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告白プラン
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翌朝、僕の後ろの席にすでに市村がいることに驚く。左手で頬杖をついてぼんやりと壁を見つめていた。
「おはよう、今日は早いね」
市村はゆっくりと顔を上げる。
「うん……バレー部の人を意識するの、もういいやって。今は手芸部員なんだから。これからは来たい時間に来るの」
ふふ、と小さく笑う。なんとなくその笑顔が悲し気で僕は心配になる。そして昨日のことを思い出す。先輩と2人で何をしていたのかが突然気になった。
「昨日は、あの後何していたの? 先輩との最終調整とか?」
「うん。まあ、そんな感じ。……先輩、凝り性だから。私はすごくかわいい服だと思うけど、先輩はずっと小声で『ダメだ、違う』ってぶつぶつ言っていて……少し怖かった。でも、嬉しかった。あんなに真剣に、私なんかのために作ってくれて……とりあえず、完成してよかったよね!」
ぱっと明るくなる市村に、僕は笑顔を作って頷く。先輩としては納得できない出来だったのかもしれないけれど、僕らにとっては大作だ。それに、着る本人がこんなに喜んでいるのは先輩としても嬉しいはずだ。昨日の先輩は落ち込んでいたようだけれど、きっと時間が解決してくれると僕は信じたい。
「あ、そうだ……健くんあのさ……」
気まずそうに、やや俯く市村。話すことに抵抗のある様子で僕に尋ねる彼女を見て、これから何を言われるのか、緊張して心臓がバクバクと動くのが自分でもわかる。
「あの……放課後、部活の前にちょっと付き合ってほしいの。昨日先輩に頼まれたんだけど、1人だとちょっと難しいことだから」
「うん、大丈夫だよ」ただの相談で、僕はほっとした。むしろ頼られて少し嬉しい。「ちなみに、何を手伝うの?」
「えーと……うん、ちょっと説明しにくいから、その時になったら話すね」
そして、市村はにこっと笑う。何をするのか気になるが、きっと部活関係の何かだろう。それなら浩一も誘えばと思ったが、僕は口をつぐむ。せっかく市村に直接頼まれたのだから、その役目を独り占めしたいと思った。
……会話が終わる。僕は前を向く。部活帰りであれば別れるまで何かしらの話をするものだが、教室では何を話せば良いかわからなくなってしまう。僕らは所詮、同じ部活という共通点だけでつながっているにすぎないのだから。……そろそろ、こういうこともやめて次のステップに移るべきなのかもしれない。夏休みに浩一に言われたことを思い出す。とりあえず付き合わないとわからない。僕は市村を理解するために、積極的に話しかけたり一緒に帰ったりしていた。しかしそういう関係と恋仲は違うというのは、浩一を見ていて段々とわかってきた。
告白。……そういえば、小学校の頃の告白の返事を僕は聞けなかった。今度は、返してくれるのだろうか。……やってみないとわからない。チャンスはたくさんあった、毎日のようにあった。しかし実行する勇気がでなかった。一緒に帰ってくれるくらいだから、少なくとも嫌われてはいないだろうと己惚れる時もあった。しかし……全てが幻想かもしれないのだ。僕はそれを自覚する未来を予想して臆病になった。告白して気まずくなるくらいなら、このままの関係の方がマシなんじゃないかと思った時もあった。……しかしそれでは卒業したら全ては終わりになってしまう。小学生の時のことを思い出して胸がチクリと痛む。引っ越しが決まった時、勢いのままに市村に告白しようと動いたのは、後悔したくなかったから。尊敬する人に尊敬していると伝えたかった。結果はどうだってよかった。ただ自分は思いを伝えたかった、伝えずにはいられなかった。あの時の僕はそんな激しい気持ちを抱えていたのだ。
それなら今は……正直、未だによくわからない。しかしそれはきっと、付き合って初めてわかることなんだ。自分が彼女を好きなのか、どこが好きなのか、なぜ好きなのか。浩一いわく、そういうことは実際に付き合って、もっと距離を縮めて初めて気が付けるものらしい。部活仲間としてではなく、恋仲になって初めて……
「荒井くん、号令だよ」後ろから肩を叩かれて、僕はハッとする。周りはみんな起立していて、先生は僕を睨みつけている。僕は慌てて立ち上がり、代表が号令する。今日も退屈な授業が始まる。授業内容は頭に入ってこない、代わりに僕が考えていたのは、いつどうやって市村に告白しようかという具体的なプランだった。
「おはよう、今日は早いね」
市村はゆっくりと顔を上げる。
「うん……バレー部の人を意識するの、もういいやって。今は手芸部員なんだから。これからは来たい時間に来るの」
ふふ、と小さく笑う。なんとなくその笑顔が悲し気で僕は心配になる。そして昨日のことを思い出す。先輩と2人で何をしていたのかが突然気になった。
「昨日は、あの後何していたの? 先輩との最終調整とか?」
「うん。まあ、そんな感じ。……先輩、凝り性だから。私はすごくかわいい服だと思うけど、先輩はずっと小声で『ダメだ、違う』ってぶつぶつ言っていて……少し怖かった。でも、嬉しかった。あんなに真剣に、私なんかのために作ってくれて……とりあえず、完成してよかったよね!」
ぱっと明るくなる市村に、僕は笑顔を作って頷く。先輩としては納得できない出来だったのかもしれないけれど、僕らにとっては大作だ。それに、着る本人がこんなに喜んでいるのは先輩としても嬉しいはずだ。昨日の先輩は落ち込んでいたようだけれど、きっと時間が解決してくれると僕は信じたい。
「あ、そうだ……健くんあのさ……」
気まずそうに、やや俯く市村。話すことに抵抗のある様子で僕に尋ねる彼女を見て、これから何を言われるのか、緊張して心臓がバクバクと動くのが自分でもわかる。
「あの……放課後、部活の前にちょっと付き合ってほしいの。昨日先輩に頼まれたんだけど、1人だとちょっと難しいことだから」
「うん、大丈夫だよ」ただの相談で、僕はほっとした。むしろ頼られて少し嬉しい。「ちなみに、何を手伝うの?」
「えーと……うん、ちょっと説明しにくいから、その時になったら話すね」
そして、市村はにこっと笑う。何をするのか気になるが、きっと部活関係の何かだろう。それなら浩一も誘えばと思ったが、僕は口をつぐむ。せっかく市村に直接頼まれたのだから、その役目を独り占めしたいと思った。
……会話が終わる。僕は前を向く。部活帰りであれば別れるまで何かしらの話をするものだが、教室では何を話せば良いかわからなくなってしまう。僕らは所詮、同じ部活という共通点だけでつながっているにすぎないのだから。……そろそろ、こういうこともやめて次のステップに移るべきなのかもしれない。夏休みに浩一に言われたことを思い出す。とりあえず付き合わないとわからない。僕は市村を理解するために、積極的に話しかけたり一緒に帰ったりしていた。しかしそういう関係と恋仲は違うというのは、浩一を見ていて段々とわかってきた。
告白。……そういえば、小学校の頃の告白の返事を僕は聞けなかった。今度は、返してくれるのだろうか。……やってみないとわからない。チャンスはたくさんあった、毎日のようにあった。しかし実行する勇気がでなかった。一緒に帰ってくれるくらいだから、少なくとも嫌われてはいないだろうと己惚れる時もあった。しかし……全てが幻想かもしれないのだ。僕はそれを自覚する未来を予想して臆病になった。告白して気まずくなるくらいなら、このままの関係の方がマシなんじゃないかと思った時もあった。……しかしそれでは卒業したら全ては終わりになってしまう。小学生の時のことを思い出して胸がチクリと痛む。引っ越しが決まった時、勢いのままに市村に告白しようと動いたのは、後悔したくなかったから。尊敬する人に尊敬していると伝えたかった。結果はどうだってよかった。ただ自分は思いを伝えたかった、伝えずにはいられなかった。あの時の僕はそんな激しい気持ちを抱えていたのだ。
それなら今は……正直、未だによくわからない。しかしそれはきっと、付き合って初めてわかることなんだ。自分が彼女を好きなのか、どこが好きなのか、なぜ好きなのか。浩一いわく、そういうことは実際に付き合って、もっと距離を縮めて初めて気が付けるものらしい。部活仲間としてではなく、恋仲になって初めて……
「荒井くん、号令だよ」後ろから肩を叩かれて、僕はハッとする。周りはみんな起立していて、先生は僕を睨みつけている。僕は慌てて立ち上がり、代表が号令する。今日も退屈な授業が始まる。授業内容は頭に入ってこない、代わりに僕が考えていたのは、いつどうやって市村に告白しようかという具体的なプランだった。
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