【R18】騎士たちの監視対象になりました

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 黒と白のシンプルなメイド服に着替えるべく、納屋へ戻った。脱ぐのも大変なドレスをデイジーが手伝い脱がしてくれた。彼女は時折毒舌だけど裏表無くハッキリと物事を発言してくれる素敵な人だと知った。

 納屋のリビングには騎士三人が控えている。その他の皇子達は公務がある為別れた。正直ほっとし、ため息を吐く。ずっと皇子様達と一緒だと気まづくて呼吸がしづらい。

 事前に全第一騎士達に告知書を配布し、コハルが働く事を周知させたので女性が働くことに対して理解している筈だとロイドから説明を受けた。

 支度を終え騎士三人が待つリビングへ向かうと、いよいよ職場に案内される。着いた先は食堂だった。中には数人の騎士達が居る。これから挨拶をすると思うと緊張してしまう。頭の中では常に第一印象が大事だという言葉が浮かんでいる。疎らに寛いでいる騎士達に笑顔で挨拶をした。

｢コハルと申します。今日からお世話になります｣

 人前に立って挨拶をするのはどうも緊張してしまう。頑張って挨拶をしたのに誰も何も言ってこない。辺りを見渡すと、騎士達は口をあけて放心していた。

 これは、どういう反応だろう･･･。
 声が小さくて聞こえなかったのだろうか。

 首を傾げ再び挨拶をしようと一歩前へ出たところで、背中をデイジーに押され厨房の中へ入れられた。

「はいはーい！こんな奴等ほっといてさっさと仕事よ！団長様、この子はアタシに任せなさい」
「ああ、任せた。頑張るんだぞ」
「コハル、指を切らないよう注意して下さい」
「重いものを運ぶ時は言ってください！」

「はい！がんばります！」

 ロイド達に見送られ、コハルは仕事を開始した。


***

 コハルはデイジーに案内され食料庫にいる。ここで物凄く驚いた事と感動した事がある。
 
まずは感動した事だ。なんと日本で使っていた調味料や精米された白米が置いてあったのだ。調味料にはもちろんパッケージ等はなく、調味料は全て舐めて確認した。これなら今まで日本で食べてきた料理を再現することが出来る。

 そして驚いた事は、デイジーはこの調味料達の使い方がわからず腐っては処分の繰り返しだと言う。しかも白米は家畜の餌にしているらしい。

 なんて、なんて勿体ない！！

 拳を震わせて二度とこれ等を無駄にしないと誓った。

「全部カエキル国からユリウス様が持ってきてくれるんだけど、使い方がよく分からないのよねー」

 ユリウスという名前を聞いて体の動きが止まり、彼からの突然のキスを思い出してしまった。騎士達のおかげでイケメン耐性がついているのにも関わらず、ユリウスもまた極上のイケメンだと思う。吸い込まれそうなほど綺麗な藍色の瞳をしていた。でもなんの前触れもない突然の口付けは驚きもあったが「えええー」と引くという感情が強かった。今思い出しても嫌悪感がそこまでないのは、きっと顔が良かったからだ。我ながら本当に面食いだと思う。

 だがこの目の前にある極上の食材達が彼のおかげでここにあると知った今、底辺にあった好感度パラメーターの指数がうなぎ登りだ。これからももっと様々な調味料等を調達すべく、次に会う時は必ず愛想良く接しようと心に誓った。

 さて、郷に入れば郷に従えという言葉があるように、まずはここでの食事がどういうものか、どのようにしてそれ等を調理しているのか学ばせてもらおう！


***


 料理の仕様は把握できた。そして問題が発生した。なんとここのメニューは毎日同じだと言う。

 朝、サンドイッチ
 昼、サンドイッチ
 夜、肉を焼いただけ(ステーキ)

 前菜やスープはないのかと聞いたら、無いと答えられた。あるのは硬いパンだけ。なんということでしょう。体が資本の騎士様達の食生活は、なんとも残念なものでした。

 いやいや、それでも！こんなにも素晴らしい食材や調味料があるのに･･･！

 ショックを隠しきれないでいた私の様子にデイジーはちゃめっ気のある声で舌を出しながら、メニューを考えるのが面倒だと言った。そして明日から自由に作ってくれて構わないと言われた。

 たしかに人数も多い分作るのは大変だろう。それでも好きに作って良いと言うことは、自分の食べたい料理を食べたい時に食べられるわけで･･･最高じゃないか。明日から頑張ろう！

 明日のメニューを考えるとウキウキと心が弾む。そしてチラっとひとつの小さな鍋を見てうっとりと顔を蕩けさせている私がいる。

 鍋の中身の正体はそう！お米なのである。この世界に来てから食べることが叶わなかった我が故郷の心の味！私の大好きなお米！それが今日食べられるのだ。早く晩御飯の時間にならないかな。

「あんた手際が良くて驚いたわよ。ほんとに料理作ってたのね」

 最初こそ本当に料理が出来るのか疑っていたデイジーだったが、コハルの手際の良さに驚いたと言う。

「私の国では大半の家庭では女性が料理をしますから、一般家庭レベルの料理を作れてもあまり褒められたものじゃないのに、ここでは驚かれるから役得ですね」

「んまー！ちょっとヤダこの人。ほんとに良い子なのか策士なのか分からないじゃない」

 思ったことを話しただけなのにデイジーは面白い顔をして私を見極めていた。でもこんなやり取りも嫌いじゃない。むしろズバズバ遠慮なく言ってくれるデイジーが好きだ。

 職場の人が良い人なのは良いよなあ。