龍神様の供物

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精進の日々

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七日間はあっと言う間に過ぎ、大晦日がやってきた。

村には、新年を迎える浮ついた空気が満ちていた。

しかも、今年は12年に一度の龍神様の盛大なお祭りだ。

村を守ってくれる龍神様を祭るため、昼には神社で餅が振る舞われる。

子供たちはもちろん、大人たちも祭りに浮き立っていた。

けれど、昼の祭りは、表の顔。

真の祭りは村人たちの外出が禁じられている大晦日の夜に行われる儀式。

サダ兄ぃが心配で、毎日滝壺までこっそりと様子を見に行っていた私は、大人達の会話の断片から察していた。

供物に定められた日から、サダ兄ぃは、滝壺の傍らの小屋に寝泊まりしていた。

村から社を通り滝壺まで、細い道の要所要所に若衆が立ち、通せんぼをしていた。

だから滝壺まで近付くのは簡単ではなかったし、さだ兄ぃに近付きたくても常に番がついていて無理だった。

サダ兄ぃは、日の出と共に起きた。

小屋を出ると前日の寝る前に与えられた白地の帯、衣、褌を脱ぎ捨てる。

シンとした冷気の中、全裸になる。

時に粉雪の舞う朝もあった。

サダ兄ぃが立つところまで滝の飛沫が飛んできていた。

寒かっただろうし、冷たかっただろう。

脱ぎ捨てた帯や衣は、滝から離れた場所で焼かれた。

長老や見張りの若衆はその火で束の間の暖を取るが、サダ兄ぃには許されない。

裸になったサダ兄ぃは、滝の前に広げられた白い布の上に正座をし、用意された質素な山の菜のみの膳をとる。

その後、あの黒い汁を呑み、祝詞の間、腹を襲う苦痛に耐え、尻の穴を掃除する。

最初のころは、腹痛を我慢するのも、その後、皆の前で尻の穴を自らの手で掃除するのも辛そうだった。

しかし、日が経つにつれ、サダ兄ぃの顔は澄んだような表情となりその恥ずかしい作業をこなして行くようになった。

体の内を清める儀式。

それが終わるとサダ兄ぃは、滝に入り長い時間冷たい水に打たれる。

神主が祝詞を唱え続ける。

何刻も続く長い長い祝詞が終わると、ようやく滝壺から上がる。

唇は青褪め、体は寒さに小刻みに震えている。

身体は寒さに縮こまっているのだろう、筋肉が細かい筋まで浮き上がっている。

神社の若衆が白い布を手にサダ兄ぃに駆寄り、体に付いた滴を吹く。

荒々しく拭いているのは、寒さに冷えきった兄ぃの体に少しでも温もりを取り戻そうとしてだろう。

私は、サダ兄ぃの体を拭く若衆に、謂れのない憎しみのような、妬みのようなものを感じた。

ある時、物陰に私がいることに気づかず、長老たちが話し出した。

昔、余りの荒行に死んでしまった供物がいたそうだ。

供物が捧げられなかった翌年から12年は、不漁が続き、飢え死にする村人が増えたそうだ。

供物が気に入られなかった年のあとは、決まって海が荒れたそうだ。

だから、サダには、是が非でも生き延びてもらわねばならい・・・

龍神様に気に入ってもらえるよう汚れを払い精進してもらわなければ、、、

ガンと頭を割られたような気がした。

サダ兄ぃの身を拭き終わると、若衆は壷から、多分香油だろう、液体を手に取ると、サダ兄ぃの全身に塗り始める。

若衆は丹念にサダ兄ぃの体に、たっぷりと香油の付いた指を這わせる。

魔羅を飾るように黒々と覆い茂った太い毛も、素肌に香油が届かぬのを避けるためだろう丹念に掻き分けながら、指が這う。

腋の下を覆うもっさりとした毛も同じだ。

サダ兄ぃは両手を上に伸ばし、腋の下に香油が塗られる。

既に香油を塗られた肌は滑らかなテカリを帯びて、サダ兄ぃの美しい筋肉が映える。

腋に丹念に指が這う時、サダ兄ぃの表情が少し変わる。

そして、這う指は、腋の下から、脇腹、腹部から逞しい両胸、から首に上がり、背中を通り下に向かう。

尻、脹脛から爪先、そして太股を撫で、サダ兄ぃの大事な黒く深い繁みを掻き分け、最後に剥き出しにされた大事な秘所・・・

一度となくサダ兄ぃは、その作業の最中に、自慢の大きな逸物を膨らませた。

恥ずかしいのか、目を閉じ、唇をギュッと噛み締めながら。

今になって、その辛さが判る。

大きくなればなるだけ、香油を塗りたくる場所も広がる。

そして、若衆の指は香油をたっぷりと取り、大きく頭をもたげた亀頭を、雁首を、丹念に這って行く。

尻の間も、内股も、脇腹も、ぶらりと下がった玉袋と敏感なところを丹念に這った後にだ。

サダ兄ぃの顔が歪む。

苦悶のような、どこか、恍惚としたような・・・

息が荒くなり、堅い瘤を合わせたような腹が激しく起伏する。

遠くで聞こえないが、声も漏らしているようだ。

そんな時、神主がサダ兄ぃにきつく言う。

「サダッ、我慢せい。龍神様のために精は溜めておくのじゃ。
村のため、辛抱してくれいっ」

サダ兄ぃは、フルフルと首を前後に動かす。

肯定の意味だろう。

荒くなった息に邪魔され、言葉に出来ないのだ。

もちろん、その頃の私には神主の言葉の意味は分らなかった。

長老たちが、「あの若さで、辛いことよ」と哀れむように言った。

全身に香油を塗り終え全身をヌラヌラと妖しく光らせたサダ兄ぃは、次に刀を取る。

そして、素振りを始める。

何回も、何回も・・・

気合の声を上げ、全身の筋肉を浮かび上がらせて。

時には、香油を塗る際に猛らせた魔羅を鎮めることが出来ぬまま・・・

そんな時は、刀の振り上げ、振り下ろしに体を前後するたびに、猛った魔羅がブルンブルンと震えた。

時には、腹を打つほどにまで猛り、揺れた・・・

神主や、長老たちの注視の中。

恥ずかしかったろう。

痛々しくて見ていられなかった。

食事に始まり、素振りに終わる業が朝と昼、一日に二度繰り返された。

そして、日の入りとともに食事を終え、衣を与えられ、小屋に入る。

雪の日も、風の日も関係はなかった。

粗食、滝の荒行、剣の鍛練のせいで、サダ兄ぃの体からは、無駄な肉が削ぎ落とされ、微かな動きでも全身のしなやかで逞しい筋肉が脈動するのが分かるようになっていた。

そして、大晦日の夜がやってきた。

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