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 初仕事から数日が経ち、第一騎士団寮への仕事にも慣れてきた。コハルの仕事は主に料理、洗濯、掃除といって所謂家政婦の仕事をしている。

 第一騎士団所属の騎士達は最初こそ遠巻きにされていたが今となっては普通に接してくれるまでに距離が縮んだ。彼等は女性慣れしていない男ばかりのこの場所では、女性に話しかけることでさえ緊張でかなりの疲労を伴うと言う。

 ちなみにあの日以来皇子様達には会っていない。ユリウス様は毎日会いに来ると言っていたのに来ないことは正直助かる。最初のイメージが悪いからか頻繁に来られたらより苦手意識が強まりそうだからだ。

 コハルの作る料理は大好評であった。特に男子飯は好評で毎回お代わりの分も完食してくれる程だ。人気ランキング一位オムライス、二位ハンバーグ、三位カレーライスとロイドは毎回料理ランキングを告げてくる。彼は相当オムライスが気に入ったようだ。何よりもコハルにの作る料理が楽しみで仕方がない様子で次は何かと楽しそうに聞いてくる。かわいい。

 コハルには少し困ったことがあった。デイジー以外の人がやたらと心配性がすぎるのだ。何かを始めようとするとすぐに誰かしらが手伝いに来てくれる。大変有難いことなのだが、最初こそ有難く受け入れていたのだが、独りで作業をしたい時だってあるのだ。一緒に手伝ってくれる人も毎回ばらばらで、その度に会話をするのは楽しいが疲れる。騎士様達にも仕事があるはずだ。別に構ってくれなくていいのに。それに皆顔が整っているからいつも緊張してしまう。女の性って大変だ。

 今は廊下の電球を取り替える為、わざわざ人が居ないのを確認してから脚立を抱え廊下にやって来た。人に見られたら絶対代わりにやってくれるだろう。仕事が盗られてしまうので早く終わらせたい。

 脚立の一番高い場所でバランスをとる為に足を股ごうとしたら作業着がロング丈のメイド服仕様の為、足を広げた時にスカート部分が上手く広がらずバランスを崩し体が床に落ちてしまった。直ぐに電球が割れていないのを確認しほっとする。

 まったく、作業着が作業の邪魔をしてどうするんだと心の中で文句を言って立ち上がると、久しぶりに太腿に風を感じた。スカートを見ると脚立に引っ掛かって落ちた時に破れてしまったのだろう、驚くことに縦に大きく引き裂かれていた。

 やってしまった。デイジーに怒られてしまう。

 冷や汗をかいたのは一瞬でその動きやすさに驚いた。なんならと手で更に布を破き、チャイナドレスの様に大胆に足が出るようにした。

 すごいっ!これだ!求めていたのはこれなんだ!

 あまりの動きやすさに鼻歌を歌いながら次々と電球を変えていたコハルは戻ってきた騎士達の存在に気づいていなかった。

 自分の脚とは全く違うしなやかで柔らかそうな、すらりとした脚。真珠のような肌はきっと滑らなのだろう、触れてみたい。見てはいけないと分かっているのに時折見え隠れするお尻を見てしまい、さらに期待が高まる。彼等は滅多に見られない女性の太腿に顔を染めながらも釘付けになっていた。

「何をしている」

 冷たく、低い声が廊下に響いた。
 決して大きい声ではないのにその声の威圧感に背筋が凍った。

 コハルは声がした方向を向いてぎょっとする。いつの間にか騎士達が帰ってきていて、その奥に今までに見たことがないくらい怖い顔をしているルイスがいた。周りの騎士達はルイスに怯えている。

「お前達、外周十km走るんだ」
「「承知致しましたっ!!」」

 ルイスの命令を受け騎士達は一斉に居なくなった。この場にいるのは下半身を露出しているコハルと、笑顔が怖いルイスのみ。

「それで?貴女はなぜそのような格好をしているのですか」

 怒っている。あのいつも優しい癒しのルイスが怒っている。

 コハルは怯えながらも状況を説明した。話が終わるとルイスはため息を吐いてついて来るよう命じた。

 辿り着いたのはルイスの部屋だった。ここでこっ酷く叱れるのかと落ち込んでいたコハルだが、予想とは違いルイスは彼女に護身術を教え始めた。

 ここは騎士団男子寮。いくら常識のある紳士な騎士でも男なのだ。年頃の男が若くて美しい女性の肌を見ていつタカが外れるか分からない。

 ルイスは背後から襲われた時に対応する護身術を教えているのだが、丁寧に教えてくれているのだが、明らかに不機嫌なのだ。こんなルイス今まで見たことがないコハルは内心ハラハラしていて説明を右から左へ受け流していた。

「コハル聞いてます?」
「あ、あの、ルイスさん!どうしてそんなに怒っているのですか」

 思わず聞いてしまった。ルイスは少し沈黙した後、斜め下を向いて眉間に皺を寄せる。

「自分でも分かりません。私はどうしてこんなにも苛々しているのか・・・ただ、他の者達に貴女の肌を見られるのが嫌だった。平気で見せている貴女にも」

ルイスの言葉に少しの間の後、顔に熱が集中した。

 それって嫉妬なんじゃ・・・。

 そう考えると更に顔が熱くなり彼を見ることが出来ず背を向けて顔に手を当てる。

 お、おおおおお落ち着け自分!

 深呼吸を繰り返すコハル。素直に心境を伝えたのに背を向けられたルイスはむっとし彼女を後ろから抱きしめた。突然の事に慌てるコハル。

「実践です。先程説明した通りにすれば振り解けます」

 ルイスはきっと真剣なのだろう。だがコハルはルイスに抱き締められているという事に胸の鼓動が激しくなるのを感じてそれどころではない。

「男は狼です。例えば今貴女が見せびらかしているこの脚、こうやって迫られて触られる可能性だってある」

 見せびらかしている訳では無いと抗議をしようとしたが彼の声がすぐ近くにある耳を刺激し体が震える。引き裂いたスカートの割れ目から露出している太腿にルイスの手が触れた。

 ビクッと体が反応し思わず声が出そうになるのを手で抑える。

「コハル、手はそこじゃダメです。今貴女に触れている私の手を自由にさせてはいけません。ちゃんと私の手をおさえて」

 お願いだから耳元で喋らないでほしい。

 ルイスは口元にあるコハルの手を太腿に触れている自分の手に重ねさせた。動かしますよと前触れをしてくれたのに力が入らず、彼の手はコハルの手を上に重ねたままお尻まで動いた。

「あ・・・っ・・・!」
「ちゃんとおさえてください」

 分かってる。分かってるけど、体に力が入らないんです。

「こっちを向いてください」
「んぅん・・・!?」

 素直に振り向いたら唇と唇が重なった。
 え、私今ルイスさんとキスしてる・・・!?

「ちゃんと俺を、拒んで」






「俺を拒んで」

 強引のようで強引じゃない。本気で嫌がれば直ぐに解ける力加減で抱き締められている。触れるだけの唇は離れて、また角度を変えて触れる。甘い、甘くて痺れる。心地の良い刺激に頭が蕩けそうになる。彼の薄い唇が口の中に入る。まるで自分からそれを食べているかのように甘噛みをした。もっと、もっと欲しいと思ってしまうほどに彼とのキスに夢中になっていた。

「私・・・ルイスさんを拒むなんて・・・出来ない」

 きっと相当情けない顔をしているのだろう。でも素直に思っていることを言った。そしたら、はにかみながら困った様に照れ笑いする彼に胸が鷲掴みされたみたいに苦しくなった。

 何この笑顔、可愛すぎるっ。

 キスの続きがしたくて自分から少しだけ唇を彼の唇へ近づけようとしたら彼が離れていった。もうお終いなのかと思う寂しさと、どうして離れるのという嫉妬と、自分からキスをしてしまいそうになった羞恥心でぐちゃぐちゃな感情が掻き立てられる。

 ルイスはベッドに座り肘を自身の膝上に立て頭を抱えた。

「・・・申し訳ありません。無理矢理するつもりはなかったのです」

 後悔しているのだろうか彼は目を合わせようとしない。

 コハルはルイスの隣に座り反省しながら体を縮こませた。

「私も心配をかけるような事をしちゃってごめんなさい。それから、さっきの事ですけど・・・本当に嫌じゃなかったので謝らないで下さい」

 最後の言葉は恥ずかしくて小声になってしまったが顔を伏せている為ルイスの顔を見ることが出来ず彼がどんな表情をしているのか分からない。

 ぽん。と大きな手が優しく頭に触れた。

「ありがとう」

 顔を上げると、いつものに甘さを足したような優しく笑うルイスが頭を撫でる。

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