邪神の祭壇に無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

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秘文書

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巨大モニターに写し出された映像。

深い水の中を身体をくねらせ泳ぐ筋骨たくましい男性人魚。

プールサイドから撮影された“ハの三番”の映像だ。

続いて画面が変わる。

これは、研究室らしき部屋に置かれた大きな水槽を横から撮影した映像。

その水槽の中には美しい異形の魚、、、いや、人か、、、

水槽が狭いからかゆっくり浮き揺蕩っている。

下半身からは真っ白で繊細な布のような薄い鰭が何枚も水中に伸びている。

上半身は純白の地に深紅の痣のような模様が浮かんでいる。

顔は前を向き、両手はピタリと身体に付けている。

肩から両腕の肘の先までは純白で指先に向かい肌色が戻ってきている。

「リュウキンのようだな、“ハの三番”の形態とはまた違う。。。」

画面を見ながら藤堂が言う。

「“ハの六番”です。彼もまた同時刻に化体が始まり、“ハの三番”と同じタイミングで化体を解きました」

銀縁メガネの刈谷が説明する。

「その後、二人に変化は?」

「ありません。下でCTを始めとする検査を受けさていますが、異常は発見されていません」

「ふぅ、、、化体はハしか起きていないのか、、、今残っているハの“デク”はここの二人だけか、、、」

「えぇ、“ハの二番”は先日、粉塵化してしまいましたから」

「やはり“デク”は、下で徹底的に観察させるか」

「お待ちください。それはお止しいただきたい」

「何故だ?施設は下の方が充実しているだろう。君も下へ戻れば良い」

「いえ、逆に下の“デク”達を上に寄越してほしいのです。先日、ここの“デク”達が不思議な反応を示しました」

「何だと?」

「短い時間でしたが、自分の意思で動き、確かに何かに反応する様を見せました」

「聞いてない。どうしてそれを報告しない」

「報告もなにも、短い反応で、原因も分かりません。下に問い合わせたところ、下の“デク”達は反応を示していませんでした」

「この学園での何かに“デク”達が反応したということか?そして、それは、下の“デク”には干渉はしなかった、、、」

「えぇ、藤堂さん、何かが始まっています。今までは起こってない何かが。だから、秘文書を紐解かせていただきたい。私達に開示されている秘文書には抜けがある。全ての情報を開示して研究に役立たせていただきたい」

藤堂が珍しく困った顔をしている。

「あれは、おいそれと開帳できないもの」

「藤堂さん、お考えください。なにも禁断の書なんてものじゃないでしょう」

藤堂のこめかみがピクリと動く。

「禁断の書なんて、この現代に非科学的な、、、まぁ、神の実在を論争する自体も非科学的ですが、しかし、現に、兆候は現われている。現象として起こっている。未だ解明されていないだけで、現象として実在するものについては科学で立証できる。藤堂さん、その大きな機会が訪れているんですよっ」

刈谷は興奮した口調で捲し立てる。

「今こそ、貴方達の言う“ナミ”様とやらの存在を科学で立証するときです。そのためには、先人の残した記録を、研究の方向性の鍵として、古に何が起こったのかを開帳すべきです」

藤堂は渋い顔をして考え込んだ。

                           ※
「高尾先生、この席、よろしいですか?」

顔を上げると、黒川だった。

「おっ、久しぶり。どうぞ」

黒川は雄一の前の席に着く。

昼食時の食堂だ。

「今週末からリーグ戦が始まるのではなかったっけ」

「えぇ、リーグ前の気分転換で今日は学園に来ることにしました。午後の練習に出て、明日の朝練の後、大学へ帰ります」

黒川はスポーツマンらしい謙虚さを崩さない。

実は黒川は大学リーグで注目された新進の選手だということを、最近知った。

この学園の卒業生。

平坂学園も定期的に甲子園に出ており、常連に近い存在だ。

だが、赴任してしばらく経ち、この学園の方針が、あくまでも学園卒業後に生徒達が大輪を咲かせることに主眼を置いており、有名大会で好成績をとり学園の名を売るということには全く重きを置いてないことを知った。

生徒のことを考えた立派な方針だと思う。

なので黒川のように、この学園を卒業した後に、世間的に注目を浴びる選手が多いのも分かる。

無理をせず、基礎をきっちりと鍛練しているからだ。

「後輩と練習して、大会に向けて心の鋭気を養うのか。いい心掛けだな」

黒川はくすぐったそうに笑う。

「後輩だけじゃないですよ、F大の木崎とかO大の村西とかも間もなくやってきますよ。リーグが始まるとゆっくり会うことも、練習することも出来ないんで、彼らと一緒の自主連ってのもあるんです」

「対戦相手の仲間達との交流か。いいな。チーム競技ならではだ」

「高尾さんも、練習相手とかいるんですよね、、、あ、すいません」

「いや、良いんだ」

黒川の言葉に一瞬、雄一の顔が暗くなる。

雄一には、もちろん仲間がいるが、現役時代は雄一の選手としての技量が抜きでて過ぎ、また、事故による引退後は雄一が仲間との接触を避けたこともあり、疎遠になってしまっている。

「最近、昔の仲間と会ってないが、久々に会ってみたくなった」

雄一は答えた。

そして、ふと気になったことを聞く。

「野球部にいる頃は甲子園を目指さなかったのか?」

「大きな目標ではありましたけど、その前に基礎を学び、チームメイトとの和を学ぶことを第一に考えてましたね。あくまでも甲子園の予選は、チーム力があれば勝てる、実力が達していなければ勝てないという認識でした。勝つというよりも、将来どうなりたいかってのを考えろと言われました。成長時期に無理して身体を壊さないようにってのが、代々の考えでした。まぁ、僕は2年の夏と3年の春に甲子園に行くことが出来て、その時はOBの人達も喜んでくれましたよ」

「なるほど、部によって考え方は違うんだな。水泳部は選抜組ってのがあると言っていた」

「あそこは少し、違ってますよ。選手の旬の時期もあるんでしょうね。大会を目指す、その選抜組って言うんですか?そんな水泳一筋の生徒は多いです。ただ、少し気合いが入りすぎてて、やりすぎと思うことはありましたけど。でも、基本は、生徒の将来を考えるってのは変わらないはずですよ。たしか、今度の競泳チームの主将も選抜チームではなかったと思います」

「滝川くんか」

「そう、滝川くんって名前だった。彼も身体能力ではずば抜けているらしいですけど、特に大会での成績にはこだわらず、学業にも打ち込んでいるみたいですよ。その身体能力は部員達も認めていて、主将にも満場一致でなったようです」

雄一は滝川の無邪気な笑顔を思い出す。

そして、褌を絞めたしなやかな身体も。

確かに、鍛えられ、しっかりした筋肉だった。

「高尾先生は、学校に馴染みましたか?」

「あぁ、お陰さまで慣れてきたよ」

「やはり、空手部メインで指導しているんですか?」

「あぁ。空手を中心に、色々な運動部を回っている感じだ。武道系は一通り回ったんで、球技の部活にも参加させてもらってるよ。確か、野球部には来週参加させてもらうことになっている」

黒川の目がキラリと光る。

来週か。

黒川が頻繁に学園を訪れる理由が、雄一であることを、雄一は気付いていない。




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