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しおりを挟む騎士団寮へ着いたコハル一行は門兵に挨拶をした。門兵は公爵の馬車が目の前で止まった事に驚くがその馬車からコハルが現れ更に驚いた。門兵の一人が慌てた様子で寮の中へ入りデイジーを連れて戻って来た。ドスドスと音を立てながら駆け付けて来たデイジーはその勢いのままコハルを抱きしめる。ぐえっと悲鳴を上げたが久しぶりに会えたデイジーに嬉しくなったコハルは笑顔で彼女の背中に腕を回した。
「良くぞ無事に戻ってきたわね!」
大丈夫?どこも悪くない?すぐ団長に連絡を入れるわね。と心配してくれているのだが、抱きしめられている力が強すぎて正直骨が折れそうです。デイジーの勢いが凄すぎてラウル達三人は空いた口が塞がらない。
落ち着いたデイジーはラウルに礼儀正しく挨拶をし、ロイドの執務室へ案内してくれた。道中に見知った騎士達が笑顔で迎え入れてくれるものだから心があたたかくなる。
ロイド達は外出しているらしい。執務室へ案内された一行はロイド達が戻るまで寛ぐ事にした。寛ぐと言ってもソファにドカっと座っているのはラウルだけであり、双子はその後ろに立ち待機している。コハルも待ち望んでいる騎士達を思いそわそわしていて座っていられない。
デイジーが執務室から居なくなり、少し時間が経ったあと、廊下が騒がしくなった。誰が来たのだろうとそわそわしながら扉を見る。
「俺より先に行くなよ!ったくもー」
聞き覚えのある声に誰だっけ?と首を傾げる。勢いよく執務室の扉が開かれ驚いたが登場人物を見て更に驚いた。高身長イケメンの第二騎士団副団長のジークバルトが勢い良く現れたのである。彼の後ろを追いかけていたのか、ぜぇぜぇと呼吸を乱している第二騎士団団長のジュフェリーも現れた。
「やあお嬢ちゃん元気そうだね」
「こんにちはジュフェリーさん。ジークバルトさんもお久しぶりですね」
笑顔で挨拶をするとジークバルトに抱き締められ驚いた。
「・・・良かった」
彼はそれだけ呟くとコハルを肘の位置まで持ち上げ固定した。プールの監視役が座る様にジークバルトの腕に座っている。彼は片手で支えてるのだが重くないのだろうか。ただでさえ高身長の彼に抱っこされ、コハルの視線は高く、ここに居る男達を見下ろす程だ。下から「おろせよ!」とアルトが騒いでいる。
公爵の存在に気がついたジュフェリーは騎士礼をとり、ジークバルトも同じ事をした。
「ここは第一騎士団だろう。どうして第二がいるんだ」
ラウルの言葉にジュフェリーが説明をした。コハルがいなくなった後、第一騎士団と共にジークバルトはずっと捜索をしていたと言う。今回たまたま第一騎士団寮の近くを通りかかった所コハルが戻ってきたと騒いでいた騎士を見かけ慌てて飛んで来たのだ。
それはご迷惑を掛けてしまっていたとコハルはジークバルトに慌ててお詫びとお礼を伝えた。彼は無言のままコハルを見つめ、彼女の頭をポンポンと撫でる。少し口角が上がっているので微笑んでいるのであろう。やっぱりこの人癒しだなーと思い見つめ合っていると再び執務室の扉が開かれた。
「っルイスさん!」
会いたかったルイスが現れたのだ。彼はジークバルトに抱かれたコハルのそばへ寄ると両手を軽く広げた。コハルも両手を広げてルイスの胸へ飛び込んだ。
「会いたかった。コハル、無事でよかった」
「私も、会いたかったです」
ぎゅうぎゅうと締め付けられる。だが不思議と苦しくはない。顔を離し見つめ合う。少し痩せた様な、やつれた様な顔に心配になる。
「元気、でした?」
「・・・貴女がいないとダメでした」
彼の頬を手で包み込み親指で軽く撫でる。彼は嬉しそうにコハルの手を大きな手で包み込んだ。
「もう、離しません」
ルイスの言葉に顔に熱が集中する。するとジュフェリーが盛大な咳払いをした。邪魔しないで下さいとルイスが横目で睨むとジュフェリーは手のひらをラウルへ向け公爵が居ることをアピールする。
ルイスはラウルに挨拶をした後、コハルに何故公爵家が居るのか問うた。これまでの経緯を説明した後、ルイスは再びラウル達に深く頭を下げる。
「うちのコハルを助けて下さり誠に感謝申し上げます」
ルイスは普通に礼を述べたのだが、ラウル達からしたら“うちの”と言うワードが引っかかった。
「“うちの”者が世話になった“元”職場の連中に挨拶くらいしてやらねばな」
ラウルはわざと強調させて言った。ルイスは笑顔のままピクリと眉を動かす。
「それは、いったいどういう事でしょうか」
「ら、ラウル?元職場って?」
まだまだ働く気まんまんのコハルだったがラウルの言葉に驚く。そんな事言ってクビになったらどうしてくれるのだ。
「こいつは連れて帰る。ここに居るより公爵家の方が安全だろう」
「お言葉ですが、これからは警備を増やし万全に対応致しますので此方でも問題はございません」
「まさか閉じ込めるつもりか?」
「必要であればそう致しますが、彼女の意思が大事なのでは?」
バチバチとラウルとルイスの間に火花が散っている。さらっと怖い事を言ったルイスに驚いたが、この雰囲気どうしようと助けを求めるべく双子を見ると彼等も参戦しだした。
「俺達コハルの事愛してるから手放す気はないよ?」
「今回はコハルがどうしてもってお願いするから連れて来ただけだから」
バチバチバチバチッ
なぜ!?何故こうなるのだ。
頭を抱えて慌てていたら執務室の扉が開いた。ロイドとウォルトが現れたのだ。彼等は急いで来たのか呼吸が乱れている。久しぶりに見たロイドとウォルトの姿に先程の慌てぶりが消え喜びへと変わる。
ロイドはコハルを見つけると駆け付けて抱きしめた。頭をコハルの肩に乗せ、コハルの後頭部を支え何度も良かったと呟く。ロイドのサラサラとした綺麗な銀髪が顔に当たり擽ったい。その横でウォルトは涙を流しながらコハルとの再会を喜んでいた。
「怪我は?どこも悪くないか?」
「はい!」
「コハル良かったです。本当に会えて良かったです」
「私も会えて嬉しいよ」
微笑ましい再会だとにんまりする。だがやはりルイス同様に二人とも少し痩せてしまった気がするのは気のせいだろうか。
「あーロイド?感動の再会のところ悪いけどそれどころじゃなさそうだぞー」
ジュフェリーの言葉にハッとした。ルイス達を見るとまだ睨み合っていたのだ。ジュフェリーがロイドとウォルトに説明をしてくれたのでこれでおさまるだろうと思っていたのに彼等も参戦し始めた。
これはいったいどういうことでしょうか。
ロイド、ルイス、ウォルトvsラウル、クルト、アルトの言い争いが止まらない。
ジュフェリーは面白そうに腕を組みながら観戦している。そしてコハルは今、ジークバルトの膝の上に座り縮こまっていた。六人の言い争いに怯えていたらいつの間にかジークバルトがコハルを自身の膝上へ座らせたのだ。しかも六人が言い合う丁度真ん中で。渦中の人物である事は承知している。だが一向に終わることの無い言い合いに胸が苦しくなった。
「とにかくコハルは渡しません!」
「それはこっちのセリフだってーの!」
ぽろぽろ ぽろぽろ 勝手に涙が溢れ出た。泣いたって仕方がない事は分かっている。だが好きな人達が喧嘩をするのは気持ちが落ち着かず不安になり、嫌な気持ちになる。
静かに泣き出したコハルに気がついたジュフェリーは流石に慌てた。どうすればいいのかあたふたしている。コハルが涙を拭く動作をして泣いている事に気がついたジークバルトは慌てて何か拭くものを探した。ルイスならハンカチの一つや二つ持っているだろうと長い腕を伸ばしルイスのポケットからハンカチを探る。やはり持っていたハンカチを取り出しコハルの涙を拭き始めた。そこで初めてコハルが泣いている事に気がついた六人はぎょっとし口論を止め慌ててコハルを覗き込んだ。
「コハルどうしたの?お腹痛い?」
「ち、ちがうの。ごめんなさいっ泣くつもりはなかったんだけど」
勝手に涙が出てしまう。
コハルの滅多に見せない涙に混乱する男達。ラウルは自身の頭をがしがしと掻いた後コハルの涙を手で拭った。
「泣くなバカ。お前が泣くと調子狂う」
泣くなと言いながら頭を優しく撫でるラウル。
「けんか、しないで。お願い、喧嘩しないで下さい」
泣きながら言ったコハルの言葉がささったのか、ロイドがコハルの手を握り「もう言い争いは止めるから泣かないでくれ」とコハルを落ち着かせた。
うおっほんっ
誰かの咳払いが部屋に響いた。いつの間に居たのか、扉の前に皇子の側近であるダヒレアが丸眼鏡を光らせて立っていた。
「まったく、いい大人が女性を泣かせるなんて言語道断です。コハル嬢が戻ったと聞き、様子を見に来たのですが何をやっているのやら」
ぐうの音も出ない男達は大人しくなる。状況を把握しこの場をおさめるべくダビレアが動いた。
「コハル嬢、貴女もいい加減決める時が来たのではないですか?」
ダビレアは結婚についてコハルに問うた。その問いに困惑するコハル。だがダビレアは続ける。
「彼女は皇子の命により騎士団寮で働いています。その為彼女の意思次第ではありますが今回は騎士団にて保護させて頂きます」
ちっ。ラウルが舌打ちをし双子と共に不服そうにしている。
「そして数日後席を設けますのでコハル嬢と殿方に集まってもらい、そこで正式に婚姻の話を進めましょう。夫として立候補する方は集まるように。コハル嬢、それで宜しいですね?」
「え?あ、はい。はい?」
「それでは私はこれにて失礼します。公爵様も早々にお戻り下さい」
淡々と話をし終えたダビレアは颯爽と去ってしまった。すっかりと涙が止まってしまったコハルは頭が回転せず、空いた口が閉じないまま。
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