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3巻
3-2
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「駄目だ。と言いたいところだが、止めたとしても他の予想外の方法をとられても困るし、魔蟲将の脅威を排除する方法は私には思いつかないからね。アル君のやらかしはこの施設のみと限定し、この施設を他者の目に触れないようにすることで秘密を守るのが、最善になるだろうな……」
「魔蟲将みたいな敵がゴロゴロいたら世界の終わりだと思うけどね」
カイゼルが顎に手を当てながら呟き、リアが冗談めかして言う。
「ウォルト、どうだ?」
カイゼルはウォルトに視線を向ける。
「強すぎる力には責任が伴う。責任を負えないのであれば強い力を持つべきではない――というのが、俺の信念だ。だからアルカードの心持ち、覚悟が気になっている。とはいえ、皆が言うように魔蟲将のような敵に襲われた時、自衛できない弱さは致命的だ。諸手を挙げて賛成はできないが、魔蟲将を相手取るための手段を得るレベルまでの限定的な拡張は必要だ……と俺は考えている」
「私もその意見だ。本来ならもっと権限と責任を持つ者に決めてもらいたいところだが、それもそれで政治的、軍事的な絡みが大きくなって問題になりそうだ。まずはアル君、君の気持ちが知りたい」
「僕は……みんなに無事でいてもらいたいだけです。この力を使って悪いことをする気はありません」
「それはそうなんだろう。今までの行動を見ていても、私利私欲で使っているようには見えないからね」
「でも、危ういな……実際夏休みにエストリアが危機に陥った時に、激情を抑えきれず、敵を殺しかけたことからも分かる。もしもクラスメイトや家族など大事な人を盾にして脅されたら、屈してしまう弱さだ。とはいえ、それに屈しない意思を持てというのは、現時点では無茶な話だろう。とりあえず、俺たち以外への口外と部外者の立ち入りを禁止し、情報の漏洩を防ぐ……といったところか。できるか? アルカード」
ウォルトとカイゼルが話し合い、対応方法を模索する。立ち入り禁止の件については、階段の下に入館用の扉を設置すれば可能ではないかと、僕の中の眼鏡さんも言ってくれたので、僕はウォルトの言葉に頷く。
「ではアル君、良識の範囲内でほどほどの対応で……ってあまり期待できないかな、これは」
「あ、うん。注意しながらやってみる」
カイゼルから許可を得た僕は頷く。
「じゃあ、しばらくは工事で訓練施設も使えないのか、できても素振りと模擬戦くらいか」
「模擬戦か⁉ 翠はオスローとやってみたいのだ!」
「オレはアルじゃねぇから、相手にならないと思うぞ?」
「アルと一緒に練習してオスローも相当強くなっているのを感じるのだ! 1回戦ってみるのだ!」
「確かに、アルとの組み手ではかなりやるようになってたわね。私も負けてられないから、一緒させてもらいたいわ」
「おう、一緒にやろうぜ」
オスローと翠、リアは近接戦闘の模擬戦で訓練するようだ。
「訓練施設が使えないなら……わ、私は、どう、しようかな……」
「あ、キーナは鋼の延べ棒加工をしてくれると助かる。ゾッドさんから毎月納品して欲しいって頼まれてるんだ。魔法の訓練にもなるし」
「い、いいの? な、なら、やりたい、です」
「なんや、鋼の延べ棒加工って金の匂いがプンプンしとるやないか。ウチはそっちを手伝わせてもらうわ」
キーナとイーリスは鋼の延べ棒加工をしてくれるようだ。これでゾッドさんから依頼されている作業は安心できる。
「俺らは情報収集だな。旅行中のことや、あそこの動きも気になるし」
「そうだね。そういったことは私たちの役割だろう」
ウォルトとカイゼルの方針も決まり、僕たちは地下施設から出る。メンバーは各々決めた行動のために早速移動し、残ったキーナとイーリスに僕は、魔法の訓練施設にて〈供給酸素〉の魔法を教えるのだった。
〈供給酸素〉は、見た目には何も変化のない地味な魔法だ。そしてこの世界では解明されていない酸素という元素を使うことを2人に伝えようとしたのだが、どうにもこうにも上手くいかない。
僕は炎を灯した蝋燭を使い、蝋燭を密閉すると火が消える現象と、〈供給酸素〉の魔法を使うと炎の勢いが強くなるのを見せることで、空気中の酸素が炎の燃焼を補助する効果を理解してもらおうとする。
目の前で見せたことにより、2人は〈供給酸素〉の魔法で蝋燭の炎の勢いを増すことができるようになるのだった。
昼過ぎに3人で寮に戻り、遅めの昼食を食べた後、ゾッドさんの工房に向かう。
工房の店員さんに許可をもらい裏手に回ると、共有の鍛冶場でゾッドさんが弟子に指導をしていた。
「おう! 来たか」
「こんにちは。今日は僕のクラスメイトを連れてきました。鋼の延べ棒加工をできればと」
「おぉ? この嬢ちゃんたちがか?」
「はい。とても優秀な仲間たちです」
僕がゾッドさんの元に近付くと、気が付いたゾッドさんが手を上げながら挨拶してくる。僕が仲間を紹介すると少し眉をひそめたが、僕は笑みを浮かべて太鼓判を押す。
「少し練習させてもらえればできるようになると思うので、鍛冶場を貸してもらえますか?」
「おぅ、いいぜ。破壊しなきゃな」
「し、しませんよ」
「信じられねぇが、まぁいい。建て直したあそこを使え」
ゾッドさんは、以前僕が破壊した建屋の跡地にある、新しい建屋を指さす。
「ありがとうございます」
僕はお礼を言うと、新しくなった鍛冶場を借りることにする。
「アルはん……ここでもやらかしたんか?」
「え、い、いや……その……」
建屋に入ると、イーリスが良いネタを見つけたとばかりに、好奇心たっぷりの琥珀色の瞳を輝かせる。
「ちょ、ちょっと……手違いで建屋を1つ壊しちゃっただけ……だよ」
「ちょっとした手違いで建屋を破壊ねぇ……どうやったらそんなことができるんか、ホンマ謎やわ」
「ア、アル君、ですから」
「まぁ、そうやな。アルはんやからな」
ワタワタしている僕をニヤニヤと眺めながらも納得するイーリス。
「じゃ、じゃあやってみようか。まず僕がやってみせるのでよく見てて」
僕は新しい鍛冶場の炉に〈加熱炉〉の魔法で火を入れて、鉄鉱石を放り込み銑鉄を作る。炉の温度は1000℃を超えているため、室温も相当なものだ。僕は自分と2人に〈炎熱耐性向上〉を掛けて暑さに耐えられるようにする。
「手伝う時はこの銑鉄が出来上がってからだと思うので、ここまでの工程は特に覚えておかなくてもいいはずだよ」
僕はドロドロになった鉄鉱石の塊である銑鉄を掻き出しながら説明し、それを冷ましていくと、黒い金属塊が出来上がる。
「次にこの銑鉄を石灰と一緒に熱していく時に、〈供給酸素〉の魔法が必要になるんだ」
一旦鉄鉱石を全て掻き出した炉に、冷めた黒い金属塊を入れて再び加熱していく。高熱に曝された銑鉄は赤熱していく。
「そろそろかな。〈大気よ 炎を補助する糧となれ! 供給酸素!〉」
僕は手を銑鉄に向けて魔法を発動する。赤熱していた銑鉄が一気に白熱化し、強烈な光を発する。
「な、なんやっ!」
「ま、眩しい、です!」
直視してしまった2人はあまりの眩しさに目が眩んでしまったようだ。しまった、最初に言っておくべきだった。
「全く、酷い目に遭ったで、アルはん。こりゃ、アルはんにはお詫びしてもらわんと」
「あ、いや。ごめんなさい……」
「あははは。冗談や冗談。しっかし、えっぐいわ、これ。なんやこの純度」
「み、磨き上げられた鏡みたいで、す、凄く綺麗です」
豪快に笑った後、出来上がった鋼の延べ棒を見たイーリスの目が真剣味を帯びる。キーナは頬を紅潮させて、興奮しながら完成品を見つめている。
「じゃ、じゃあやってみようか」
「は、はいっ!」
「やろか」
その後は、僕の実演でイメージを補完させながら、銑鉄に、2人は何度も何度も〈供給酸素〉の魔法を発動させていった。
日が暮れる頃には、何とか期待通りの純度の鋼の延べ棒を作れるようになったのだった。
これで、僕以外でも鋼の延べ棒を供給できるようになったので、ゾッドさんの依頼も簡単にこなせるようになるだろう。
僕の作製した分の鋼の延べ棒への報酬で、クラスメイトへのお土産も含めて屋台で軽食や飲み物を買う。実際に作業して疲れ果てた2人とは、少し行儀が悪いけど食べながら帰った。
体力も魔力も相当消費したので、軽食を摂ったとしても夕飯には影響がないだろうからね。
第02話 素材加工
寮に戻り、風呂や夕飯を済ませて自室に戻ると、日中ほったらかしにされていたグランが、飛び跳ねながら僕に寄ってくる。
「ほうっておいて、ごめんね」
「キュキューキュキュィ(気にしなくて良いのである)」
僕は椅子に腰かけると、指でグランの背を梳いてあげたり、手や足や口の届かないところを搔いてあげたりする。そのふわふわで軽く柔らかい毛のせいで乱獲されていた跳びネズミは、触っていて心地よい。
掻かれているグランも気持ち良い様子で、目を細めてこちらに身を委ねている。
「そっちは上手くいったのか?」
グランを撫でている僕にオスローが話しかけてくる。
「あ、うん。2人とも高品質な鋼の延べ棒を作れるようになってくれたよ」
「そうか、そういやそれ、結構実入りがいいんだっけか?」
「うん。求められている高品質の鋼は、普通の製錬方法だと鉄1㎏あたり50gしか取れないんだけど、〈供給酸素〉を使った方法だと1㎏全部が高品質の鋼になるから、成果としては20倍あるって言ってたよ。だから金貨10枚払っても惜しくないってさ」
「金貨10枚だって⁉」
こっちの成果を話したところ、収入のところでひどく驚かれる。
「お前、金貨10枚って言ったら、うちのパン屋1ヶ月分以上の売り上げじゃねぇか! それを何本納品するんだ?」
「えっと……確か24㎏って言ってたから24本?」
「う、うちの稼ぎの2年分以上を1ヶ月で……」
オスローがガクっと項垂れる。そして、数秒の間を置くとガバっと顔を上げ、僕の肩を掴んでくる。
「オレにも教えてくれ‼」
こうして僕はオスローにも〈供給酸素〉の魔法を教えることになるのだった……って、結局カイゼルとウォルト、リアにも知られて、全員に教えることになったんだけど。
実は僕たちが高品質の鋼を納品するようになって、アインツ周辺の害獣被害が激減したらしいが、それを知るのはずっと先の話だ。
翌朝、身支度を整えた僕は地下施設に向かう。今日から施設拡張の作業に入るからだ。何をやるかも分からないので、グランは部屋でお留守番だ。ゆっくり寝床を堪能するらしい。
魔法訓練施設から地下に降り、綺麗に磨き上げた石が一面に敷き詰められた施設に入っていく。
『まずは核となるユニットを作りたい。鉱石倉庫に行って素材を見繕ってください』
『何を作るつもりじゃ?』
『施設構築の魔法では備え付けの設備までしか作れませんし、拡張やメンテナンスを全て少年が行うのは現実的ではありません』
『そもそもこんな施設を作ること自体が想定外だがな』
『なので、自律して施設を拡張しメンテナンスを行う存在。すなわち魔導人形を製造しようと思います』
『まぁ大小や性能は様々じゃが、生活のサポートとして魔導人形を使うのは、高レベルの魔術士にとって当たり前じゃからな』
『そうです。ですが自律して動作するとなると、多様な機能を入れ込む必要がありますね。ということで拳大の魔晶石を2つ、直径が小指くらいの魔晶石を5つ見つけてください』
3人の話を聞きながら施設を歩き、鉱石倉庫に着くと、言われた通りの魔晶石を探す。〈詳細検索〉の魔法を使い、魔晶石のありかを特定し、様々な鉱石を除けながら目的のものを見つける。
『大きいのは主動力と思考モジュールとして、小さいのは補助動力、展開式ユニット、戦闘モジュール、統括モジュール、記憶モジュールとして使います。それぞれ複雑な積層型魔法陣を付与しますので、いつもの通りの魔晶球を生成してください』
「うん。いつものでいいんだね」
魔晶球とは、魔晶石を素材にした球体のことだ。
『はい。後で嵌め込む形になるので、大きさは統一してください。大きいのは直径8㎝、小さいのは5㎝で』
僕は眼鏡さんに言われた通り、〈研磨〉の魔法で魔晶石を球形に研磨していく。もう何度もやった作業になるので問題なく作ることができた。
『さて、大小7つの魔晶球にそれぞれ違う魔法陣を刻んでいきます。どれがどれだか分からなくなってしまうので、魔法陣を描く色も変えていきましょう。まずは主動力。これはこの施設に埋め込んだものと同様に、周辺の魔素を集めて魔力に変換し、出力する機構です。この機構を組み込むことで、周辺に魔素があれば永久的に稼働し続けられます』
この施設用の魔晶球に比べればはるかに小さいので簡単だと思いきや……
『あぁ、魔導人形は大きさに制約がある故、刻む魔法陣も微細化する必要があります。あと研究の結果、魔法陣を描く線にも魔術式を刻み込めるのが分かりましたから、その技術も使いましょう』
全く簡単な作業ではなくなったようだ。
『まず投射イメージを収束させるレンズを作ります。そしてその上に、下地と線を反転させた設計図を展開し、更にその上から魔法陣を焼き付ける光を投射することで、設計図を縮小させながら魔晶球に焼き付けることができます。算術魔法式は〈収束〉、〈転写乾板〉、〈露光体〉、〈焼き付け〉です』
ツルツルに磨き上げられた魔晶球が転がらないように、研磨された細かい削りカスで山を作り、そこに魔晶球を埋め込む。そして眼鏡さんに教えてもらった魔法を順に展開していく。
「〈エグゼキュート クリエイション コンバージェント レンズ〉」
水晶球の上に、液体でできた大きな凸レンズが生成される。
「〈エグゼキュート クリエイション フォトマスク〉」
凸レンズの更に上に、凸レンズと同じ大きさの魔法陣が展開される。普段の魔法陣と違い、線と下地が反転されており、魔法陣を構成する線そのものが極小の文字で描かれているようだ。
「〈エグゼキュート クリエイション エクスポージャー〉」
魔法陣の上に、発光する球体を生成する。その球体が発する光は魔法陣を照らした後凸レンズを通り、魔晶球の一点で魔法陣らしきものが描かれる。
眼鏡さんの指示に従って、生成したレンズや露光体の高さを調整し、魔法陣を転写する場所を決めていく。
『ここで良いでしょう。後は色を付けて〈焼き付け〉するだけです』
「〈エグゼキュート プリンティング エクスポージャー レッド!〉」
僕が算術魔法式を展開すると、露光体が一瞬だけ強力な赤い光を放つ。予想外の閃光に僕は目が眩んでしまう。
「め、目がっ!」
『あぁ、すみません。強烈な光を出すから注意してくださいと言い忘れてました』
『言い忘れてましたじゃねぇよ……坊主がかわいそうじゃないか』
痛む目をぎゅっと瞑って視力が回復するのを待ち、恐る恐る目を開けてみると、魔晶球に魔法陣が焼き付けられているのを確認できた。
『これで1層目ができました。〈転写乾板〉を入れ替えながら積層式に魔法陣を焼き付けていきましょう。これらの魔法陣を転写し、それぞれの役割を持たせた魔晶球をオーブと呼びます』
そして僕は二度と光を直視しないようにしながら、魔晶球に魔法陣を焼き付けていくのだった。
「これで最後かな?」
7つ目の魔法陣を焼き付けた魔晶球が出来上がり、僕は一息つく。1つ当たり10層以上の魔法陣を少しずつずらしながら焼き付けていくのは、かなり骨の折れる作業だった。
それぞれの魔晶球の中の魔法陣は、赤、青、緑、橙、紫、白、黄、とそれぞれが違う色で薄く発光している。
『次は魔導人形本体を作っていきましょう。硬さも必要ですが、自律行動させるために最も大事なのは、四肢に正確に命令を届かせる機構です。なので、青藍極鉱をベースに精霊銀鉱を通した主骨格を作り上げるのが良さそうです』
『青藍極鉱? 加工できるような結晶なんてあったのか?』
『そうじゃのぅ。そもそも地竜の住処に行かないと手に入らん貴重な鉱石なのじゃが』
『2人の話を聞いて考えてみたところ、実は入手はそんなに難しくないことが分かったのですよ。青藍極鉱を含有する鉱石はかなりあるのですが、加工できる製錬済み青藍極鉱がかなり少ないため、希少鉱石と認識されているようで』
『何と……では、ここいらが地竜の住処だったということかの?』
次は青藍極鉱を鍛えるらしい。さも当たり前のように言っているが、青藍極鉱は物凄く硬くて錆びず、武具には最適な金属で、ものによっては国宝としても扱われるくらいだ。遺跡とかで稀に見つかった武具を一流の冒険者が使っているとも聞いている。
『地竜の住処ではないですよ? とりあえず隣の鉱石倉庫に鉱石がそれなりにありましたので、持ってきてください。青黒くて、見た目に反してとても重い鉱石です。あと淡い緑色に発光している石もお願いします』
隣の鉱石倉庫で〈詳細検索〉を使うと、確かにかなりの鉱石が反応を示す。
『あー、それか。そりゃゴロゴロしてるわな。確かにそれは青藍極鉱鉱石だぜ? 火に入れても溶けやしないんで加工できん代物だがな。加工できるのは青く結晶化したやつだけなんだ』
『儂の記憶でも青藍極鉱は青い結晶だったのぅ』
僕は青藍極鉱鉱石を手に取ってみる。確かに青黒い石で、見た目以上の重さがある。
『そいつだが、まぁ温度を上げれば外側の不純物は取り除ける。だが青藍極鉱自体は温度を上げただけじゃ、全く溶解しないから、中に入り込んだ不純物が取り除けないんだよ。だから、不純物の入っていない青藍極鉱の結晶体でないと加工は不可能だ』
『凡人の頭ではそれが限界でしょう。では青藍極鉱の結晶体はどこで手に入りますか?』
筋肉さんが断言するのを、眼鏡さんは冷ややかな目で見ながら質問を重ねる。
『そりゃ、爺さんが言うように地竜の住処だろ?』
『はい。じゃあ何で地竜の住処にしかないんでしょうか?』
『え? そりゃ、地竜が結晶のありかを知って寝床にしているだけじゃないのか?』
『……まぁ、あなたに聞くだけ無駄な話でしたね……龍爺、地竜の竜吼の仕組み、前に教えてくれましたよね?』
眼鏡さんは筋肉さんから視線を外すと、龍爺さんの方に向ける。
『うむ。地竜の竜吼は燐光石を粉末状にし、空気中に吹き付けることで発火させる方式をとっているはずじゃ』
『そうです、その燐光石の粉末が肝なんですよ。燐光石の粉末が燃え上がる時、微かな量ですが目に見えない粒子を発生させます。その粒子が青藍極鉱に結合すると、青藍極鉱が熱で溶けるようになり、不純物が取り除かれ結晶化するのです』
「普通の竜吼と違うの?」
眼鏡さんの質問に龍爺さんが答えるのを聞いて、僕もふと疑問を口にする。
『えぇ、例えば炎竜の竜吼ですが、話を聞いている限り主成分はブタンガスのようです。これを圧縮し液化させて溜め込んであり、竜吼を使う時には、気化させてから着火しているようです。ガスを保持し続けるために液化しており、その沸点がマイナス0・5℃となっていて、寒いところではなかなか気化しないため、炎竜は寒い環境下では竜吼を吐きにくくなっているようです。寒冷地に生息する氷竜はプロパンガスを使っているようで、沸点がマイナス42℃のため、寒いところでも竜吼が吐けるようです。風竜は圧縮酸素を使っているみたいですね』
僕の質問に眼鏡さんがスラスラと答えていく。竜吼といっても種族ごとに仕組みが違うようだ。しかし今回の目的である地竜の竜吼だけではなく、炎竜、氷竜、風竜のものまで調べているのは、知識欲旺盛な眼鏡さんっぽいなぁと思う。
「魔蟲将みたいな敵がゴロゴロいたら世界の終わりだと思うけどね」
カイゼルが顎に手を当てながら呟き、リアが冗談めかして言う。
「ウォルト、どうだ?」
カイゼルはウォルトに視線を向ける。
「強すぎる力には責任が伴う。責任を負えないのであれば強い力を持つべきではない――というのが、俺の信念だ。だからアルカードの心持ち、覚悟が気になっている。とはいえ、皆が言うように魔蟲将のような敵に襲われた時、自衛できない弱さは致命的だ。諸手を挙げて賛成はできないが、魔蟲将を相手取るための手段を得るレベルまでの限定的な拡張は必要だ……と俺は考えている」
「私もその意見だ。本来ならもっと権限と責任を持つ者に決めてもらいたいところだが、それもそれで政治的、軍事的な絡みが大きくなって問題になりそうだ。まずはアル君、君の気持ちが知りたい」
「僕は……みんなに無事でいてもらいたいだけです。この力を使って悪いことをする気はありません」
「それはそうなんだろう。今までの行動を見ていても、私利私欲で使っているようには見えないからね」
「でも、危ういな……実際夏休みにエストリアが危機に陥った時に、激情を抑えきれず、敵を殺しかけたことからも分かる。もしもクラスメイトや家族など大事な人を盾にして脅されたら、屈してしまう弱さだ。とはいえ、それに屈しない意思を持てというのは、現時点では無茶な話だろう。とりあえず、俺たち以外への口外と部外者の立ち入りを禁止し、情報の漏洩を防ぐ……といったところか。できるか? アルカード」
ウォルトとカイゼルが話し合い、対応方法を模索する。立ち入り禁止の件については、階段の下に入館用の扉を設置すれば可能ではないかと、僕の中の眼鏡さんも言ってくれたので、僕はウォルトの言葉に頷く。
「ではアル君、良識の範囲内でほどほどの対応で……ってあまり期待できないかな、これは」
「あ、うん。注意しながらやってみる」
カイゼルから許可を得た僕は頷く。
「じゃあ、しばらくは工事で訓練施設も使えないのか、できても素振りと模擬戦くらいか」
「模擬戦か⁉ 翠はオスローとやってみたいのだ!」
「オレはアルじゃねぇから、相手にならないと思うぞ?」
「アルと一緒に練習してオスローも相当強くなっているのを感じるのだ! 1回戦ってみるのだ!」
「確かに、アルとの組み手ではかなりやるようになってたわね。私も負けてられないから、一緒させてもらいたいわ」
「おう、一緒にやろうぜ」
オスローと翠、リアは近接戦闘の模擬戦で訓練するようだ。
「訓練施設が使えないなら……わ、私は、どう、しようかな……」
「あ、キーナは鋼の延べ棒加工をしてくれると助かる。ゾッドさんから毎月納品して欲しいって頼まれてるんだ。魔法の訓練にもなるし」
「い、いいの? な、なら、やりたい、です」
「なんや、鋼の延べ棒加工って金の匂いがプンプンしとるやないか。ウチはそっちを手伝わせてもらうわ」
キーナとイーリスは鋼の延べ棒加工をしてくれるようだ。これでゾッドさんから依頼されている作業は安心できる。
「俺らは情報収集だな。旅行中のことや、あそこの動きも気になるし」
「そうだね。そういったことは私たちの役割だろう」
ウォルトとカイゼルの方針も決まり、僕たちは地下施設から出る。メンバーは各々決めた行動のために早速移動し、残ったキーナとイーリスに僕は、魔法の訓練施設にて〈供給酸素〉の魔法を教えるのだった。
〈供給酸素〉は、見た目には何も変化のない地味な魔法だ。そしてこの世界では解明されていない酸素という元素を使うことを2人に伝えようとしたのだが、どうにもこうにも上手くいかない。
僕は炎を灯した蝋燭を使い、蝋燭を密閉すると火が消える現象と、〈供給酸素〉の魔法を使うと炎の勢いが強くなるのを見せることで、空気中の酸素が炎の燃焼を補助する効果を理解してもらおうとする。
目の前で見せたことにより、2人は〈供給酸素〉の魔法で蝋燭の炎の勢いを増すことができるようになるのだった。
昼過ぎに3人で寮に戻り、遅めの昼食を食べた後、ゾッドさんの工房に向かう。
工房の店員さんに許可をもらい裏手に回ると、共有の鍛冶場でゾッドさんが弟子に指導をしていた。
「おう! 来たか」
「こんにちは。今日は僕のクラスメイトを連れてきました。鋼の延べ棒加工をできればと」
「おぉ? この嬢ちゃんたちがか?」
「はい。とても優秀な仲間たちです」
僕がゾッドさんの元に近付くと、気が付いたゾッドさんが手を上げながら挨拶してくる。僕が仲間を紹介すると少し眉をひそめたが、僕は笑みを浮かべて太鼓判を押す。
「少し練習させてもらえればできるようになると思うので、鍛冶場を貸してもらえますか?」
「おぅ、いいぜ。破壊しなきゃな」
「し、しませんよ」
「信じられねぇが、まぁいい。建て直したあそこを使え」
ゾッドさんは、以前僕が破壊した建屋の跡地にある、新しい建屋を指さす。
「ありがとうございます」
僕はお礼を言うと、新しくなった鍛冶場を借りることにする。
「アルはん……ここでもやらかしたんか?」
「え、い、いや……その……」
建屋に入ると、イーリスが良いネタを見つけたとばかりに、好奇心たっぷりの琥珀色の瞳を輝かせる。
「ちょ、ちょっと……手違いで建屋を1つ壊しちゃっただけ……だよ」
「ちょっとした手違いで建屋を破壊ねぇ……どうやったらそんなことができるんか、ホンマ謎やわ」
「ア、アル君、ですから」
「まぁ、そうやな。アルはんやからな」
ワタワタしている僕をニヤニヤと眺めながらも納得するイーリス。
「じゃ、じゃあやってみようか。まず僕がやってみせるのでよく見てて」
僕は新しい鍛冶場の炉に〈加熱炉〉の魔法で火を入れて、鉄鉱石を放り込み銑鉄を作る。炉の温度は1000℃を超えているため、室温も相当なものだ。僕は自分と2人に〈炎熱耐性向上〉を掛けて暑さに耐えられるようにする。
「手伝う時はこの銑鉄が出来上がってからだと思うので、ここまでの工程は特に覚えておかなくてもいいはずだよ」
僕はドロドロになった鉄鉱石の塊である銑鉄を掻き出しながら説明し、それを冷ましていくと、黒い金属塊が出来上がる。
「次にこの銑鉄を石灰と一緒に熱していく時に、〈供給酸素〉の魔法が必要になるんだ」
一旦鉄鉱石を全て掻き出した炉に、冷めた黒い金属塊を入れて再び加熱していく。高熱に曝された銑鉄は赤熱していく。
「そろそろかな。〈大気よ 炎を補助する糧となれ! 供給酸素!〉」
僕は手を銑鉄に向けて魔法を発動する。赤熱していた銑鉄が一気に白熱化し、強烈な光を発する。
「な、なんやっ!」
「ま、眩しい、です!」
直視してしまった2人はあまりの眩しさに目が眩んでしまったようだ。しまった、最初に言っておくべきだった。
「全く、酷い目に遭ったで、アルはん。こりゃ、アルはんにはお詫びしてもらわんと」
「あ、いや。ごめんなさい……」
「あははは。冗談や冗談。しっかし、えっぐいわ、これ。なんやこの純度」
「み、磨き上げられた鏡みたいで、す、凄く綺麗です」
豪快に笑った後、出来上がった鋼の延べ棒を見たイーリスの目が真剣味を帯びる。キーナは頬を紅潮させて、興奮しながら完成品を見つめている。
「じゃ、じゃあやってみようか」
「は、はいっ!」
「やろか」
その後は、僕の実演でイメージを補完させながら、銑鉄に、2人は何度も何度も〈供給酸素〉の魔法を発動させていった。
日が暮れる頃には、何とか期待通りの純度の鋼の延べ棒を作れるようになったのだった。
これで、僕以外でも鋼の延べ棒を供給できるようになったので、ゾッドさんの依頼も簡単にこなせるようになるだろう。
僕の作製した分の鋼の延べ棒への報酬で、クラスメイトへのお土産も含めて屋台で軽食や飲み物を買う。実際に作業して疲れ果てた2人とは、少し行儀が悪いけど食べながら帰った。
体力も魔力も相当消費したので、軽食を摂ったとしても夕飯には影響がないだろうからね。
第02話 素材加工
寮に戻り、風呂や夕飯を済ませて自室に戻ると、日中ほったらかしにされていたグランが、飛び跳ねながら僕に寄ってくる。
「ほうっておいて、ごめんね」
「キュキューキュキュィ(気にしなくて良いのである)」
僕は椅子に腰かけると、指でグランの背を梳いてあげたり、手や足や口の届かないところを搔いてあげたりする。そのふわふわで軽く柔らかい毛のせいで乱獲されていた跳びネズミは、触っていて心地よい。
掻かれているグランも気持ち良い様子で、目を細めてこちらに身を委ねている。
「そっちは上手くいったのか?」
グランを撫でている僕にオスローが話しかけてくる。
「あ、うん。2人とも高品質な鋼の延べ棒を作れるようになってくれたよ」
「そうか、そういやそれ、結構実入りがいいんだっけか?」
「うん。求められている高品質の鋼は、普通の製錬方法だと鉄1㎏あたり50gしか取れないんだけど、〈供給酸素〉を使った方法だと1㎏全部が高品質の鋼になるから、成果としては20倍あるって言ってたよ。だから金貨10枚払っても惜しくないってさ」
「金貨10枚だって⁉」
こっちの成果を話したところ、収入のところでひどく驚かれる。
「お前、金貨10枚って言ったら、うちのパン屋1ヶ月分以上の売り上げじゃねぇか! それを何本納品するんだ?」
「えっと……確か24㎏って言ってたから24本?」
「う、うちの稼ぎの2年分以上を1ヶ月で……」
オスローがガクっと項垂れる。そして、数秒の間を置くとガバっと顔を上げ、僕の肩を掴んでくる。
「オレにも教えてくれ‼」
こうして僕はオスローにも〈供給酸素〉の魔法を教えることになるのだった……って、結局カイゼルとウォルト、リアにも知られて、全員に教えることになったんだけど。
実は僕たちが高品質の鋼を納品するようになって、アインツ周辺の害獣被害が激減したらしいが、それを知るのはずっと先の話だ。
翌朝、身支度を整えた僕は地下施設に向かう。今日から施設拡張の作業に入るからだ。何をやるかも分からないので、グランは部屋でお留守番だ。ゆっくり寝床を堪能するらしい。
魔法訓練施設から地下に降り、綺麗に磨き上げた石が一面に敷き詰められた施設に入っていく。
『まずは核となるユニットを作りたい。鉱石倉庫に行って素材を見繕ってください』
『何を作るつもりじゃ?』
『施設構築の魔法では備え付けの設備までしか作れませんし、拡張やメンテナンスを全て少年が行うのは現実的ではありません』
『そもそもこんな施設を作ること自体が想定外だがな』
『なので、自律して施設を拡張しメンテナンスを行う存在。すなわち魔導人形を製造しようと思います』
『まぁ大小や性能は様々じゃが、生活のサポートとして魔導人形を使うのは、高レベルの魔術士にとって当たり前じゃからな』
『そうです。ですが自律して動作するとなると、多様な機能を入れ込む必要がありますね。ということで拳大の魔晶石を2つ、直径が小指くらいの魔晶石を5つ見つけてください』
3人の話を聞きながら施設を歩き、鉱石倉庫に着くと、言われた通りの魔晶石を探す。〈詳細検索〉の魔法を使い、魔晶石のありかを特定し、様々な鉱石を除けながら目的のものを見つける。
『大きいのは主動力と思考モジュールとして、小さいのは補助動力、展開式ユニット、戦闘モジュール、統括モジュール、記憶モジュールとして使います。それぞれ複雑な積層型魔法陣を付与しますので、いつもの通りの魔晶球を生成してください』
「うん。いつものでいいんだね」
魔晶球とは、魔晶石を素材にした球体のことだ。
『はい。後で嵌め込む形になるので、大きさは統一してください。大きいのは直径8㎝、小さいのは5㎝で』
僕は眼鏡さんに言われた通り、〈研磨〉の魔法で魔晶石を球形に研磨していく。もう何度もやった作業になるので問題なく作ることができた。
『さて、大小7つの魔晶球にそれぞれ違う魔法陣を刻んでいきます。どれがどれだか分からなくなってしまうので、魔法陣を描く色も変えていきましょう。まずは主動力。これはこの施設に埋め込んだものと同様に、周辺の魔素を集めて魔力に変換し、出力する機構です。この機構を組み込むことで、周辺に魔素があれば永久的に稼働し続けられます』
この施設用の魔晶球に比べればはるかに小さいので簡単だと思いきや……
『あぁ、魔導人形は大きさに制約がある故、刻む魔法陣も微細化する必要があります。あと研究の結果、魔法陣を描く線にも魔術式を刻み込めるのが分かりましたから、その技術も使いましょう』
全く簡単な作業ではなくなったようだ。
『まず投射イメージを収束させるレンズを作ります。そしてその上に、下地と線を反転させた設計図を展開し、更にその上から魔法陣を焼き付ける光を投射することで、設計図を縮小させながら魔晶球に焼き付けることができます。算術魔法式は〈収束〉、〈転写乾板〉、〈露光体〉、〈焼き付け〉です』
ツルツルに磨き上げられた魔晶球が転がらないように、研磨された細かい削りカスで山を作り、そこに魔晶球を埋め込む。そして眼鏡さんに教えてもらった魔法を順に展開していく。
「〈エグゼキュート クリエイション コンバージェント レンズ〉」
水晶球の上に、液体でできた大きな凸レンズが生成される。
「〈エグゼキュート クリエイション フォトマスク〉」
凸レンズの更に上に、凸レンズと同じ大きさの魔法陣が展開される。普段の魔法陣と違い、線と下地が反転されており、魔法陣を構成する線そのものが極小の文字で描かれているようだ。
「〈エグゼキュート クリエイション エクスポージャー〉」
魔法陣の上に、発光する球体を生成する。その球体が発する光は魔法陣を照らした後凸レンズを通り、魔晶球の一点で魔法陣らしきものが描かれる。
眼鏡さんの指示に従って、生成したレンズや露光体の高さを調整し、魔法陣を転写する場所を決めていく。
『ここで良いでしょう。後は色を付けて〈焼き付け〉するだけです』
「〈エグゼキュート プリンティング エクスポージャー レッド!〉」
僕が算術魔法式を展開すると、露光体が一瞬だけ強力な赤い光を放つ。予想外の閃光に僕は目が眩んでしまう。
「め、目がっ!」
『あぁ、すみません。強烈な光を出すから注意してくださいと言い忘れてました』
『言い忘れてましたじゃねぇよ……坊主がかわいそうじゃないか』
痛む目をぎゅっと瞑って視力が回復するのを待ち、恐る恐る目を開けてみると、魔晶球に魔法陣が焼き付けられているのを確認できた。
『これで1層目ができました。〈転写乾板〉を入れ替えながら積層式に魔法陣を焼き付けていきましょう。これらの魔法陣を転写し、それぞれの役割を持たせた魔晶球をオーブと呼びます』
そして僕は二度と光を直視しないようにしながら、魔晶球に魔法陣を焼き付けていくのだった。
「これで最後かな?」
7つ目の魔法陣を焼き付けた魔晶球が出来上がり、僕は一息つく。1つ当たり10層以上の魔法陣を少しずつずらしながら焼き付けていくのは、かなり骨の折れる作業だった。
それぞれの魔晶球の中の魔法陣は、赤、青、緑、橙、紫、白、黄、とそれぞれが違う色で薄く発光している。
『次は魔導人形本体を作っていきましょう。硬さも必要ですが、自律行動させるために最も大事なのは、四肢に正確に命令を届かせる機構です。なので、青藍極鉱をベースに精霊銀鉱を通した主骨格を作り上げるのが良さそうです』
『青藍極鉱? 加工できるような結晶なんてあったのか?』
『そうじゃのぅ。そもそも地竜の住処に行かないと手に入らん貴重な鉱石なのじゃが』
『2人の話を聞いて考えてみたところ、実は入手はそんなに難しくないことが分かったのですよ。青藍極鉱を含有する鉱石はかなりあるのですが、加工できる製錬済み青藍極鉱がかなり少ないため、希少鉱石と認識されているようで』
『何と……では、ここいらが地竜の住処だったということかの?』
次は青藍極鉱を鍛えるらしい。さも当たり前のように言っているが、青藍極鉱は物凄く硬くて錆びず、武具には最適な金属で、ものによっては国宝としても扱われるくらいだ。遺跡とかで稀に見つかった武具を一流の冒険者が使っているとも聞いている。
『地竜の住処ではないですよ? とりあえず隣の鉱石倉庫に鉱石がそれなりにありましたので、持ってきてください。青黒くて、見た目に反してとても重い鉱石です。あと淡い緑色に発光している石もお願いします』
隣の鉱石倉庫で〈詳細検索〉を使うと、確かにかなりの鉱石が反応を示す。
『あー、それか。そりゃゴロゴロしてるわな。確かにそれは青藍極鉱鉱石だぜ? 火に入れても溶けやしないんで加工できん代物だがな。加工できるのは青く結晶化したやつだけなんだ』
『儂の記憶でも青藍極鉱は青い結晶だったのぅ』
僕は青藍極鉱鉱石を手に取ってみる。確かに青黒い石で、見た目以上の重さがある。
『そいつだが、まぁ温度を上げれば外側の不純物は取り除ける。だが青藍極鉱自体は温度を上げただけじゃ、全く溶解しないから、中に入り込んだ不純物が取り除けないんだよ。だから、不純物の入っていない青藍極鉱の結晶体でないと加工は不可能だ』
『凡人の頭ではそれが限界でしょう。では青藍極鉱の結晶体はどこで手に入りますか?』
筋肉さんが断言するのを、眼鏡さんは冷ややかな目で見ながら質問を重ねる。
『そりゃ、爺さんが言うように地竜の住処だろ?』
『はい。じゃあ何で地竜の住処にしかないんでしょうか?』
『え? そりゃ、地竜が結晶のありかを知って寝床にしているだけじゃないのか?』
『……まぁ、あなたに聞くだけ無駄な話でしたね……龍爺、地竜の竜吼の仕組み、前に教えてくれましたよね?』
眼鏡さんは筋肉さんから視線を外すと、龍爺さんの方に向ける。
『うむ。地竜の竜吼は燐光石を粉末状にし、空気中に吹き付けることで発火させる方式をとっているはずじゃ』
『そうです、その燐光石の粉末が肝なんですよ。燐光石の粉末が燃え上がる時、微かな量ですが目に見えない粒子を発生させます。その粒子が青藍極鉱に結合すると、青藍極鉱が熱で溶けるようになり、不純物が取り除かれ結晶化するのです』
「普通の竜吼と違うの?」
眼鏡さんの質問に龍爺さんが答えるのを聞いて、僕もふと疑問を口にする。
『えぇ、例えば炎竜の竜吼ですが、話を聞いている限り主成分はブタンガスのようです。これを圧縮し液化させて溜め込んであり、竜吼を使う時には、気化させてから着火しているようです。ガスを保持し続けるために液化しており、その沸点がマイナス0・5℃となっていて、寒いところではなかなか気化しないため、炎竜は寒い環境下では竜吼を吐きにくくなっているようです。寒冷地に生息する氷竜はプロパンガスを使っているようで、沸点がマイナス42℃のため、寒いところでも竜吼が吐けるようです。風竜は圧縮酸素を使っているみたいですね』
僕の質問に眼鏡さんがスラスラと答えていく。竜吼といっても種族ごとに仕組みが違うようだ。しかし今回の目的である地竜の竜吼だけではなく、炎竜、氷竜、風竜のものまで調べているのは、知識欲旺盛な眼鏡さんっぽいなぁと思う。
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