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シャワールーム~グラウンド 恥辱
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空っぽの湯船。
ガランとした浴場。
素っ裸の和彦は、立ちすくむ。
寮夫さんが間違えてお湯を抜いてしまったのか・・・・
それとも・・・・
生徒達の俺に対する嫌がらせか・・・・
和彦は深く考えたくなかった。
折角の竜之介との楽しい時間が無になっていく。
和彦はフラフラと浴室に足を踏み出す。
トレーニングルームで流した汗が肌にこびりついている。
流したい、、、
そうだ、湯船に浸からなくてもシャワーで洗い流せばいい、、、
お湯がなくてもシャワーを浴びられればいい、、、
お湯が抜かれているなんて大したことじゃない、、、
シャワーノズルを手に取り蛇口レバー圧す。
出ない。
隣の蛇口、その隣、、、
端から端まで、どの蛇口からもお湯はおろか、水も出ない。
元栓が閉められたのか、、、
風呂場の元栓がどこにあるか、和彦は知らない。
そこまでやるのか・・・・
心にぽっかり開いた穴が膨らむ。
だが、シャワーは浴びないと。
汗がこびりついている、、、
汗臭いはずだ、、、
生徒に汗臭いと言われたのを気にしている。
汗を流さなきゃ、、、
昼間に竜之介と行ったプールサイドのシャワー?
だめだ。
鍵は本校舎の教員室にある。
そして、夜10時を過ぎるとセキュリティロックが掛かり、警備会社に連絡しないと教員でも入ることができない。
そうだっ!
体育教官室のシャワーがあるじゃないか。
体育館附属の体育教官室は古く、セキュリティは、本校舎とは違う。
和彦が持っている鍵を使えばこの時間でも入ることが出来る。
あそこで汗を流せばいい。
この時間に寮を出るのは規則外だが、そっと抜け出せば誰も咎めないだろう。
脱いだ下着をもう一度つけるのは嫌だったので、新しい下着を付け、浴場の電気を消し、部屋に戻る。
鍵、タオル、着替えを持って、寮を出て、目立たぬようにグラウンドの端を進み体育教官室へ向かう。
寮を振り返って見る。
シンとしている。
誰も和彦が外に出たことに気付いてないようだ。
和彦は、安心して暗いグラウンドを進む。
その和彦を見つめる影。
*
・・・読みが当りましたね
・・・近付いてきますよ
囁き声。
・・・しっ、静かにっ、バレる、、
囁き声が消える。
*
影にも囁き声にも気付かず、和彦は体育教官室の扉を開ける。
明かりを点け、着替えをデスクの上におく。
ざっと汗を流すだけのつもりだ。
だから、バスタオルのみを持ちシャワー室に向かう。
シャワー室の手前の椅子にバスタオルを掛ける。
そして、服を脱ぎ、バスタオルの上に重ねていく。
裸になった和彦は、シャワー室の磨りガラスのはめられた扉を開く。
中に入る。
あれ?
こんなに、ここのタイル滑ったっけ?
一瞬足をすべらせ、考える。
誰か掃除でもしたのかな?
嫌みな学年主任に整理整頓を言い渡された時、誰かシャワー室も掃除したんだろうか?
和彦は、考える。
先ほど、シャワー室のタイルの全面にうっすらと石鹸が塗られたことなど知りもしない。
扉を閉める。
体育教官室は体育会出身の教師ばかりが使う。
だから、シャワーを浴びる時に錠をかける習慣はない。
なんなら、扉を開けっぱなしにして、外にいる教師と話をしながらシャワーを浴びる者もいる。
だから和彦は、シャワー室に錠があることさえ忘れていた。
温度調節をする。
いつもは手こずるが、今は時間的に校内で水やお湯を使うものがいないせいか、早く温度調整できた。
ノズルを頭の上に上げ、シャワーに身をさらす。
髪を濡らし、顔に飛沫が降り注ぎ、和彦の筋肉が鎧のように覆う身体をお湯が伝っていく。
気持ちいい。
嫌なことは考えないようにした。
体に残るトレーニングの疲労感をお湯が癒してくれる。
その感覚だけを楽しむ。
*
音もなく体育教官室の扉が開く。
足音を忍ばせ影が室内に入る。
シャワーを使う水音だけがする。
磨りガラスが嵌め込まれたシャワールームの扉。
うっすらと浮かび上がる形良い肉色のシルエットが艶かしく動く。
和彦が扉に背を向け、無防備にシャワーを浴びているのが磨りガラス越しに分かる。
影が音も無く、扉に近付く。
手には、十円玉が握られている。
扉のノブの下の一文字の刻み。
中で急病人が出たときなどに外から錠が開けられるよう錠を操作できる刻み。
その刻みに十円玉が差し込まれ、ゆっくりと捻られる。
錠は音も無く掛った。
そして、影は動く、、、
体育教官室の外、ちょうどシャワー室のある辺りの壁の脇に二つの影が待機していた。
体育教官室から二つの影が出てくる。
手を上げ、合図する。
オーケーか。
それぞれの手が伸びる
手の向かう先は両方、壁の脇に立つパイプに填められたバルブだ。
一つは、今熱湯を沸かしている旧式の給湯器につながっている。
一つは水道だ。
両方、シャワー室の蛇口に繋がっている。
一つが締められ、一つが全開になる。
*
「ギャァッ!あちっ、あっちぃぃぃぃっ!」
和彦がつんざくような悲鳴を上げる。
シャワーのお湯が突然、熱湯に変わったのだ。
シャワー室は狭い。
身を捩ろうとして、足が滑り、和彦は、スッ転ぶ。
背中を強かに壁にぶつけ、そして、尻を床に打ち付ける。
衝撃と激痛が走る。
そこへ容赦なく熱湯が降り注ぐ。
身体中に。
「ウガワァァッ、、、アチィィ~~ッ」
タイルに塗りつけられた石鹸がお湯に軽く泡立つ。
体勢を直そうとするが、ツルツルになったタイルのため、足を滑らし、身体を支えようとした手を滑らし、和彦は、狭いシャワー室で無様な格好を晒し続ける。
その身体に熱湯が降り注ぐ。
クワッ、、、ワギャァ、、、、
和彦の悲鳴が惨めに響く。
ようやく、扉のノブを掴む。
ほぼ四つん這いになったような状態だ。
「ひぃっ・・・キヒィ~~っ!、、、あちぃぃっ・・・」
耐え難い熱湯に、口からは惨めな悲鳴が漏れ続ける。
何故か開かない。
錠が締まっているのに気付かない。
ガチャガチャとノブを動かすが扉は動かない。
熱湯は降り注ぐ。
切り裂かれるような痛みだ。
熱湯の真下に行くのは嫌だったが、仕方ない。
「うぉぉっ、、、グァァァァギャアアアァァ・・・」
気合いの声と悲痛な叫びが混じりあった悲鳴のような声をあげつつ、シャワーのバルブに近付き、捻ろうとする。
バルブは熱湯で持てないほど熱くなっている。
我慢して、必死になり、三度、四度挑戦してようやく、熱湯を止めた。
湯気が熱いが、熱湯は排水溝に消えていく。
力が抜け、へたり込む。
はあっ、、、はあっ、、、
粗い息だ。
締まったシックスパックが激しく上下する。
緊張が途切れたせいか、ジョォッと小便を漏らしてしまった。
ぶっとい逸物から黄色い液体が吹き出し、タイルに広がり尻を塗らす。
だが、それを気にする余裕もない。
身体が動かない。
暫く経ち、ようやく扉の錠に気付き開け、外に出る。
床に転がる。
ひんやりして気持ちがいい。
あぁ、、、ああぁ、、、、
呻き声をあげながら、和彦は、床に横たわる。
指は軽く火傷を負ったのか、痛い。
全身もヒリヒリしている。
しばらく、和彦は動けなかった。
事故だ・・・事故だ・・・
事故が起こったんだ、、、
古い機械だから、おかしくなったんだ・・・・
締まっていた錠、、、
それも、それもきっと無意識に俺がかけたんだ・・・・
人為的にやられたとは思いたくなかった。
そこまで自分が人に恨みを買うとは思いたくなかった。
だが、人為的だということは、容赦なく知らされることになる。
茫然自失の状態で床に横たわり、ようやく、身体を動かせるようになり、身を起こした彼は恐ろしいことに気付く。
「無いッ」
思わず声に出して叫ぶ。
バスタオルが無いっ!
脱ぎ捨てた服も、、、
椅子がポツンと置かれているだけで、その上に確かに置いたはずのバスタオルと衣類がない。
確かに置いたのに。
慌ててデスクの上を見る。
無いっ!
そこに置いた着替えも無くなっている。
慌てて探す。
どこにもない。
鍵も。
タオルも。
着替えも。
なんでっ!?
何でないんだっ!
素っ裸で体育教官室の中を探す。
狭い部屋の中を何度も見回す。
しかし無い物は無い。
自分は、一糸纏わぬ全裸だ。
慌てて身を隠せるものを探すため教官室を見回す。
こんな時に限っていつも乱雑な教官室が綺麗に整頓されていて、机の上に本すら出ていない。
ロッカー、棚には鍵が掛っている。
こ、こんな時に・・・・
あの嫌みな学年主任のせいで行った整頓。
まさか、それが和彦の首を締めることになるとは思っても見なかった。
俺は、素っ裸で寮まで帰らなきゃならないのか・・・
は、恥ずかしい。
これ以上、無様な様を生徒達に晒したくない。
ど、どうしよう、、、
和彦は、必死で考える。
そうだ、内線で寮夫さんに連絡を・・・
ダメだ、寮夫さんは11時半になると内線を切る。
もう十二時を過ぎ掛けている。
それでもと縋る思いで内線をかけたが繋がらない。
寮を見る。
幾つかの部屋に明かりがついている。
いま、素っ裸で寮に戻るのはまずい。
灯りが消えた後、みんなが寝た後、こっそりと寮に帰ろう。
玄関の鍵を掛けず出て良かった。
永遠とも思える時間・・・
しかし、十二時半を過ぎる頃、全ての窓の明かりが消えた。
普段は、一時になっても消灯しない連中だったが、、、
とりあえず、ホッとした。
そっと、辺りを窺い、素っ裸のまま体育教官室を出る。
前部のデカい逸物を両手で隠し、身を屈め、万が一のことを考え、こそこそとフェンス沿いに進む。
何で、何で俺がこんな目に・・・
寮の程近くまで来て、ふと立ち止まる。
このまま端を進んでいくと生徒達の部屋の真横を通る。
誰かに気付かれるかもしれない。
それは嫌だ。
そうだ、ここから、寮の玄関まで、グラウンドを一気に走りぬけよう・・・
それがいい・・・
和彦は、全裸で疾走し出した。
そして、、、、
バッと、ナイター用の照明がグラウンドを照らした。
有り得ないッ・・・
嘘だッ・・・嘘だッ・・・
和彦は思った。
が、現実だ。
グラウンドの中央、全裸で走る和彦の見事な体が照明で浮かび上がった。
ガラッ・・・ガラッ・・・・
寮の明かりがつき、窓の開く音が次々する。
「あれ見てみろよ」
「素っ裸で校庭走ってるぜ」
「みっともねぇ~っ」
「変態だ、変態だ」
「露出狂っ」
「消灯して静かに部屋で待てってメールがきた時にはなんだ?とおもったけど、これかぁ」
和彦は辺りを見回す。
隠れる場所はもちろんない。
教官室は遠い。
フェンスのところに戻っても照明の明かりは届いている。
ど、どうすればいいっ?
パニック状態だ。
ここは、恥を忍んで寮まで走る方が近い。
真っ白になりかけた頭で必死に判断する。
疾走し出した時に離した手を再び股間にあてる。
照明とは異なる閃光。
誰かが写真を撮るためにたいたストロボだろう。
股間に手をあて前屈みに進む。
みっともない姿だ。
「やめろぉっ!見るなっ、頼むッ、見ないでくれぇぇぇっ!、、、頼む、、、たのむぅぅぅっ、、、みないでくれぇぇぇぇぇぇっっ、、、」
股間に手を当てた惨めな体勢。
教師の必死の頼み。
悲痛な叫び声。
誰も聞き入れるわけはない。
逆に煽っただけだ。
「全裸で、走り回ってえらそうに」
「やーい、変態」
「どうせなら、全部見せちまえっ!男らしくない」
「見せろっ、見せろっ、見せろっ」
コールが起こり出した。
その中、ようやく玄関の前につく。
扉は開かない。
ガタガタと動かすが、頑丈な扉はビクともしない。
玄関に生徒がやってくる。
扉は、ほぼ全面強化ガラスの嵌め込みで、中から丸見えだ。
和彦は、片手で股間を隠し、片手で扉をガタガタさせる。
「頼むっ、開けてくれ。お願いだっ。か、か、鍵を、開けてくれっ!」
悲痛な、あまりに悲痛な叫び。
スマホが教師に向けられる。
連写する者、ムービーを撮る者。
「開けてくれぇっ、お願いだぁぁ、、、開けてくれぇぇっ、、、」
必死に懇願する教師を、扉の内側の生徒達は指差して大笑いしている。
混乱する和彦の目に、一階の窓から顔を出している生徒が映る。
そうだっ、、、
窓から入ろうっ、、、
和彦は、身を翻し、空いた窓へ向かう。
窓は、無情にも和彦が近づくとピシャリと閉められた。
隣の窓を見る。
だが、次々に閉められる。
ペコンッ!
2階の窓からペットボトルが投げられ、和彦の脳天に当たる。
ギャハハハハッ
2階、3階の窓から生徒が身をのりだし和彦を指差し、笑う。
「カズ先生ッ」
え?
声の方向を見る。
玄関の扉が開けられ、梶山が顔を覗かせている。
ホッとして和彦は、玄関へ向かい走り出す。
*
「やり過ぎだっ!」
狩人は露骨に嫌な顔をしている。
シナリオが見事に狂った。
「いいじゃん、思いっきりヤツを追い込めたでしょ」
優秀な猟犬の一人、結城がふくれっ面で横を向く。
スマホを片手に教師の姿を撮ろうと玄関に集まった生徒達の後ろに竜之介と結城が立っている。
そして、狩人の優秀な猟犬のもう一人、梶山は、憧れの馬並みを近くでみようと玄関ドアの最前に居る。
狩人の立てたシナリオ、、、
獲物が体育教官室に留まれば、夜中の明かりを不審に思ったというフリをして体育教官室を訪れる。
その後は、体育教官室でそのままヤるのも良し、寮に着替えを取りに戻りそれを着せたうえで寮に戻ってヤるもよし。
獲物が恥を忍んで素っ裸で寮に戻ろうとするなら、その影に気付いたフリでグラウンドで駆け寄り、敢えて羽織っていたジャージを脱ぎ、獲物の肩に掛け、着替えを持ってくるから待っているように言い、その後、寮でヤるようにもっていく。
どちらにしろ、獲物の心はズタズタになり、弱音を吐くだろう。
そこを俺だけは玩具の味方だよと抱きしめる。
夕べ、デカチンをしごいてやったので耐性は付いてきているだろう。
今夜はケツを掘るか、せめて指を入れるレベルまではもっていきたい、、、
が、シナリオは狂った。
主人に内緒で、猟犬が勝手に、寮生に消灯して暫く待つようショートメッセージを送り、グラウンドの照明を点灯した。
素っ裸の獲物が明るく照らされ、生徒達は思わぬ余興のように教師を弄り嘲笑う。
強化ガラス越しの教師の歪んだ惨めな顔。
悲痛な叫びを上げる姿。
その獲物の姿がドアの前から消える。
消えた方向の生徒達の囃し立てる声が大きくなる。
狩人は、他人に自分の獲物を玩具にされるのは許せなかった。
猟犬の一人が扉を開け顔をだし、獲物を呼ぶ。
シナリオに無い行動がまた一つ重なった。
*
「か、梶山っ、すまんっ、、、」
和彦は、ラグビー部の梶山が助けてくれようとしていると信じて走った。
だが、扉に手が届くと思った瞬間、梶山がバタンと扉を閉める。
「か、かじやまぁ~~っ!しめるなぁ、、、しめちゃダメだァっ、、、あけろぉっ~!あけてくれぇぇぇ~~っ!」
和彦が、玄関扉のノブを握りガシャガシャと動かし、もう片方の手で強化ガラスをバンバン叩く。
もう泣き顔だ。
股間の逸物を隠す心の余裕は無くなっている。
「たのむぅぅぅ、たのむよぉっ、、、」
泣き声が虚しく響く。
梶山は、ギラギラした目で教師の馬並みの逸物が、教師の動きに連れ左右にフルフルと揺れるのを見つめている。
「なんだ、なんだ、この騒ぎはっ!」
大声をあげてやって来たのは寮夫さんだ。
明らかに迷惑顔だ。
生徒をかき分け玄関扉に向かう。
扉を開ける。
「いったい、先生、こんな夜更けに素っ裸で何やってるんだね。まったく、生徒と一緒に騒ぐなんて、迷惑にもほどがあるっ」
飛び込んできた和彦に文句を言う。
「すいませんっ、申し訳ありませんっ!」
和彦は、寮夫さんに謝りながら部屋に向かおうとした。
もう一時でも早くこの場を離れたかった。
寮夫さんに尻を向け、部屋の方に走り去ろうとする和彦の腕を寮夫さんが掴む。
「ダメだ、ダメだ。足に土がついてるのに上がっちゃダメだっ!先生っ!何を考えてるんだねっ!まったく素っ裸になるのがそんなに気持ちがいいんかねっ」
生徒達は笑いながら二人の様子を見ている。
「すいません、後で掃除します、、、ちゃんと拭いて綺麗にしますから、今は許してくださいっ」
寮夫さんの腕を振りほどき、群がる生徒達を押しのけ、玄関脇の教師の部屋に飛び込む。
ベッドの上に、下着、Tシャツ、スウェット、バスタオルがキチンと畳まれて置かれていた。
その上に鍵が置いてある。
「うっ・・・うぉっ・・・」
涙があふれ出る。
全裸のまま、ベッドの布団に顔を押し付け、泣き声が漏れないようにする。
哀れな慟哭。
どの位経っただろう。
控えめなノックがする。
聞こえてはいるが、動く気にならない。
和彦は、ベッドに顔を埋め、泣き続ける。
ガチャッ
扉が開く。
そして、素っ裸のまま、ベッドの掛け布団に顔を埋めむせび泣く和彦の脇に人が寄ってくる気配がする。
「カズ先生、、、」
竜之介だ。
和彦の肩に暖かい掌がおかれる。
そして、もう一方の手が和彦の髪をゆっくりと撫でる。
「カズ先生、大丈夫?」
グスッ、、、グスッ、、、
鼻を啜る音。
和彦の頭が少し動く。
竜之介は、鍛えられた巌のような教師の身体の横に座るとそっと抱きしめる。
和彦が顔を上げる。
涙でグシャグシャだ。
「みんな、ヒドイよな、信じられないよ、、、」
「ぉ、、、おれは、、、もうだめだ、、、もうだめ、、、」
か細い泣き声で和彦が言う。
「あんなことがあったら心が折れるよな。でも、信じてくれよ。俺は先生の味方だぜ。俺だけは先生の側にいるから、先生も俺が近くにいるときは、俺のことを頼ってくれっ!」
「り、、、りゅう、、、の、、すけ、、くん、、、」
再び和彦の顔が歪み泣き出す。
その和彦を正面から竜之介が抱く。
和彦は、竜之介の肩に顔を埋め、泣く。
竜之介は、教師を抱く力を強くする。
教師は拒まない。
そして、そのまま、竜之介は、ベッドに横たわるよう教師を誘導し、自分も寄り添って寝る。
教師は泣き止まない。
「カズ先生、俺だけは先生の味方だぜ、、、俺だけを信じてくれよ、、、何かあったら俺が助けてやるよ、、、」
呪文のように和彦の耳に繰り返し囁き続ける。
そして、年長の青年教師は、言われる度にコクンと小さく頷く。
竜之介は、教師を優しく抱き、髪を背中をあやすように撫で続ける。
夜はふけていった。
ガランとした浴場。
素っ裸の和彦は、立ちすくむ。
寮夫さんが間違えてお湯を抜いてしまったのか・・・・
それとも・・・・
生徒達の俺に対する嫌がらせか・・・・
和彦は深く考えたくなかった。
折角の竜之介との楽しい時間が無になっていく。
和彦はフラフラと浴室に足を踏み出す。
トレーニングルームで流した汗が肌にこびりついている。
流したい、、、
そうだ、湯船に浸からなくてもシャワーで洗い流せばいい、、、
お湯がなくてもシャワーを浴びられればいい、、、
お湯が抜かれているなんて大したことじゃない、、、
シャワーノズルを手に取り蛇口レバー圧す。
出ない。
隣の蛇口、その隣、、、
端から端まで、どの蛇口からもお湯はおろか、水も出ない。
元栓が閉められたのか、、、
風呂場の元栓がどこにあるか、和彦は知らない。
そこまでやるのか・・・・
心にぽっかり開いた穴が膨らむ。
だが、シャワーは浴びないと。
汗がこびりついている、、、
汗臭いはずだ、、、
生徒に汗臭いと言われたのを気にしている。
汗を流さなきゃ、、、
昼間に竜之介と行ったプールサイドのシャワー?
だめだ。
鍵は本校舎の教員室にある。
そして、夜10時を過ぎるとセキュリティロックが掛かり、警備会社に連絡しないと教員でも入ることができない。
そうだっ!
体育教官室のシャワーがあるじゃないか。
体育館附属の体育教官室は古く、セキュリティは、本校舎とは違う。
和彦が持っている鍵を使えばこの時間でも入ることが出来る。
あそこで汗を流せばいい。
この時間に寮を出るのは規則外だが、そっと抜け出せば誰も咎めないだろう。
脱いだ下着をもう一度つけるのは嫌だったので、新しい下着を付け、浴場の電気を消し、部屋に戻る。
鍵、タオル、着替えを持って、寮を出て、目立たぬようにグラウンドの端を進み体育教官室へ向かう。
寮を振り返って見る。
シンとしている。
誰も和彦が外に出たことに気付いてないようだ。
和彦は、安心して暗いグラウンドを進む。
その和彦を見つめる影。
*
・・・読みが当りましたね
・・・近付いてきますよ
囁き声。
・・・しっ、静かにっ、バレる、、
囁き声が消える。
*
影にも囁き声にも気付かず、和彦は体育教官室の扉を開ける。
明かりを点け、着替えをデスクの上におく。
ざっと汗を流すだけのつもりだ。
だから、バスタオルのみを持ちシャワー室に向かう。
シャワー室の手前の椅子にバスタオルを掛ける。
そして、服を脱ぎ、バスタオルの上に重ねていく。
裸になった和彦は、シャワー室の磨りガラスのはめられた扉を開く。
中に入る。
あれ?
こんなに、ここのタイル滑ったっけ?
一瞬足をすべらせ、考える。
誰か掃除でもしたのかな?
嫌みな学年主任に整理整頓を言い渡された時、誰かシャワー室も掃除したんだろうか?
和彦は、考える。
先ほど、シャワー室のタイルの全面にうっすらと石鹸が塗られたことなど知りもしない。
扉を閉める。
体育教官室は体育会出身の教師ばかりが使う。
だから、シャワーを浴びる時に錠をかける習慣はない。
なんなら、扉を開けっぱなしにして、外にいる教師と話をしながらシャワーを浴びる者もいる。
だから和彦は、シャワー室に錠があることさえ忘れていた。
温度調節をする。
いつもは手こずるが、今は時間的に校内で水やお湯を使うものがいないせいか、早く温度調整できた。
ノズルを頭の上に上げ、シャワーに身をさらす。
髪を濡らし、顔に飛沫が降り注ぎ、和彦の筋肉が鎧のように覆う身体をお湯が伝っていく。
気持ちいい。
嫌なことは考えないようにした。
体に残るトレーニングの疲労感をお湯が癒してくれる。
その感覚だけを楽しむ。
*
音もなく体育教官室の扉が開く。
足音を忍ばせ影が室内に入る。
シャワーを使う水音だけがする。
磨りガラスが嵌め込まれたシャワールームの扉。
うっすらと浮かび上がる形良い肉色のシルエットが艶かしく動く。
和彦が扉に背を向け、無防備にシャワーを浴びているのが磨りガラス越しに分かる。
影が音も無く、扉に近付く。
手には、十円玉が握られている。
扉のノブの下の一文字の刻み。
中で急病人が出たときなどに外から錠が開けられるよう錠を操作できる刻み。
その刻みに十円玉が差し込まれ、ゆっくりと捻られる。
錠は音も無く掛った。
そして、影は動く、、、
体育教官室の外、ちょうどシャワー室のある辺りの壁の脇に二つの影が待機していた。
体育教官室から二つの影が出てくる。
手を上げ、合図する。
オーケーか。
それぞれの手が伸びる
手の向かう先は両方、壁の脇に立つパイプに填められたバルブだ。
一つは、今熱湯を沸かしている旧式の給湯器につながっている。
一つは水道だ。
両方、シャワー室の蛇口に繋がっている。
一つが締められ、一つが全開になる。
*
「ギャァッ!あちっ、あっちぃぃぃぃっ!」
和彦がつんざくような悲鳴を上げる。
シャワーのお湯が突然、熱湯に変わったのだ。
シャワー室は狭い。
身を捩ろうとして、足が滑り、和彦は、スッ転ぶ。
背中を強かに壁にぶつけ、そして、尻を床に打ち付ける。
衝撃と激痛が走る。
そこへ容赦なく熱湯が降り注ぐ。
身体中に。
「ウガワァァッ、、、アチィィ~~ッ」
タイルに塗りつけられた石鹸がお湯に軽く泡立つ。
体勢を直そうとするが、ツルツルになったタイルのため、足を滑らし、身体を支えようとした手を滑らし、和彦は、狭いシャワー室で無様な格好を晒し続ける。
その身体に熱湯が降り注ぐ。
クワッ、、、ワギャァ、、、、
和彦の悲鳴が惨めに響く。
ようやく、扉のノブを掴む。
ほぼ四つん這いになったような状態だ。
「ひぃっ・・・キヒィ~~っ!、、、あちぃぃっ・・・」
耐え難い熱湯に、口からは惨めな悲鳴が漏れ続ける。
何故か開かない。
錠が締まっているのに気付かない。
ガチャガチャとノブを動かすが扉は動かない。
熱湯は降り注ぐ。
切り裂かれるような痛みだ。
熱湯の真下に行くのは嫌だったが、仕方ない。
「うぉぉっ、、、グァァァァギャアアアァァ・・・」
気合いの声と悲痛な叫びが混じりあった悲鳴のような声をあげつつ、シャワーのバルブに近付き、捻ろうとする。
バルブは熱湯で持てないほど熱くなっている。
我慢して、必死になり、三度、四度挑戦してようやく、熱湯を止めた。
湯気が熱いが、熱湯は排水溝に消えていく。
力が抜け、へたり込む。
はあっ、、、はあっ、、、
粗い息だ。
締まったシックスパックが激しく上下する。
緊張が途切れたせいか、ジョォッと小便を漏らしてしまった。
ぶっとい逸物から黄色い液体が吹き出し、タイルに広がり尻を塗らす。
だが、それを気にする余裕もない。
身体が動かない。
暫く経ち、ようやく扉の錠に気付き開け、外に出る。
床に転がる。
ひんやりして気持ちがいい。
あぁ、、、ああぁ、、、、
呻き声をあげながら、和彦は、床に横たわる。
指は軽く火傷を負ったのか、痛い。
全身もヒリヒリしている。
しばらく、和彦は動けなかった。
事故だ・・・事故だ・・・
事故が起こったんだ、、、
古い機械だから、おかしくなったんだ・・・・
締まっていた錠、、、
それも、それもきっと無意識に俺がかけたんだ・・・・
人為的にやられたとは思いたくなかった。
そこまで自分が人に恨みを買うとは思いたくなかった。
だが、人為的だということは、容赦なく知らされることになる。
茫然自失の状態で床に横たわり、ようやく、身体を動かせるようになり、身を起こした彼は恐ろしいことに気付く。
「無いッ」
思わず声に出して叫ぶ。
バスタオルが無いっ!
脱ぎ捨てた服も、、、
椅子がポツンと置かれているだけで、その上に確かに置いたはずのバスタオルと衣類がない。
確かに置いたのに。
慌ててデスクの上を見る。
無いっ!
そこに置いた着替えも無くなっている。
慌てて探す。
どこにもない。
鍵も。
タオルも。
着替えも。
なんでっ!?
何でないんだっ!
素っ裸で体育教官室の中を探す。
狭い部屋の中を何度も見回す。
しかし無い物は無い。
自分は、一糸纏わぬ全裸だ。
慌てて身を隠せるものを探すため教官室を見回す。
こんな時に限っていつも乱雑な教官室が綺麗に整頓されていて、机の上に本すら出ていない。
ロッカー、棚には鍵が掛っている。
こ、こんな時に・・・・
あの嫌みな学年主任のせいで行った整頓。
まさか、それが和彦の首を締めることになるとは思っても見なかった。
俺は、素っ裸で寮まで帰らなきゃならないのか・・・
は、恥ずかしい。
これ以上、無様な様を生徒達に晒したくない。
ど、どうしよう、、、
和彦は、必死で考える。
そうだ、内線で寮夫さんに連絡を・・・
ダメだ、寮夫さんは11時半になると内線を切る。
もう十二時を過ぎ掛けている。
それでもと縋る思いで内線をかけたが繋がらない。
寮を見る。
幾つかの部屋に明かりがついている。
いま、素っ裸で寮に戻るのはまずい。
灯りが消えた後、みんなが寝た後、こっそりと寮に帰ろう。
玄関の鍵を掛けず出て良かった。
永遠とも思える時間・・・
しかし、十二時半を過ぎる頃、全ての窓の明かりが消えた。
普段は、一時になっても消灯しない連中だったが、、、
とりあえず、ホッとした。
そっと、辺りを窺い、素っ裸のまま体育教官室を出る。
前部のデカい逸物を両手で隠し、身を屈め、万が一のことを考え、こそこそとフェンス沿いに進む。
何で、何で俺がこんな目に・・・
寮の程近くまで来て、ふと立ち止まる。
このまま端を進んでいくと生徒達の部屋の真横を通る。
誰かに気付かれるかもしれない。
それは嫌だ。
そうだ、ここから、寮の玄関まで、グラウンドを一気に走りぬけよう・・・
それがいい・・・
和彦は、全裸で疾走し出した。
そして、、、、
バッと、ナイター用の照明がグラウンドを照らした。
有り得ないッ・・・
嘘だッ・・・嘘だッ・・・
和彦は思った。
が、現実だ。
グラウンドの中央、全裸で走る和彦の見事な体が照明で浮かび上がった。
ガラッ・・・ガラッ・・・・
寮の明かりがつき、窓の開く音が次々する。
「あれ見てみろよ」
「素っ裸で校庭走ってるぜ」
「みっともねぇ~っ」
「変態だ、変態だ」
「露出狂っ」
「消灯して静かに部屋で待てってメールがきた時にはなんだ?とおもったけど、これかぁ」
和彦は辺りを見回す。
隠れる場所はもちろんない。
教官室は遠い。
フェンスのところに戻っても照明の明かりは届いている。
ど、どうすればいいっ?
パニック状態だ。
ここは、恥を忍んで寮まで走る方が近い。
真っ白になりかけた頭で必死に判断する。
疾走し出した時に離した手を再び股間にあてる。
照明とは異なる閃光。
誰かが写真を撮るためにたいたストロボだろう。
股間に手をあて前屈みに進む。
みっともない姿だ。
「やめろぉっ!見るなっ、頼むッ、見ないでくれぇぇぇっ!、、、頼む、、、たのむぅぅぅっ、、、みないでくれぇぇぇぇぇぇっっ、、、」
股間に手を当てた惨めな体勢。
教師の必死の頼み。
悲痛な叫び声。
誰も聞き入れるわけはない。
逆に煽っただけだ。
「全裸で、走り回ってえらそうに」
「やーい、変態」
「どうせなら、全部見せちまえっ!男らしくない」
「見せろっ、見せろっ、見せろっ」
コールが起こり出した。
その中、ようやく玄関の前につく。
扉は開かない。
ガタガタと動かすが、頑丈な扉はビクともしない。
玄関に生徒がやってくる。
扉は、ほぼ全面強化ガラスの嵌め込みで、中から丸見えだ。
和彦は、片手で股間を隠し、片手で扉をガタガタさせる。
「頼むっ、開けてくれ。お願いだっ。か、か、鍵を、開けてくれっ!」
悲痛な、あまりに悲痛な叫び。
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連写する者、ムービーを撮る者。
「開けてくれぇっ、お願いだぁぁ、、、開けてくれぇぇっ、、、」
必死に懇願する教師を、扉の内側の生徒達は指差して大笑いしている。
混乱する和彦の目に、一階の窓から顔を出している生徒が映る。
そうだっ、、、
窓から入ろうっ、、、
和彦は、身を翻し、空いた窓へ向かう。
窓は、無情にも和彦が近づくとピシャリと閉められた。
隣の窓を見る。
だが、次々に閉められる。
ペコンッ!
2階の窓からペットボトルが投げられ、和彦の脳天に当たる。
ギャハハハハッ
2階、3階の窓から生徒が身をのりだし和彦を指差し、笑う。
「カズ先生ッ」
え?
声の方向を見る。
玄関の扉が開けられ、梶山が顔を覗かせている。
ホッとして和彦は、玄関へ向かい走り出す。
*
「やり過ぎだっ!」
狩人は露骨に嫌な顔をしている。
シナリオが見事に狂った。
「いいじゃん、思いっきりヤツを追い込めたでしょ」
優秀な猟犬の一人、結城がふくれっ面で横を向く。
スマホを片手に教師の姿を撮ろうと玄関に集まった生徒達の後ろに竜之介と結城が立っている。
そして、狩人の優秀な猟犬のもう一人、梶山は、憧れの馬並みを近くでみようと玄関ドアの最前に居る。
狩人の立てたシナリオ、、、
獲物が体育教官室に留まれば、夜中の明かりを不審に思ったというフリをして体育教官室を訪れる。
その後は、体育教官室でそのままヤるのも良し、寮に着替えを取りに戻りそれを着せたうえで寮に戻ってヤるもよし。
獲物が恥を忍んで素っ裸で寮に戻ろうとするなら、その影に気付いたフリでグラウンドで駆け寄り、敢えて羽織っていたジャージを脱ぎ、獲物の肩に掛け、着替えを持ってくるから待っているように言い、その後、寮でヤるようにもっていく。
どちらにしろ、獲物の心はズタズタになり、弱音を吐くだろう。
そこを俺だけは玩具の味方だよと抱きしめる。
夕べ、デカチンをしごいてやったので耐性は付いてきているだろう。
今夜はケツを掘るか、せめて指を入れるレベルまではもっていきたい、、、
が、シナリオは狂った。
主人に内緒で、猟犬が勝手に、寮生に消灯して暫く待つようショートメッセージを送り、グラウンドの照明を点灯した。
素っ裸の獲物が明るく照らされ、生徒達は思わぬ余興のように教師を弄り嘲笑う。
強化ガラス越しの教師の歪んだ惨めな顔。
悲痛な叫びを上げる姿。
その獲物の姿がドアの前から消える。
消えた方向の生徒達の囃し立てる声が大きくなる。
狩人は、他人に自分の獲物を玩具にされるのは許せなかった。
猟犬の一人が扉を開け顔をだし、獲物を呼ぶ。
シナリオに無い行動がまた一つ重なった。
*
「か、梶山っ、すまんっ、、、」
和彦は、ラグビー部の梶山が助けてくれようとしていると信じて走った。
だが、扉に手が届くと思った瞬間、梶山がバタンと扉を閉める。
「か、かじやまぁ~~っ!しめるなぁ、、、しめちゃダメだァっ、、、あけろぉっ~!あけてくれぇぇぇ~~っ!」
和彦が、玄関扉のノブを握りガシャガシャと動かし、もう片方の手で強化ガラスをバンバン叩く。
もう泣き顔だ。
股間の逸物を隠す心の余裕は無くなっている。
「たのむぅぅぅ、たのむよぉっ、、、」
泣き声が虚しく響く。
梶山は、ギラギラした目で教師の馬並みの逸物が、教師の動きに連れ左右にフルフルと揺れるのを見つめている。
「なんだ、なんだ、この騒ぎはっ!」
大声をあげてやって来たのは寮夫さんだ。
明らかに迷惑顔だ。
生徒をかき分け玄関扉に向かう。
扉を開ける。
「いったい、先生、こんな夜更けに素っ裸で何やってるんだね。まったく、生徒と一緒に騒ぐなんて、迷惑にもほどがあるっ」
飛び込んできた和彦に文句を言う。
「すいませんっ、申し訳ありませんっ!」
和彦は、寮夫さんに謝りながら部屋に向かおうとした。
もう一時でも早くこの場を離れたかった。
寮夫さんに尻を向け、部屋の方に走り去ろうとする和彦の腕を寮夫さんが掴む。
「ダメだ、ダメだ。足に土がついてるのに上がっちゃダメだっ!先生っ!何を考えてるんだねっ!まったく素っ裸になるのがそんなに気持ちがいいんかねっ」
生徒達は笑いながら二人の様子を見ている。
「すいません、後で掃除します、、、ちゃんと拭いて綺麗にしますから、今は許してくださいっ」
寮夫さんの腕を振りほどき、群がる生徒達を押しのけ、玄関脇の教師の部屋に飛び込む。
ベッドの上に、下着、Tシャツ、スウェット、バスタオルがキチンと畳まれて置かれていた。
その上に鍵が置いてある。
「うっ・・・うぉっ・・・」
涙があふれ出る。
全裸のまま、ベッドの布団に顔を押し付け、泣き声が漏れないようにする。
哀れな慟哭。
どの位経っただろう。
控えめなノックがする。
聞こえてはいるが、動く気にならない。
和彦は、ベッドに顔を埋め、泣き続ける。
ガチャッ
扉が開く。
そして、素っ裸のまま、ベッドの掛け布団に顔を埋めむせび泣く和彦の脇に人が寄ってくる気配がする。
「カズ先生、、、」
竜之介だ。
和彦の肩に暖かい掌がおかれる。
そして、もう一方の手が和彦の髪をゆっくりと撫でる。
「カズ先生、大丈夫?」
グスッ、、、グスッ、、、
鼻を啜る音。
和彦の頭が少し動く。
竜之介は、鍛えられた巌のような教師の身体の横に座るとそっと抱きしめる。
和彦が顔を上げる。
涙でグシャグシャだ。
「みんな、ヒドイよな、信じられないよ、、、」
「ぉ、、、おれは、、、もうだめだ、、、もうだめ、、、」
か細い泣き声で和彦が言う。
「あんなことがあったら心が折れるよな。でも、信じてくれよ。俺は先生の味方だぜ。俺だけは先生の側にいるから、先生も俺が近くにいるときは、俺のことを頼ってくれっ!」
「り、、、りゅう、、、の、、すけ、、くん、、、」
再び和彦の顔が歪み泣き出す。
その和彦を正面から竜之介が抱く。
和彦は、竜之介の肩に顔を埋め、泣く。
竜之介は、教師を抱く力を強くする。
教師は拒まない。
そして、そのまま、竜之介は、ベッドに横たわるよう教師を誘導し、自分も寄り添って寝る。
教師は泣き止まない。
「カズ先生、俺だけは先生の味方だぜ、、、俺だけを信じてくれよ、、、何かあったら俺が助けてやるよ、、、」
呪文のように和彦の耳に繰り返し囁き続ける。
そして、年長の青年教師は、言われる度にコクンと小さく頷く。
竜之介は、教師を優しく抱き、髪を背中をあやすように撫で続ける。
夜はふけていった。
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