天災少年はやらかしたくありません!

もるもる(๑˙ϖ˙๑ )

文字の大きさ
上 下
34 / 48
3巻

3-2

しおりを挟む
「駄目だ。と言いたいところだが、止めたとしても他の予想外の方法をとられても困るし、魔蟲将インセクトジェネラル脅威きょういを排除する方法は私には思いつかないからね。アル君のやらかしはこの施設のみと限定し、この施設を他者の目に触れないようにすることで秘密を守るのが、最善になるだろうな……」
魔蟲将インセクトジェネラルみたいな敵がゴロゴロいたら世界の終わりだと思うけどね」

 カイゼルがあごに手を当てながらつぶやき、リアが冗談めかして言う。

「ウォルト、どうだ?」

 カイゼルはウォルトに視線を向ける。

「強すぎる力には責任がともなう。責任を負えないのであれば強い力を持つべきではない――というのが、俺の信念だ。だからアルカードの心持ち、覚悟が気になっている。とはいえ、皆が言うように魔蟲将インセクトジェネラルのような敵に襲われた時、自衛できない弱さは致命的だ。諸手もろてを挙げて賛成はできないが、魔蟲将インセクトジェネラルを相手取るための手段を得るレベルまでの限定的な拡張は必要だ……と俺は考えている」
「私もその意見だ。本来ならもっと権限と責任を持つ者に決めてもらいたいところだが、それもそれで政治的、軍事的な絡みが大きくなって問題になりそうだ。まずはアル君、君の気持ちが知りたい」
「僕は……みんなに無事でいてもらいたいだけです。この力を使って悪いことをする気はありません」
「それはそうなんだろう。今までの行動を見ていても、私利私欲で使っているようには見えないからね」
「でも、危ういな……実際夏休みにエストリアが危機におちいった時に、激情を抑えきれず、敵を殺しかけたことからも分かる。もしもクラスメイトや家族など大事な人をたてにしておどされたら、屈してしまう弱さだ。とはいえ、それに屈しない意思を持てというのは、現時点では無茶な話だろう。とりあえず、俺たち以外への口外と部外者の立ち入りを禁止し、情報の漏洩ろうえいを防ぐ……といったところか。できるか? アルカード」

 ウォルトとカイゼルが話し合い、対応方法を模索する。立ち入り禁止の件については、階段の下に入館用の扉を設置すれば可能ではないかと、僕の中の眼鏡さんも言ってくれたので、僕はウォルトの言葉に頷く。

「ではアル君、良識の範囲内でほどほどの対応で……ってあまり期待できないかな、これは」
「あ、うん。注意しながらやってみる」

 カイゼルから許可を得た僕は頷く。

「じゃあ、しばらくは工事で訓練施設も使えないのか、できても素振りと模擬戦くらいか」
「模擬戦か⁉ 翠はオスローとやってみたいのだ!」
「オレはアルじゃねぇから、相手にならないと思うぞ?」
「アルと一緒に練習してオスローも相当強くなっているのを感じるのだ! 1回戦ってみるのだ!」
「確かに、アルとの組み手ではかなりやるようになってたわね。私も負けてられないから、一緒させてもらいたいわ」
「おう、一緒にやろうぜ」

 オスローと翠、リアは近接戦闘の模擬戦で訓練するようだ。

「訓練施設が使えないなら……わ、私は、どう、しようかな……」
「あ、キーナは鋼のスチール延べ棒インゴット加工をしてくれると助かる。ゾッドさんから毎月納品して欲しいって頼まれてるんだ。魔法の訓練にもなるし」
「い、いいの? な、なら、やりたい、です」
「なんや、鋼のスチール延べ棒インゴット加工って金のにおいがプンプンしとるやないか。ウチはそっちを手伝わせてもらうわ」

 キーナとイーリスは鋼のスチール延べ棒インゴット加工をしてくれるようだ。これでゾッドさんから依頼されている作業は安心できる。

「俺らは情報収集だな。旅行中のことや、あそこの動きも気になるし」
「そうだね。そういったことは私たちの役割だろう」

 ウォルトとカイゼルの方針も決まり、僕たちは地下施設から出る。メンバーは各々おのおの決めた行動のために早速移動し、残ったキーナとイーリスに僕は、魔法の訓練施設にて〈供給酸素サプライオキシゲン〉の魔法を教えるのだった。
供給酸素サプライオキシゲン〉は、見た目には何も変化のない地味な魔法だ。そしてこの世界では解明されていない酸素さんそという元素を使うことを2人に伝えようとしたのだが、どうにもこうにも上手くいかない。
 僕は炎を灯した蝋燭ろうそくを使い、蝋燭を密閉すると火が消える現象と、〈供給酸素サプライオキシゲン〉の魔法を使うと炎の勢いが強くなるのを見せることで、空気中の酸素が炎の燃焼を補助する効果を理解してもらおうとする。
 目の前で見せたことにより、2人は〈供給酸素サプライオキシゲン〉の魔法で蝋燭の炎の勢いを増すことができるようになるのだった。


 昼過ぎに3人で寮に戻り、遅めの昼食を食べた後、ゾッドさんの工房に向かう。
 工房の店員さんに許可をもらい裏手に回ると、共有の鍛冶場でゾッドさんが弟子でしに指導をしていた。

「おう! 来たか」
「こんにちは。今日は僕のクラスメイトを連れてきました。鋼のスチール延べ棒インゴット加工をできればと」
「おぉ? このじょうちゃんたちがか?」
「はい。とても優秀な仲間たちです」

 僕がゾッドさんの元に近付くと、気が付いたゾッドさんが手を上げながら挨拶してくる。僕が仲間を紹介すると少し眉をひそめたが、僕は笑みを浮かべて太鼓判たいこばんを押す。

「少し練習させてもらえればできるようになると思うので、鍛冶場を貸してもらえますか?」
「おぅ、いいぜ。破壊しなきゃな」
「し、しませんよ」
「信じられねぇが、まぁいい。建て直したあそこを使え」

 ゾッドさんは、以前僕が破壊した建屋の跡地にある、新しい建屋を指さす。

「ありがとうございます」

 僕はお礼を言うと、新しくなった鍛冶場を借りることにする。

「アルはん……ここでもやらかしたんか?」
「え、い、いや……その……」

 建屋に入ると、イーリスが良いネタを見つけたとばかりに、好奇心たっぷりの琥珀アンバー色の瞳を輝かせる。

「ちょ、ちょっと……手違いで建屋を1つ壊しちゃっただけ……だよ」
「ちょっとした手違いで建屋を破壊ねぇ……どうやったらそんなことができるんか、ホンマなぞやわ」
「ア、アル君、ですから」
「まぁ、そうやな。アルはんやからな」

 ワタワタしている僕をニヤニヤと眺めながらも納得するイーリス。

「じゃ、じゃあやってみようか。まず僕がやってみせるのでよく見てて」

 僕は新しい鍛冶場の炉に〈加熱炉フォージ〉の魔法で火を入れて、鉄鉱石を放り込み銑鉄せんてつを作る。炉の温度は1000℃を超えているため、室温も相当なものだ。僕は自分と2人に〈炎熱耐性向上ヒートレジストレイション〉を掛けて暑さに耐えられるようにする。

「手伝う時はこの銑鉄が出来上がってからだと思うので、ここまでの工程は特に覚えておかなくてもいいはずだよ」

 僕はドロドロになった鉄鉱石の塊である銑鉄を掻き出しながら説明し、それを冷ましていくと、黒い金属かいが出来上がる。

「次にこの銑鉄を石灰せっかいと一緒に熱していく時に、〈供給酸素サプライオキシゲン〉の魔法が必要になるんだ」

 一旦鉄鉱石を全て掻き出した炉に、冷めた黒い金属塊を入れて再び加熱していく。高熱にさらされた銑鉄は赤熱していく。

「そろそろかな。〈大気よTheAir 炎をFire補助するAssist糧となれFuel! 供給酸素サプライオキシゲン!〉」

 僕は手を銑鉄に向けて魔法を発動する。赤熱していた銑鉄が一気に白熱化し、強烈な光を発する。

「な、なんやっ!」
「ま、まぶしい、です!」

 直視してしまった2人はあまりの眩しさに目がくらんでしまったようだ。しまった、最初に言っておくべきだった。

「全く、酷い目に遭ったで、アルはん。こりゃ、アルはんにはおびしてもらわんと」
「あ、いや。ごめんなさい……」
「あははは。冗談や冗談。しっかし、えっぐいわ、これ。なんやこの純度」
「み、磨き上げられた鏡みたいで、す、凄く綺麗です」

 豪快に笑った後、出来上がった鋼のスチール延べ棒インゴットを見たイーリスの目が真剣味を帯びる。キーナは頬を紅潮こうちょうさせて、興奮しながら完成品を見つめている。

「じゃ、じゃあやってみようか」
「は、はいっ!」
「やろか」

 その後は、僕の実演でイメージを補完させながら、銑鉄に、2人は何度も何度も〈供給酸素サプライオキシゲン〉の魔法を発動させていった。


 日が暮れる頃には、何とか期待通りの純度の鋼のスチール延べ棒インゴットを作れるようになったのだった。
 これで、僕以外でも鋼のスチール延べ棒インゴットを供給できるようになったので、ゾッドさんの依頼も簡単にこなせるようになるだろう。
 僕の作製した分の鋼のスチール延べ棒インゴットへの報酬ほうしゅうで、クラスメイトへのお土産みやげも含めて屋台で軽食や飲み物を買う。実際に作業して疲れ果てた2人とは、少し行儀が悪いけど食べながら帰った。
 体力も魔力も相当消費したので、軽食を摂ったとしても夕飯には影響がないだろうからね。


 第02話 素材加工

 寮に戻り、風呂や夕飯を済ませて自室に戻ると、日中ほったらかしにされていたグランが、飛び跳ねながら僕に寄ってくる。

「ほうっておいて、ごめんね」
「キュキューキュキュィ(気にしなくて良いのである)」

 僕は椅子に腰かけると、指でグランの背を梳いてあげたり、手や足や口の届かないところを搔いてあげたりする。そのふわふわで軽く柔らかい毛のせいで乱獲されていた跳びネズミラニーは、触っていて心地よい。
 掻かれているグランも気持ち良い様子で、目を細めてこちらに身をゆだねている。

「そっちは上手くいったのか?」

 グランをでている僕にオスローが話しかけてくる。

「あ、うん。2人とも高品質な鋼のスチール延べ棒インゴットを作れるようになってくれたよ」
「そうか、そういやそれ、結構実入りがいいんだっけか?」
「うん。求められている高品質のはがねは、普通の製錬方法だと鉄1キログラムあたり50グラムしか取れないんだけど、〈供給酸素サプライオキシゲン〉を使った方法だと1キログラム全部が高品質の鋼になるから、成果としては20倍あるって言ってたよ。だから金貨10枚払っても惜しくないってさ」
「金貨10枚だって⁉」

 こっちの成果を話したところ、収入のところでひどく驚かれる。

「お前、金貨10枚って言ったら、うちのパン屋1ヶ月分以上の売り上げじゃねぇか! それを何本納品するんだ?」
「えっと……確か24キログラムって言ってたから24本?」
「う、うちの稼ぎの2年分以上を1ヶ月で……」

 オスローがガクっと項垂うなだれる。そして、数秒の間を置くとガバっと顔を上げ、僕の肩を掴んでくる。

「オレにも教えてくれ‼」

 こうして僕はオスローにも〈供給酸素サプライオキシゲン〉の魔法を教えることになるのだった……って、結局カイゼルとウォルト、リアにも知られて、全員に教えることになったんだけど。
 実は僕たちが高品質の鋼を納品するようになって、アインツ周辺の害獣被害が激減したらしいが、それを知るのはずっと先の話だ。


 翌朝、身支度を整えた僕は地下施設に向かう。今日から施設拡張の作業に入るからだ。何をやるかも分からないので、グランは部屋でお留守番だ。ゆっくり寝床を堪能たんのうするらしい。
 魔法訓練施設から地下に降り、綺麗に磨き上げた石が一面に敷き詰められた施設に入っていく。

『まずはかくとなるユニットを作りたい。鉱石倉庫に行って素材を見繕みつくろってください』
『何を作るつもりじゃ?』
『施設構築の魔法では備え付けの設備までしか作れませんし、拡張やメンテナンスを全て少年が行うのは現実的ではありません』
『そもそもこんな施設を作ること自体が想定外だがな』
『なので、自律して施設を拡張しメンテナンスを行う存在。すなわち魔導人形ゴーレムを製造しようと思います』
『まぁ大小や性能は様々じゃが、生活のサポートとして魔導人形ゴーレムを使うのは、高レベルの魔術士にとって当たり前じゃからな』
『そうです。ですが自律して動作するとなると、多様な機能を入れ込む必要がありますね。ということで拳大こぶしだいの魔晶石を2つ、直径が小指くらいの魔晶石を5つ見つけてください』

 3人の話を聞きながら施設を歩き、鉱石倉庫に着くと、言われた通りの魔晶石を探す。〈詳細検索ディティールサーチ〉の魔法を使い、魔晶石のありかを特定し、様々な鉱石をけながら目的のものを見つける。

『大きいのは主動力と思考モジュールとして、小さいのは補助動力、展開式ユニット、戦闘モジュール、統括モジュール、記憶モジュールとして使います。それぞれ複雑な積層型ラミネイテッド魔法陣マジックサークルを付与しますので、いつもの通りの魔晶球を生成してください』
「うん。いつものでいいんだね」

 魔晶球とは、魔晶石を素材にした球体のことだ。

『はい。後で嵌め込む形になるので、大きさは統一してください。大きいのは直径8センチメートル、小さいのは5センチメートルで』

 僕は眼鏡さんに言われた通り、〈研磨ポリッシング〉の魔法で魔晶石を球形に研磨けんましていく。もう何度もやった作業になるので問題なく作ることができた。

『さて、大小7つの魔晶球にそれぞれ違う魔法陣を刻んでいきます。どれがどれだか分からなくなってしまうので、魔法陣を描く色も変えていきましょう。まずは主動力。これはこの施設に埋め込んだものと同様に、周辺の魔素を集めて魔力に変換し、出力する機構です。この機構を組み込むことで、周辺に魔素があれば永久的に稼働し続けられます』

 この施設用の魔晶球に比べればはるかに小さいので簡単だと思いきや……

『あぁ、魔導人形ゴーレムは大きさに制約があるゆえ、刻む魔法陣も微細化する必要があります。あと研究の結果、魔法陣を描く線にも魔術式を刻み込めるのが分かりましたから、その技術も使いましょう』

 全く簡単な作業ではなくなったようだ。

『まず投射イメージを収束させるレンズを作ります。そしてその上に、下地と線を反転させた設計図を展開し、更にその上から魔法陣を焼き付ける光を投射することで、設計図を縮小させながら魔晶球に焼き付けることができます。算術魔法式は〈収束コンバージェント〉、〈転写乾板フォトマスク〉、〈露光体エクスポージャー〉、〈焼き付けプリンティング〉です』

 ツルツルに磨き上げられた魔晶球が転がらないように、研磨された細かい削りカスで山を作り、そこに魔晶球を埋め込む。そして眼鏡さんに教えてもらった魔法を順に展開していく。

「〈エグゼキュート実行する クリエイション生成する コンバージェント収束させる レンズ凸透鏡〉」

 水晶球の上に、液体でできた大きなとつレンズが生成される。

「〈エグゼキュート実行する クリエイション生成する フォトマスク転写乾板〉」

 凸レンズの更に上に、凸レンズと同じ大きさの魔法陣が展開される。普段の魔法陣と違い、線と下地が反転されており、魔法陣を構成する線そのものが極小の文字で描かれているようだ。

「〈エグゼキュート実行する クリエイション生成する エクスポージャー露光体〉」

 魔法陣の上に、発光する球体を生成する。その球体が発する光は魔法陣を照らした後凸レンズを通り、魔晶球の一点で魔法陣らしきものが描かれる。
 眼鏡さんの指示に従って、生成したレンズや露光体の高さを調整し、魔法陣を転写する場所を決めていく。

『ここで良いでしょう。後は色を付けて〈焼き付けプリンティング〉するだけです』
「〈エグゼキュート実行する プリンティング焼き付け エクスポージャー露光体 レッド!〉」

 僕が算術魔法式を展開すると、露光体が一瞬だけ強力な赤い光を放つ。予想外の閃光せんこうに僕は目が眩んでしまう。

「め、目がっ!」
『あぁ、すみません。強烈な光を出すから注意してくださいと言い忘れてました』
『言い忘れてましたじゃねぇよ……坊主がかわいそうじゃないか』

 痛む目をぎゅっとつむって視力が回復するのを待ち、恐る恐る目を開けてみると、魔晶球に魔法陣が焼き付けられているのを確認できた。

『これで1層目ができました。〈転写乾板フォトマスク〉を入れ替えながら積層式に魔法陣を焼き付けていきましょう。これらの魔法陣を転写し、それぞれの役割を持たせた魔晶球をオーブと呼びます』

 そして僕は二度と光を直視しないようにしながら、魔晶球に魔法陣を焼き付けていくのだった。


「これで最後かな?」

 7つ目の魔法陣を焼き付けた魔晶球オーブが出来上がり、僕は一息つく。1つ当たり10層以上の魔法陣を少しずつずらしながら焼き付けていくのは、かなり骨の折れる作業だった。
 それぞれの魔晶球オーブの中の魔法陣は、赤、青、緑、だいだいむらさき、白、黄、とそれぞれが違う色で薄く発光している。

『次は魔導人形ゴーレム本体を作っていきましょう。硬さも必要ですが、自律行動させるために最も大事なのは、四肢ししに正確に命令を届かせる機構です。なので、青藍極鉱アダマンタイトをベースに精霊銀鉱エレメンティウムを通した主骨格を作り上げるのが良さそうです』
青藍極鉱アダマンタイト? 加工できるような結晶なんてあったのか?』
『そうじゃのぅ。そもそも地竜の住処に行かないと手に入らん貴重な鉱石なのじゃが』
『2人の話を聞いて考えてみたところ、実は入手はそんなに難しくないことが分かったのですよ。青藍極鉱アダマンタイトを含有する鉱石はかなりあるのですが、加工できる製錬済み青藍極鉱アダマンタイトがかなり少ないため、希少鉱石レアメタルと認識されているようで』
『何と……では、ここいらが地竜の住処だったということかの?』

 次は青藍極鉱アダマンタイトを鍛えるらしい。さも当たり前のように言っているが、青藍極鉱アダマンタイトは物凄く硬くてびず、武具には最適な金属で、ものによっては国宝としても扱われるくらいだ。遺跡とかでまれに見つかった武具を一流の冒険者が使っているとも聞いている。

『地竜の住処ではないですよ? とりあえず隣の鉱石倉庫に鉱石がそれなりにありましたので、持ってきてください。青黒くて、見た目に反してとても重い鉱石です。あとあわい緑色に発光している石もお願いします』

 隣の鉱石倉庫で〈詳細検索ディティールサーチ〉を使うと、確かにかなりの鉱石が反応を示す。

『あー、それか。そりゃゴロゴロしてるわな。確かにそれは青藍極鉱アダマンタイト鉱石だぜ? 火に入れても溶けやしないんで加工できん代物だがな。加工できるのは青く結晶化したやつだけなんだ』
『儂の記憶でも青藍極鉱アダマンタイトは青い結晶だったのぅ』

 僕は青藍極鉱アダマンタイト鉱石を手に取ってみる。確かに青黒い石で、見た目以上の重さがある。

『そいつだが、まぁ温度を上げれば外側の不純物は取り除ける。だが青藍極鉱アダマンタイト自体は温度を上げただけじゃ、全く溶解しないから、中に入り込んだ不純物が取り除けないんだよ。だから、不純物の入っていない青藍極鉱アダマンタイトの結晶体でないと加工は不可能だ』
『凡人の頭ではそれが限界でしょう。では青藍極鉱アダマンタイトの結晶体はどこで手に入りますか?』

 筋肉さんが断言するのを、眼鏡さんは冷ややかな目で見ながら質問を重ねる。

『そりゃ、爺さんが言うように地竜の住処だろ?』
『はい。じゃあ何で地竜の住処にしかないんでしょうか?』
『え? そりゃ、地竜が結晶のありかを知って寝床にしているだけじゃないのか?』
『……まぁ、あなたに聞くだけ無駄な話でしたね……龍爺、地竜の竜吼ドラゴンブレスの仕組み、前に教えてくれましたよね?』

 眼鏡さんは筋肉さんから視線を外すと、龍爺さんの方に向ける。

『うむ。地竜の竜吼ドラゴンブレス燐光石りんこうせきを粉末状にし、空気中に吹き付けることで発火させる方式をとっているはずじゃ』
『そうです、その燐光石の粉末がきもなんですよ。燐光石の粉末が燃え上がる時、かすかな量ですが目に見えない粒子りゅうしを発生させます。その粒子が青藍極鉱アダマンタイトに結合すると、青藍極鉱アダマンタイトが熱で溶けるようになり、不純物が取り除かれ結晶化するのです』
「普通の竜吼ドラゴンブレスと違うの?」

 眼鏡さんの質問に龍爺さんが答えるのを聞いて、僕もふと疑問を口にする。

『えぇ、例えば炎竜の竜吼ドラゴンブレスですが、話を聞いている限り主成分はブタンガスのようです。これを圧縮し液化させて溜め込んであり、竜吼ドラゴンブレスを使う時には、気化させてから着火しているようです。ガスを保持し続けるために液化しており、その沸点がマイナス0・5℃となっていて、寒いところではなかなか気化しないため、炎竜は寒い環境下では竜吼ドラゴンブレスを吐きにくくなっているようです。寒冷地に生息する氷竜はプロパンガスを使っているようで、沸点がマイナス42℃のため、寒いところでも竜吼ドラゴンブレスが吐けるようです。風竜は圧縮酸素を使っているみたいですね』

 僕の質問に眼鏡さんがスラスラと答えていく。竜吼ドラゴンブレスといっても種族ごとに仕組みが違うようだ。しかし今回の目的である地竜の竜吼ドラゴンブレスだけではなく、炎竜、氷竜、風竜のものまで調べているのは、知識欲旺盛おうせいな眼鏡さんっぽいなぁと思う。


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。