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20.5
しおりを挟む王宮第一騎士団中将ウォルト・デニスタインの回想
***
彼女の第一印象は〝妖精〟
幼い頃から憧れていた神獣と共に居た不思議な少女は森の中、木漏れ日を浴び屈託のない笑顔を浮かべていた。
だからだろうか。人間として見ていなかったから女性である彼女と会話をする事が出来た。
彼女は俺との距離に壁をつくる。自分から壁をつくる事はよくしていたのに、好感を持つ人からそれをされると思いのほか胸が痛む事を初めて知った。
自分は女性が苦手と言ったからか、彼女は常に一定の距離を保ってくれる。正直すごく有難い。彼女と過ごしていくうちに妖精ではなく人間である現実を受け入れていた。いつ彼女が女を見せ、豹変するかわからない・・・でも一緒にいたい。こんなことを思うなんて、自分が信じられない。
彼女との会話は楽しい。笑っている顔も好きだ。彼女が俺を男として見ていないのもわかっている。今はそれで良いんだ。その方がそばに居れて、拒絶されないから。そこまで思って漸く気がついた。彼女に好意があるということを。
猫姿の彼女を見た時は胸が高鳴り、興奮を抑えるのに苦労した。なのに彼女はまた俺との距離をあけようとする。嫌だ、離れないでほしい。 女性恐怖症のリハビリと言えばなんの躊躇いもなくそばに来てくれて、すごく嬉しくて、可愛い。
尻尾を触った時の彼女の感じていた顔が忘れられない。本当は少しだけ感じていることに気づいていた。声を頑張って抑えている姿が可愛かった。でもこのままじゃ忌々しい変態共と変わらないと思い我に返り慌てた。・・・奴等も俺と同じ気持ちだったのだろうか。だとしても俺は止められた。奴等とは違う。コハルに嫌われたくない。
ウサギ姿のコハルも凄く可愛かった。ロイド様が尻尾に触れようとした時は焦った。あの声を聞かれたくない。あの表情も、誰にも見せたくない。
彼女の裸を初めて見てしまった。形の良い膨らみと頂きにある小さな蕾、細い腰つき。たった数秒の間だけだったのに、見てはいけないと頭では叱責しているのに、目が離せなく瞬時に上から下まで見てしまった。一番驚いたのは下の毛が無かった事だ。印象強く頭に残ったその姿が何度も思い浮かび、その日は眠れなかった。
彼女を街へ連れて行った。初めて冒険に出た子供の様に周りを見る姿が可愛い。でも他の男が彼女を見ている事に気が付くと癇に障る。ロイド様とルイス様なら気にしない。でも他の男はダメだ。彼女を隠したい。お二人も同じ事を思っているのか、何時もより顔つきが険しくなっていた。
迂闊だった。女性達に群がられ久しぶりに味わう嫌悪感に脱力していたら、コハルが助けてくれた。ロイド様達を置いて俺だけを優先して助けてくれた・・・嬉しい。だけど俺が守る立場なのに情けない話だ。落ち着こうと深呼吸をしていたら突然コハルが走り出した。追いかけようと慌てて立ち上がり足を進めると彼女は男に飛び蹴りをしていた。信じられない光景に足が止まる。固まっていると彼女は男児を連れてこちら側ではない反対側へ走り去った。彼女は一度も、振り返らなかった。どうして?そんなに俺は頼りない?いつか振り返って助けを求めてくれるんじゃないかと彼女の姿が見えなくなるまで動けなかった。
彼女がいなくなりロイド様達と合流し、自分は待機となった。俺も探しに行きたいのにじっとしている事しか出来なくて悔しい。暫く経ってもまだ彼女は戻って来ない。もしかしたら既にお二人と合流したかもしれないのに居てもたってもいられずにいた頃、聞きたかった声が聞こえた。
いつも通りの笑顔で俺の名前を呼んでいる。彼女の姿を見た途端、強ばっていた顔の筋肉が緩み、感情が溢れた。・・・そうだ、この気持ちを言葉にすると・・・好きだ。
彼女を抱きしめた。また置いて行かれないように離さない。彼女は戸惑っていたが背中を撫でてくれた。背中に回る腕の温もりを感じ、抱きしめ返されている様で嬉しい。
ロイド様達と合流し、巷で人気のレストランへやって来た。周りの視線はいつもの事。でもコハルが嫌そうにしてるから申し訳なく思う。
何故か彼女は俺を男色だと思ったらしく、汚してしまった彼女の顔を拭きながら否定した。そこで発見してしまった。あの忌々しいキスマークを・・・。コハルは毒蜂に刺されたと言っているが、コレは絶対毒蜂んかじゃない。胸が抉られたと言っていいほど痛む。許さない。何処の輩がこんな事をしたんだ。周りの肌も赤くなれば目立たないんじゃないかとハンカチで擦る。痛いと言う彼女に心の中で謝った。ごめん、コハル。でも、コレを見るのは辛いんだ。
彼女がウェイターに可愛い笑顔を向けた。そういうことをするの、やめてほしい。離れたウェイターを横目で見るとコハルの事が気になる様でチラチラと彼女の事を見ている・・・面白くない。
コハルがロイド様にケーキを食べさせていた。同じスプーンを使ってコハルも食べている。俺も食べさせ合いたい。そんな事を考えていたらルイス様がコハルに食べさせた。やった、これなら俺も食べさせられる。待ち遠しく一口分のケーキを用意しているとコハルがそばに来てしゃがんだ。女性を膝立ちにさせるなんて・・・背徳感が込み上げるが、それ以上にそばに来てくれた事が嬉しかった。口にケーキを入れると凄く良い笑顔で美味しいと言う。その姿が昔飼っていた犬に見えてわしゃわしゃと頭を撫でたくなったけど我慢した。俺だけにおかわりを強請るのも可愛い。なんなら全部あげたい。口の端にクリームが付いていたので指でとって舐めた。コハルの顔が赤くなるのを見て心が満たされる。きっと今、コハルの心の中は俺でいっぱいだ。
街を出てコハルが働きたいと言い出した。彼女の思考は時々ぶっ飛んでいる。先程のウェイターを思い出した。たった数分あそこに居ただけで何人の男が貴女を見ていたか知っている?嫌だ、何処にも行かせたくない。
彼女が自分達に会うのは半年に一度でもいいと言った。信じられない、人生で一番胸が苦しくなった。俺は毎日でも会いたいのに・・・コハルは同じ気持ちじゃない。胸が・・痛い。
王城の応接間にて報告をし終えると第二騎士団のジュフェリー様とジークバルト様もやって来た。久方の顔ぶりだ。
ロイド様がコハルを第一騎士団の寮で働かせたいと言って驚いた。彼女が寮で働くなら毎日会うことが出来る。たしかに街で働くよりはましだ。でも二人きりの時間が無くなる。それに、他の男達にコハルが見られる・・・複雑だ。
ユリウス様はコハルが異世界から来たのではと言った。信じられない話だったので真に受けていない。
いくつかの酒が運ばれ、だいぶ酔いが回った頃、皇子が肩に腕をまわして絡んで来た。酷く酔っている様子に眉間に皺が寄る。
「義弟よ!女性を抱きしめたんだって?とうとう克服出来たか。偉いなーさすが私の義弟だ」
頭をずさんに撫でられた。
はあ、この人は本当に酔うとめんどくさい。
周りに助けを求めて視線を向けるとロイド様は元々酒が弱いので既に顔を赤くし、眠そうな顔でふらふら揺れていて、そんなロイド様のグラスに面白そうにジュフェリー様が酒を継ぎ足している。
ルイス様とジークバルト様は普段仲が悪そうなのに、こういう時はいつも一緒に居て今日も二人でちびちびと呑んでいた。結構酒は回っているのだろう。二人とも口数は少ないけど顔が少し赤い。
ユリウス様とダビレア様は酔わない体質で、質の良い酒の味比べをしている。
誰もこちらにはお構い無しの様で、自分で対応するしかないのかとため息を吐いた。
「皇子様、息が臭いです!」
「ひどっ!酷いぞ義弟よ!女性を抱き締めるなんて男色かと思っていたから驚いたぞ」
貴方もか。今日、コハルがそんな言葉を言っていた事を思い出して笑ってしまう。あんなに真剣な顔をして、誰にも聞かれないように小声で身を乗り上げて近付いて来た彼女は今思い出すと面白い。
「・・・えー何その笑顔、ウォルトは彼女が好きなんだな」
好き・・そうだよ。自覚したあの時から彼女の行動が一つ一つ可愛く見えた。
好きですけど何か?口には出してないけど、否定しないで睨む。
「そうか、そうか!ではこの義兄が見極めよう。お前に相応しい女性か詳しく尋問しなくては」
「まだ何も言ってないじゃないですか。それに・・・嫌です!本当は誰にも見られたくない」
自分も結構酒が回っている様で素直に言ってしまった。好きだから誰にも見せたくない。コハルが他の男を好きになる可能性があるから、その機会を無くしたいと思うのはおかしな事なのかな。
気分が落ち、拗ねた俺を皇子が慰める。
「皇子様は好きな人いたことありますか?」
「ん?ないよ。あったらとっくに結婚している。皇子だぞ?身分も、顔も、金も十分にあるもん。ずっと一緒に居たいと思える様な女性に会えてないだけで、会えたら即婚姻出来るだろう。だから、その気持ちを知ったお前は先輩だな」
酔っ払いの皇子様が語尾を上げて話すのは気持ちが悪い。いつの間にかロイド様は寝てしまっていて、暇になったジュフェリー様がやって来た。
「ねぇウォルト、彼女の容姿教えてくれよ。結局ロイドのやつ教えてくれなかったし」
まあ呑めよ。とグラスに酒をついできた。
「教えるわけないじゃないですか。いつかお二人が彼女を見る日が来ると思うと憂鬱です」
「なんだ、やけに自信ないな。そんなに俺に盗られるのが怖い?」
ニヤニヤと嫌な顔を向けてくるジュフェリー様の顔を殴りたい。
二人は俺より身長が高いし、見てくれも良い方だし、コハルが二人を好きになったらどうしよう。・・・いや、それはなさそうだ。
「彼女はお二人を気に入りませんよ!浅薄な男を好きになる人柄じゃないです」
ハッキリと伝えるとお二人は面白そうだなとニヒルな笑顔になった。・・・まずい、変に火をつけてしまったかもしれない。
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ガールズラブ 残酷な描写あり 異世界転生 女主人公 西洋 逆ハーレム ギャグ スパンキング 拘束 調教 処女 無理やり 不特定多数 玩具 快楽堕ち 言葉責め ソフトSM ふたなり
◇ムーンライトノベルズへ先行公開しています
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