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保健室

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ンッ、、、ンンッ、、

気付け薬か?

強い異臭に、和彦は意識を取り戻した。

一瞬、自分がどこにいるか分からない。

白い清潔感のある天井。

横たわっている。

目の前にガーゼを持った保健の先生。

その後ろに生徒会長と学年主任が立っている。

学年主任は、和彦を睨みつけている。

ここはっ?

「極度の緊張から、気を失ったんですよ。疲れもあるでしょう。しばらく休めば元通りになります」

初老の保険の先生は、和彦の目を見ずに言い、薬の染みたガーゼを捨てるためベットを離れた。

「ちょっと、席を外してもらえますか」

有無を言わさぬ口調に、保険の先生と藤崎は保健室を出て行った。

藤崎は出て行きがけら心配そうに和彦を見た。

和彦はそれが嬉しかった。

保健室の扉が閉まった。

閉ざされた空間に残されたのは、精神的にボロボロになった和彦と彼に敵意を持つ学年主任。

「杉山先生、体育の教師であるなら、体調管理は、しっかりしていただかないと、、、体育の授業で、集まった生徒達が杉山先生が授業に来ないとクレームを言ってきました。気分を悪くしたなら、早めに言っていただかないと、、、」

あぁ、、、ホームルーム後の授業、、、俺は、すっぽかしてしまったんだ、、、

和彦の血の気が引く。

「ところで、ホームルームはうまくいったのですか?」

和彦は、胃がグイッと掴まれたような感覚に教われる。

そうだ、、、ホームルーム、、、

生徒の手でブリーフを引きちぎられ、全裸をさらし、、、

フラッシュバックのようにその時の屈辱、悔しさ、怒りが甦る。

顔を固まらせ黙り込んだ和彦を見下ろし、学年主任が続けた。

「まぁ、いいでしょう。あなたがしっかり指導をしたかどうかは、クラス委員の結城くんに聞けばいい」

そう言うと、学年主任は背を向けて保健室を出ていった。

う、うぅ、、、

和彦はベッドの上で顔を覆う。

なんで、、、なんで、俺がこんな目に、、、

羞恥と屈辱に身を捩る。

ズキンッ

尻の穴に痛みが走る。

ボールペンを突っ込まれた時に傷ついたのだろう。

こんな屈辱は今までに味わったことがない。

な、なんで、、、

和彦を取り囲んだ時の生徒達の目、、、

ギラギラと獲物を見るような目付き。

教師への信頼や尊敬は微塵もなかった。

俺は、何を間違えたんだ?

和彦は煩悶する。

和彦の凛々しい顔立ち、鍛え抜かれた大人の肉体、そして、その身体を形ばかりに覆う紫のエロビキニ、、、それらが生徒達の嗜虐心をそそり、和彦への凶行に及ばせたことには気付いていない。

自分の落ち度が彼らをそうさせたのだと信じている。

俺は、どうすればよかったんだ、、、

その時、静かに保健室の扉が開いた。

校長が入ってくる。

「杉山先生、お身体は大丈夫ですか?あ、起きないで、寝たままでいいですよ」

身を起こそうとする和彦に校長は言う。

和彦の方の辺りに大きな掌を置き、そっと押して和彦を仰向けに戻す。

そして、ベッドの脇に置かれた椅子に座り、穏やかな顔を和彦に向ける。

「無理しないで下さい。土日も出勤して生徒達に向かおうとしていたのは知っています。杉山先生の情熱には頭が下がります。疲れがたまっていたんでしょう。休む時には、ちゃんと休まないと」

低音の優しい声。

和彦の頬を涙が伝う。

「じ、、、自分が情けないです。教師、失格です、、、」

涙声だ。

「杉山先生、自分が完璧だと思っている人はそれ以上、進歩しません。失格と思えば、合格を目指せばいいんですよ」

校長の優しい言葉が和彦の胸に染みていく。

涙が止まらない。

校長は、そっと和彦の手を握った。

その温もりが和彦を癒すようだった。

暫くの間、無言の時間が続いた。

コンコン、、、

保健室の扉がノックされ、「失礼します」と言いながら、藤崎が入ってきた。

「藤崎くん、ちょっと待ってくれ」

校長が藤崎を止め、和彦にハンカチを差し出した。

和彦は涙に濡れた顔を拭き、必死で涙を止める。

「藤崎くんも杉山先生が心配で来てくれたのか?」

「えぇ、少しホームルームで行き違いがあったようなので、その話をしに来ました」

「そうか、、、私は席をはずした方がいいかな?オジさんが居るより若い者同士で話した方がいいだろう」

そう言うと、校長は立ち上がり、座っていた椅子に腰かけるよう藤崎を促し、保健室を出ていった。

「先生、落ち着きましたか?」

「すまん。君が僕を運んでくれたのか?」

「えぇ、先生をお姫様抱っこさせてもらいました」

「え?」

「先生、鍛えてますよね。思ってたより重かったですよ」

和彦はベッドから長身の生徒を見上げる。

さらっと垂らした前髪。

優しく甘い顔立ち。

先ほど、2年を一括した時の鋭く厳しい表情はない。

クラスの生徒達が実験室に向かった後、よろめく和彦を支えたときの力強い腕。

和彦は思い出す。

そして、藤崎が近くに居ることに安心感を抱いている自分に気付く。

「先生、これ」

藤崎が紙を取りだし、和彦に見せる。

それには“反省文”とある。

「今、クラス委員の結城と話してきました。結城もやり過ぎたと反省してました。だから、反省文を書かせたんですよ」

そこには、

調子にのって教師をからかってしまったこと、

思わない方向に進み教師に狼藉を働いたことは本意ではなかったこと、

今後はこのようなことはしないと誓うこと、

教師には本当に申し訳ないと思い反省していること、

あのホームルームでの出来事は他言しないこと、

順番に丁寧に書かれている。

続く2枚目にはクラス全員の署名がある。

「彼らも反省しています。先生の腹立ちは分かりますが、この反省文で納めていただけませんか?」

和彦は、その紙をじっと見る。

「彼らが先生にやったことは退学ものです。けれど、そうなると彼らの将来はメチャクチャになってしまうでしょう。だから、杉山先生の温情に縋るしかないんです。先生の怒りは分かりますが、この僕に免じて彼らを許していただけないでしょうか」

誠実な藤崎の声。

和彦は、自分が狼藉を加えてきた生徒達をどう思っているのかが分からなくなる。

まだ、頭が混乱していて考えが定まらない。

しかし、藤崎が、許せと言っている。

俺は、大人だ、、、大人の教師だ、、、心の広いところを見せなければ、、、

「分かったよ。彼らも調子にのってしまったんだろう。許すよ」

藤崎の顔がパッと明るくなる。

「良かった。実は、生徒達を外に待たせてあるんです」

え?

「先生に謝りたいって。入れていいですか?」

今は生徒達に会いたくはないと言うのが本音だった。

が、ここで断るのも教師として、失格だろう。

「会おう」

藤崎がさっと扉を開ける。

結城を先頭にぞろぞろと狭い保健室に入ってくる。

和彦は半身を起す。

「それじゃ、並んでっ!3人ずつ、先生に謝れっ」

結城が先頭の列で言う。

「杉山先生、僕たちが間違っていました。本当に申し訳ありませんっ」

そして、両側の生徒と頭を下げる。

次の列と入れ替わる。

クラスの全員が頭を下げた。

整列する生徒に向かい和彦は言った。

「お前達の気持ちは受け取った。今日のことは水に流そう。未熟な俺も悪かった。これからは、お互いに切磋琢磨していこう」

生徒達は、最後に一礼して出ていった。















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