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病室

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うわぁぁぁぁぁっ

わめき声を上げ、雄一が起き上がる。

真っ白な光景。

自分が今、どこに居るかわからない。

白い壁、天井、そして、白い掛け布団、、、

横を見れば点滴、そのチューブは自分の手の甲に繋がっている。

扉が開く。

入ってきたのはブルーの服を着た養護教諭と黒川。

「高尾さん!気がつきましたか、、、先生を呼んでっ!」

雄一の息は荒い。

記憶が朦朧としている、、、

なんで自分がここに、、、

養護教諭と修習生の黒川が入ってきたということは、ここは、校内の保健室なのだろう。

町まで遠いため、養護教諭が常駐する保健室以外に入院するほどでもない病人が出たときのために病室が用意されていることは知っていた。

なぜ、、、なぜ、、、

ハッと記憶がよみがえる。

レスリング場、、、

異形と化した大石、、、

鼻を突いた血の臭い、、、

「ウワァッ!」

再び雄一の喉から悲鳴が漏れる。

「高尾先生、大丈夫ですか?」

黒川が雄一の肩を抱く。

雄一の身体は小刻みに震え、黒川の鍛えられた身体に縋るようにしがみつく。

「ば、、、化け物は、、、?大石先生は?生徒達は?」

大石の名を聞いた瞬間、黒川の顔が曇る。

「生徒達は無事です。療養中です」

「あ、、、あれは?あの化け物は?」

「高尾先生、落ち着いて。大丈夫です。落ち着いてください。」

黒川が雄一に言う。

「先生はまだか?」

養護教諭の声に応えるようにバタバタと足音が近付いてくる。

白衣の男が現れる。

後ろから大きな鞄を下げた修習生も。

「今、意識を戻されました。少々、混乱されているようです。化け物がどうとか」

養護教諭が雄一の容態を告げる。

「化け物ですか、、、混乱しているのですね。おそらく酸欠になったときの悪夢を現実を混同しているのでしょう。もう大丈夫です。意識をしっかり持って落ち着きなさい」

そう言うと、鞄の中から薬剤を取り出し、注射に入れ、点滴のチューブに刺す。

雄一は震えたまま黒木にしがみついている。

「安定剤を入れておきます。これで落ち着くでしょう。妄想状態も収まるはずです」

妄想、、、

あれが妄想?

「血液検査も正常でしたし、大きな後遺症はないはずです。今、分析中ですが、特に毒性のあるガスではなかったですから、、、」 

ガス、、、ガスだと?

雄一が訝しげな表情を浮かべたことに黒木が気付く。

「体育館の地下でガスが発生したようなんです」

え?

ガスが発生?

「はい、今、原因を分析中なんですが、、、レスリング部の人達と練習に参加していた高尾先生が巻き込まれて、、、先生は酸欠で意識不明のところを救出されました」

意識不明、、、

俺が?

「混乱しているんでしょう。酸欠状態でしたから。私は平坂記念病院の医者です」

そう言いつつ、ペンライトを出し、雄一の眼球の検査を始める。

続いて脈拍、、、

雄一の体調のチェックが続く。

最後の問診を終えると、医師は言った。

「体調には問題が無いようですが、何か異常があった場合にはそこのボタンを押してください。血液検査も異常値は無かったですし。すぐに元通りの生活に戻れるでしょう」

そう言い、医師と養護教諭は部屋を出ていった。

先ほど医師が点滴に注入した薬が聞いてきたのか、頭がホワッとしてきて、身体がゆったりした感じになってくる。

だんだんリラックスした気分になり、背後の黒木の締まった身体にもたれ掛かる。

設備の整った平坂学園でガスの事故などがおきるものか、、、

あの記憶、、、レスリング部の生徒達に身体をなぶられた不快な感触、、、

そして、生徒達に大石と森直人と呼ばれた男が異形に変化し、戦い出した、、、

が、安定剤でボンヤリしてきた雄一は考えるのをやめる。

どうでもいい、、、どうでもいいや、、、眠い、、、

背中の黒木のコリコリとした筋肉の感触が心地良い。

その感触に身を預ける。

                           *

黒木は戸惑っている。

弱った雄一。

自分に身体を預けている。

病院服を通じて体温が伝わってくる。

熱い。

抱き締めたい、、、、

その衝動を堪える。

雄一の体重が重く掛かってくる。

規則正しい寝息が聞こえてくる。

黒木は雄一をベッドに横にはせず、自分にもたれ掛からせたままである。

この時が一瞬でも長く続くことを祈りながら、、、

                         *
「記憶は残っているようですね、、、」

「それはそうだ。記憶は消せ、廃人にはするなと言うのは虫の良い話だ。無理は言いなさんな。だいたい、あんたの管轄で起きたことだろ。これからの火消しはあんたが考えなさい。点滴には適当に記憶を混濁させる薬を注入してある。レスリング場での出来事は夢だと、早めに刷り込んでおくのをお勧めする。まぁ、人が化け物に化身するなど、常識では有り得ないことだからな」

「大事な“ニエ”候補だ。簡単に失うわけにはいかん」

「確かに、、、“ナミ様”の思召も衰えたのではないかと“カリョウ”達もうるさい」

「ああ、、、のんびりと時間をかけている余裕は私達にはない、、、」

「まぁ、あの“キ”の死骸と“ハ”の化態の記録で研究は進んだ。彼らにはそれを示してしばらく大人しくさせましょう。刈谷は役に立っていますかな?」

「刈谷、、、あの何を考えているかわからん男か。有能だが、今一、信用できん」

「信用できない強かさを持っているから使えるんだ。まぁ、目は離さん方がいいと思うがね」

病室のモニターを見ながら、藤堂と医師が会話を続ける。
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