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第019話(殺人料理?!)

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 極限まで威力を減衰させた風の刃ウィンド・カッターで、目の前の森を切り開きながら、僕達は進んでいく。ポメからは森林破壊とブツブツ言われているが、こんな鬱蒼としていて人が足を踏み入れたことのないような樹海では、普通に歩くことすらままならない。
 草木を払いながら丁寧に進んでいた場合、蛭や百足、蜘蛛などの毒をもった虫やらが、こちらを獲物にしようと襲ってくるからたまったものではない。

 でも森に入って数時間は経ったというのに、まだ巨大ジカバチヒュージワスプくらいにしか遭遇していないから、この森に出てくる敵は案外大したことがないのかもしれない。

 何度か極限まで威力を減衰させた風の刃ウィンド・カッターを放った先で、獣道らしき道を見つけることが出来た。
 頻繁に獣が通っているみたいで、草などが踏み固められている。幅は70cmくらいなので、中型の獣ではないかと思う。

 森林破壊とブツブツ言われ続けているので、僕は風の刃ウィンド・カッターによる強制的な道確保を中断して、獣道を使うことにした。

 そんな獣道を歩いていると、色々分かれ道があるのだが、ポメが正確に人里への方向を示してくれるので、どちらを選択するかを迷うことは少ない。けど、獣道も曲がりくねっているので、行きたい方向ではない方に進むことも当たり前のようにあって中々思い通りには進めない。

「今日はここら辺にするです」
 獣道に入って数時間。大きな木が乱立している代わりに、下草が少なくなっている少し開けた場所があったので、ポメがソコで休むことを提案する。すでに日も落ちかけているので、僕はポメの提案に従う。ちなみに体力や疲労に関しては、余剰魔力でステータスをブーストしているので、まだまだ余裕だ。

御主人様マスターは、野営の準備に関しても全く役に立たないので、暇そうなので枯れ木でも拾って来ると良いのです」
 ポメが身も蓋もない指示を出してくるけど、僕に反論できるはずもないので、近くの枯れ木を探しに行くことにする。

 枯れ木を探しながらウロウロすること30分。それなりの量の燃やすのにちょうど良さそうな枯れた枝を見つけて帰ってくると、ポメと別れた場所に立派な小屋が立っていた。

「いやいや、なんでこんな立派な小屋が!?」
「帰ってきたのなら、とっとと小屋に入ってくるのです!」
 僕が小屋の前で呆然としていると、小屋の中からポメの声がする。木の束を抱えたまま、小屋に入っていく。小屋の中は1DKでキッチン、トイレ、バスルーム、ロフトの上下にベッドとコンパクトだけど、二人で過ごすには何の問題もない立派なワンルームの小屋だ。

「こ、これ、どうしたの?」
「乙女メイドの秘密なのです」
 思わずどもりながら僕が聞くが、ポメはいつものように切り返す。

「そして、その邪魔な枯れ木は外に捨ててきて欲しいのです」
「え?火を起こすのは?」
御主人様マスターはバカなのですか?料理は魔導コンロで出来ますし、室温は魔導空調機で快適です!どこに枯れ木を燃やす必要があるです?」
「い、いや。いらないかもしれないけど……だったら何でコレを拾いに行かせたのかと」
「適度に仕事を与えておかないと、御主人様マスターは成長しないのです。だから無能な御主人様マスターでもデキそうな仕事を与えたのです。ポメに感謝するが良いのです!」
「……いらないものを拾いに行く必要はないと思うんだ、僕」
「そういうちっちゃいことを気にしていると、大きな人間になれないのです!さっさと外にポイしてくるのです!」
 僕は全く納得がいかないけど、快適に過ごせそうな小屋に文句は無いので、ポメの言うとおりに枯れ木を外に捨てる。本当に僕は、何をしに行ったんだろう。

 小屋に戻ると、キッチンで踏み台に乗っているポメが鼻歌を歌いながら、魔導コンロで何かを煮込んでいる。部屋には料理の良い匂いが漂い、歩き詰めでペコペコになっていたお腹がグゥーと自己主張をする。

「もう少し待つのです」
 ポメが踏み台から飛び降りると、魔導コンロに下についている魔導オーブンを開ける。すると焼きたてのパンの香りが小屋いっぱいに広がる。焼きたてのパンの匂いって、空いたお腹にはかなり暴力的に響くんだよね。
 ポメがパンを籠に放り込むと、テコテコと歩いて、僕の座っているテーブルの上に籠を置く。

「まだ待っているのですよ?」
 思わずパンに手が伸びそうになった僕にポメが釘を刺す。

「手でも洗って待っているといいのです」
 そういえばと、僕も水道のところに言って踏み台に登って手を洗う。この小屋の設備は大人用に作られているみたいなので、僕やポメのように小さいと、踏み台がないと使えないのが欠点かもしれない。

 スープの煮込みが終わったようで、ポメが大きめの鍋つかみで鍋を持ってテーブルに置く。そして、僕とポメはテーブルの椅子に座る。

「「いただきます」」
 僕とポメは手を合わせてそういうと食事を始める。ポメは魔力で動作するアンドロイドなので、食事の必要はないんだけど、食べられないことはないらしく、今日は僕と一緒に食べるらしい。施設の食事は一切口にしなかったんだけど……

「美味しい!」
 僕は熱々のパンをちぎって口に入れると、小麦の芳醇な香りが鼻に抜けて、美味しさが口いっぱいに広がる。久しぶりに味覚を刺激する美味しさに涙が出そうになった。

「なんで施設でやってくれなかったんだろう……」
「ボタン一つで、栄養バランスの取れた食事が出てくるのに、わざわざ作る必要はないのです」
「いや、それはそうなんだけどさ。味とかあるじゃない」
「味ですか?そんなの不要だと思うです。栄養が取れればそれでいいと思うのです」
 特に表情も変えずにパンとスープを食べるながら、身も蓋もないことを言うポメ。僕は肩をすくめながら、パンの最後のひとかけらを口に放り込むと、スープをスプーンで掬う。

 鳥をベースに野菜らしきものと一緒に煮込んだスープで、色は透明だけど、表面に鳥の脂が膜を張っていて、とても美味しそうな見た目と匂いだ。

「そこら辺の野草と、そこら辺を飛んでいた鳥のスープです。毒が無いことは調査済です」
 ポメの言葉を聞きながら、そこら辺で採ったと言う事に、少し不安を覚えながらも一口すする。

ブボッッ!!

 口に含んだ瞬間、味覚に強烈なインパクトが走り、僕はスープを吹き出してしまう。そして、ほんの少量を含んだだけなのに、口の中いっぱいに塩っぱさがこびり付き、粘膜を焼く。

「み、水!水!」
 僕が叫ぶと、ポメが水差しから水をコップに入れて差し出してくる。僕は一気に水を口に含むと、そのまま流し台に走り、すすいだ水を吐き出す。そして蛇口から直接水を口に含んで、何度も口をすすぐ。

「な、何なんだ?どれだけの塩が入ってんだ?!コレ!!」
 絶叫を上げる僕の様子を不思議そうに眺めながら、ポメはスープをすすり続ける。

「塩ですか?確か……」
 ポメは人差し指を頬に当てて、視線を上にそらしながら考える。

「6……kg?」
「はぁ?!」
「10リットルくらいの鍋に、塩6kg?!6gの間違えじゃないの?!大体、それじゃ塩が溶けないでしょう?!」
 信じられない発言をするポメに僕が矢継ぎ早に突っ込みを入れる。

「全然溶けなかったので、仕方なく圧縮合成魔法で、強制的に水と融合させたのです!」
「……努力の方向性が違うと思うんだけど……そりゃ、高濃度圧縮食塩水を飲んだら吐くよ……」
 全く動じずにスープを飲み切るポメ。だめだ、このアンドロイド、味覚が壊れてる。スープの匂いからして、下処理や調理方法はバッチリなのだろう。ただ、味付けがやばすぎる。

「せっかくポメが一生懸命に作った料理を吹き出すとか、失礼にも程があるのです!」
 ポメが青筋を立てながら怒った表情で詰め寄ってくる。

「いや、無理だって、そんなに塩を効かせた料理、人間には食べられないよ!」
「ポメには、少しアラートが出ているだけで、美味しく頂けているのです!」
「ア、アラートが出てるって?!」
「生物にとって塩分が致死量って出てるだけです!」
「そんなものを食わすなーっ!!」

 僕の絶叫が小屋に響くのだった。
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