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「それじゃあよろしくね」

「はい」


翌朝、ハーマンは各国へ手紙を届けてくれる兵を見送るために外に出ていた。
そこにはアルフレッドもいる。


「頼んだぞ」

「はい」


ゼブエラからの使者を簡単には信用しないだろうこと、何か別のことを企んでるのではないか。そんな考えを各国にさせないためにここにもラビスの兵一人が同行することになったのだ。

兵が馬を走らせ去っていくのを確認してハーマンはやっと一息つく。


「ベルだけじゃなくあなたにまで徹夜で手伝わせてしまって…ラビスの兵にも沢山動いて貰ってる。本当に感謝してもしきれないわ。ありがとう」

「好きでしてることですから」

「ありがとう。あなたはいい男ね」


バチっと飛んできたウインク。
それをどう受け取るべきかアルフレッドは結局分からないままだった。


---------------


『彼は”彼”なの?それとも”彼女”なの?君なら知ってるだろう?』


昨晩、隙をついて尋ねた質問に『興味がない』という冷めた返事を返したリードヒル。

リードヒルにとってティナベルと仲よくする奴は皆ライバル。
男だろうと女だろうと関係ないのだ。


『ただ、アイツはティナの初めての友達らしいからな。ついこないだ友達になったばかりの王子サマとはスタート地点が違う。気を付けておくに越したことはないんじゃねぇの?』

『………!!!!』

『…何て顔してんだよ…王子サマの爽やかな王子サマが台無しだぞ?』

『友達はいなかったんじゃ…』

『一人もいないとは言ってなかっただろ?自分が初めてだと己惚れてたか?安心しろ。ラビス人としてはあんたが初めてだろうからな』

『……どうして最近会った友達になれたらと思う気のいい男は皆ライバルなんだ…?』


--------------------


友達なんてまだそんなこと言ってるのか…こいつも大概友達がいないんだろうな。
リードヒルの憐れみを込めた冷めた目がそう言ってアルフレッドを見つめて話は終わっていた。

今また蒸し返したいところではあるけれど…「この後は…」と言って今後優先的にやる作業を確認しながら忙しそうに城の中へ向かうハーマンには聞けなかった。


それからあっという間に二週間が経った。
ラビス一行は今日、国に帰る。

死んだゼブエラ王子たちの妃たちはミシェルを除いた全員が自らの志願で後一ヶ月はゼブエラに滞在する事と決まった。
今妊娠していないと判断が出てもまだ体に反応が出ていないだけかもしれない。そう妃全員で話し合って出した答えだった。
ミシェルだけが帰るのはミシェルだけは例外だったから。
『ここへ来て一ヶ月、あの男が私を寝室に呼ぶことは何度かあったけれど…あの男は人の恐怖する顔が何より好きな人間だった。最後まではしていない。あの男はいつ犯されるか分からない恐怖に私を置き続けたかったのよ』
そう話してくれた通り処女のままだったミシェルに妊娠の可能性はゼロだったから。


「ねぇねぇ、ミシェル王女とあのラビスの兵はデキてるの?」


ミシェルとアルフレッドが各国の妃に挨拶をしている姿を横目にハーマンが言った。
あのラビスの兵、というのはゼブエラの王族が次々と首を刎ねられたあの日、我先にミシェルの下へ行きミシェルを抱きしめていた兵のこと。


「まぁ、そうだろうな」

「えっ?!そうなの?!」


驚くティナベルにハーマンは驚いて「…ふふ」と笑う。


「ベルったら…久々に会って随分と大人びちゃってと思ってたけど…中身は全然昔と変わらないのね?リっちゃんも大変ね?」

「その呼び方やめろって…」

「嫌ならベルと同じくリーって呼ぶわよ?ベルのこともあなたと同じくティナって呼んじゃおうかしら?」

「…やめろ」


ハーマンはまたふふと笑うとワシャワシャとリードヒルの頭を撫でた。
ティナベルはそんな二人の様子を相変わらず仲が良いなぁと微笑ましく見ている。


「師匠ったら相変わらず可愛いわねぇ」

「その呼び方もやめろって」

「あら、どうして?間違ってないでしょう?アタシに剣を教えてくれたのはリっちゃんなんだから」

「ティナが教えろって言ったから教えただけだ」

「なんだっていいのよ。どんな経緯があろうと教えてくれてきちんとアタシの実になったんだから。本当にありがとう」

「…ハイハイ」


ハーマンとリードヒル。この二人が出会ったのは三年ほど前の事。
ハーマンはリードヒルのことが大のお気に入りでまるで弟のように可愛がっていたし、実際そう口にもよく出していた。
ティナベル以外には愛想のないリードヒルを可愛いなんて言うのは今までの何百年を合わせてもハーマンだけ。
どこか恥ずかしそうにリードヒルがハーマンの手を払いのけていると丁度アルフレッドが戻ってきた。


「お待たせ。じゃあそろそろ行こうか」

「この二週間沢山ありがとう。本当に本当に助かったわ。落ち着いたらラビス国王には改めてお礼を言いに行きたいけれど…いつ落ち着くやらって感じで…ごめんなさいね」

「いえ。そう仰ってくれたことを伝えておきます。荷物は積んだ?」


アルフレッドがティナベルに聞くと、ティナベルはううんと首を振る。


「私、もう少しここに残ります」


まさかの言葉にアルフレッドとハーマンは同時に「え?!」と声を上げた。


「ハーマンが新しく臣下に据えた人たちは皆信頼できるしとてもいい方たちだと思いますが、彼らだけでこの国を立て直せるとは思えないんです」


ティナベルが酷い言い方でごめんなさい、と新しい臣下たちに頭を下げると彼らは「いえいえ、仰る通りです!」と口々に言った。

ハーマンの要望で一兵から臣下となったはいいものの、平民上がりの彼らに教養はないに等しかった。
この二週間の間ティナベルから色々と教えてもらってはいたものの全く足りず、知識を得るために留学したくても…こんな状況で行ってしまえばハーマンが過労死してしまう。
この先の自分たちの役不足感は自分たちが一番感じていた。


「この前お城の図書室を見せてもらったんですけど、図書室にある本は人の殺し方や人の支配の仕方、拷問の仕方の本ばかり。政治に関する本が一つもないんです。この国は手探りの国作りをしている場合ではありません。少しでも早く良い国となるためには知識が必要なんです。知識だけなら私にもあります。ハーマン、もう少し残ってもいいでしょう?」

「そりゃ…あなたがいてくれたら百人力だけど…アタシあなたのお父さんに怒られるのは嫌よ?ただでさえ二週間以上帰さないでいて怒ってるでしょうに…」

「ふふ、お父様はハーマンに怒ったりなんかしないわよ。リーとハーマンのことは自分の本当の息子だと思ってるもの」


アルフレッドはただ一人ティナベルの言った”息子”という言葉に敏感に反応を見せた。

-やっぱり彼は彼なのか?!となると…恋愛対象は女性……?


「お父様も分かってると思うわ。私の予想ではそろそろ来る頃なんだけど…」

「来るって…?何が?」

「うちの馬車よ」

「見えたぞ」

「……何も見えないけど…リっちゃんったら相変わらずすごい視力ね」


程なくしてノーストン家の馬車が二台、城内に入ってきた。
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