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 体調が全回復したコハルは今日も元気にラウル達に食事を作った。食べさせる事にもだいぶ慣れる事が出来、毎日満足のいく生活を送っている。だが何かが欠けている。ロイド、ルイス、ウォルトに会いたい。そろそろ帰らなくちゃ。騎士三人が恋しくなって来た。

コハルは朝食をラウルに食べさせ終え、双子の間へ移動した。いつも通り食べさせてもらっているとラウルに呼び出される。

なんだ?どうした?

近くへ寄るとしゃがめと手で指示を受けたので大人しくそれに従う。すると彼はデスクの引き出しからとても美味しそうなクッキーを取り出したのだ。そんな所にお菓子を隠していたのかと驚いた。彼は箱から一枚取り出すとコハルの口もとへそれを運ぶ。このクッキーがなんだ?と首を傾げるとラウルはそれをコハルの唇にちょんちょんと当てた。

「食え」

食べさせてくれるのかな?

コハルは口を大きく開けた。クッキーが口の中へ運ばれる。思っていたより大きかったクッキーは一口で食べきる事が出来ず半分噛じると口の端にカスが付いてしまった。だが、あまりにも美味しかったので気にする事なく飛び跳ねて喜んだ。

「このクッキー凄く美味しいですね!」

どこで手に入れたのですかときゃあきゃあ喜ぶコハルを見てラウルは何かを納得したのか満足気な顔をしている。

「たしかに悪くないな」
「へ?・・・っつーー!!」
「ちょっ!公!」

ラウルがコハルの頬を手で包み顔を持ち上げて彼女の口の端に付いているクッキーのカスを舌で舐めとった。コハルの唇にはラウルの舌が当たる。突然の事で驚き、顔が釜で茹で上がったタコの様に真っ赤になった。

慌てた双子がコハルの元へ駆け寄りラウルに文句を言いながらハンカチで彼女の口周りを拭いている。文句を言われているラウルは舌を出しながら聞こえないふりをしていた。

***

昼食前

コハルはいつにも増して上機嫌で昼食を作っている。その理由はある使用人から道路整備が整った情報を得たからだ。やっと帰れるぞと嬉しい気持ちになる。

今回は双子が留守の為ラウルの分だけ用意した。自分は後で食べようと思ったからである。

ラウルに昼食を食べ与え終えたコハルは彼に今までお世話になったと感謝の気持ちを述べた。その間彼は黙ったままだ。てっきり、やっと静かになる等言われるのかと思ったのに。

ラウルの反応に首を傾げるが彼は遠くを見ているようで目が合わない。不思議に思いながらも時間だけが過ぎた為、双子が戻ってきたら帰りますねと伝え部屋を出た。

コハルが執務室から出て行った後、ラウルは眉間にシワを寄せ頬杖をした。

帰る、だと・・・?

ラウルの中で不貞腐れたコハルや笑顔のコハル、様々な表情のコハルがループされる。
今までと違う女。初めて媚びを売ってこない女。初めて看病した女。初めて食べさせる事を許した女。女を執務室へ入れる事も初めてだ。初めて人に食べさせた。初めてそばに居て居心地が良いと思った女。これからも今の生活が続くと思っていたのに。

この俺から離れるだと?

今まで味わった事のない胸の締め付けがラウルを襲った。


コハルはルンルン気分で公爵家の廊下をスキップしている。早く双子が帰って来ないかなとワクワクしているのだ。玄関で待っていようと思い階段を降りようとしたら爺やに引き止められてしまった。危ない、階段を踏み外すところだった。

「コハル様!どうか、どうか考え直して下さい」

突然頭を深く下げた爺やの姿にコハルは何があったのかと慌てる。取り敢えず顔を上げて下さいと説得するが爺やは頭を下げたままだ。

爺やからしてみれば、ラウルがやっと心を開いた女性を見逃す訳にはいかなかった。ラウルの食生活を正した救世主。それにコハルは今までラウルが連れて来た女性とは月とすっぽん。使用人にも優しく、爺やと一緒に編み物をしたりととても楽しい時間を過ごしていたのだ。坊ちゃんのお嫁さんはコハル様だと決め込んでいた爺やはコハルが出て行こうとしていると聞き慌てて引き止めているのだ。

取り敢えず玄関で双子を待ちながら話をしましょうと爺やを誘い階段を降りようとしたその時

「おい!」

今まで聞いた事がない程ラウルの声が響いた。
驚いたコハルは段差を踏み外し、階段を転げ落ちてしまった。勢いよく落ちているのにスローモーションに見えて、周囲の者が動いた時にはコハルは床へ叩きつけられていた。

「コハル様!医者をっ直ぐに医者を!」

血相を変えた爺やが叫ぶ。
頭から血を流していてぐったりしているコハル。ラウルは青ざめ、慌てて彼女のもとへ駆け寄った。

***


んー。頭が重い。ズキズキする。

頭に手を当てると髪の毛ではない感覚に目を開けた。ここは、どこだ?何で頭に包帯?

「・・・夢?」

知らない豪華な部屋の中、ベッドに横たわっていたコハルは起き上がり自分の頬を抓る。

痛い。夢じゃない。
夢じゃなきゃ、何なのだ?

起き上がり周りを見ると椅子に座り上半身をベッドに預け俯いて寝ている白髪二人と、反対側で椅子に座り腕を組んだまま寝ている黒髪の男が居た。どうして男に囲まれているのだろうと首を傾げる。

起こしてはまずいと思うが状況が掴めないので手前にいる白髪の人の肩を揺さぶった。

「あの、すみません」
「んー・・・コハル!良かった目が覚めたんだね」

起き上がった白髪があまりにもイケメンだったので驚き固まってしまった。黄檗色の瞳が綺麗過ぎて見つめてしまう。

「コハル?どうしたの?どこか痛い?」

イケメンが手を握りながら心配してくれてる。
本当にイケメンだー。

イケメンが騒がしくするので他二人も起きた。あとの二人もすっごくイケメンで固まってしまう。
どういう事?なにこのイケメンパラダイス。
もう一人の白髪に抱き締められ困惑する。すると黒髪のイケメンが自分の髪をわしゃわしゃと乱した後、良かったと呟きながら彼に肩を抱き寄せられた。

なんか、凄く喜ばれているけどなんの事だか分からない。もしかして人違いをしているのでは?

「あの、部屋を間違えてませんか?どちら様でしょうか」

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