聖域で狩られた教師 和彦の場合

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教員会議

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「杉山先生、元気がないようですが、大丈夫ですか?」

校長の言葉に、和彦はビクンと反応する。

教員会議の席。

周りの教師達の視線が和彦に集まる。

和彦は緊張する。

“確かに、若いのに覇気がないなぁ、、、”

“元気な取り柄の体育教師なのにねぇ”

“夜遊びでもしてるんじゃないか?”

こそこそと声がする。

ウグッ、、、

和彦は吐き気に襲われる。

あの日から、歯車が狂い始めた。

ガラガラと軋む音を立てて、、、

これまでの和彦からは想像も出来ない暗い表情を浮かべる日々。

腹が重く、急に吐き気に襲われる。

今も無理やり作り笑顔を浮かべて校長に“大丈夫です”と答えるが、元気がないのは明らかだ。

食欲が無く、眠れない日々。

頬がこけ、やつれ始めている。

しかし、元々、鍛えられた肉体だ。

そして、気晴らしのために、時間が空くと筋トレを行っている。

身体を動かしていないと、クヨクヨと思い悩んでしまうため、沈む心を奮い立たせ身体を動かしているのだ。

そのため、贅肉は落ちてきているが、筋肉は保たれ、引き締まった体つきとなっている。

が、その肉体とは裏腹に、表情は重い。

学内で勃起をしてしまうという失態、さらに、正体不明の差出人から届いた和彦の恥ずかしい画像。

誰が盗撮したのか、そして、なぜ送りつけてきたのか。

正体が分からない。

その後、何も送られてこない。

その送り主から、なにか要求されるのか、糾弾されるのか、脅されるのかとビクビクしながら、毎日を過ごしている。

この学園の教師用に設定されたアドレスに送られてきたということは、学内の誰かだ。

教師になりたての彼は、まだ学外の人達にアドレス入りの名刺は配っていない。

アドレスは、迷惑メール、イタズラメール防止のため、名字にランダムな数値を加えたものとなっている。

あてずっぽで送れるものではない。

間違いなく、学内の誰かだ。

和彦のジャージ姿、全裸の勃起姿を写した画像だ。

恥ずかしくて、誰にも相談しようがない。

学内の誰が送ったのか、、、

教員室、廊下、グラウンド、体育館、、、

校内で誰かとすれ違う度に、この中の誰かが盗撮犯、正体不明の送り主ではないかと疑心暗鬼になってしまう。

そして、自分では隠しおおせたと思っていた盛り上がったジャージ姿の画像。

横から見れば、ジャージの下で股間が勃起していることが分かってしまったということだ。

体育館にいた生徒に見られてしまったのではないか、、、

不安だ。

もしかして、生徒の間で、和彦が授業中に勃起していたと噂になっているのではないか。。。

疑念が沸いてくる。

だが、生徒達に何か見たか?何か俺の噂を聞いたか?と尋ねて回る訳にもいかない。

自分自身でも、同僚や生徒に、以前のような快活で裏表の無い態度で接することが出来なくなっているのが分かる。

そんな自分の精神状態がまずいということも分かっている。

沈んだ和彦の様子を気にかけて校長は、よく声をかけ、励ましてくれる。

それを面白く思っていない学年主任の白川がネチネチと小言を言ってくる。

そして、他の教師達に、“杉山先生は校長のお気に入りだから、、、”と、和彦が校長に媚を売って取り入っているように言う。

そして、和彦の不覚。

何事にも全力で取り組み、生徒達と積極的に接し、時に当番ではないのに生徒達と寮でコミュニケーションを取り、その流れで寮に泊まることもある和彦の熱血ぶりを、やる気の無い同僚達が面白く思っていないことに全く気付いていなかった。

白川の煽りもあり、気付くと教員室で和彦は浮いた存在になり始めていた。

メールの件を校長に相談しようかどうか迷ったが、相談しても校長に心配をかけるだけだと思い、止めた。

自分の問題だ。

自分の問題は、自分で解決しなくては。

一本義な和彦は、そう考える。

だが、和彦は、学園が怖くなっている。

登校するのが怖い。

学内で人とすれ違うのが怖い。

生徒達の前に立つと、彼らの誰かが自分の勃起を知っているのではないかと怯える。

その和彦のネガティブな態度は、生徒達にも伝わったようで、前のように和彦の近くに寄ってこなくなった。

時に、和彦の考えすぎかも知れないが、敵意すら感じることがある。

教員会議の席なのに、和彦は鬱になり集中できない。

校長が話している。

ダメだ、ちゃんと集中しないと。

しっかりと仕事はこなさないと。

「、、、、ここで、急なお知らせとなりますが、2年の担当の藤木先生が奥様の出産にともない育休を取られることになりました、、、」

えっ?

聞いてない。

藤木は、和彦が副担任を勤めているクラスの正担任だ。

そう言えば、今日は出席していない。

「それにともない、正担任ですが、現在副担任の杉山先生に行っていただきたいと考えますが、いかがですか?教師になられて一年目で異例となりますが、生徒さん達の人望もありますし、適任かと思いますが」

校長がスラスラ言う。

和彦は訳が分からない。

周囲の教師の目がチラリと和彦を見る。

先輩だが、まだ、副担任しか任せられていない者も何人もいる。

和彦が正担任になると、彼らを飛び越えたことになる。

“まだ、早いんじゃないか?”

そういった囁き声が聞こえる。

自分にはまだその実力はありませんと言おうと思ったとき、白川が口を挟んだ。

「杉山先生は、やる気もありますし、学期の半ばで新たな担任が付くのも生徒が混乱するでしょう。校長のおっしゃる通り、副担任の杉山先生が昇格するのが良いと思います。副担任は欠けますが、私が全力でフォローします」

普段のねちっこい態度と異なる発言だ。

白川の言葉に、異を唱える教師はいなかった。

「ぼ、僕に務まるでしょうか、、、」

和彦が絞り出すように言う。

「杉山先生、“僕”ではなく、“私”でしょう。もう正担任になるんだから言葉はしっかりしないと」

国語の教師が言う。

いい年をして、まだ正担任に付けてもらえていない教師だ。

明らかに嫉妬色が浮かんでいる。

「藤木先生は、奥さんの陣痛が始まったようで、今日はお休みです。このまま産休に入るということです。急な話ですが、働き方改革ですから対応しましょう。本日から杉山先生には正担任になっていただきます。」

え?

「藤木先生からは、杉山先生は、直ぐにでも正担任が出来ようにしてあるから大丈夫と言われています。杉山先生は信頼が厚いですな」

えぇっ?

き、聞いてない、そんなの聞いていないっ!

見ると驚いているのは自分だけだ。

他の教師は、藤木先生が育休を取るのを知っていたのか?

俺だけ、蚊帳の外で知らされてなかったのか?

和彦の中で、ネガティブな感情が渦巻く。

正担任になるのはもう既定路線のようだ。

気が重い。

自分に務まるか不安だ。

だが、生徒達のためにやらなければ。

生徒達のために全力を尽くさなくては。

和彦は己を鼓舞する。

あの正体不明のメールは気になる。

だが、こそこそと匿名メールを送りつけてくる卑怯なヤツに怯えて、大事な生徒達を疎かにしてはならないっ、、、

そう、和彦は自身に言い聞かせる。

自分にとって大事なのは生徒のはずだっ!



そんな和彦に思っても見ない試練が降りかかるのは、翌週だった。
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