上 下
25 / 33

プールの一時

しおりを挟む
「先生、何つっ立ってるの。早く始めよう」

物影から現れたのは、竜之介だ。

タオルやジャージで隠さず、もう水着一枚だ。

まぶしい体だ。

少年の滑らかな肌に、大人の男を予感させる筋肉。

しなやかに伸びた長い手足。

購買部で売っている白のスクール水着だったが、それが爽やかさを増している。

「あれ?先生、俺とお揃いの競パンじゃん。せっかくのプールだぜ。早く入ろう」

現れたのは、彼だけだ。

生徒の方に近付く。

「他のみんなはどうした?」

喉がカラカラになり、かすれ声で言う。

「えっ・・・えっと・・・みんな体調悪いらしい。集団風邪かな。ヤワだよね。でも、俺だけ風邪じゃないのも嫌だな。馬鹿は風邪ひかないって言うじゃない」

和彦は、鉛を飲みこんだような重い気持ちになっていた。

やはりボイコットか。

竜之介は、明るくごまかそうとしているが、3年生が集団でボイコットしたのは間違い無い。

教師の変更は、2限目の休み時間、アナウンスで生徒に知らされている。

俺だから、ボイコットしたのか。

そんなに俺は、信頼されていないのか。

和彦は全身の力が抜けていくような気がした。

「カズ先生、何、暗い顔してんだよ。このプールを二人で使えるんだぜ。さっさとジャージなんか脱いで泳ごうよ。カズ先生は真面目だから、準備体操した後じゃなきょプールに入っちゃダメって言うんだろ」

「もちろんだ。準備体操は必要だ」

「さっさとやっちゃおう」

完全に生徒のペースだ。

ジャージを脱ぎ、スクール水着一枚になった和彦は、生徒と準備体操を始めた。

二人一組で行う屈伸運動の時。

プールサイドに尻をつけ、大股を広げた教師。

その背中を押す竜之介。

器械体操の選手だった和彦の体は柔らかい。

あっさりと上半身がプールサイドにつく。

「スゲッ、柔らかい身体。鍛えられてるからもっと硬いのかと思った。これはどうだっ」

竜之介は教師の背中に覆い被さり、全体重をかける。

教師は余裕だ。

「ほんとにすごいよ。筋肉モリモリなのに、柔らかい体。鍛えてるんだね。脚はどのくらい開くの?」

誉められて、悪い気はしない。 

和彦は、グイッと開脚してみせる。

ほぼ、直線にまで開かれた両脚。

太く、筋肉が浮き上がっている。

スクール水着一枚。

さらに人並み以上の逸物がようやく収まっており、前部がモッコリと小山を作っている。

自分がどんなに、肉感的、挑発的ポーズをとっているかに和彦は、気付いていない。

生徒は、賞賛の声を上げ教師の前にしゃがむ。

両脚を閉じているのは、軽く反応しかけた股間を隠すためだ。

ニヤッとイタズラっ子のような笑みを浮かべ言う。

「先生、急いで無駄毛の処理したでしょ」

「えっ?」

「剃り残しがチョロチョロしているよ」

はっと股間を見る。

丁寧に剃ったつもりだったが、確かに剃り残しの黒い縮れ毛が、スクール水着の脇に何本も残っている。

カァッと和彦の頬が染まる。

生徒の手が伸び、そのうちの一本を引き抜いた。

「イテっ」

敏感な部分だ。

「こ、こらっ」 

「ははは」

生徒は、クルッと身を翻し、プールへ走る。

そのまま、両手を上げ、高くジャンプすると足から飛びこんだ。

和彦は不思議な感じを味わっていた。

プールサイドから飛び上がった竜之介の後ろ姿。

弓道部の主将らしく発達した肩から背中にかけての筋肉の躍動感。

白いスクール水着に割れ目が浮き出た尻。

はみ出した部分が、プリプリしていた。

みずみずしい果実のよう。

和彦の脳裏に、竜之介の後ろ姿の残像が焼きつく。

「先生も、早くっ!」

プールの中から手を振っている。

太陽の光を浴び、若さの象徴のようだ。

やべぇ、チンチンがおっ立ちかけたのがばれるところだったぜ。

あんな、エロい格好をあっさり見せるとは思わなかった。

和彦が代講をするアナウンスを聞いて、みんなをボイコットさせるよう仕向けるのは、大変だったけどその甲斐はあった。

生徒に続き、プールへの飛びこみを決めた教師は、爽やかな笑顔の下で彼がそんなことを考えているなど、微塵も想像しなかった。

その時間は、罠にはまり掛けた教師にとってつかの間の憩いだった。

竜之介の笑顔や無邪気な降るまいに、ボイコットをされたことや生徒に距離を置かれていることを忘れ、久々に心からの笑顔を浮かべることが出来た。

クロールの速さ、素もぐりの長さを競い合い。

男盛りを向かえようとしている和彦の大人の身体と、大人の成熟へと向かいかけている竜之介の若くしなやかな身体がプールの透明でキラキラ光る水の中、時に激しい水しぶきを上げながら絡み、離れ、また、近づく。

時折、生徒が子供のように悪さをしかける。

背後から飛びついたり、潜って和彦の両脚の間を無理矢理すり抜けようとしたり。

「おいおい、やめてくれよぉ、、、」

大仰に驚いて見せながら、高三と言ってもまだまだ無邪気だと和彦は思う。

イタズラに見せかけて、水着に隠されたイチモツの太さや尻の感触を楽しまれ、胸筋、腹筋、背筋の鍛え具合を確認されていたなど思いもしなかった。



狩人は、1日も早く決着をつける決心を固めた。

もう待てない。

堪らない。

狩人の手に残る和彦の体の様々な部分の感触。

それを思い出すだけで、狩人はおかしくなりそうだった。

執念に燃え上がった。

そして、様々な画策を始めた。

その午後から、和彦の授業のボイコットが増えた。

さすがに全員と言うことは無かったが。

翌日のプールの時間など、和彦が来る前からプールに入り、何を言っても聞かず、時間がきたら教師に目もくれず上がっていった。

完全な無視だ。

食堂でも、食事中だと言うのに和彦が近くに座ると、わざわざ席を立ち、離れた席に移動されたりもした。

“なんか、汗臭くね?”

“オッサン臭だろ”

そんなことを聞こえよがしに言われる。

平気な顔をして食事をしたが、全く味がしなかった。

孤独を感じた。

辛かった。

ついつい、竜之介の姿を探すようになった。

彼だけが和彦に優しく接してくれた。

しかし、求めるときには姿が見えず、思わぬ時に姿を現した。

狩人のテクニック。

高校生とは思えぬしたたかさだった。

獲物は、確実に射程圏に入ってきていた。

一方で、狩っているはずの竜之介も、スマホで和彦の姿を追い、その挙動で次に取るべき自分の行動を考え続けることで、和彦の存在に心を囚われ始めていることに気付いていなかった。

狩られる教師と狩る生徒。

2人は目に見えぬロープで互いに縛り合う状況に陥っていた。

そして、泊まり込みが始まり、数日後の土曜日。

校舎から寮に帰ってきた和彦のもとに、寮夫さんが近づいてきた。

そして、言いづらそうに、目をそらしながら頼みがあると言った。

和彦は、その依頼に、脳天を殴られたようなショックを受けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍神様の供物

BL
12年に一度の祭り。 一人の若者が供物として捧げられる。 一週間の精進の後、白木の台に十字に縛られ、竜神様を待つ。 大晦日の夜、浜辺で本当の祭りが始まる。

体育教師の躾と訓練

BL
『聖域で狩られた教師』の後日談です。 体育教師の和彦がゆるゆると調教されていきます。 また、後に絡んでくる『聖職より堕ちた教師』の純一のエピソードも挟んでいきます。 こちらは、後日談ではなく、本編で描けなかった生徒の浜田(猛者)へ、教師の純一が恭順していく過程となります。 “lesson1”、“裸祭りの夜”は時系列的には“聖職より~”で書いた“柔道場”と“夏の風景”の間となります。 “lesson1”は、一学期の学年末、純一はまだ浜田に従属しきっておらず、褌もまだ強要されていない頃。 (和彦のパートでいうと“校長室”の少し後) “裸祭りの夜”は、“夏の風景”の直前であり、純一の陰毛も、まだちゃんと生え揃っている頃です。 “猛者流の躾け”は、“夏の風景 6 ラクガキを落とす朝 SIDE:純一”中盤以降を生徒側(一部純一側)から描いてます。 ついでに、これから書く予定の小説で、純一をキッカケに浜田、栗山に目をつけられて、色々と大変な目に合うことになる本城、佐伯の水泳部OBの紹介用プロローグ代わりのエピソードも入れました。 この後も二人のエピソードを書かせていく予定ですが、特に純一パートでどのエピソードを書くか迷いつつ更新しているため、混乱を防ぐため、ここに時系列を備忘録として書かせていただきます。

会員制ガレージ

カタナカナタ
BL
若い自動車修理工がトラック運転手と深い関係に。その先にあったのは「会員制ガレージ」だった。

プロレスラーの副業

熊次郎
BL
178/93のプロレスラー上村は、24歳のデビュー戦では格上の相手を倒したが、その後、全く勝てない。上村に団体の代表は依頼をした。世話になっている団体の為にも、上村は従う決意をする。

聖職より堕ちた教師 純一の場合

BL
教師×生徒 爽やかな青年体育教師に憧れる純真なサッカー部の少年、水島。 心の葛藤を押さえて生きてきた実直で恵まれた体躯を持つ青年体育教師、来生純一。 切れやすく猛者と呼ばれる札付き高校生、格闘技に長けた浜田。 そのツレである細身の学生ボクサー、言葉数の少ない菊池。 下級生の体操選手でBボーイ、愛くるしい顔と筋肉質の身体を持つ栗山。 少年が持つ教師への憧れは無惨にも切り裂かれ、己を律して生きてきた真面目な教師は、本来自分が教え導くべき生徒から快楽の歓びを教えられ、その逆転した立場に思い悩む。 拒もうとするも一度快楽を知ってしまった青年教師の若く鍛えられた美しい肉体はすぐ燃えさかり、筋肉は軋む音を立て、顔を恥辱に歪めながら、教師が必死で押さえ込もうとするも漏れ出てしまう身体の歓びの喘ぎは、時に野太い悲鳴に似た雄叫びに変わり、校内に響く。 一夜の物語とそれぞれの過去の物語が交錯する。 ※本作に盛り込めなかった部分、町田議員、河村秘書と来生純一のエピソードは、スピンオフの方に書かせていただいています。 ※拙い出来ですが、完結しました。 読み直すと誤字、脱字、説明不足などが出てきて、適宜、修正・加筆を行わせていただいてます。

プライド

東雲 乱丸
BL
「俺は屈しない! 」男子高校生が身体とプライドを蹂躙され調教されていく… ある日突然直之は男達に拉致され、強制的に肉体を弄ばれてしまう。 監禁されレイプによる肉体的苦痛と精神的陵辱を受ける続ける直之。 「ヤメてくれー! 」そう叫びながら必死に抵抗するも、肉体と精神の自由を奪われ、徐々に快楽に身を委ねてしまう。そして遂に―― この小説はR-18です。 18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします。 エロのみのポルノ作品です。 過激な生掘り中出しシーン等を含む暴力的な性表現がありますのでご注意下さい。 詳しくはタグを確認頂き、苦手要素が含まれる方はお避け下さい。 この小説はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 また皆様に於かれましては、性感染症防止の観点からもコンドームを着用し、セーファーセックスを心掛けましょう。

働く男〜中年男のセクハラ〜

熊次郎
BL
俺は工藤。173/78/38。 若くして有名企業の課長に選抜されたエリート。ジムに通っててそこそこ鍛えてる。ゲイには正直モテる。でも俺の好みはノンケぽい雄。働き盛りのアラサーの臭いマラは大好物。ノンケ食いは昔からやっていたが最近食える機会が増えた。同意があればハラスメントではない。

DARK V.I.P ROOM~聖職より堕ちた体育教師純一(初期試作バージョン)

BL
拙著『聖職より堕ちた教師ー純一の場合』の最初に書きかけたバージョンです。 何度か書き直した最終版が、こちらに掲載させていただいたものとなります。 誤って消去してしまったと思っていたファイルが見つかり、懐かしくなり、ここで紹介させていただこうと思いました。 導入部の流れはほぼ同じですが、その後の純一が浜田達に凌辱される辺りからが全く違う展開となり、教師を慕う水島くんが、サッカー部主将として後半で本編とは全く違う登場をします。 part1は、本編とほぼ同じ流れで、校外に場面を移すpart2が異なる展開(生徒が教師を堕とすという点では全く同じですが、、、)となります。

処理中です...