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赤のスカウト le rouge

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夜行バスの中、直人は一睡も出来なかった。

親父が失踪した。

横領。

しかも、祖母と母親の知らぬ内に、実家は借金の抵当に入っていたらしい。

一番安い夜行バスの席は狭い。

直人の水球で鍛えた大柄の身体を休めるのはきつい。

“な、、、なおとにいちゃん、、、”

今年、高校に進学したばかりの弟の彰が泣きながら電話をしてきた。

“どうしよう、、、ボク、どうしていいかわからないよ、、、”

荷物をまとめる間もなく、直人は夜行バスに飛び乗った。

家には親父の勤めていた会社の人間が怒鳴り込んできたそうだ。

ボケかけた祖母、気の弱い母では応対できず、引っ込み思案の彰が矢面に立ったらしい。

さらに、親父の失踪を聞き付けた地元の金融機関、そして怪しげな闇金の人間も現れたそうだ。

金融機関だけでなく、ヤミ金からも金を借りていたようだ。

電話口で彰がすすり泣きながら、話してくれた。

直人が、実家に帰ったからといって、事態が好転する訳もない。


けれど、長男として、家族の心の支えにはなることが出きる。

大学の体育会水球部で練習に明け暮れる日々がガラガラと足元から崩れる予感がしていた。

実家では彰が泣き腫らした目で待っていた。


祖母と母親は寝込んでいて、「済まないねぇ」と繰り返すだけ。

バケツと雑巾を手に外へ出る。

壁に書かれた“泥棒”、“盗っ人”、“金返せ”といった落書きを消すためだ。

そして、一緒に落書きを消しながら、弟からあらましを聞く。

長年に渡り、不正な帳簿操作を繰り返し、家を抵当に入れての借金やヤミ金で横領額を穴埋めしようとしたが、もう埋めきれず、一人で逃げ出したらしい。

スマホは自宅の部屋に「迷惑をかけてすまん」という書き置きと共に置かれていたらしい。

問いただそうにも、父親との連絡手段はない。

固定電話のベルが鳴り出す。

直人は家の中に急いで入り受話器を取る。

父親の会社からの電話だ。

横領は長年に渡っておりその金額は、調査中だが、千万単位になりそうだ。

このままでは資金繰りが付かず、会社も倒産の危機を向かえそうだ。

その前に弁済金を工面して欲しい。

会社は刑事告訴も視野に入れている。

至急、金を用意してくれ、、、

直人は血の気が引きそうになりながら聞いていた。

すぐに別の電話。

今度は金融機関だ。

こちらも、今月の弁済額が入金されておらず、放っておくと抵当に入っている自宅を差し押さえることになると告げられる。

呆然自失になりつつ電話を切り、振り向くと彰が見るからに柄の悪そうな男と玄関に立っている。

弟は怯えて震えている。

「あんたが、長男かい?」

直人は頷く。

「父さんから連絡はないようだな。金を返す準備は出来たか?800万。この立派な家を売れば、それくらいのはした金、チャチャっと払えるだろう」

酷薄そうに笑う。

その家は銀行の抵当に入っている。

直人は、頭がグラグラしてくるのを感じる。

叔父の正典が現れたのはその夜だった。

父親の年の離れた弟で、直人は兄のようにしたっていた。

柔道の元柔道の選手で、気さくで明るい性格。

「兄貴のやつ、なんてバカな真似を、かわいい息子達を残して、、、」

正典は言う。

「マサ兄ちゃん、俺、どうしていいかわからないよ」

「、、、、」

しばらく黙った後、正典は口を開く。

「考えが無いわけではない、、、が、、、」

「兄ちゃん、なんか手があるのか?」

「確実じゃないが、もしかしたら。。。」

「俺、何でもするよ。何でも」

「わかった。聞いてみるよ。明日、連絡する。母さんも、義姉さんも、生活力がない。この家を取られたら路頭に迷うだろうし、、、ただ、辛いかもしれないぞ、、、」

「大丈夫だよ。この家は俺が守る」

そして、翌日の夜、直人はサウナに入っていた。

汗が噴き出ている。

拭う。

市内の一流ホテルの展望風呂だ。

正典に呼び出され、緊張しながらロビーに着くと、一枚のチケットを渡された。

「話をつける間、最上階の展望風呂でゆっくりしてこい。お前も疲れているだろう。一時間程度で迎えに行く」

厳しい面接でも待っているのかと考えていた直人は拍子抜けした。

展望風呂からは市内の夜景が一望できる。

客は直人以外一人だけ。

確かにゆっくり出来る。

心にモヤモヤは抱えているが、広い風呂に浸かっていると少しは気分が晴れた。

たが、ずっと浸かっているのも退屈で、サウナに場所を移した。

フゥ

ホット一息つく。

扉が開き、外の冷えた空気が軽く入る。

もう一人の入浴客が入ってきた。

「良い体格してますね」

「有り難うございます」

「何かスポーツを」

「水球をやってます」

「ああ、ウォーターポロ。激しい競技ですね」

「ご存知ですか。中学の頃からやっているんですよ」

思わず会話が弾んだ。

そして、しばらくして、正典が顔を出した。

話がついたのかと直人は正典を見る。

正典はもう一人の客を見ている。

その客が正典に言った。

「合格です」

「有り難うございます。直人、お前は面接に受かった」

?、、、!

直人はもう一人の入浴客を見る。

「あなたに賭けてみましょう。借金は立て替えます。支度料の代わりと考えてください。法外な利息を取るんではないかという心配は無用です。利息は取りません。あなたがきちんと働けば私たちの儲けともなる。そして、私たちは見合いの報酬を支払う。イーブンです。あなたは自分の稼いだ分から返済をすれば良い。あなたのパフォーマンスが良ければ、その分、報酬は上がります。弟さんの学費の足しになるくらいは余裕で稼げるでしょう」

「あ、有り難うございます」

思わず、直人は、サウナの熱い床に土下座した。

土下座をする際、腰のタオルが外れ、素っ裸になったが、気にしていない。

頭を床にすり付けているために、入浴客が直人の裸の背中から尻にかけてを舐めるように見ていることに気付かなかった。



そして、今、直人は、銀の大きなトレイの上で仰向けに寝ている。

身体には生ハム、チーズ、テリーヌ等がところせましと並べられ、肌を隠している。

身体の周囲には野菜が彩り良く飾られている。

直人が横たわるトレイはキャスター付きの台に乗せられ、ふっくらとした絨毯の上を進み、大きなテーブルの前で止まる。

テーブルの向こうは高級そうな長いソファ。

仮面をつけた紳士達と、半裸の若者達が座っている。

「本日のオードブルでございます」

丈の短い赤いホットパンツを履いた4人の逞しい若者が直人が仰向けに寝る銀のトレイを持ち上げ、テーブルの上に置く。

直人は、これ以上無いというくらい恥ずかしさで顔を赤くしている。






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