伊勢守は他の老中たちに目線を送りながら大きく口を開けて笑った。右衛門佐は前置きを省き、臆せず続けた、
「今、幕府の予算は赤字続きであると収支決算の書付を勘定方から手配し、拝見させていただきました。殊に、ほとんどの支出をもたらしたのは、我ら大奥でございました」
「左様であろうなぁ? ははは」
老中・松平上総守正景がしたり顔で伊勢守と同様、高笑いした。
「由々しきこの事態を、よくもまぁ皆様方は目を背いて参ったものでございますこと」
右衛門佐は老中方を侮蔑するような目で見つめ、吐き捨てた。伊勢守らは唖然とした。
「わ、我々は! 御触れを幾度も出しましたぞ!! それを無視したるはそちらであろう? 我々のせいにするなぞ──」
「御触れを出したのはいつの事でございます?」
「いや、その……」
伊勢守は右衛門佐が急に凄みのある目で見つめて来るので、口ごもってしまった。
「二十年も前、大御所様が公方様であられた御代にございました」
先に言われてしまい、伊勢守と上総守はぐうの音も出なかった。口を挟まなかった同じく老中の稲葉備後守正顕は前に進み出た、
「我々は、大御所様の時代の折には、各々……今の様に老中職では……ござりませなんだゆえ」
息巻いて進言したものの、訥々と説明するので右衛門佐は痺れを切らした、
「それが答えられぬ理由ですか?」
「……」
右衛門佐は持っていた扇を畳みに叩きつけ、老中方を睨めつけた、
「そのような浅はかな考えを御持ちでありながら、良くも今日まで老中職を勤められたものですね!」
穏やかな、正に公家の女らしい風貌とは想像もつかない怒声に、老中たちは二の句が継げなくなった。先ほどの威勢はどこへやら、俯いてしまってすらいた。
「公方様に大奥を一任させるなぞ、愚かで浅はかな考えにございまする。政を預かり国を動かす者ならば然様な幼稚な御考え……今すぐ御捨て去り下さいませ!」
右衛門佐はすでに見抜いていた。
大奥は将軍の私的空間だ。それ故に、幕閣は干渉せず将軍に一切の責任を押し付け、財政難の源が大奥であっても老中は知らぬ振りを貫き通している事を。
これは大奥総取締だけが知り得た。噂が容易く飛ぶように広がる大奥でさえも知らされていない事実であった。
安房守は必死に弁明しようと膝を進めたが、右衛門佐は手で制した、
「分かりました。御方々が表へ戻られた際は、過去二十年の幕府記録を御読みくださいますよう御願い仕りまする。御政務に御忙しいと仰せなれば、通常業務を果たされた後に各々の御屋敷で御読みくださりませ」
そう触れを出した後、右衛門佐は「あぁ、それから」と余裕ありげに声を漏らした、
「大奥の普請を担当した作事奉行に明日より来ていただいてくだされ。上様専用の御湯殿、未だ時を経ても空室状態である長局・五之側棟を即刻取り壊すよう御願いしてください。このご時世、大奥に入った者はここ五年間おられませなんだゆえ」
先日、大奥の実状を記した記録に目を通した折、判明した衝撃的な事実だった。ただでさえ、女中の数は千四七十五人いる。御目見得以下が六割以上を占める。五之側など無用の長物だ。
阿部伊勢守は開かなかった口を強引に開けて訴えた。
「お、お、お待ちなされ!! 上様にはど、どう申し開きなさるおつもりか!?」
「それは方々の御役目。私が中奥へ上り、上様に直接申し上げても構いませぬが……ふふ、それはいささか総取締として度が過ぎるというもの。法度を破る事にもなり兼ねませぬゆえ、代わりに老中首座であらせられる伊勢守殿? 何卒、御願い申し上げまする」
右衛門佐はこれ見よがしに三つ指をつき、老中たちに頭を下げた。とんでもない人物が大奥総取締になったものだと、背筋が凍る思いの三人だった。
大奥・御膳所 ───────
ここは、御台所や大御台所の食事を温め直し、鍋から器に盛り付け、整える台所である。煮炊きは基本大奥ではなく、女の世界とを御錠口で隔てた御広敷向御膳所で作られる。
「御台様の御膳を削減せよと……?」
今、右衛門佐は御膳所へ視察に訪れて、別室で仲居頭と二人きりになった。そして単刀直入に衝撃的なことを告げられた。右衛門佐は平然と言ってのけた後に両手を付いた、
「はい。何卒、よろしく御願い申し──」
「お、御待ちくださりませ!」
仲居頭の葛河という老齢の女中が、つい先日就任した新しい総取締が発した命令に不服を申し立てた。
「御台様や上様に出される御食事は、必ず、御毒味を通しまする。そして、害のない事を確かめた後に、御方々の御前へと運ばれまするので、十人前必要なのでございまする」
「では、毒味用の一膳、御台様に御一膳、お替り用にもう御二膳。その他の六膳は如何するのですか?」
「そ、それは……」葛河は応えに迷った。大奥で長らく継承されて来た暗黙の了解が明かされる。真っすぐと見つめる総取締に嘘偽りは述べられないと決した。「御台様付きの御年寄、御中臈の方々が食すのでございます」
「ほう、何故?」
「存じ上げませぬ」
「は?」
「大奥が出来てしばらくして生まれたしきたりなのでございましょう。言わず語らずのうちに大切に守られた御定法なのでございまする」
理由にならない理由を聞かされた右衛門佐は、小さく「けったいな」と呟いた。微かに聞き取った葛河は、ちらと顔を上げて、覗き込んだ。今の言葉はどういう意味だ? と思った。
「大奥はつくづく贅沢のし過ぎでございます。表方が常々如何に、節約倹約を求めてきているか……存ぜぬとは言わせませんよ」
右衛門佐はひとつ深呼吸して、持っていた扇を開いたり閉じたりを繰り返した、
「この先、御台様が御食事なされる折は、各々部屋へと戻り、そこで食事をするように達しを出します。何のために女中たちに扶持米を出していると御思いですか! これからは、御台様の食膳の御用意は、五膳分のみにするよう御取り計らいください!」
「さ、されど、右衛門佐様……!」
葛河が何かを訴えようとするも、きっと右衛門佐は睨んで扇を突き付けた、
「葛河殿も、云十年勤めて参った頭でありながら、斯様なことに気付かぬとは由々しき事態でございまする。それと、たとえ頭であれど、然様な絹織りの掻取を御召しになるなぞ、目に余ることでございまする! 御目見得以下の分際で、よくも東崎殿が許したものですね」
葛河は反論出来ず、ただ平伏し、承知の意を示した。右衛門佐は白髪の髪を一瞥し、「それでは、よしなに御願いいたしまする」と吐き捨て、御膳所を去って行った。
・・・・・・
「どうか! どうかそれだけはご容赦を!」
「あかん。わてとて切るのは辛いのや。せやかて、この生活を続けんのも苦労するばかりなんや。堪えとくれ正子」
七年も昔の出来事を、まるで昨日のことのように思い出す。十一年という長い期間、嫁ぎ先で虐げられてきて伯父の家でようやく平和な時が過ごせると思っていたが……とんだ勘違いであった。
大切な人を、支えてくれた人を失ったのだ。
見送ることも許されず、気付いたら……いなかったのだ。
・・・・・・
大奥・呉服之間 ───────
ここは、将軍や御台所、そして女中たちの衣裳を仕立てる部屋である。倹約を推し進める幕府の達しが出されても、その数は引きも切らないほどだった。
呉服之間に勤める御針子たちは、針の数をすべて数えてから仕事を始め、仕事の終わりに再度、針の数を数える。万一、揃わぬ場合は、見つかるまでは誰も部屋を出られず、着る着物もそのままでいる決まりがあった。仮にも将軍や御台所の着物の中に針が混入してしまい、身体を傷つけるような事があっては一大事だからだ。
「木綿を……でございますか?」
「左様です。木綿だけではありませぬ。御召、羽二重の生地を多く取り寄せ、絹織物の使用はなるべく控える様に」
右衛門佐は呉服之間頭・絹張を別室に呼び寄せて、厳しい達しを下した。
「な、なれど右衛門佐様……然様な事をなされば、大奥の皆々様が……」
絹張はこれまで多くの女中たちの打掛や小袖を仕立てて来た。仕立ての依頼があれば、ものの一日で仕上げる。自身だけでは手が回らず、他の御針子にも同様の技術を与え、女中たちからの賞賛と贈り物が届けられることもあった。
「財政の巻き返しが急を要しまする。事が順調に運べば、元の絹布を使用しても構いませぬ。とにかく、私が申したいのは、大奥の女たちは贅沢をし過ぎているということです。衣食住における衣を変えなければ大奥は滅びてしまいます」
「ほ、滅びる?」
絹張は恐怖に怯えた顔で、膝の上の置いた手で裾を掴んだ。
「そうです。路頭に迷いたくなければ、申し上げた達しを受け入れるように。それでは」
右衛門佐は打掛を大きく翻し、呉服之間を去って行った。
・・・・・・
「正子さん……なぜそこまでして……」
万寿御殿に残された江戸の書物を母は持ち込んでいた。そのことを知り、私は夢中で読みふけった。嫌いだった言葉を、冷たい抑揚を、私は必死に頭に、体に叩き込んだ。袿を捨てて、打掛を纏うようにもなった。心配する母を落ち着かせて、
「私にできるのは、これだけしかありませぬ故……」
母がなんと言おうと、私は嫌いな言葉を学び、嫌いなものを身に付けて、栄華を極めるあの城へ行かなければならない。たとえ時が掛かろうとも、這ってでも行く。そう決意したのだ。
そして五年後。宿願を果たした……。
・・・・・・
────────────────────
右衛門佐は、大奥中に嫌われても厭わず、粛清を下して行った。次第にその厳しさは増して行き、廊下ですれ違う女中が華美に着飾っていたらすかさず長局まで戻らせ、着替えさせるほどの徹底ぶりだった。
十五代将軍・徳川慶喜の時代に行われた倹約令を再度発布した。
衣服を新調するのではなく洗い張りさせ、履き捨てて来た足袋は洗って再利用させる、打掛や小袖に香を焚きしめる〈衣香〉も、三日に一度のところを月に一度にするなど、尋常ではないほどの徹底ぶりだった。皆少しずつ神経質になり、大奥を出る者まで続出した。
そのことを危惧した大御台所・泰子は大奥総取締を呼び寄せた。壱之御殿を訪ねると、まだ昼時だというのに酒を呷って顔を赤くしている。右衛門佐が下してきた粛清を咎めて来たが、折れることなく、酒は夜のみにするよう求めた。
呂律の回らない舌で、泰子は怒りを露わにした、
「その方、この大奥に新風を送り込み、我々に何不自由無く暮らせる様にすると言うておったでは無いか? それが今ではどうじゃ、不都合ばかりではないか!」
「今しばらく御待ちくだされば、何不自由なく御暮し頂く事が叶いましょう。それまでどうぞ、ごゆるりと健やかに御暮しくださいますように。大奥の者は皆、大御台様のご健康と幸せを──」
泰子は右衛門佐の言葉を遮り、扇を投げつけた。その目は虚ろながら憎悪に満ちていた。
「そなた……疫病神やな……」
その後、泰子は江戸城本丸から離れ、二ノ丸へと移った。家正と藤子に止められたが、聞く耳も持たず、亡くなるその日まで二ノ丸で過ごしたのだった。右衛門佐は詫びる訳でも心が痛むでもなく、大奥の人数が減ることに得意げになってすらいた。
半年の時が経った頃、総取締の執務室である千鳥之間にて、大奥に届けられた数々の貢ぎ物の記録に目を通していると、ある人物が右衛門佐を訪ねて来た。龍岡だった。
部屋方に茶を出させるように命ずると、龍岡は右衛門佐の前に座り、徐に両手を付いた、
「どうなされました、龍岡殿……」
右衛門佐はあくまでも正子としてではなく、大奥総取締として接した。
「お願い申します一之宮さん……どうか、これ以上、宮さんを悲しませないでくだされ」
「何のことだか……私は大奥総取締としてやるべきことをしたまでです。御台様を悲しませた覚えなどございませぬ」
「然様な御口の御利き方は御止めくだされ……私は……そのような言葉遣いを受ける身分では……」
「私は平等に接しているつもりです。この考えを覆すわけには参りませぬ」
記録に再び目を落とすと、バタッと物音がした。顔を上げると、龍岡が苦しそうに息を荒くしていた。
「龍岡殿!? 龍岡殿!」
急いで駆け寄ると、力強く腕を掴まれ思わず声が出た。
「一之宮さん……御約束くだされ……宮さんをこれ以上悲しませないと! いっ……ち」
下腹部に手を置いて途端に龍岡は苦しみ出した。右衛門佐は突然のことで必死に呼びかけた、
「龍岡殿! しっかりしなされ……た……龍岡!」
ただならぬ事態を察した右衛門佐付の部屋方が「御匙を呼んで参ります!」と言って、急ぎ部屋を出て行った。腕の中で凭れる龍岡の身体がだんだん重くなって行くのを感じた。途端に、空が暗くなり、雨が降り出した。
先刻、報せを受けた藤子は、着の身着のままに長局にある龍岡の居室へ見舞いに訪れた。案内したのは、龍岡の部屋方である軒端荻であった、
「龍岡!」
上段に厚い布団で横になる今際の際にいる龍岡が息を荒くしている。傍らに座る医師に「見立ては?」と訊ねると、医師はゆっくりと首を振った。藤子は手を握った。
「龍岡! 龍岡……何をしておる。もうすぐ夕餉じゃ……最後に給仕してくれぬか」
呼びかけるように藤子は言った。声が震えていて、御台所に付いていた松岡と龍岡の部屋方たちはそれぞれ涙を流した。もはや全快することはないという事を悟っているのだ。
「旦那様! 御台様がおいでにございますぞ。起きでくださりませ……」
軒端荻が呼びかけた。すると、
「み……みや……」
藤子は身を乗り出し、龍岡の口に耳を近づけた、「宮さん」とそう聞き取れた。
「そうじゃ、私じゃ……何をしておるのや龍岡! 私を……私を置いて行かないでおくれっ!」
女中たちがいるのも厭わず、藤子は必死に呼びかけた。徐々に、松岡たちが龍岡の名を呼んだ。すると最後の力を振り絞って、龍岡は目を開けた。医師は驚きの表情になって脈を測った。もう一度、藤子が名を呼ぶと、布団に身体を預けた龍岡は、ふっと優しく微笑み、そして二度と目を開けることはなかった。
英弘元年(1919)十二月十三日 上臈御年寄・龍岡が亡くなった。享年六十七。都から江戸まで、藤子のお供をし、京都を忘れる様に一心に仕えて来た。公家の娘とは感じられないほどの強い心で大奥という荒波を生き続け、次第に多くの女中たちの尊敬を集めていた。
その後も不幸は立て続けに起こった。
西ノ丸大奥で長らく暮らしていた、十三代将軍御台所であった天璋院篤姫が、英弘元年(1919)十二月二十日 八十三の天寿を全うした。
葬儀には、三万人もの人が集まり、譜代外様大名そして公家問わず、天璋院の死を悼んだ。
松平家へ嫁いでいた豊姫も身重の身体で天璋院と龍岡の死を知り、駆け付けた。豊姫にとっては二人は、子供のころから世話になり尊敬していた人物だった。腹の子の為にむせび泣く事はせず、ただただ静かに手を合わせた。
────────────────────
老中たちと寄合を済ませ、右衛門佐は新御殿を訪ねた。
信頼を寄せていた乳母が亡くなってひと月、藤子は食が細くなり、公の場に顔を見せなくなっていると知り、心配になったのだ。
松岡と、先日新しく御中臈になった中川に人払いさせて、二人きりになった。どんよりとした空気の中、右衛門佐は口を開いた、
「御台様、どうか御気を確かに御持ちくだされ。皆が心配しておりまする」
しかし、藤子は脇息に身体を預けたまま動かなかった。何か気の利いた言葉がないか辺りを見回すも途方に暮れた。天気のことや、吹上の茶屋が建て替えられたなど他愛のない話を切り出すも、効果は見られなかった。
やむを得ず、右衛門佐はある話を持ちだした。これは誰にも話したことの無いことだった。
「長い間、やんごとなき婚家で辛酸を嘗めさせられ、孤独だった姫宮がいた。義理の父には虐げられ、夫にも見向きもされず辛い日々を送った。夫が亡くなってようやく解放される思いで実家へ戻ったというに、今度は父親が自害。母と共に母の生家へ居候した。ようやっと、再縁することなく穏やかでゆっくりと暮らせると思うた。そして、姫宮は、乳母を失った……」
藤子は顔を上げた。その顔はひどくやつれていて哀れだった。右衛門佐は続けた、
「母の生家へ養女となると同時に、伯父から暇を出されたのやそうや。口減らしのためになぁ。長く苦楽を共にしてくれた乳母をいとも簡単に切り捨てた伯父を姫宮は憎んだ。殺してやりたいほどに……。されどそうすれば、母を悲しませることになる。それだけは避けたかった姫宮は、ようやく決心をしたのや。断絶に瀕した実家を立て直そうと。家を出て、必死に……嫌うていた江戸の言葉を姫宮は学び、そして、大奥へ参った。上様と御目文字するため、幾数年費やしたのや」
ここに来て、藤子は正子本人の物語だと分かった。事の経緯を聞かされた藤子は、驚愕したが嫉妬という思いはもはや無くなっていた。
「実家が再興されることは大奥の主、御台様のおかげで果たすることが出来た姫宮は、産んだ子を見送って後は……抜け殻同然であったそうや」
藤子は徐々に涙声になっていく姉をまっすぐ見つめた。
「じゃが……、ただ上様の側室として命の火を潰えさせるわけにはいかなかった……生きた証が欲しかった……。それで、殊に耳にする幕府の財政破綻を、立て直そうと思い至ったのや。ここにいる女たちに嫌われたとて構わなんだ。心を鬼にせねば、大奥総取締は務まらぬ。大奥に愛着が無いからこそ、姫宮は事を成し遂げたのや……」
正子の心の内を知り、今まで成して来た常軌を逸する大奥への粛清の理由が少しだけ理解できた。
ある一人を除き、過去に存在した数多の大奥総取締は気位と誇りだけを胸に生きている。そんな己自身が犠牲となる大奥の節約倹約を実行するなど、出来るはずが無かった。
正子は名誉や地位という、小さな肩書きは必要なかった。でなければ、身分に笠を着て堂々と振る舞っていたはずだ。しかしそうはせず、決して上から物事を見ることなく、下手に出続けた。じっと孤独に耐え、不遇の時代を経ていたからこそ出来たのが、大奥の粛清だった。
「姉上様は孤独だと仰せになりましたが、それは違いまする。今は私がおるではありませぬか……あなたの妹が……。どうか、これからも頼りにしてくださいませ──」
「そないな恥ずかしい真似はできひん!!」藤子は驚いた。そして右衛門佐は用意してなかった言葉を吐きだした。「 私はそなたが嫌いじゃ……佐登子もな。今も尚、そなたら二人の妹を持ったこと……悔やんでおる……」
藤子は、実の姉から嫌いだと罵られても、不思議と心が傷つかなかった。それは真の心からの言葉ではないと分かったからだ。
「姉上様が私を嫌うても構いませぬ……頼りない愚かな妹かもしれませぬが、出来得る限り、私も姉上様の力になりとう存じまする」
右衛門佐は、俄かに一礼して御殿を去ろうとした。藤子は「姉上様!」とすかさず呼び止めた、
障子に手を掛けながら右衛門佐は振り返った。
「江戸のお言葉、よくお似合いですよ?」
右衛門佐は、久方ぶりにあどけない藤子の笑顔を見て心が救われる思いだった。しかし、右衛門佐は何も言わぬまま、再び低頭して去って行った。
藤子は、脇息に寄りかかりながら、佐登子の言葉を思い出した。
廊下を速足で駆ける右衛門佐は、佐登子と龍岡の言葉を思い出した。
お互いに心の内を明かし、胸の奥深くから暖かいものが込み上げて来たのだった。
もしも、お互いに素直になれたのなら、豊姫たちのように心の通じ合った姉妹であれたのではないかと。
つづく
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【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す
【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす
【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))
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本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
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