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倦怠感

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雄一が最後に跳ぶ番だ。

だが、雄一の身体に纏わりついている倦怠感は増すばかりだ。

馬として足を踏ん張りながら、深く息を吸い、体調を整えようとした。

だが、汗と不思議な土と草の混じりあったような匂いの空気を吸うとなぜか身体の奥で鈍く重い澱のようなものが蠢く感覚になる。

軽く吐き気もする。

おかしい、、、

練習中にこんなおかしな体調になったことはない。

食べ物は、他の生徒と同じく、学食のものを口にしただけだ。

自分だけが調子を崩すわけがない。

気力だ、、、

気力で乗り越えろ、、、

ハォォッ

気合いの声をあげ、飛び出す。

声を出すと、腹のそこの不快な澱を外に吐き出し、気力が戻る気がする。

ホッ!

フォ!

ホッ!

短い気合いと共に跳んでいく。

最後の雄一が跳ぶと馬だった者達は身体を立て、リング脇に整列していく。

先程よりは並ぶ距離を開け、途中から反対側の脇に並び始める。

雄一は、自分のブリーフの後ろがずり落ち、尻をさらけ出していることに気づかず跳ぶ。

そして、整列したレスリング部員達は、その雄一の姿を感情のない目で見ている。

誰も、下着がずり落ちていることを指摘しない。

汗が滴っている。

重く粘つくような汗。

顎からしたたる。

目に入り、痛みを生む。

不思議だ。

汗がこんなに不快に感じたことはない。

雄一は、芯が重くしびれるような身体を、気力で奮い立たせ、馬跳びを続ける。

ドンッ

最後の着床。

見れば両側に部員が整列している。

飛び越した部員の進む方向に雄一も進み、列の隅に並ぶ。

リングを挟み、二列が出来る。

サポーターのみ(雄一はブリーフのみだったが)の若々しい裸体が向かい合って並ぶ。

部長の江田が前に出て列の方を向く。

「今日は、大石先生に加え、高尾先生が加わってくださっている。せっかく先生が二人いらっしゃっているのだから、今日は先生の胸を借りたい」

主将らしく鍛えられた身体だ。

まだ若く筋肉がくっきりと浮き上がるまでは言っていないが、柔らかでなだらかな曲線がしなやかさで、内に秘めた力を感じさせる。

基礎トレで流れた汗で、肌が美しく光っている。

「では、こちらの列は大石先生と、そちらの列は高尾先生と組んで行う。松本、原田と代わってくれ。一人当たり3分、最後尾のものはストップウォッチを用意!」

副部長の松本と2年の原田が入れ替わる。

列から二人の部員達がストップウォッチを取りに走る。

雄一は両足をしっかり開き、大きく息をする。

基礎トレを終えても、不快感と倦怠感が取れない。

この程度の運動でなぜ、、、

深い呼吸を続ける。

汗が肌に粘りつくようで不快感が増す。

スポーツタオルで汗を拭いたい、、、だが、誰も、タオルは取りに行かない。

生徒達が練習に集中しているのに、教師の俺だけタオルを取りに場を離れる訳にはいかない、そんな弛んだ姿を生徒に見せる訳はいかない、、、

武骨にそう考え、気力で体調を戻すことに専念する。

首を、脇腹を、鍛えられた胸筋を汗が伝う。

腹筋を伝う汗は臍から始まり次第に太さを増していく黒い毛を伝い、雄一の履いた絹のボクサーブリーフに染み込んでいく。

ブリーフがずれ尻が丸出しになっていること、汗が布地を濡らし肌に張り付き、陰毛の影と布に隠れているはずの雄一自身の立派なフォルムが伺えることには気づいていない。

雄一は並んだ列の生徒達が集まり始めた方へと進む。

その中心には松本がいる。

錨肩で広い肩幅。

上半身の筋肉が厚い。

何を考えているかわからない瞳。

「高尾先生は初心者だそうですから、下級生と当たってもらいます」

その言葉に雄一の心が引き締まる。

確かに初心者だ。

だが、誠実に基本を押さえて着実に競技に臨めば、確実に前進がある。

そう自分に言い聞かす。

「では、川崎、先生の胸を借りろっ」

「お願いしますっ」

まだ幼さの残る生徒が進み出る。

え?

それは、貧血を起こし雄一の腕に倒れ込んできた生徒だった。

そして、そっと練習場の扉が少し動き、隙間から覗く人影があることを、練習場の中にいる者達は気づかない。




    
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