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道場の光と闇

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道場の中、雄一はすっと姿勢を正し、塩谷と呼び掛けた男に礼をする。

塩谷は入り口で悔しそうな憎らしそうな複雑な表情を崩さず、雄一を見る。

雄一はジャケットを取ったとはいえ、キリッとしたスーツ姿。

ジャケットがない分、若々しさ、清々しさに溢れている。

学園の教師に与えられた、上質のスーツ姿。

一方、塩谷は修習生の作業着姿。

落ち着いた色の作務衣だ。

もちろん、作務衣としては上質の生地である。

だが、雄一のスーツとはものが違う。

着ているもので二人の立場の違いが鮮明に分かる。

“修習生は、この学園の教師になるために鍛練に励んでいるのですよ”

藤堂の言葉が頭をよぎる。

雄一の中に気まずさが生まれる。

塩谷は、雄一の三年先輩にあたる。

出会ったのは、雄一がまだ、小学生の頃。

とにかく厳しく、後輩にキツくあたる性格で雄一もしごかれた。

力に任せて相手を威嚇するタイプ。

子供の頃の3年は体格的に大きな差だ。

雄一も含め、同級生たちは塩谷が苦手だった。

もっとも、塩谷のような後輩には厳しいタイプは多く、そのようなタイプの先輩を反面教師とし、自分がされて嫌だったことは後輩にはしないと誓った雄一は、後輩にも丁寧に礼をもって接するようになったのであるが。

だが、塩谷が偉そうに出来たのも最初のほんの数年だった。

雄一の才能が花開き、選手として上になってしまったのである。

塩谷は、雄一よりも格下の選手となった。

塩谷は、高校の途中でレスリングに転向し、そこそこの成績を残したと聞いている。

その塩谷と、久々の再会である。

正直、雄一は驚いた。

「高尾先生、道場を使う時間は考えて貰えませんかね。こちらは、道場の清掃をしなきゃならないんでね」

相変わらずの嫌みな言い方だ。

「申し訳ありません。すぐ降ります」

「いやいや、高尾先生のご自由に。我々、修習生は先生様には逆らえないんでね。しかし、先生は、このスーツで型を取るとはサスガだ。破れたりしてませんかね?」

塩谷は近付くと、雄一のズボンの尻に手を当てた。

「縫い目が切れていたりすると、我々の落ち度となるんで、確認させてください」

塩谷は、尻のあたりに手を当て、縫い目沿いに股下から全部をネチこく触った。

そのヌメっとした嫌な感触を雄一は、堪える。

確かに、支給されたばかりのスーツを破いてしまっては申し訳ない。

「現役を退いたといっていたが、どうして、まだ立派なケツだな」

「あ、有り難うございます」

シャツの袖の付け根の縫い目も確認される。

「大丈夫なようだな」

「すいません」

「折角だから、また組手でもしようじゃないか」

「塩谷さんは、空手を指導されてるのですか?」

「空手部は、たまに補助をするだけだ。レスリングの補助コーチをしている」

「そうですか。自分は、この学園では分からないことばかりなので、色々教えてください」

「何かあれば言ってこい」

雄一は、一礼し道場を出た。

その後ろ姿を、塩谷はヌメっとした視線で見送る。

ー相変わらず、すかしやがって。それにしても、良いケツしてるぜ。。。

塩谷の胸に忘れたい過去が甦る。

力にモノをいわせ、後輩たちに君臨していた塩谷。

後輩だけではない。

学校でも、町でも、道場でも、力で好き勝手していた。

空手の師範達は、面倒な精神論を言う。

空手の力は、道場以外で人に向けるな、、、

心も磨け、、、

アホかと思う。

力こそ絶対。

その証拠に、生意気な奴も塩谷の力を示せば、従順になる。

要は試合に勝てば文句はないんだろ。。。

そう信じていた。

3年下の高尾にヤられるまでは。

その地区の大きな試合の個人戦、準決勝。

昨年に続き連覇を狙っていた塩谷は、初参加の雄一にあっさりと負けた。

そして、見事に優勝した雄一は世間の注目を浴びる。

空手界に新星現わる。。。

俺が優勝した時には無視しやがったくせに、なんでヤツにはチヤホヤするんだ、、、

塩谷は僻んだ。

世間は優勝という事実ではなく、雄一の才能、ポテンシャル、将来性に着目したのだが、塩谷はそれを分からない。

己を磨くことよりも、雄一をぶちのめすことばかりに執心する。

それも、大きな大会で打ち勝ち、恥をかかせる。

そこに執着した。

トーナメント制の大会で雄一と組むためには、そこまで勝ち進まなければならない。

が、塩谷の誤算は、後輩たちも努力をし、腕をあげてきたということだった。

それまでのように勝ち進むことは困難になってきて、勝つために塩谷は反則すれすれ、あるいは反則を繰り出すようになり、とうとう試合で失格するまでになってしまった。

ここで、努力する性格であれば少しは変わったのかもしれないが、不貞腐れた塩谷は、空手を辞め、声をかけられていたレスリングに移る。

彼の所属したレスリングチームはそれなりの強豪で、新人の塩谷はこてんぱんにのされた。

そこから這い上がったのは、塩谷の力と才能のなせる技であったのだが、性根は変わらなかった。

そして、雄一に負けたせいで、空手界を諦め、レスリング界で一から苦労を始めなければならなくなったと逆恨みしている。

しかも、雄一は、世界大会常連の選手となり、イケメン空手家としてもてはやされている。

塩谷の中で、雄一に対する嫉妬が渦巻いている。

あのいけすかない男を組み敷きたい。。。俺の手でヒーヒー言わせてひれ伏させたい。。。

塩谷の中でどろどろとした感情が吹き出し、薄暗い染みのようなオーラが漂い出す。

先程の雄一の尻の感触が思い出され、塩谷はその尻を撫でた右手をベロリと舐める。

その舌は出された時は、普通のうす赤い色であったが、掌を舐めるうちに次第にどす黒く、そして膨張していく。。。





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