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拘束衣の男

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「て、てめぇ、まだくたばってなかったのかっ」

大石が拘束衣をつけた男に向かい叫ぶ。

松本、江田も睨み付けている。

しかし、その他のレスリング部員達には明らかな動揺が広がっている。

うぉっ~~~~っ

拘束衣で上半身を束縛された直人先生と呼ばれた男が大石に目を止め、凄まじい叫びを上げ、走り出す。

そのまま、大石の巌のような身体に体当たりをする。

大石のデカい身体が、拘束衣の男と共に吹っ飛ぶ。

床の上を転がる二つのに躯体。

ぐわぁっ!

大石が苦悶の悲鳴を上げる。

拘束衣の男が大石の肩に噛みついたのだ。

血が流れる。

グオオォォォッ!

怒りと痛みに顔を歪めた大石が、拘束衣の男の身体を引き剥がそうとするが、ビクとも動かない。

雄一は、素っ裸のまま床にペタンと尻をつけたまま呆然と見ている。

何が起こっているのか全く分からない。

動こうにも身体が痺れて動かない。

入り口から白衣を着た刈谷達が入ってきて興味深げに見ていることにも気付いていない。

野太い苦痛の叫びが続く。

大石の掌が滑り気を帯び始め、爪が鋭く伸び、直人先生と呼ばれた男の背中を掴む。

のたうち回る大石の巨体。

が、拘束衣の男はしっかりと噛みつき、離れない。

江田と松本が拘束衣の男を引き離そうと駆け寄ったが、あっさりと蹴り飛ばされる。

ゴロゴロと床の上を転がる二人。

大石の膚がテカりはじめている。

汗ではない。

粘液のようなものにまみれ始め、そして皮膚がくすんだ灰色に変わっていく。

掌には節のようなものが浮かび上がり、鋭い爪が拘束衣を、噛みつく男の頭をかきむしる。

そして、鋭い爪を持つ掌が噛みついている男の頭をガシッと掴んだ。

直人先生と呼ばれた男の頭頂部から血が滴り出す。

うぉぉっ!

獣のような咆哮をあげ、拘束衣の男は噛みつくのを止め、大石の身体を蹴り、大石との間合いをとる。

大石の上半身、拘束衣の男の顔、それぞれ血にまみれている。

拘束衣は大石の鋭い爪によってボロボロに裂け目が出来ている。

「畜生っ!この野郎っ!」

憤怒の表情の大石の身体に生理的な嫌悪感を与える節が浮かび上がり、犬歯が鎌状に太く長く伸び始める。

まるで、肉食の昆虫のような形状。

体側には気門のような穴がブチブチと開き、細かい産毛のような棘が体表に現れる。

眼球も黒一色になる。

グル、、、ルルル、、、

人の声とは思えぬ唸りをあげ、身体を折り曲げる。

目は拘束衣の男に据えられている。

拘束衣の男はブルッブルッと上半身をくねらせている。

ビリッ

布が引き裂かれる音と共に、拘束衣の背中部分が爆発するように千切れ飛んだ。

!

刈谷の目が興奮で輝く。

肩甲骨の辺りから銀色の翼状のものが皮膚を突き破り、飛び出している。

バサッバサッと音を立て腕を拘束していた布から両腕が解放される。

その腕、、、いや、腕であった部分と言うべきか、全ての指が異様な長さで伸び、その合間に皮膜のようなものが広がっている。

キ~~~~ッ!

天井を仰ぎ、甲高い声をあげ、目の前の大石を威嚇するように見る。

「こ、これは、、、」

飛び込んできた藤堂が、粗い息で呟く。

おそらく本校舎から駆けつけたのだろう。

そんな彼に刈谷が言う。

「あの男は、“キ”ではなく“ウ”だったようですね」

「ま、まさか、、、森くんが、“ウ”だったとは、大石くんとの絡みで“キ”だとばかり、、、」

「いや、大石を敵とみなして“キ”から“ウ”に変異した可能性も、、」

「まさか、そんなことがありえるのか?」

「天敵とは逆属性を身に付けるのが生き残るには最適でしょう」

「信じられん」

「信じられないも何も、こうして変化を目の当たりにしている以上、もはや確実なことなんか何もないですよ」

二人は、目を交わさず会話する。

2人とも目の前を見ている。

ルルルルルルルルルルルル、、、、

キ~~~~、、、

2つの咆哮が交差し、2つの肉体がぶつかり合う。

指が伸びている分、森(と呼ばれたモノ)の方がリーチに勝り、大石(であったモノ)の上半身を鋭い爪先で傷付ける。

節と化した皮膚がペキッと嫌な音を立て、剥がれ、そこから粘液状の液体が滴る。

大石(であったモノ)の口から緑の液体が吹き出される。

森(とよばれたモノ)は扇状になっている掌で防ぐが、粘液がかかった部分がジュッと音を立て、煙が上がる。

スタッ、、、スタッ、、、

素早く森(とよばれたモノ)が後方に飛び、下半身の病院着のようなズボンをビリッと引き裂く。

鍛えられた下半身が露となる。

見事な筋肉に覆われた下半身、、、

だが、それは一瞬の後に変化し出す。

腿が膨張するように膨らみ、毛がモサモサと太く長く両足を覆い始める。

脹脛もビキビキと膨らんでいく。

そして、両足の指は筋肉とは逆に細く鋭く伸びていく。

キキ~~~ッ!

両腕と背中の翼様のモノを広げ、太い足がガッガッと床を蹴り、大石(であったモノ)に向かい走る。

そして、跳躍。

大石(であったモノ)の胸辺りに両足の鉤爪が食い込む。

そして、扇状に伸びた両掌が頭を包む。

さらに、その両掌の間に顔を埋める。

ギルャル、、、、

異様な咆哮。

そして、ボキッという音。

周囲の者達は固唾を飲んでいる。

雄一はリングの床にヘタリこんでいる。

目の前の光景が信じられない。

逃げたいが、身体か動かない。

足をおっぴろげ、上半身を起しているのがやっとだ。

ブシュッ

何かが吹き上がる。

そして、ポンッ、ゴロゴロと何か丸いものが雄一の方に飛んできて、床を転がり開いた股の間で止まる。

大石の苦悶の表情に歪んだ生首だった。

カッと目が見開かれ雄一と目が合う。

“うわっ、、、うわわわわぁ~~~っ!”

雄一が、生まれて初めて、惨めな恐怖の悲鳴を上げる。

そして、生首の向こうの光景。

人間としての姿に戻った森がガツガツと何かを喰らっている。

雄一の意識は目の前の光景を理解したくはない。

が、若く、贅肉のない引き締まった筋肉を持つ森、直人先生とよばれた青年は大石の肉体をムシャムシャと食い漁っているのは間違いがなかった。

雄一の意識はゆっくりとフェイドアウトした。

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