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1巻

1-3

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「それでは皆さん、1ヶ月後に再会することを楽しみにしています。身体には気を付けてくださいね」

 校門近くまで見送ってくれたエレン学園長が、微笑みながら僕たちに手を振る。
 僕も手を振り返すと、オスローに別れの挨拶あいさつと再会の約束をして、荷物のある宿屋へと向かう。
 宿屋に戻ると、あの女の子が僕の持つ封筒を目聡めざとく見つけて、厨房のおじさんに声をかける。
 すると厨房から、お祝いの言葉と共に夕食を奮発するからすぐに支度したくして戻ってこい、と声がかかる。
 僕は明日の朝一番の馬車で故郷の村に帰る予定なので、早速2階で荷物をまとめる。とはいえ衣服が2着と夜着が1着、そして愛用の木剣とお土産の調味料くらいしか荷物がないので、あっという間に片付けは終わり、夕食のために1階の食堂へと降りていく。
 食堂には大量の食べ物とお酒が用意されていて、父さんくらいの年齢の冒険者がたくさん席に座っていた。
 みな、木のジョッキになみなみとお酒をついで準備している。

「無事、レイオットんとこの坊主ぼうずが、アインツ総合学園に合格したことを祝して乾杯かんぱい‼」

 宿屋のおじさんが、カウンターでジョッキを高く持ち上げ大声で叫ぶ。

「乾杯‼」
「乾杯!!!」

 集まったみんながさらに大きな声で返すので、僕が何事かと吃驚して目を見開いていると、宿屋のおじさんが豪快に笑いながら近づいてくる。

「受かったら祝勝会、落ちてたら残念会ということで、レイオットの知り合いを呼んでおいたのさ。でも祝勝会になって本当によかった。おい。おめぇら! 今日は俺のおごりだ‼ 存分に飲み食いしてレイオットのせがれをもてなしてくれ‼」
「マジか! よし今日は飲むぜーっ!」
「親父太っ腹っ‼」

 そこら中で歓声が上がり、みな食事と酒に手を伸ばし、楽しそうに飲み食いする。

「まさか、レイオットのとこの坊主が特待生とはなぁ。あいつはいつも補習ばっかしてたのに」
「レイオットの朴念仁ぼくねんじんもこんないい子を作って育てたのねぇ」
「女湯を覗こうとして壁をぶち抜いたレイオットがなぁ」

 みんなが口々に、父さんの聞いたこともない昔話を語ってくれるので、僕は驚いたりしながらも、とても嬉しい気分になり、目を輝かせながら話に聞き入っていた。
 楽しい時間はあっという間に過ぎて、明日があるからとキチンと帰る人、まだまだ飲んでいる人、机に突っ伏して寝ている人など、まともに起きている人がまばらになってくると、僕も疲れてまぶたが重くなってきた。
 僕は宿屋のおじさんに重ね重ねお礼を伝えて、部屋に戻るとベッドに倒れ込み、こんなに素晴らしい一日は初めてかもしれないと瞼を閉じた。


 色々あったけど次の日も時間通りに起床できて、いつもの朝練を行う。父さんと同じ冒険者を目指せると思うと、素振りにも気合が入る。
 いつも通りの型をこなしていると、物陰から視線を感じる。殺気さっきがないので危険はないと思い、素振りを続けていると、おずおずと出てくる気配がする。
 一旦素振りをやめて振り向くと、宿屋の女の子が恥ずかしそうに、もじもじしながらこっちにやってくる。

「ご、ごうかく。おめでとうございました。これ、おいわいです」

 なんか口調がおかしい気がしないでもないが、女の子の手には木彫りのかえる根付ねつけが握られていた。冒険者の店には、冒険から無事に帰ってこれるようにと蛙の根付が販売されていて、長期の旅や危険な旅に出る時に、願掛がんかけのお守りとして購入することがある。
 僕は感謝を伝えると、蛙の根付を受け取り、自分の木剣のつかにつける。女の子はそれを見ると嬉しそうに微笑み、顔を赤らめながら走って戻ってしまった。
 それを見送った僕は、荷物を引き上げて宿代を精算し、宿を出る。おじさんとおばさん、女の子に見送られて宿屋を出ると乗合馬車の発着場へ向かう。
 予約票を見せて乗合馬車に乗り込むと、他にいたのは親子連れの家族と、冒険者風の2人組だった。
 親子連れの方の席は埋まっていたので、僕は冒険者風の2人組の横に座った。この馬車に乗って夜まで揺られれば故郷の村に着く。そしたら、父さんと母さんに試験の報告して、大変だけど統合学科で色々なことを学ぶ挑戦をしたいと伝えよう。
 そんなことを考えているうちに馬車が出発する。
 試験の時に、竜が住むと言われているアインツ竜峰を吹き飛ばしたことをすっかり忘れていた僕は、この後に起こるトラブルを、この時は想像すらできていなかったのだった。


 第03話 竜との出会い

 馬車に揺られること半日。何事もなくのんびりと予定通り馬車は進んでいた。
 地方都市アインツの南に広がる、草木が芽吹き始めた森を抜けると、草原が広がっていて凄く見晴らしがいい。
 春が近づいてきたのもあり、今日は日差しが暖かく実に心地いい感じだ。乗合馬車もほろを開けて、乗客は景色を見たり歓談かんだんしたりしていたので、僕は隣の冒険者風の2人組の話を半分聞きながらボーっとしていた。
 そんな風にのんびりと空を眺めていたら、小さな黒い点を捉えた。最初は目の錯覚さっかくか、鳥かなんかかと思っていたのだが、どんどん大きくなっていくのを見て、何となく危険を感じた僕は、算術魔法式を展開する。

エグゼキュート実行する ディティールサーチ詳細検索 ワイドマップ広域地図 エネミー敵性生物

 みんなに聞こえないように小声で展開した算術魔法式は、周辺地図と共に敵性反応の詳細情報を視界に投影する。
 そこに表示されている名称を確認し、少しの驚きを覚えると素早く御者ぎょしゃさんに告げる。

「危険な敵が迫っています。多分僕を狙ってきているっぽいので、僕が降りたら全速力で馬車を走らせてください。あの丘の裏より先に行けば安全だと思います」

 不審げな顔を浮かべる御者さんに後方の空を指差す。僕の指した先を御者さんが確認すると、豆粒くらいだった影が、どんどんと大きくなってくる。それを見た御者さんは、目を見開いて慌てて馬にむちを振るう。
 僕は荷袋を掴み、馬車から飛び降りると愛用の木剣を腰に差す。
 空を飛ぶ影はどんどん大きくなり、長い首や大きな翼、光を反射するうろこが確認できる。僕は何も持たないで構えもとらずに、それが近づくのをただただ眺めていた。
 ドスンッ‼
 大きな音を立てて、その巨大な影は僕の数十メートル前方に着地する。

「我が住処を荒らしたのはお前か! この矮小わいしょうなる……もの、よ⁉」

 全長15mほどにもなる、綺麗な翠色みどりいろをした鱗を持つ竜が、こちらをギロリと睨みつけながら腹の底に響く声で威嚇いかくする。しかし声がどんどん小さくなり、最後には疑問形になっていた。

「本当に、お前がやった、のか? ただの子供ではないか!」

 竜の頭にはクエスチョンマークがいっぱい並んでいる様子。そりゃ根こそぎ山頂を吹き飛ばした犯人がこんな子供だとは思わないだろう。

「3日前に山頂を吹き飛ばしたのは本当にお前か? その魔力の波長を追ってきたのだが、どう感知してもお前の魔力の波長と同一なのは間違いない。しかしただの子供にしか見えないのだが」

 竜はどうにも自分が信じられないらしい。それにわざわざ確認をするとは、竜という生き物はとても律儀なようだ。

「入学試験の時に全力を出したら、山頂を吹き飛ばしちゃいました。迷惑をかけてすみません」

 僕は嘘を吐いてもしょうがないので素直に頭を下げて謝る。

「う、うむ。いやいや、うむじゃない……でも困った。うーむ、とはいえこんな子供相手に本気になるのも」

 ずいぶんと良心的で良識的な竜だなぁ。竜族ってこんな感じなのかな? 物語とか人の話とか聞くと、もっと問答無用で人族を殲滅せんめつするようなイメージが強いんだけど。

「えっと、仮に犯人が僕じゃなかったらどうするつもりだったのですか?」

 話が全く進まないので聞いてみる。

「それは当然、愚かな人族に、しでかしたことを悔恨かいこんさせるのと、竜の偉大さを今一度示すため、竜吼ドラゴンブレス滅殺めっさつだ」

 とても誇らしげに首を反らしてドヤ顔で言い放つ竜。

「うーん。滅殺はとても困るので、お仕置き代わりの一発で勘弁かんべんしてもらえませんか?」

 僕がそう提案すると、竜は目をパチクリさせながら、訳の分からないものを見るような視線を向けてくる。

「どんなに軽くても我の一発を受けたら、小さなお前の身体など一瞬で粉微塵こなみじんになってしまうぞ」

 と非常に困った顔で言ってくるので、真剣に僕は答える。

「耐えられても、耐えられなくても、山を吹き飛ばした原因を排除したということにして勘弁してくれませんか? あなたがどう判断したにしろ、原因が僕なのは間違いがないので、仮に粉微塵になったとしても恨みません」

 僕以外の人が標的になって、さ晴らしに滅殺されたら寝覚めが悪い。竜は今一つ納得していない顔をしていたが、落とし所がないのも困るようで、渋々その方法で勘弁することで納得した。

「死んでも恨むなよ」

 そう呟いて、竜がその大きな身体を軽く右に振ると、それに伴って大きな尻尾も大きく右に振られる。尻尾が右に振り切れたところで、身体を大きく左回転させる。
 すると、物凄い勢いと質量をともなった尻尾が、強烈な一撃となって僕に襲いかかる。

球形防護殻スフィアシールド

 僕は龍爺さんに教えてもらった、全方位の攻撃威力を減衰げんすいさせる魔法を発動し、僕の周囲に不可視の防護ぼうごかくを展開させる。
 竜の一撃は相当な質量エネルギーを持っていたため、ただ防御力を強化しただけの防護殻では衝撃を吸収できずに、僕はゴムまりのように防護殻ごと吹っ飛ばされる。
 そのまま、いくつかの大木に激突し、全てをへし折りつつようやく止まる。常人が受けたら10回死んでもお釣りがくるような一撃だった。

「勇敢な小さき者よ。許せ」

 竜が本当に申し訳なさそうに首を落として、そう呟くのを聞きながら、僕はお尻についた砂を払って立ち上がる。そして全くダメージを受けていないのをアピールしつつ、にこやかに近づいていく。

「あたたたた。流石さすがに竜の一撃は効くなぁ。でもこれで勘弁してくれたってことでいいですよね」

 この時の竜の愕然がくぜんとした顔は、生涯しょうがい忘れないほどのインパクトだった。

「おい! お前‼ 何で生きているのだ⁉」

 竜がとても驚いた顔で聞いてくるので、僕はシールドを張って耐えたことを説明したのだが、全然納得してくれない。

「人の形をした化け物か?」

 言うに事欠いて人を化け物だとかやめて欲しい。僕だって傷ついてしまう。

「うーん。どうしたら信じてもらえますかね?」
「とりあえず、一発殴ってみてはくれないか? 普通の人間だったら竜の防御を抜くことはできないが、その威力を見れば、実力の一端が計れるだろう」
「どんなことになるか分からないし、痛いし危ないと思いますけど」
「うははははは。人の拳など我には効かんのだ」
「大変なことになっても怒らないでくださいね?」

 この竜はマゾなのだろうか? と訝しく思ったが、言う通りにしないと信じてくれなそうだ。そして、人族の子供に竜の鱗が貫けるはずがない、と自信満々な表情を見せる。
 仕方ないからと、僕は試験で使った技を5%くらいの威力にして打つことにした。
 僕が構えに入り、右腕に螺旋の魔力を込め始めると、竜の顔がどんどん青ざめていく。十分に魔力が溜まったところで螺旋の力として解放しつつ、掌底を繰り出す。

「おっ! ちょっ! おまっ‼」

 何か竜が慌ててて止めてきた気がするが、僕の一撃は竜の胴体を突き上げるように綺麗に入り、螺旋の力が解放される。
 螺旋の力は竜の巨体を吹き飛ばさずに、身体の内部を浸透して胴体を抜け、背中側から衝撃が突き抜けていく。
 ズゥゥゥンッ‼
 竜はグリンと白目を剥くと、口から泡を吹きながら引っくり返ってしまう。

「あぁ、またやってしまった」

 僕の自重じちょうしたはずなのに全く自重できていない一撃が、竜を簡単に昏倒こんとうさせてしまった。大丈夫かな? 生きているかな? と心配になった僕は、竜の状態を見ようと算術魔法式を展開する。

エグゼキュート実行する ディティールサーチ詳細検索 ターゲット対象

 僕の算術魔法式が展開されると、竜の詳細情報があらわになる。僕は目に投影された情報を見て、命に別状がないことを確認する。どうやら気絶しているだけのようだ。
 ついでに他の情報を見てみると、種族が幼翠竜リトルエメラルドドラゴンとなっていた。緑竜グリーンドラゴンと違って、翠竜エメラルドドラゴンは聞いたことがないので、とても珍しい竜のようだ。
 確かに鱗の色が、やや青みがかった緑に見える。こちらのことを心配していたし、人族に対して友好的な竜なんだろう。
 まだ起きる気配がないので、暇つぶしに木剣で型をなぞったり、新しい型の模索をしたりしていると、竜がピクリと身体を揺らす。
 心配して覗き込むと、竜は焦点の合わない目で、ぼーっと僕を見ている。そして意識を取り戻すと急に後ろに飛び退すさった。

「お前は一体何なのだ‼」

 なんか恐ろしいものを見た子供みたいにガタガタ震えながら竜が威嚇する。われたから一発入れただけなんだけどなぁと思いながら、敵意がないことを示すために、持っていた木剣を腰に差し、両手を広げて肩をすくめるポーズをとる。
 竜の方も、僕が自ら進んで攻撃した訳ではないことを思い出したのか、少しは落ち着きを取り戻し、爪で地面をガリガリと掻きながらブツブツと話し始める。

「しかし、困ったのだ。住処があの状態だと父様ととさま母様かかさまにこっぴどく叱られる。しかも遊びに行っているうちに壊されたと知ったら……ガクガクブルブル」

 うつろな目をしながら竜が震える。そもそも住処を破壊したのは僕なので、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、住処を何とかすることを提案する。
 できるのか⁉ と期待が込められた眼差しを受けた僕は、多分何とかなると答えた。
 ただ僕の足では住処まではかなり遠いので、時間がかかってしまう。それを話すと竜は、自分の背中に乗っていけばすぐだと、背中に乗ることを了承してくれた。
 竜の背中に乗れるなんて! まるで竜騎士のようだ‼ と僕は喜ぶ。

「そういえば、ドラゴンさんの名前は何と言うんですか?」

 僕が尋ねると、竜というものは固有名詞がないので、人で言う名前はないと答えられた。鱗の色を示す竜語と、その竜の魔力波形の型を意味する竜語を足したものが個別名になるそうで、試しに聞いてみるとグワッギッグフゥらしい。何を言っているのか全く分からない。

「緑色の鱗だから、グリ子でいい?」

 と聞くと不思議そうな顔をしながら、よく分からないからそれで良いと言ってくれた。本当にいいのだろうか? と思ったが、良いと言っているからとりあえずそれで呼ぶことにする。
 僕が背中に乗った後、グリ子(仮)が大きく羽ばたくと少しずつ上昇が始まり、どんどん速度が上がっていく。
 あっという間に地上から離れ、さっき乗っていた馬車が豆粒のような大きさになる。何となく馬車を眺めていた僕だけど、急に気が付いた。ちゃんと状況を報告しないと、大変なことになる‼
 僕はグリ子(仮)に頼んで、先ほどの馬車の少し先に降りてもらう。
 望み通りの位置に降ろしてもらった僕は、急いで馬車の方に走っていく。竜を恐れながらも御者さんと家族連れ、冒険者の2人組が僕に心配そうに声をかけてくれた。
 キチンと交渉が済んでトラブルが解決したので、これから竜の住処に一緒に向かってから、目的地である自分の家に帰ることを伝えると、何で住処に向かうのか訳分からんという顔をしながらも理解してくれた。
 これで、グリ子(仮)の討伐部隊とかが編制されることはないはずなので、安心して住処に向かうことにする。
 グリ子(仮)が先ほどのように力強く羽ばたくと、どんどん地上が遠く離れていく。そうして馬車が米粒くらい小さくなると、アインツ竜峰の方角に向けて加速していく。
 物凄い速さで飛んでいるので、吹き飛ばされるかと思ったのだけど、竜の背では微風くらいの強さだった。
 どうやら飛行中は風を防ぐ魔法が自動で発動しているようだ。
 あっという間に、自分が吹き飛ばしたアインツ竜峰の山頂付近に到着すると、僕はグリ子(仮)の背から飛び降りる。
 周りを見渡すと、見事なほど、綺麗さっぱり何もかもが抉れ消滅していた。いや、これはグリ子(仮)でなくても怒るよなぁと僕は思う。
 跡形もなくなった山頂は、すでに山頂というよりは、横から見たら凹面鏡おうめんきょうのようだった。
 このままだとカルデラ湖ができてしまうような状況だ。とりあえず竜の住処を作るには、とにかくどこからか岩石を集めないとならない。
 とはいっても、そこら辺からこの質量分を集めるとなると、採取元の地形が変わってしまうくらい持ってこなければならない。
 僕も日々成長しているので、同じ過ち(環境破壊)はしないのだ。
 何か都合の良いものがないかと、チートサーチの範囲を広げて調査してみる。とりあえず手っ取り早く半径1000キロメートルまでサーチ範囲を広げると、丁度いい岩石のかたまりが見つかった。

エグゼキュート実行する アトラクト引き付ける ターゲット対象

 自分の手前に物体を引き付けるという算術魔法式を展開してみる……が、反応がない。しばらく待ってみるが、やはり反応がないみたいだ。
 再度サーチしてみると、確かに物凄い勢いで岩石の塊が接近していると感知できる。どうしたんだろうと、キョロキョロと周りを探してみると、上空の方から橙色に光る物体が、何故かこちら目掛けて飛んできているのを見つけた。
 大気との摩擦まさつで橙色になるまで熱せられた、とんでもない質量の岩石の塊(隕石いんせき)が、水蒸気や石屑いしくずの尾を引きつつ、こちらに迫ってくるのが見える。
 グリ子(仮)は開いた口が塞がらない様子だ。
 僕は、あまりにも酷いやっちゃった感に脂汗あぶらあせが止まらない。
 ど、どうしよう、コレ? とんでもないことをしでかしてしまった。僕は真っ青になりながらオロオロする。
 これは昔読んだ物語に出てきた、神の怒りと呼ばれた星砕きメテオストライクと同じではないか⁉
 僕の焦りはそっちのけで、隕石はぐんぐんと近づいてくる。あー、うん。あれが地表にまともに激突したら、この国1つくらい余裕で消し飛ぶだろうな。
 ……その頃、僕は全く知らなかったけど、地方都市アインツではこの世の終わりだ! と町全体が大恐慌だいきょうこうを起こしていたらしい。
 大商人はこれでもかと貴重品を馬車に積み込み、隣国に退避しようと焦る。
 神父さんや神官、敬虔けいけんな信者はひたすら必死に神に祈っていた。
 エレン学園長は隕石を破壊するための魔法を発動し、僕が泊まった宿のおじさんは、娘さんを抱き込みながら神をののしっていたとか。

「仕方ないなぁ、勿体もったいないけど破壊するか」

 と溜め息を吐きながら覚悟を決める。
 隕石を粉微塵に砕くには、内部に浸透し拡散させるような一撃を叩き込む必要があり、また相当な落下エネルギーを持っているので、それを相殺するだけの威力も必要だ。
 やはり地脈の力も借りた一撃で砕くしかないと腹をくくり、迎え撃つ準備を始める。
 僕が山頂付近の大地を踏みしめながら、隕石に狙いを定めていると、グリ子(仮)の姿がいつの間にか消えていた。逃げ足の速い竜だなぁ。
 そう思いながら、脚を肩幅よりやや広く開き、腰を落とし目を閉じる。両手で丹田たんでんの上で円を形作り、その円の形に沿って魔力を循環させる。
 十分に循環させて練り込まれたのを確認すると、丹田から気を爆発させ、身体の隅々に魔力を行き渡らせる。
 これがチート技法スキルの一つで、魔力を消費する代わりに爆発的に戦闘能力を向上させる鬼闘法きとうほうである。角の人こと筋肉さんに教えてもらった技法スキルの一つだ。
 次に、鬼闘法とは別に再度魔力を循環させ練り込むと、その魔力を右手に集束させ、隕石を迎え撃つ体勢を取る。
 橙色の隕石が近づくほどに、高まっていく耐え難い熱と突風が僕を襲うが、龍爺さんに教えてもらった〈炎の防護膜ファイアプロテクション〉と〈風の防護膜ウィンドプロテクション〉を発動させて耐える。
 アインツ方面から放たれたらしい戦略級/戦術級魔法やグリ子(仮)の竜吼ドラゴンブレスが隕石に命中するが、隕石が巨大すぎて、全くもって何の効果も出ていない。
 いよいよ、山脈に隕石が激突しようとする瞬間、僕は掌底で筋肉さんに教えてもらったチート技法スキル魔力撃まりょくげきを放つ。
 ドゴォォォォッ!!!
 鬼闘法で十分強化された身体から放たれたチート技法スキルの一撃は、隕石の内部に網を広げるように魔力を拡散させながら浸透し、分断/破壊していく。
 隕石に押しつぶされるどころか、微妙に押し返したかのようにさえ見える一撃は、無事に隕石を粉砕する。しかし、当然の如く粉砕された大量の瓦礫が僕の上に降ってくる。
 とっさに僕は〈球形防護殻スフィアシールド〉で、何とか瓦礫に押しつぶされそうになるのを回避しようと試みたが、僕の周りが一瞬光っただけで魔法は発動しなかった。
 あ、やばい。隕石の破壊に使いすぎて魔力が切れてたよ。
 こんな危険な状況にもかかわらず、僕の意識は魔力切れのため、闇の中に落ちていくのだった。

         †

 気が付くといつもの真っ白な世界に立っていた。僕の視線の先では、コタツと呼ばれるテーブルに3人が足を突っ込んで座っている。

「眼鏡の、今回はかなり危なかったのではないかのぅ?」
「全く、誰があのような使い方をすると想像できます? 完全に仕様外の使用法ですよ」
「坊主が全力で俺の鬼闘法を使うことで事なきを得たけど、かなりやばかっただろーが! お前が自重しない算術魔法式を作りまくっているせいでな」
「私の算術魔法式は間違ってないし、不具合を起こした訳ではないです。脳みそまで筋肉のあなたは黙っててください。ただ使い方がちょっとイレギュラーすぎただけです」
「しかしだの、ぼうがどうにかなってしまったら、お主の検証とやらもできなくなってしまうのではないかの? 一考の必要はあると思っておるんじゃが?」
おっしゃることは分かりました。被験者がいなくなっては算術魔法の完成が困難になりますから、引き寄せ魔法アトラクトには、大きさ制限をかけるようにします」
「……コイツ全然分かってねぇわ」

 龍爺さんと筋肉さんが眼鏡さんを責めているが、眼鏡さんはすずしい顔で聞き流している。

「今回は怖い思いをさせたのぅ。すまんかったなぁ」

 龍爺さんが僕に気が付くと、謝罪をしながら手招きをしてくれる。
 龍爺さんはコタツから出て、近づいた僕を抱え込むと頭を撫でてくれる。
 筋肉さんは僕の肩を叩きながら、俺の闘術を上手く使ってるじゃないか! と褒めてくれる。
 失敗して全然ダメダメだったと思って、ちょっと落ち込んでいた僕を2人はなぐさめてくれる。

「あー、私のせいですまなかった」

 眼鏡さんは、目を逸らしながら謝罪する。2人に言われてやむを得ないという感じをかもし出しながらの謝罪に、少し可笑しくて笑ってしまった。

「でも私の算術魔法に間違いはないのです」

 少し恥ずかしがりながらうそぶくのがさらに可笑しかった。

「とりあえず運良く色々な瓦礫が重なり合ったスペースで気絶しているので、死にはしないと思いますが、このままでは脱出できずに餓死がしします。どけようにも、手順を間違えると瓦礫が崩れペシャンコになります。助かるには一度も間違えずに瓦礫をどかすか、外からの助けを待つか、瓦礫そのものをなくすかしかないですね」

 眼鏡さんは、冷静に状況を分析して、いくつかの指針を教えてくれるけど、せっかく集めた材料をなくしちゃうのかと僕は残念な気持ちでいっぱいになる。

「念のための確認ですが、この材料の山は竜の住処の修復のために集めたということで良いですよね?」

 僕が頷くと眼鏡さんが嬉しそうな顔をする。

「龍爺、あなたの記憶に自分の住処は残っていますか? あなたも同じ龍族です。記憶が残っているなら少し覗かせて頂きたいのですが」
「うむ。かなり詳細に覚えているみたいじゃ。坊のためになるのなら記憶をるのは構わんよ」

 龍爺さんは顎に手を当て少し考え込むと、そう答える。どうやら記憶を手繰たぐり寄せられたようだ。

「ありがとうございます。それでは……Execute(b,m,DetailSearch(m,{[t,m,f],[t,"住み処"]}))」

 眼鏡さんが不思議な言語で算術魔法式を展開すると、ほんの一瞬の間だけ眼鏡さんと龍爺さんの頭が光の帯で連結される。

「CallSpell(fa,d,ObjectControl(i,me,m))」

 さらに意味不明な言葉を発する眼鏡さんの目の前に、四角い窓が現れ、その窓の中には緑色の線で大きなお城が描かれていた。
 そして眼鏡さんの両手の前に小さなボタン群が現れ、まるで楽器を演奏するかの如く、優雅に指をおどらせる。


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【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

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