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道場裏のシャワー設備で

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「高尾先生」

呼ばれて振り返る。

そこに立っていたのは、学園に到着した日に校内を案内してくれた黒川だ。

ニコッと雄一に微笑みかける。

「やぁ、今日はこっちなのかい?」

「はい、午後に野球部の顔合わせがありますので、それに合わせてきました。大学の新入式には、まだ間がありますので、三日程、こちらにお邪魔します」

黒川は、大学の体育会硬式野球部に所属している。

基本は、その水泳部の合宿所で過ごしているが、からだが空くと、この学園にやってくると言っていた。

気分を変えるのと、補助コーチ、修習生の立場でやってくるライバル達と気軽に勝負が出来るからだ。

公式の合宿であると、競技の委員会や、各チームのコーチ、取材のマスコミの目があり、落ち着いてライバル達と競えないかららしい。

「先程、窓の外から高尾先生の試技をみせていただきました。さすがの迫力でした」

黒川は軽く頬を染め、雄一から目を反らして言った。

黒川は、出会ったときから雄一に惹かれているようだ。

「簡単なものだから、誉められるようなものじゃないけれど」

雄一は、軽く答えた。

雄一は、真っ直ぐな気質であるが、それはある意味、無頓着ということでもあった。

雄一の前で、人が軽く頬を染めて目を反らすのは、そんな珍しいことではない。

雄一は、自分の姿、存在が眩しくて、人がそういう態度を取るなどということには思い至っていない。

だから、普通のこととして対応してしまう。

「簡単と言いますけど、すごい気合いでしたし、その証拠に汗が滲んでますよ」

っ!言われてみれば。。。

黒川からも、その後に藤堂からも、身体を動かした後は別だが、それ以外はなるべく清潔を保つように言われていたのを雄一は思い出す。

汗をかいてしまった。。。

「軽く、シャワーを浴びて着替えた方がいいかもしれないです。今日の午後は、新年度の初日ですから、OBの方もいらっしゃいます。中にはうるさ型の方もおいでなので、汗は軽く流された方がよいかと」

「有り難う。じゃぁ、一旦、寮に戻るか」

「寮の風呂は、掃除中の可能性があります。そこの道場のシャワー施設を使われては。その間に、私が、先生の着替えを持ってきますよ。先生のサイズは分かっていますし、予備のシャツの場所も知ってますから」

「しかし、それでは申し訳ない」

「遠慮なさらず。僕も早く着きすぎて、午後まで暇をもて余してますし。それに、寮には早く着いたOBの方もおいでと思いますんで、汗の滲んだYシャツで挨拶するのは失礼になってしまいますよ」

「分かった。お言葉に甘えるか」

初日に校内を一緒に巡ったときに、話しが弾み気心の知れる仲となっている。

そして、雄一に惹かれた黒川は雄一の世話を焼きたがる。

この学園の仕来たりにはまだ疎い雄一には、黒川の気配りが有り難い。

「では、急いで用意してきますね。着替えをお持ちしたら、声をかけます」

そう言って、黒川は足早に寮の建物の方へと坂を上っていった。

黒川は武道棟の裏にあるシャワー設備に進む。

シャワー設備は古い建物だ。

武道棟は、和式の古い建物で、昔はそこに井戸があり、そこで汲んだ水を被っていたそうだ。

しかし、それも旧時代的と簡易的に設置したシャワー設備を改修を重ねて使い続けているらしい。

他の体育設備に関しては、立て替えの際にシャワールームも新設され、浴場含めて新しくなっていっているが、武道棟の付属のものだけは、古いままで困ると先日話した空手部と剣道部の顧問が言っていた。

だが、雄一には懐かしい気がする。

雄一の子供の頃には、シャワーの施設などあれば良いという感じであった。

水呑場の水道の蛇口をひっくり返して冷たい水を浴びるなど日常茶飯事。

たまに合宿で出掛けた古い道場だと井戸があり、汲み上げた水を頭から被ると神聖な気持ちになったのも懐かしい。

だから、雄一は、設備が最新式か古いかはあまり気にしない。

その設備は入口から薄暗い。

建物と言えば建物だか、古く簡易的という感は否めない。

積まれたタオルだけが白い。

至れり尽くせりだな、、、と思っていたら、生徒にタオルを持参させると小まめに洗わない者も多く、不潔になるので、学園が用意し、その場で使ったものをその日の内に回収し洗濯に回すことにしたそうである。

おそらく、シャワーの設備、水を流す床とシャワーの取り付けられた壁だけを設置した露天の設備に、後からプライバシーの保護のためか、屋根と目隠しのための壁を付けたのだろう。

屋根無しだと、雨の時に使用が厳しいという理由もあるだろう。

屋根と壁の間には明かり取りの隙間があり、昼間だと外光のみでも用は足りている。

もとより、ざっと汗を流すのみで長居する設備でもない。

雄一は、脱いだスーツ、パンツを丁寧にたたみ、下着は丸めて入口の脱衣用の棚に置く。

確かに、雄一の肌は汗ばんでいる。

シャツと下着も濡れていた。

それだけ気合いと力がこもった型だったということだろう。

雄一は、のしのしと古いタイル張りの床を歩く。

男らしい姿。

堂々とした益荒男のよう。

なんのてらいもない。

道場で身体を動かした影響で筋肉がパンプアップし、荒々しく浮き上がっている。

一人きりでガランとしたシャワー設備である。

前を隠すこともせず自身に満ちた姿で歩き、中央のシャワーの前に行く。

シャワーノズルのバルブを空ける。

水が雄一の身体に降り注ぐ。

それをまずは、目をつぶり顔で受ける。

髪が濡れ、水滴が顎から、鍛えられた上半身、下半身へと伝っていく。

そして、背中を向ける。

シャワーはハンド式ではなく上部に固定されているタイプであるため、身体を動かし全身に水をかける。

うまく当たらないところは手で水を広げる。

使いふるされた石鹸を手に取り、身体にささっと塗る。

荒ぶった筋肉を鎮めるようにゆっくりと泡とともに身体を撫で、汗を落としていく。

このシャワーを浴びるクールダウンの一時が、雄一は好きだ。

目を閉じ、シャワーの水を感じながら、簡単なマッサージ代わりに肌を撫で、筋肉を解しながら身体を休める。

それを入り口からジトッとした視線で見詰めるモノがいる。

複雑な視線。

嫉妬と欲望の混じり合った視線。

嫉妬の視線。。。

ー優男ぶりやがって、何が空手界のプリンスだ。調子に乗りやがって。アホなファンにキャーキャー言われて、軽薄な野郎がっ!偉そうに教師だと?生意気なっ!

雄一は、優しく整った顔とその実力で、普段は空手を見ないようなファン達も雄一目当てで会場に押し掛けた。

当然、会場の客席からは、他の選手には送られない雄一のみに対する声援が湧く。

雄一は気付いていなかったが、それが対戦相手の嫉妬をよび、雄一へのライバル心を掻き立てていた。

もっとも、その嫉妬とライバル心に燃える相手と対戦することで、雄一の実力が磨かれていったのは事実だ。

欲望の視線。。。

ーだが、良いケツしてるぜ。プリプリとして、水蜜桃のように瑞々しくパンパンで旨そうだ。背中の盛り上がった筋肉、舐めてぇ。あの腕、胸筋、太い腿、噛みつきてぇ、あの腹筋を引き裂きてぇ、ぶっとい逸物をちぎり取ったらヤツはどんな顔をする?あの色男面を歪ませて、ヒィヒィ言わせてぇ。。。

二つの感情の入り交じった視線はジトジトと暗く濡れ、ヌメる光を帯びていく。

ーそろそろ上がるか、、、

雄一はシャワーのノズルを閉める。

水滴を帯びた身体を入口に向ける。

ビクンッ

雄一の身体が軽く固まる。

一人でシャワーを浴びているつもりだったのが、脱衣場に人がいた。

塩谷だ。

バスタオルを手にしている。

「高尾先生、ここに立て。身体を拭いてやる」









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