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第052話(自警団員?!)

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「おい!お前ら!!ここで何してやがる!!」
 僕が振り向くと、僕より多少大人びた勝ち気そうな顔をした少年が、僕のことを指差して問いただしてきた。

「うーん、トラブル回避?」
 訳がわからない状況に、反射的に言葉を返してしまう。まぁポメが起こしたトラブルの回避だから間違ってはいないんだけど。

「ここいらが、俺らウルス自警団の監視地域シマと知って、トラブルを起こしやがったのかぁ?」
 勝ち気そうな少年が僕達を指差したまま、嫌疑を含んだ声で問い詰めてくる。

「い、いや、この町には昨日来たばかりで右も左もわからなくてさ」
「あぁん?ヨソ者ってことかぁ?」
「ケイン君、ケイン君。すぐそうやって突っかかるの良くないよ。やめようよ」
「うんうん。ケインってば調子に乗りすぎ」
「お腹すいた……」
「ちょっ、お、お前ら」
 ケインと呼ばれた少年が、この勝ち気な少年なのだろう。ツンツンと逆だって燃えるような赤毛が特徴の少年だ。袖を引いていてケインくんを制しているのは、前髪を眉毛あたりで切り揃えたちょっと気弱そうな少年で、その隣では茶色の髪が肩口くらいまであるミディアムヘアの女の子が腕を組んで胸を張りながらウンウンと頷いている。一番後ろにいるのは水色のショートヘアの女の子で、お腹に手を当てて抑揚のない声で喋っていた。

「だ、だけど、コイツ怪しいぜ!」
「人には人の事情があるんだから、あまり決めつけるのは良くないと思うよ」
「そうね。ケインの直感は大体外れるのよね」
「ごはん……」
 バタバタと手を振りながら2人(+1)の仲間を説得するケイン君とやら。今回ばかりは直感があたっているの気がする。僕達の素性は確かに怪しいからね。

「この失礼でオバカなお子様は、粛清して良いのです?」
「ダメダメ、粛清しちゃダメ」
 目をキラリと光らせたポメが物騒な事を言い始めるので、慌てて止める。僕の足元にいるファングと肩口にいるビークは、ケイン君達が僕達に害を与えられる程ではないのがわかっているのか、特に警戒もせずに涼しい顔をしている。

「とにかく、そこのガキは怪しすぎる!小さいくせにビビりもしないし、やけに落ち着いているし、着ている物も上等なもんだ。どっかの良い家庭のガキがお供も連れずにこんな所をウロウロしてて、落ち着いていられるはずがねぇ!」
 うん、全くそのとおり。確かにケインは良い観察眼をしているようだ。僕でも、こんな子供いたら怪しいと思えて仕方ないと思う。

「一度アジトに連れて行って尋問させてもらおう」
「始まったわね。またいつものケインの悪い癖が」
「と、友達になりたいだけなんだよね。ホントは」
「肉……」
「あーっ!うるさい!うるさい!とにかく連れてくぞっ!」
 ケインと呼ばれた少年がついてこいというジェスチャーをして後ろを振り向く。僕が逃げ出すことは考えてないのだろうか?
 そんな事を考える僕に、ケインの傍らにいた茶色のミディアムヘアの女の子が手を合わせて、ごめんねという感じにウィンクしてくるので、仕方ないと付いていくことにする。まぁ、何かしらの情報を得られるかもしれないし。

「ごめんね。ケインのワガママで」
「いや、まぁ僕もこの町に来たばかりで色々わからないことも多いから、知り合いを作りたいっていうのもあるから大丈夫」
 歩いている僕の横に、先程の茶髪の女の子がやってきて誤ってくれる。どうやらケインと違って常識人らしい。気弱そうな少年も、こちらをチラチラ見て心配そうな眼差しを向けてきている。

「そ、そう。だったら丁度良かったかもしれないわね。私はエリー、よろしくね」
「うん。よろしく」
 エリーが差し出した手を僕は握り返す。

「で、あの赤毛のお調子者がケイン、気弱そうな男の子がオリバー、水色の髪の女の子がココットよ」
「エリーさん、ケインさん、オリバーさん、ココットさんだね。僕の名前はシン、連れのメイド服着ているのがポメ、この狼の子がファング、肩に止まっている鳥がビークです」
「あ、さん付けはいらないわよ。そんな上品なもんでもないし、年齢もあまり変わりはなさそうだし」
「わかりました。僕も呼び捨てで構いません」
「ポメなのです。御主人様マスターに変な事をしたらパンツに黄色いシミをつけて、あらぬ疑いをかけられるようにするのであります!」
「……それ、地味に嫌な嫌がらせね。気をつけるわ、ホント。それにファングとビークだっけ、よろしくね」

 ガゥッ
 ピピィッ

 ファングとビークもよろしくと言わんばかりに一吠え/鳴きする。

 そうしてエリーの話を聞きながらついていくと、町の外周部近くの放置された廃屋に入っていく。勝手にこんなところに入って良いのだろうかと思いながら、一緒に廃屋に入っていく。

「よく来たな!ここがウルス自警団のアジトだ!」
 ケインが胸を張りながら自慢気に宣言する。自警団なのにアジトって……盗賊でもないんだからと心のなかでツッコミを入れながら聞く。

「それで、僕をこんなところまで連れてきて何の様?」
「お前は怪しすぎるので、ウルスに来た理由を話してもらおう」
「はぁ……」
 僕はケインの傍若無人な態度に溜息を付きながら、ポメと照らし合わせていた経緯を話す。親が魔物に襲われて云々うんぬんというやつだ。僕がそれっぽく、ポツポツと悲しみを堪えながらふうに話すと、感極まったケインが僕の肩をぐっと掴む。

「うおぉぉぉぉぉ!大変だった!大変だったなぁっ!そんな君に俺は、俺ってやつはぁぁぁっっ!!」
 滂沱と涙を流しながら、肩を掴んだままユサユサト揺さぶる。

「もういい。この町には心優しい修道女シスターがやっている孤児院があるから、そこで独り立ちするまでお世話になるといい!何を隠そう、俺もそこの孤児院の一人なんだっ!」
 感極まったケインが僕に孤児院に入るように勧めてくる。いや、僕はこの町にそんなにいるつもりはないから願い下げたいんだが……

「ずびっ。そうよ。それがいいのよ。私達と一緒に、一緒に心の傷が癒えるまで一緒にいましょう!」
「うんうん。そうだ。それがいいよ。うわぁぁぁぁん!」
 鼻をすすりながらエリー、号泣しながらオリバーが同意する。だから、僕は行きたくないんだってば!

「シン。可哀相、コレあげる。……とっておき」
 僕の袖をクイクイ引っ張りながらココットが綺麗な紙に包まれた飴玉のようなものを差し出してくる。いや、別にいらないからっ!

「も、申し出はありがたいんだけど。僕は今、門番をしているキリクさんと冒険者ギルドのクーフェさんの家に厄介にならせてもらっているから大丈夫です」
「何ぃっ?クーフェさんと同じ屋根の下だと?!」
 僕の発言に、今まで同情感たっぷりだったケインが、目の色を変えて突っかかってくる。

「孤児院の修道女シスターと双璧をなす冒険者ギルドの受付嬢クーフェさん。そのクーフェさんの家に住んでるだとっ!許せんっっ!!」
 眼からメラメラと嫉妬の炎を前上がらせながら僕に詰め寄ってくるケイン。

スパーンッ!!

 そのケインの頭に、振りかぶってから繰り出された強烈なハリセンが炸裂する。

「あたぁっ!何するんだよ、エリー!」
「ちっとは落ち着きなさい、ケイン。シンにだって事情っていうものがあるのよ。きっと」
 ハリセンを片手に腕を組んで仁王立ちのエリーが胸をそらしながらケインを叱る。詰め寄られてきたのは吃驚したけど、それにしても双璧ってなんのだろう?

「とにかく許せん!俺と勝負だ!」
 よくわからない論理でビシッと指を突きつけてくるケイン。

「勝負する意味がわからないんだけど」
「逃げるのか!シン!」
「いや、逃げるとかじゃなくて、なぜいきなり勝負?」
「クーフェさんの家に宿泊する権利をかけてだ!!」
「い、いや、それは僕達が決めることじゃないような……」
「もはや問答無用!!」
 こちらの言い分を無視して、立て掛けてあった木刀を掴むと大上段に構えるケイン。

「うぉぉぉぉぉっ!!」
 そして裂帛の気合を発してこちらの懐に飛び込んでくるケイン。仕方ないと僕が身構えるも……

「……えいっ」
 ココットが長い木の棒を、ケインの着地地点に突き出す。

「お?おおおぉっ!」
 そして丸い木の棒に軸足を踏み込んでしまう。そのまま木の棒が回転して……

「うわわわわっ」
 バランスを崩したケインはそのまま後ろに仰け反りながら倒れ、後頭部を強打してしまう。

「……いきなり攻撃するの良くない。ココットのせんじゅつてきしょうり、ぶい」
 ココットは後頭部を強打して意識が飛んでしまっているケインをちらりと見て、僕の方にVサインでアピールする。

「助かった……んだけど、危ないよね、それ」
「……大丈夫。いつものこと」
「ケインはバカだからねー」
「ホント、初対面の人に殴りかかるなんて、勘弁してほしいよ」
 ココット、エリー、オリバーが口を揃えてケインを否定する。だけど付き合ってあげている所を見ると、嫌いなのではないようだ。

「まぁ、バカはしばらくすれば目を覚ましちゃうから、今のうちに戻ったほうが良いかもね」
「あー、うん。そうするよ」
「私達は孤児院にいるから、気が向いたら遊びに来てね」
「うん。しばらくはこの町にいると思うから、お邪魔させてもらうよ」
「うん、待ってるね」
「……待ってる」
 ケインを無視して、僕達に帰るように促してくるエリー達にそう返すと、僕は目を回しているケインにちらりと視線を飛ばしてから、その場を去るのだった。
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