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しおりを挟む艶やかな黒髪がサラサラと風に揺れていて憂いを帯びたその後ろ姿でさえ色気を感じる。
「のいう゛あぁぁあんしゅたいん様」
コハルのこぶしを効かせた独特な呼び方に彼は漸く振り返る。まさかここにコハルが居るとは思ってもみなかった彼はきょとんとし、何を思い出したのか鼻で軽く笑った。
「飛び蹴り女か」
その言葉にあの時の失態を思い出す。いや、あれは失態ではない。男の子を助けた立派な救助活動だ。それよりも今はあの場所に戻りたくない。戻ったらまた囲まれそうな気がする。
コハルは両手を顔の前で合わせお願いのポーズを取った。
「あの、今は戻りたくないのです。邪魔しないので暫く匿って下さい!」
「・・・来い。話し相手になれ」
意外にもすんなり許可がおり、コハルは公爵の隣へ移動する。
「のいう゛あぁぁあんしゅたいん様は今日もおひとりですか?」
「その言い方やめろ。俺の名前忘れたのか?」
極上のイケメンに横目で睨まれ萎縮してしまう。実はノイヴァンシュタインと言う名の響きが印象的過ぎてファーストネームを忘れてしまったのだ。
「さ、佐藤さん?」
「処罰されたいのか」
ひぃいっ!そんな綺麗な顔で睨まないで下さい!
濃紺の綺麗な瞳が睨んできた。と思ったらノイヴァンシュタイン様はクックッと笑っている。
「この俺が名前呼びを許可したのに忘れる女なんて中々いないぞ。ラウルサージ・ノイヴァンシュタインだ。ラウルと呼べ」
「ラウル様。コハルです」
改めて自己紹介をすると彼は庭へ目を移す。もうコハルに興味が無い様な態度が何だか心地良い。
「ただの一般人じゃなかったのか?」
「一般人ですよ。コネでちょっと入らせてもらったのですが囲まれちゃって」
「・・・結婚の話等、色々と面倒だろ」
それからラウルとは結婚に対しての愚痴大会が始まり意外にも会話が盛り上がった。彼は立場上周囲から早く結婚するよう言われているのだが本人のやる気が無いのだ。今もこうして独りでいるのは話しかけられたくないから。
時間が過ぎ、立っているのが疲れてきたコハルはよいしょっと言いながらテラスの手すりへ腰掛けた。ちょっとでもバランスを崩すと下へ落ちてしまいそうな状況に流石のラウルも驚きを隠せないでいる。
「落ちるぞばか。おりろ」
「大丈夫ですよ。こう見えてバランス感覚が良いですから!」
えへん!と両手を広げて大丈夫だとアピールするコハルに対しラウルは持参していたハンカチを広げて持てと指示をした。言われたままそのハンカチを受け取るが彼はハンカチの端を持ったまま離さない。もしかしたら落ちないようにこのハンカチで繋げようとしているのかもしれないと思ったコハルはお腹を抱えて笑いだした。なんて頼りない命綱なんだろう。その優しさが面白くて嬉しい。
「・・・何がおかしい」
「っーだって、このハンカチで、ラウル様おもしろいっ」
バカにされたと思ったラウルは舌打ちをし瞬時にハンカチを取り上げた。下を向いて笑っていたコハルは怒らせてしまったと思い笑いながら顔を上げるとラウルはそっぽを向きながらも彼の手だけが差し伸べられていた。ハンカチではなく手を握れと言うことなのだろうか。
「結婚しろとか言うなよ」
こちらを見ないまま言われコハルはまた笑いそうになるのを堪えてその手を握る。
「ラウル様こそ言わないで下さいね」
「言うかばーか。」
暫く時間が経ち、そろそろ戻るとラウルに挨拶をしてテラスの扉へ向かう。扉の取手へ手を差し伸ばすと扉が勝手に開いた。驚くのもつかの間入ってきた二人組を見てギョッとする。
「公ー?酒と料理持ってきたー・・・え?」
「アルト言葉使いには気をつけ・・・・・・え?」
何と以前森で出会った双子のクルトとアルトが入って来たのであった。
「「っーー!コハル!!」」
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