17 / 21
12-1
しおりを挟む「それじゃあよろしくね」
「はい」
翌朝、ハーマンは各国へ手紙を届けてくれる兵を見送るために外に出ていた。
そこにはアルフレッドもいる。
「頼んだぞ」
「はい」
ゼブエラからの使者を簡単には信用しないだろうこと、何か別のことを企んでるのではないか。そんな考えを各国にさせないためにここにもラビスの兵一人が同行することになったのだ。
兵が馬を走らせ去っていくのを確認してハーマンはやっと一息つく。
「ベルだけじゃなくあなたにまで徹夜で手伝わせてしまって…ラビスの兵にも沢山動いて貰ってる。本当に感謝してもしきれないわ。ありがとう」
「好きでしてることですから」
「ありがとう。あなたはいい男ね」
バチっと飛んできたウインク。
それをどう受け取るべきかアルフレッドは結局分からないままだった。
---------------
『彼は”彼”なの?それとも”彼女”なの?君なら知ってるだろう?』
昨晩、隙をついて尋ねた質問に『興味がない』という冷めた返事を返したリードヒル。
リードヒルにとってティナベルと仲よくする奴は皆ライバル。
男だろうと女だろうと関係ないのだ。
『ただ、アイツはティナの初めての友達らしいからな。ついこないだ友達になったばかりの王子サマとはスタート地点が違う。気を付けておくに越したことはないんじゃねぇの?』
『………!!!!』
『…何て顔してんだよ…王子サマの爽やかな王子サマが台無しだぞ?』
『友達はいなかったんじゃ…』
『一人もいないとは言ってなかっただろ?自分が初めてだと己惚れてたか?安心しろ。ラビス人としてはあんたが初めてだろうからな』
『……どうして最近会った友達になれたらと思う気のいい男は皆ライバルなんだ…?』
--------------------
友達なんてまだそんなこと言ってるのか…こいつも大概友達がいないんだろうな。
リードヒルの憐れみを込めた冷めた目がそう言ってアルフレッドを見つめて話は終わっていた。
今また蒸し返したいところではあるけれど…「この後は…」と言って今後優先的にやる作業を確認しながら忙しそうに城の中へ向かうハーマンには聞けなかった。
それからあっという間に二週間が経った。
ラビス一行は今日、国に帰る。
死んだゼブエラ王子たちの妃たちはミシェルを除いた全員が自らの志願で後一ヶ月はゼブエラに滞在する事と決まった。
今妊娠していないと判断が出てもまだ体に反応が出ていないだけかもしれない。そう妃全員で話し合って出した答えだった。
ミシェルだけが帰るのはミシェルだけは例外だったから。
『ここへ来て一ヶ月、あの男が私を寝室に呼ぶことは何度かあったけれど…あの男は人の恐怖する顔が何より好きな人間だった。最後まではしていない。あの男はいつ犯されるか分からない恐怖に私を置き続けたかったのよ』
そう話してくれた通り処女のままだったミシェルに妊娠の可能性はゼロだったから。
「ねぇねぇ、ミシェル王女とあのラビスの兵はデキてるの?」
ミシェルとアルフレッドが各国の妃に挨拶をしている姿を横目にハーマンが言った。
あのラビスの兵、というのはゼブエラの王族が次々と首を刎ねられたあの日、我先にミシェルの下へ行きミシェルを抱きしめていた兵のこと。
「まぁ、そうだろうな」
「えっ?!そうなの?!」
驚くティナベルにハーマンは驚いて「…ふふ」と笑う。
「ベルったら…久々に会って随分と大人びちゃってと思ってたけど…中身は全然昔と変わらないのね?リっちゃんも大変ね?」
「その呼び方やめろって…」
「嫌ならベルと同じくリーって呼ぶわよ?ベルのこともあなたと同じくティナって呼んじゃおうかしら?」
「…やめろ」
ハーマンはまたふふと笑うとワシャワシャとリードヒルの頭を撫でた。
ティナベルはそんな二人の様子を相変わらず仲が良いなぁと微笑ましく見ている。
「師匠ったら相変わらず可愛いわねぇ」
「その呼び方もやめろって」
「あら、どうして?間違ってないでしょう?アタシに剣を教えてくれたのはリっちゃんなんだから」
「ティナが教えろって言ったから教えただけだ」
「なんだっていいのよ。どんな経緯があろうと教えてくれてきちんとアタシの実になったんだから。本当にありがとう」
「…ハイハイ」
ハーマンとリードヒル。この二人が出会ったのは三年ほど前の事。
ハーマンはリードヒルのことが大のお気に入りでまるで弟のように可愛がっていたし、実際そう口にもよく出していた。
ティナベル以外には愛想のないリードヒルを可愛いなんて言うのは今までの何百年を合わせてもハーマンだけ。
どこか恥ずかしそうにリードヒルがハーマンの手を払いのけていると丁度アルフレッドが戻ってきた。
「お待たせ。じゃあそろそろ行こうか」
「この二週間沢山ありがとう。本当に本当に助かったわ。落ち着いたらラビス国王には改めてお礼を言いに行きたいけれど…いつ落ち着くやらって感じで…ごめんなさいね」
「いえ。そう仰ってくれたことを伝えておきます。荷物は積んだ?」
アルフレッドがティナベルに聞くと、ティナベルはううんと首を振る。
「私、もう少しここに残ります」
まさかの言葉にアルフレッドとハーマンは同時に「え?!」と声を上げた。
「ハーマンが新しく臣下に据えた人たちは皆信頼できるしとてもいい方たちだと思いますが、彼らだけでこの国を立て直せるとは思えないんです」
ティナベルが酷い言い方でごめんなさい、と新しい臣下たちに頭を下げると彼らは「いえいえ、仰る通りです!」と口々に言った。
ハーマンの要望で一兵から臣下となったはいいものの、平民上がりの彼らに教養はないに等しかった。
この二週間の間ティナベルから色々と教えてもらってはいたものの全く足りず、知識を得るために留学したくても…こんな状況で行ってしまえばハーマンが過労死してしまう。
この先の自分たちの役不足感は自分たちが一番感じていた。
「この前お城の図書室を見せてもらったんですけど、図書室にある本は人の殺し方や人の支配の仕方、拷問の仕方の本ばかり。政治に関する本が一つもないんです。この国は手探りの国作りをしている場合ではありません。少しでも早く良い国となるためには知識が必要なんです。知識だけなら私にもあります。ハーマン、もう少し残ってもいいでしょう?」
「そりゃ…あなたがいてくれたら百人力だけど…アタシあなたのお父さんに怒られるのは嫌よ?ただでさえ二週間以上帰さないでいて怒ってるでしょうに…」
「ふふ、お父様はハーマンに怒ったりなんかしないわよ。リーとハーマンのことは自分の本当の息子だと思ってるもの」
アルフレッドはただ一人ティナベルの言った”息子”という言葉に敏感に反応を見せた。
-やっぱり彼は彼なのか?!となると…恋愛対象は女性……?
「お父様も分かってると思うわ。私の予想ではそろそろ来る頃なんだけど…」
「来るって…?何が?」
「うちの馬車よ」
「見えたぞ」
「……何も見えないけど…リっちゃんったら相変わらずすごい視力ね」
程なくしてノーストン家の馬車が二台、城内に入ってきた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる