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控室~鍵と焦りと代替品と

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シンとした廊下に並ぶ扉…

大輔は一番手前の扉を開ける。

中は用具室だった。

次の扉…鍵が掛かっている。

ガチャガチャとノブを動かすが、開かない。

そして、三番目の扉…

ホッとし、身体に入っていた力が抜けた気がした。

そこには、J大控え室と書かれた張り紙があった。

急いで扉を開けた。

中は、ガランとしている。

無人だ。

扉脇のスイッチを入れる。

蛍光灯が部屋を照らし出す。

広いトレーニングルームを仮の控え室にしたのか、机とロッカーを取りあえず入れた感があり、広々としている。

そして…

大輔は控え室の中を見回す。

ロッカーは締まっている。

机の上にはペットボトルと紙コップがのっているだけだ。

お…俺の荷物…俺の荷物はどこだっ…

さっき、高梨が持って行った荷物…

競パン、キャップ、ジャージ、ゴーグル・タオル…

必要なものは全て入っている。

きっと、ロッカーにしまっておいてくれたんだ、きっとロッカーの中に…

望みにすがる。

大輔は壁際に並ぶロッカーの前に急ぐ。

開くロッカーはある。

が、中身は空だ。

鍵の掛かっているロッカーもある。

高梨が自分の荷物を入れ、鍵を掛ける訳がない。

そう信じた。

なぜか新品のJ大のマークの競パンとキャップのみが畳まれて中に置かれているロッカーもあった。

が、使い込んだ大輔の物ではない。

全てのロッカーを調べた。

荷物はない。

再びパニックが襲う。

それに拍車を掛けるようにアナウンスが流れる。

…競技開始の時間が近づいております。出場選手は入場口にお急ぎ下さい。

こんな言わずもがなのアナウンスが流れることはまずない。

俺のせいかっ…

俺のせいなのか…

皆に迷惑を掛けている

血が逆流する感覚。

小便をチビリそうな感覚が強まる。

その時、扉が開いた。

大石コーチが入ってくる。

「馬鹿野郎っ!何ちんたらやってんだ。お前待ちだぞっ」

「も…申し訳ありません…自分の…自分の荷物が見つかりません」

「何っ」

大石は白々しく言う。

そうだっ

その時、天啓のように閃いた。

脳裏に、ロッカーの中にあった新品の競パンとキャップの映像が浮かぶ。

大輔は、記憶を辿り、そのロッカーを開く。

あった…あった…

汚いロッカーの中、チョコンと畳まれ置かれたグッズ。

その不自然さを考えもしなかった。

「見つかったか?」

「これは自分の物ではありませんが…」

「かまわん、時間がない、さっさと着替えろっ」

「うっす」

大輔はブレザーを脱ぎ捨てた。

ネクタイを毟り取る様に取る。

そして白いYシャツ…

OBに礼を示すため着てきたものだ。

普段はラフな姿なので着慣れていない。

おろしたてのYシャツのボタンを外すのに手間取る。

もどかしい…

ええぃっ!

大輔はシャツの胸元を思い切り両手で引っぱった。

ピシッ

勢いよくボタンがはじけ飛ぶ。

まるで、引きちぎるかのようにYシャツを脱ぎ捨てた。

次はTシャツだ。

両手で裾をつかむ。

ニヤリ

大石の口元、抑えても笑みがこぼれる。

露わになっていく上半身。

こんがりと焼けたキメ細やかな肌の下、筋肉の塊が身体の動きに合わせ自己主張をしている。

形良くなだらかに曲線を描く広い肩と、厚い胸板、その下、キュッと締まった腹部に割れた腹に、くっと短い差込を入れたかのような臍がアクセントになっている。

本当にそそる身体だぜ…

大石は、その上半身を舐めるように見る。

Tシャツをまくり上げる時、漆黒の剛毛が繁る両わきの下が露わになる。

大輔は腋の下の手入れが好きではなかった。

剃り上げると、生えてくる時のチクチクした感触が好きではなかったのだ。

屈辱的な誓いの剃毛が心に植えつけた傷のせいだ。

その生え揃った野生を連想させる剛毛が、大石をそそる。

大石は男らしく生え茂った腋毛が好きだった。

そして、Tシャツの下から現われた顔。

その表情。

いつもの快活な大輔らしくない。

追い詰められ、焦り、余裕を失っている。

その情けない、弱気な、今にも脆く壊れそうな表情…

大石はゾクゾクする感覚を覚えた。

この極上の獲物を、飼いならし、いつもこのおびえたような表情で自分を見上げさせ、自分の一言一言に一喜一憂させたい…いや、させてやる…

そんな大石の思惑にも気付かず、大輔はシューズを脱ぎ捨て、ベルトを外すと、一気にズボンとトランクスを引き下す。

ククッ、立派な逸物も、さすがに縮み上がってやがる、だが、そんな状態でもしっかり自己主張してるぜっ

大石は、大輔の股間に目をやり、陰毛の中から首を出している陰茎を見て思う。

ソックスを脱ぐと大輔は、ビニールの袋から競パンを取り出す。

開く。

小さな布切れだ。

普段、大輔が穿いているものよりは確実に小さい。

水球チームの誰かのものだろうか…

しかし、そんなことは気にしていられない。

足を通そうとする。

ビシャン

大きな音がする。

大石が大輔の締まった剥き出しの尻タブを思い切り引っぱたいたのだ。

「ヒャッ」

惨めったらしい短い悲鳴を上げる大輔。

日焼けしていない尻タブには、赤く張られた跡が残っている。

大石は、掌に残る引き締まった尻のコリコリした感触を楽しみだから言う。

「落ち着けっ!後ろ前だ」



慌てて、脱ぎ、穿き直す。

小さな布切れは大輔の鍛えられ張った太股を締め付ける。

無理やり引き上げていく。

そして、ケツとデカイ逸物を押し込むように入れる。

前部は盛り上がり、微かに肌と布地の淵の間にすき間が出来ている。

どうにか、陰部のみを覆えた状態だ。

そこから、陰毛が覗いている。

そして後部は、尻の割れ目が半分近く覗いている。

無理やり布地に突っ込んだのが、一目で分かる状態だ。

筋肉美が強調されていると言えば言える。

だが、筋骨逞しい男が着けるには小さすぎる水着が、猥雑さを醸し出し、滑稽と言えば滑稽だ。

だが気にして入られない。

時間がないのだ。

「これを着ていけ」

大石が、ジャージの上を脱いで渡す。

流石に下までは渡さない。

「あ、ありがとうございます」

急いでジャージの上を羽織る。

大きめのサイズで裾が上手く、競パンを隠してくれる。

ホッとした。

これならすこしは、みっともなくない…

入場が終わりると、OBの挨拶等レセプションがあり、一回生、二回生の各種競技がある。

その後、水球のプールに場を移し、水球の試合が行われる。

その時に高梨から、荷物の場所を聞けばいい。

着替える時間は充分にある。

今は早く、集合場所へ急ぐことが先だ。

挨拶もそこそこに大輔は控え室を飛び出す。

J大第二控え室を…

大石は満足げに見送る。

罠は今のところ完璧に大輔を囲んでいる。

トイレの向こうにある部屋が第一控え室で、そこに大輔の荷物は置いてある。

心理的なトリックだ。

最初に目にしたJ大控室の張り紙を大輔は他愛もなく信じるだろう。

焦った大輔は、見事に引っ掛かった。

第一控室にも同様に「J大控室」の張り紙が貼ってあったが、高城が剥がしていた。

その必要はなかった訳だが…

そして、不自然に置かれていた競パンとスイムキャップ・・・

フフッ

大石は心の中で笑う。

ジャージをわざわざ貸し与えたのは、彼を守るためではなく、その幅の短い水着に気付いた四回生あるいはOBが、大輔に着替えるよう指示を与えないためだ。

大輔は素直に、大石に感謝していたが…

そして、入場口に走る大輔は、種目の変更があったことをまだ知らない。

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