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しおりを挟む騎士団に戻ってから数日が過ぎ、コハルも元の生活に慣れてきた。騎士達はサンドウィッチ生活から解放され、とても嬉しそうに毎食食べてくれるのでとてもやり甲斐がある。
さて、変わった事はと言うと毎日ロイド、ルイス、ウォルトの誰かしらがずっとそばにいるのだ。ただでさえ心配性の彼等はコハルが攫われた事により心配性パラメーターの指数が頂点を超え今に至る。
三人が居ない時は第二騎士団副団長のジークバルトがコハルのそばにいる。
なぜ彼が?と疑問に思うが、彼の事は好きだ。一緒に洗濯物を干したり、高い所にある物を取ってもらったり、転びそうになったところを助けてもらったり。基本彼は無口でコハルが一方的に話しかけているのだが心地が良いのだ。彼とは毎日第一騎士団にいるのではと思うほど顔を合わせているがちっとも嫌ではない。
そして、もうひとつ変わった事は公爵三人組が毎日昼食か夕食時に騎士団寮へご飯を食べにやって来るのだ。(正確にはコハルに会いに来ている。)最初こそ騎士達は抗議したのだが公爵達の動じない意思に負け、食事だけはと了承した。彼等が来た時はコハルは彼等と共に食事をとる。それが騎士達には大変面白くないのだ。だが彼等が来ると彼女が喜ぶので我慢している。そして今日も彼等はやって来た。
「今日は公爵家の料理を持ってきたよ」
「え、本当?うれしい!ありがとう」
クルトがテーブルセットをしアルトが料理を並べてくれる。その料理の数々は各々芸術ではないかと思う程美しい。
「ハーブティーです。お嬢様」
アルトが執事の様に優雅にお茶を淹れてくれるものだから驚いてしまった。
「アルトどうしたの?執事みたい」
「ハハッ俺本業執事だよ?」
おバカだなーと笑いながら頭を撫でられ、頭にキスをされた。
皆が見てる前でやめてほしいと顔を赤く染めキスをされた頭を手で押さえながら視線を泳がせる。
「・・・アルトばかり狡い。俺もコハルといちゃつきたい」
腕組みをしながら不貞腐れてしまったクルト。コハルはどうした事かと目の前の料理を見て考えた。公爵家が用意してくれた料理の中にはコハルの大好物のお肉があった。コハルはそれを一口大に切り取りフォークで刺し、クルトへ手招きをした。そばへやって来たクルトはしゃがみこみ首を傾げる。そんなクルトに対しコハルはクルトの耳に手を添え小声で話す。
「これ私が一番好きなの。クルトにだけあげる。誰にも内緒だよ?」
クルトにそのお肉を食べさせると彼は満足そうな、幸せそうに笑いながらそれを食べていた。やはり美味しい物に勝るものはないとコハルは得意気にしている。だがクルトは自分だけという言葉が嬉しかったのだ。
「そんなに好きなのか?ほら、やるよ」
地獄耳のラウルにはしっかりと聞こえていた様で彼は自分の料理を取り分けコハルの口元へ運んでくれた。大好物を目の前にし、コハルは周りの目を気にせずそのまま口を開け食べようとしたら、なんとジークバルトがぬっと現れてそれを食べてしまったのだ。
いいぞ!ジークバルト!
騎士達が歓声を上げた。
ラウルは空になったフォークに嫌悪の眼差しを向け遠くへ投げ捨ててしまった。危ない。誰かに当たったらどうするのだ。
ジークバルトはコハルからフォークを横取りするとコハルの大好物のお肉をそれで刺し、彼女の口元へ運ぶ。彼の意外な行動に恥じらいよりも驚きが勝り口が勝手に開いた。ゆっくりと口の中に入ってきたお肉を咀嚼し味わう。やはり間違いなく美味しい味付けに自然と笑顔になり「美味しいです」とジークバルトに言った。彼は満足そうに口角を上げ、ぺろっとフォークから垂れ指についてしまったソースを舐めた。その姿が絵になるなあと見惚れてしまう。そのソースが美味しかったのだろう彼の雰囲気がキラキラしている。
公爵家の料理が美味しいと思われた事に対しコハルは何だか嬉しい気持ちになる。だが次の彼の行動に固まった。彼はコハルの顔を持ち上げ口端に付いたソースを舐めとったのだ。コハルも周囲も固まってしまったが彼は犬の様に舐め続けている。
「・・・うまい」
久しぶりに聞いたジークバルトのテノールの声が頭に響いた。我に帰ったコハルはみるみる顔を真っ赤にし目がグルグルと回り混乱する。双子がギャーギャー騒ぎながら引き離そうとするがビクともしない。
何やってるんだジークバルトー!!
騎士達は悲鳴を上げた。
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