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 体育座りをし、折り曲げた膝にクルトが顔を乗せ、腕をコハルの足に絡めている。後ろからアルトに抱きつかれ、コハルのお腹に回る腕。背中にピッタリとくっついている体が温かい。肩に乗っているアルトの顔が近くて、髪が顔に当たって少し痒い。三人は串に刺さった団子の様に密着している。

 クルトとアルトは現在上半身裸だ。何故今も服を着用していないかと言うとその理由は、コハルの愛液で濡れてしまった服を川で洗い、木の枝に掛けて乾かしているからである。

「どうしてあんなことしたの?」

 背中にアルトの額が当たる。

「・・兄貴はいつも欲しいものを我慢してたから・・・」

 クルトとアルトは双子の男の子。それは、女性が少ないこの世界では蔑まれる存在。周囲や家族からでさえも蔑ろにされ、食べ物も満足に貰えずいつも空腹だった。それでもクルトはアルトに自分の分をわけていた。兄弟達に大切な物を全部取られ、欲しい物は我慢する日々。大人になっても欲のない生活をしていた。そんなクルトが初めて見せた執着がコハルだった。
 コハルを見るクルトの表情を見て、アルトは何としてもクルトのものにしようと決意したらしい。

 クルトが腕をのばし、アルトの頭に手を置いた。

「やっていい事の区別は出来るだろう。無理やりコハルを手に入れても意味がないんだ」
「・・・俺も好きだから・・兄貴がフラれたら俺も無理だろ。でも、諦めきれなくて・・・」

「・・・あのね、私は少なからず二人に好意があったの。だからアルトにあんな事されて傷ついた」

 素直に思っていることを言ったら、抱かれている腕に力が入り、アルトは額を肩に押しつけてグリグリしている。背後から「ごめん」と謝罪の声が聞こえた。

「俺達がした事は重罪だ。許せなかったら騎士や警備兵に俺達の特徴を伝えて。貴族に執事として仕えている白髪の双子だと言えば、俺達に繋がるから」

 許せなかったら、訴えろってこと?そんなこと出来ない。クルトの瞳を真っ直ぐ見つめた。

「私は二人のこと嫌いじゃないよ。結婚はまだ無理だけど、お互いの事を知る時間が私には必要です」
「・・・それって、もっと仲良くなったら結婚も考えてくれるってこと?」

 頷くとクルトが抱き寄せてキスをしてきた。慌ててクルトの胸を押し体を離す。彼は悲しげな顔をして顔を傾けた。

「どうして?キスはしていいって言っていたのに・・・」
「ソウデシタッケ?」
「コハルから抱き締めてお願いしてきただろ?すごく、可愛かった」

 そう言ってまたキスをされた。たしかにあの時キスしてもいいと言ってしまった。でも自分の中では、あの時はしてもいいという解釈だったのだが・・・それ以上の事をしてしまったので、キスくらいはいいのかもしれない。彼とのキスは気持ちがいいし。今度は拒むことなくされるがまま、舌を入れない可愛いキスをされている。

「・・・仕事したくない」

 真面目なクルトがそんな事を言ったので驚いた。

「コハルのそばにいたい」
「私は仕事に対して真面目な人が好きだよ?」
「・・・がんばる」

 右の肩に前からクルトの額が当たり、左の肩に後ろからアルトの額が当たる。動物に擦り寄られている様な状況に微笑んだ。彼等の髪が首に当たって擽ったい。

「なあ、明日からアンタに会える時間が短くなるから・・その分、今充電させて」


 彼等の服が乾くまでの時間お喋りをして、キスをして、甘い時間を過ごした。



***



 コハルは独りでログハウスに帰っている。家まで送ると言われたが、道中に自分の考えをまとめたくてお断りをした。

 家が見えると騎士三人の馬が家前に繋がられていたのを見て心臓が跳ねた。彼等が帰って来たのだ。家に居ないと心配させてしまうと思い、駆け足で玄関の扉を開けた。

 三人は怒っているような、心配しているような、よく分からないけど眉間に皺を寄せて険しい顔をしている。コハルは何事も無かったかのように笑顔を作った。

「お帰りなさい。お怪我はありませんか?」

 その質問への返答はなく、ロイドが近寄り目の前で腕組みをした。威圧を感じて少し怖い。

「何処へ行っていた」
「あの、キノコ狩りに・・・」

「キノコ狩り?収穫が無い様ですが」
「え!?あっ!籠忘れちゃった・・」

 ルイスの指摘に何も持っていない事に気が付く。キノコ狩りをしていたのは本当だ。クルトと小川付近で休憩をする前に行っていて、大量収穫だった筈なのに色々あったせいで忘れてしまった。今から取りに戻ろうと玄関を出ようとしたら腕をロイドに掴まれた。

「もう日が暮れるから行ってはダメだ・・・街には行っていないか?」
「行ってないですよ」
「・・・本当に?」
「本当です。約束したじゃないですか」

 街に行っていない事を確認すると、彼等の硬い表情が少しだけ和らいだ。結構待たせてしまったのかと質問をしたら、先程着いたみたいだ。家にコハルが居ないのを確認し、探し出そうとした矢先にコハルが帰って来たのだと言う。

 間に合って良かった。

 街まで探しに行かれたら多大なる迷惑を掛けてしまうところであった。

 彼等に椅子に腰掛けてもらい、珈琲の準備をする。淹れている間コハルの頭の中はクルトとアルトでいっぱいだった。今日の出来事を思い出し顔を顰めたり、赤らめたりと忙しなく表情を変えている。

 ふと窓から外を見ると、夕焼け空が見えた。お風呂に入ろう。体もベトベトしていてさっぱりしたい。

 彼等に珈琲を出して一言告げると、コハルはそのまま外通路の扉から出て行った。

 予想だにしないコハルの態度に三人は複雑な気持ちになっていた。待ち焦がれてくれているかと思っていた。もしくは、遅かっですよと可愛いらしく拗ねたコハルを見られるかと思っていたのに、現実は違った。遠征中の話を聞かれるどころか、こちらを気にかけず淡々と珈琲を淹れ湯浴みへ行ってしまった。それにあのコロコロと変わる表情はなんなのだ。まるでこちらには一切の興味がないかの様な態度に心が擦り減る。
 


 露天風呂に入り、自分の肌に咲いた沢山のキスマークを見てぎょっとした。

 何だこの数は・・あの二人、やりすぎでしょ。

 騎士三人に気付かれなかったという事は、服で隠れる場所なのだろうが、あまりの数に落胆する。髪や体を洗い、湯に浸かりクルトとアルトを想う。

 クルトにプロポーズをされた。アルトに好きだと言われた。どちらとも、嫌じゃなかった。二人を選んでもいいのだろうか・・・いや、ちょっと待て。冷静に落ち着くんだ。一妻多夫の世界だからといって、いきなり二人の男性とやっていけるのか?そもそもあんなイケメンから好かれるなんて、どう考えてもおかしい気がする。私の黒い髪が珍しいからやってみたくなったとか・・・。休暇の最終日だから思い出に一発やれるならやってしまおうとか・・・まさか・・・体目的?

 クルトとアルトがそういう人ではないとわかってはいるが、こういう時はいつも最悪な方を考えてしまう。自分が傷つかないように自己防衛の手段として。

 最後までやらないで良かった。これで最後までしてしまって、明日から二度と会うことはなかった・・なんて一番最悪なシナリオだ。自分はクルト達が生活をしている居場所を知らない。だから会いに来てもらわなければ彼等に会うことは出来ないのだ。待つだけしか出来ないのは辛い。だから、いっその事今日の出来事は夢だったと思った方が気持ちが楽になるのでは・・・?それで彼等が会いに来てくれた時はそうじゃなかったって喜ぼう。

 そう結論づけた時には長風呂をしてしまった様で、頭がぼんやりしてきた。

 今日は人生で一番イきすぎて、すごく疲れた。このまま少し・・眠ってしまおうか・・あ・・でも、ロイドさん達が中にいるから・・あがらな・・い・・と・・。
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