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3巻

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 第01話 2学期の準備

 僕――アルカード・ヴァルトシュタイン――は、アインツ総合学園統合学科の1年生。その初めての夏休みは、伝説の生き物やら猛獣やらと遭遇してばかりの、トラブル尽くしの日々となっていた。
 実家に帰省すれば多頭毒蛇ヒュドラに遭遇し、友達と旅行すれば灼熱飛竜フレアワイバーン魔蟲将インセクトジェネラルと戦う羽目に……。特に魔蟲将インセクトジェネラルは魔法も物理攻撃も効きづらい相手で、退しりぞけるのに苦労した。
 1学期中も事件ばかりだったけど、何だかだんだん危険度が上がっているような気がする。
 もちろん楽しいこともあったんだけどね。


 そんな様々な事件を切り抜けた僕は、7人のクラスメイトと共に、リア――エストリア・フォン・ヒルデガルド――の実家から、行きと同様に5日間かけてアインツ総合学園に帰ってきていた。盛り沢山だくさんの夏休みだったこともあり、日程はかなり押していて、学園に着いたのは2学期が始まる3日前の夕方だった。
 僕たちは学園の入り口の前で、馬車から荷物を降ろし、御者さんにお礼を言って見送ると荷物を持って学園寮へと向かう。

「皆さま、お帰りなさいませ。良い休みを満喫まんきつされたようですね」

 学園寮に戻った僕たちを寮母りょうぼのグレイスさんが、いつも通り丁寧に迎え入れてくれる。

「夕食はお済みでしょうか?」
「時間が微妙なのでまだ摂っていなくてね」
「簡単なもので良ければ用意できますが?」
「それは助かるよ。長旅で疲れていて、荷物を置いてからまた町に繰り出すのはおっくうだったからね。みんなも良いかい?」

 グレイスさんの気遣いにまとめ役のカイゼルが答えつつ、みんなに目を配る。みんなは馬車に座っていたとはいえ、かなり疲労していたらしく、グレイスさんの気遣いを受け入れる。

「じゃあ、お願いできるかな?」
かしこまりました。では、先にお風呂ふろにお入りください……と言いたいところですが、皆さまがいつ帰ってくるか分からなかったので用意しきれていませんでした」

 グレイスさんが申し訳なさそうに言う。

「だったら、僕が用意するよ」
「わ、私も、て、手伝います」

 僕が手を上げると、少し遅れて魔法に熱心なキーナも手を上げる。お風呂のお湯だけだったら水魔法と火魔法で用意できるからね。

「着いたのかー?」
「えぇ、スイちゃん。学園寮よ」

 リアに背負われていた、実はドラゴンの少女である翠が、目をゴシゴシ擦りながら、まだ眠たそうな声で聞く。背負っていたリアが答えながら腰を屈めると、翠は自分の足で立つ。まだ眠いのか、半開きの目のままトコトコとロビーのソファーに向かうとコテンと横になってしまう。

「では、お願いしてもよろしいでしょうか? 私は夕食の準備をさせて頂きます」
「うん。任せておいて」

 目を細めながら翠の行動を見守っていたグレイスさんが、僕に視線を合わせて後をたくす。

「アル、キーナ、任せちゃってごめんなさい」
「アルはん、キーナはん、しんどいのにありがとなぁ」
「ううん、大丈夫だよ。オスロー、悪いけど僕の荷物とグランをよろしく」
「おう、任された」

 翠から解放されたリアが商家の娘であるイーリスと一緒に、申し訳なさそうに声を掛けてくる。僕は笑顔で返し、肩に僕の従魔であるグランを乗せたオスローに荷物を頼む。

「翠の分を部屋の入り口まででいいか?」
「あ、えぇ。ありがとうウォルト君」

 リアと翠の荷物を運んでいた、カイゼルを護衛する騎士家の子息・ウォルトが、リアの荷物だけを床に降ろしながら聞く。リアはうなずくと歩み寄り、その荷物を受け取る。カイゼルもキーナの荷物を受け取るとイーリスと一緒に階段を上がっていく。
 僕はみんなが自室に戻るのを見ながら、キーナと共に浴室に向かう。

「Execute(ElementBlast(Water,Ball,0,t,4m*4m))」

 浴室に入った僕は浴槽よくそうの位置を確認すると、最低の威力かつ、大きさを4メートル×4メートルに拡張した〈水球ウォーターボール〉の算術魔法式を展開する。
 通常魔法の〈水球ウォーターボール〉だと、威力の調整が難しく浴槽をいためてしまう可能性があるので、威力や大きさを細かく指定できる算術魔法式を使用したのだ。
 僕の魔法1発で浴槽に十分な量の水が張られる。そんな僕の魔法式を興味深げに見ていたキーナは、僕の魔法が終わるのを確認してから、自分の魔法を発動させる。

「〈炎よFire 彼の場所にTarget 灯れCreation 炎の礫ファイアボルト〉」

 本来撃てShootのところを、わざと灯れCreationに変えて発動させた〈炎の礫ファイアボルト〉は、フラフラと浴槽に向かって飛んでいく。浴槽に落ちたヘロヘロの〈炎の礫ファイアボルト〉は、それでも浴槽の水の温度を一気に上げて、水蒸気を立ち上らせる。わざと文節ワードを間違えることで、威力を減衰げんすいさせたようだ。
 僕はキーナの工夫に感心しながら浴槽に近付くと、ゆっくりと水の中に手を入れて温度を確かめる。

「まだ、ちょっとぬるいかな……」
「じゃ、じゃあ、もう1回」

 キーナが同じ魔法を再度使い、少し熱いかなと思う程度まで温度を上げることができた。これで準備万全だ。
 浴室から出てロビーに戻ると、荷物を部屋に置いたみんながソファーでくつろいでいた。

「準備はできたかな?」
「うん。少し熱いかもしれないけど」
「ふむ。それでは、女性たちから汗を流してくれたまえ」

 僕とキーナが浴室から出てくるのを確認したカイゼルが、レディーファーストと女性たちを促す。

「すんまへんなぁ。お先に頂くで」
「す、すみません」
「悪いわね……翠ちゃん、お風呂入ろう?」

 イーリスとキーナはすぐに浴室に向かうが、リアはロビーのソファーをまだ豪快に占有している翠に声を掛ける。

「んー? ご飯かー?」
「ううん。まずはお風呂よ」
「うぅ……面倒くさいのだ……眠たいのだ……」
「そんなこと言わずに。お風呂入らないとご飯食べられないわよ」
「むぅ……ご飯なしは嫌なのだ……」

 リアがご飯をえさにすると、ごねながら翠が起き上がる。そしてリアは手をつないで浴室に向かう。

「エストリアは翠の扱いが上手いよな」
「うん。小さい弟がいるから慣れているんだろうね」
「まぁ、翠は餌が分かりやすいけどな。めしと戦闘だから」
「あははは。確かに」

 浴室に向かうリアと翠を、感心しながらオスローが見ている。

「女性の風呂は少し時間が掛かるだろう。2学期のことなどを話しながら待つとしようか」
「そうだな」

 女性陣が浴室に入っていくのを確認したカイゼルが空いたソファーに座り、僕たちに声を掛ける。


 そして僕とオスロー、ウォルトも続けてソファーに腰を落ち着けると、風呂が空くまでの間、2学期のイベントや履修範囲カリキュラムの確認などをおこなうのだった。
 僕たちも風呂を済ませて食堂に向かうと、グレイスさんが簡単なものですがと、夕食を用意してくれていた。今日のこのタイミングで帰ってくると連絡を入れていないので、本来なら用意できないはずだったんだけど、日持ちする材料を仕入れておいてくれたらしく、それらを使った料理が出てきた。
 いもや根菜と塩漬しおづけ肉を煮込んだスープがメインで、主食は乾燥かんそうさせたパンだ。そのままだと硬くて食べにくいので、スープにひたして柔らかくしながら食べる。


 食事を済ませた僕たちはそれぞれの部屋に戻る。風呂の前にオスローと共に部屋に戻ったグランは、食事も取らずにすぐさま寝床にもぐっていったようで、久しぶりの安心できる寝床のせいか、ひっくり返ってお腹をポリポリきながら寝ていた。いったい野性はどこに行ったのだろうか……?
 そんなグランを横目で見ながら僕は荷物を開いて、服や小物などをチェストやクローゼットに戻していく。オスローは面倒臭そうな顔をしながら雑に戻していくと、さっさと布団に入って寝てしまった。
 今できる範囲で荷物を整理し終えた僕はベッドに潜り込むと、今後の履修範囲カリキュラムのことなどを考える。
 アインツ総合学園では、今年、初の試みとして武術と魔術と経営の3つの学科を合わせた、統合学科というクラスを用意した。僕たち8人はその統合学科に入ることにしたのだが、学ぶ範囲が多岐たきにわたっており大変だ。
 1学期は貴族に邪魔されたり、からまれたりしてのトラブルがありながらも、何とか試験に合格することができたが、2学期も知識や経験を毎日積み上げつつ、問題を起こさないように振る舞いにも気を付けていく必要があるだろう。
 そんなことを考えている内に眠気が襲ってきて、僕は眠りの中に落ちていくのだった。

         †

『しかし、あの旅行先で出てきた蟲人間むしにんげん――魔蟲将インセクトジェネラル――には、中々に苦戦したな』
『うむ。精霊銀鉱エレメンティウムの武器は魔蟲まちゅうや魔獣相手には有効じゃったが、魔蟲将インセクトジェネラル相手になると決め手に欠けていたように感じたのぅ』

 ここは僕が眠りに落ちた時にだけ行ける世界で、前世の魂とも呼ばれる魂魄こんぱくとの対話ができる不思議な空間だ。
 ここには、見事に鍛え抜かれた筋肉を持つ鬼人族きじんぞくと、思慮深いまなこをして落ち着いた雰囲気の龍族、そして眼鏡めがねを掛けた神経質そうな人族の3人が過ごしている。
 普通の人は1つしか持っていない魂魄だが、僕の場合、何故か3つも持っている上に意思疎通コミュニケーションまで可能な、規格外の魂魄たちになっている。

『となると、もう少し高度な訓練施設と、採取施設、あわせて鍛冶かじ施設の強化が必要でしょうね』
魔蟲将インセクトジェネラルとやらと戦うための武術なら俺が教えてやれるな』
わしの知る上級魔術も必要となるじゃろう』

 そんな3人の魂魄たち――眼鏡さん、筋肉さん、龍爺さんが協力を申し出てくれる。

『とはいっても……眼鏡コイツの暴走が気になるんだがな』
『じゃのう……』
『私の進め方は完璧ですが?』

 他の2人は眼鏡さんを見ながら怪訝けげんな表情を浮かべるが、その視線を向けられている本人は、眼鏡のブリッジを押し上げながら自信満々に言い返す。

『大規模な改修になりますし、細かいところも対応できるように、まずは施設を管理する魔導人形ゴーレムから製造した方が良さそうです』
『ゴーレム? 土塊つちくれのあれに、そんなに高度なことができたかのぅ?』
『いえ、鋼鉄こうてつと機械で作られた機械人間アンドロイドに近いものです。この世界ですと動力が魔力になるため魔導人形ゴーレムと呼んだ方がしっくりくるので、そう呼びました』
『なるほどのぅ。どっちみち自律行動させるには、相当の工夫が必要じゃろう』
『そこは、結界けっかいや施設のコアを作った知見を生かして積層型ラミネイテッド魔法陣マジックサークルで回路図を焼き付けて……』
『なるほど、基本的な姿勢制御せいぎょや稼働制御は魔導人形ゴーレム生成の際に組み込まれているから、行動制御や思考制御を後付けで拡張するということじゃな……』

 眼鏡さんの言う魔導人形ゴーレムに興味を示した龍爺さんが、眼鏡さんと一緒に具体的な製作方法を考え始める。

『また、とんでもないことになりそうな話をしてやがるな……』
「うん。あまり変なもの作るとカイゼルに怒られちゃうんだけどなぁ……」

 嬉々ききとして話す2人を見ながら心配そうな口調の筋肉さんに、僕は同意する。

『まずは鉱石保管庫から大きめの魔晶石ましょうせきを選んでコアを作るのが良いでしょう』
『人型サイズだと、魔晶石の大きさにも制約があるじゃろう?』
『あぁ、そうですね。今の術式だと校舎くらいの大きさの魔導人形ゴーレムになりそうです』
『では魔法式の改良からかのぅ……とてつもない情報量が必要じゃから、それを圧縮する方法と魔法陣の微細化が必要じゃの』
『そういえば試したいことがありまして……魔法陣の線そのものに魔法式を埋め込むというのは?』
文様もんようで意味をなしている部分を術式にする……文様として認識されれば可能かもしれんが……かなり微細な線で描かんと不可能じゃ』
『多分ナノメートルくらい微細化すれば可能だと思うんですよね』
ナノメートル?』
『おおよそ髪の毛の太さの約10万分の1の細さです。私の世界で作られていた回路の中では、わりと大きめのサイズです』
『目では見えなそうじゃのぅ』
『線があることすら視認できないレベルですからね。魔法式を圧縮してから、微細化させましょう』

 もう何を言っているのか分からないけど、とんでもないことを言っていることだけは分かる。

『とりあえず、坊主ぼうずはゆっくり休め。また大変なことになりそうだからな』
「うん。そうさせてもらうよ」

 白熱している眼鏡さんと龍爺さんを置いて、僕の意識はまどろみの中へと落ちていくのだった。


「こういうのも久しぶりだな」
「うん。久しぶりな気持ちになるよ」

 翌日の朝、オスローと共に久しぶりに寮の裏庭で朝練を行う。夏休みも基本的には朝練を行っていたが、やはりホームグラウンドともいえる寮で行う朝練は、ルーティーンに沿っていて安心感がある。
 学園に入った当初のオスローは僕の訓練についてこられていなかったけど、1学期と夏休みを通じて、僕と同じ朝練内容をこなせるようになった。模擬戦では身体の大きさと武器のリーチも相まって、筋肉さんに鍛えられてきた僕でも苦戦することが多くなってきたくらいだ。

「さてと身体も温まってきたことだし……やるか? そろそろ1本取れそうな気がするんだよな」
「まだ、負けないよ」
「抜かせ」

 そう言うとオスローが斧槍ハルバードを肩にかついで腰を落とす。オスローの構えを見て、僕も左足を前に出し、左半身構えを取る。

「行くぜ!」
「応!」

 気合を入れたオスローが斧槍ハルバードを振り降ろし、僕はそれを受け流すように、踏み込んで左手の小手ガントレット斧槍ハルバードの軌道を逸らす。

         †

「あー! また負けた‼」

 地面で大の字になったオスローが悔しそうに大声を上げる。

「でも、凄く良くなったよ。何度もヒヤヒヤしたもん。1年生の中だったらトップクラスで強いと思うけど」
「でも1本くらいは取れねぇと……あいつらに勝てねぇし、最前線のオレが足を引っ張っちまう」
「あいつらって、魔蟲将インセクトジェネラル?」
「あぁ、あいつとやり合っていたアルに勝てるくらいじゃねぇと、足手まといにしかならねぇよ」

 オスローの話はもっともだ。国の騎士団にお任せして知らない振りを決め込みたいところだけど、わざわいはいつどこで、こっちの身に襲ってくるか分かったものじゃない。
 実際、実家の近くの森でも生物を凶暴化させる危険な石――魔黒石まこくせきを取り込んだ多頭毒蛇ヒュドラがいたくらいだ。準備をしておく必要があるだろう。
 となると、無茶苦茶になること請け合いだけど、眼鏡さんの考えている訓練施設を用意する必要があるだろう。


 寮に戻って汗を流してから部屋に戻ると、のんびりと朝寝坊していたグランが僕にすり寄ってくる。
 朝食まではまだ時間があったので、グランの毛をきながら待つ。毛が絡んでダマになっている場所もあり、無理に力を入れると嫌がるので、そっと丁寧に毛玉をほぐすように梳いてあげる。
 あらかた不要な毛を梳き取ったら、丁度朝食の時間になったので、グランを連れてオスローと一緒に食堂に向かうことにする。

「おはようなのだーっ!」
「おはよう」
「おはようさん」
「お、おはようござい、ます」

 階段で、上の階から降りてくる女の子たちと合流する。翠、リア、イーリス、キーナ共に元気なようだ。

「おぉ、アル君は今日も魅力的だね」
「はぁ……アルカード、オスローもおはよう」

 既にカイゼルとウォルトは食堂で席に着いており、カイゼルは僕と目が合うと立ち上がって大仰おおぎょうなポーズと共に挨拶あいさつをしてくる。
 そういう挨拶は、平民の男である僕じゃなくて、貴族のご令嬢れいじょうとかにすると良いと思う。
 そして隣のウォルトはまたか……といわんばかりの呆れた表情を浮かべている。

「そっちも疲れは残っていないようだね」
「あぁ。旅の疲れも昨日一晩ぐっすり寝て、すっきりしてるのさ。今は残った夏休みをどう有意義に使おうか考えているところさ」
「基本的には2学期の授業の予習をするべきなんだろうが……夏休みに遭遇した敵。あんなのが他にもいる可能性があるなら、訓練を行って腕をみがく必要があるだろう」

 僕が挨拶を返すと、カイゼルとウォルトから今後2日間の過ごし方について聞かされる。

「わ、私は、あ、新しい魔法を、覚えたいです!」

 訓練と聞いて、普段は引っ込み思案じあんなキーナが手を上げて主張する。

「魔法か……訓練施設はちょっと色々いじろうと思っているから……」
「ん? アル君。また何か人に言えなさそうなことを考えているね」

 キーナの発言に僕が口ごもると、それを聞き逃さなかったカイゼルの目がキラリと光る。眼鏡さんのせいで、友人の間では僕は“やらかしまくり”扱いとなっていた。

「あ、えぇ……ちょっと訓練施設の地下に鍛冶場を作りまして……」
「鍛冶場? そういえば夏休みに使った武具。あれの出所でどころを聞いていなかったね」
「あ……」

 僕がやぶをつついてしまったと自覚した時にはもう遅い。

「「さぁ、説明してもらおうか(もらいましょうか)?」」

 僕の失言にいち早く反応したカイゼルとリアが、かえるに対するへびごとく、2人揃って僕を追い詰めてくる。

「え、えっと……」
「それは聞くとして、まずは朝食にしよか? グレイスさんが怒ってまうで?」

 オロオロしている僕と詰め寄る2人をイーリスが止める。慌ててグレイスさんを見た2人は、ささっと自分の席に着く。
 それで逃げられるわけもなく、朝食を終えた僕たちはロビーの談話スペースに集合していた。

「じゃあ話してもらおうか」
「情報共有は大事よね」
「あ……うん。実は……」

 僕は精霊銀鉱エレメンティウムを、とある知り合いからゆずってもらって、それを使って武器を鋳造ちゅうぞうしたことを伝える。ゾッドさんの鍛冶屋を利用させてもらったことは以前伝えていたので、それ以降のことをみんなの顔色をうかがいながら伝えた。

「あんたって、本当に目を離すとろくなことしないわよね」
まったくだ……しかも精霊銀鉱エレメンティウムを加工できる施設を簡単に作るなんて」
「あはははは。流石はアルはん! おもろいことをやらかしよるなぁ! 一緒におってホンマきひんなあ!」

 常識人のリアとカイゼルは唖然あぜんと溜息を吐き、イーリスは腹を抱えて笑っている。キーナは興味津々しんしん青色黄玉ブルートパーズ色の瞳をかがやかせている。

「つーかさ。ここで聞くより実際見た方が早いんじゃね?」
「だな。まず現場を見てみないことには」
「あそこはつまんないのだ……」
「キューィキュ(同意である)」

 あまり深く考えないオスローが笑顔で言うと、それにウォルトが乗っかり、結局みんなで地下施設に向かうことになってしまった。既に施設を見て回って、楽しいものではないことを知っていた翠だけはがっくりと肩を落としていたけど。
 みんなは魔法訓練施設に作られた階段に唖然とし、つるつるに磨き上げられたかのような金属のかべ驚嘆きょうたんし、その隙間から漏れる明かりに照らされる施設の大きさに絶句する。高く積み上げられた大量の貴金属に呆然とし、その隣の鍛冶場を見せて説明した時には、口から魂が出ているような状況だった。

「ロ……失われた技術ロストテクノロジーの地下遺跡いせきか何かか、ここは! それだったらどんなに良かったことか! でもこれは君が作ったんだよね⁉ アル君‼」
「あ、はい……」
「もう1施設作れといったら?」
「多分、多少の時間をもらえれば作れます」
「がぁぁぁぁぁぁ!」

 カイゼルは、青みを帯びた綺麗きれい銀髪アイスシルバーを手でクシャクシャにしながら絶叫する。

「こんな施設が……こんな施設が量産できる……」
「ま、まぁ……アルだし、あきらめましょうカイゼル」
「諦め……諦められるかぁっ! 国レベルの問題だぞ! 私には私の責務が! こんな力、悪意のある者たちに知られたら」
「カイゼル」

 リアがフォローしようとするも、カイゼルは理性が吹っ飛んだのか声を荒らげてしまう。そこに冷めたウォルトの一言が飛んだ。

「カイゼル、それ以上は駄目だ」
「あ、あぁ……そうだな。すまなかった、みんな。今のは聞かなかったことにしてくれ」

 ウォルトの声で我に返るカイゼル。
 いつも飄々ひょうひょうとしていて理知的に対応しているカイゼルの変貌へんぼうっぷりに、周りのクラスメイトは絶句している。

「それで……あの魔蟲将インセクトジェネラルという敵に対抗するために、もう少し施設を強化する必要があって……」

 そんな中、僕は恐る恐る様子を窺うように次の爆弾を投下する。


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