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ー 夜 王城 応接間 ー


 広いテーブルを囲うように配置されている高級ソファに座り、上品な装いの男達は赤ワインを片手に嗜む。騎士三人は座ることなく姿勢正しく直立し、本日の監視報告を終えた。
 上座に座るショルツェル国第一皇子メイディウスがからかう様な笑顔で三人を見上げる。

「妻がいることを私に秘密にするとは寂しいものだよ。しかも三人同じ女性を愛でていたとは・・・求婚が絶えないお前達をものにするとはその女性は幸運だな。それで、いつ紹介してくれるのだ?」

 皇子の言葉に騎士三人は首を傾げた。突として応接間の扉がノックされ、入室を許可されると紺色の騎士服を着用した二人の男が中へ入る。
一人はジークバルト。その前を堂々とした態度で立つ男がいる。その男は第二騎士団団長を勤めているジュフェリー・ドスカシオンだ。綺麗なアーモンド形の瞳の下にある泣きボクロが艶っぽいのが彼の見た目の特徴だ。

「なんだ、お前達も来たのか。この面子で集まるのも久しいな。よし、無礼講だ。友人として接するように」

 皇子のメイディウス、側近のダビレア、隣国の皇子ユリウス、第二騎士団団長ジュフェリー、第二騎士団副団長ジークバルト、そしてロイド、ルイス、ウォルトがこの場にいる。
 彼等は歳や立場は違えど、幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染なのだ。

「聞いたぞロイド、デートをしていたのだってね。しかも君達三人共同じ女性だなんて本当に仲がいい」

 側近であるダビレアが丸メガネをクイッと上げニヤつく。今日の出来事なのにもう王城にまで噂をされるとは、どういう事だ。

「・・・あれは、デートなのか」

 ロイドの呟きに第一騎士団所属以外の者がため息を吐いた。この男は昔からモテるくせに恋に疎い。

「あのレストランで食事をしたらしいじゃないか。その女性を喜ばせようと思って連れていったのだろう?」

「・・・なぜ分かる」

「あのね、誰しもが憧れる人望高いお前達が女性を連れて歩けば嫌でも目につくだろう。お前が女性と行動を共にするなんて初めて聞いたぞ。それで、天下のロイド様は第何夫になったんだ?」

「俺は結婚していない。今日共にいた彼女は監視対象者だ」

 ロイドの発言に皇子はあからさまに残念がり、ユリウスは瞳を輝かせ、ジュフェリーとジークバルトは首を傾げた。

「監視対象とはなんだ?」
「ああ、第二騎士団に話す必要はないと思っていたからな」

 皇子がすまん、すまんと平謝りをし内密にしていた訳では無いのでコハルのことを話した。その話が終えたところで、ロイドが本題を振る。

「メイディウス様、彼女を第一騎士団寮の寮母として働く許可を下さい」

 みんな口を開けて驚いている。知らされていなかったルイスとウォルトも同様の反応だ。

「彼女は女性だろう?」

「はい。彼女が強く望んでおります」

「でもなあー。いくら本人の希望だからと言って女性を働かせるのは・・・寮母ったって彼女は掃除とか料理とか出来ないだろ?」

「一通りは出来ると申しております」

 え、本当に?それでもなあ。と渋る皇子。ジュフェリーが顎に手を当てて顔を傾ける。

「そんな男だらけの所で働こうとは、その女性は痴女か?淫乱か?男漁りが趣味とか?」

 その発言に第一騎士団所属の三人は物凄い鋭い目付きで睨み、ジュフェリーに殺気を放った。

「次に彼女を侮辱したら、その口、一生咀嚼出来なくしてやるぞ」

 ロイドの放つ殺気はとても恐ろしいもので、一般兵では恐怖のあまり逃げ出したくなる程だが、ジュフェリーは臆することなく、やれやれと手のひらを揺らす。

「あの冷徹のロイド様がこれまた随分と入れ込んでいる様だ。ジークも頑なに容姿を教えてくれないし・・その女性、胸は大きいかい?」

「貴様っ!」

 ロイドがジュフェリーに食って掛かろうとしたところでダビレアが間に入った。

「そこまでだ。ロイド、落ち着いて下さい。ジュフェリーは相変わらず性に貪欲の様だな、さっさと妻を娶ればいいだろう。君にでも声はかかっていると聞いてるが?」

「あいにく、物語が思い浮かぶほどの女性に出会えていなくてね」

 何を言っているのだこの変態は。
 全員の思いが一致した。
 ユリウスが咳払いをし、空気を変える。

「ロイド殿、彼女は・・・少し変わった人ではないですか?例えば、ここでの常識が分かっていないとか」

「・・・?確かに彼女の言動には幾つか驚かされています」

「・・ふむ。メイディウス様、私からも彼女が第一騎士団寮で働けるようにして頂きたいです」

「ユリウスが?なぜだ」

「私の思うことが正しければ、恐らく彼女は異世界から来た異世界人だと思います」

・・・・・。

 空気が固まった。沈黙が続き、誰しもが正気かと疑いの目でユリウスを見る。

「異世界人?おいおい、そんな夢みたいな話しあるわけないだろう」

「いえ、現実の話です。・・・これは内密にしていた事なので極秘でお願いしたいのですが・・・私の曾祖母は異世界人でした」

 今から約150年ほど前、カエキル国に一人の黒目黒髪の女性が現れた。その女性は異世界の知識で国に繁栄をもたらし、その人柄で人々から寵愛を受ける。その人物こそユリウスの曾祖母だ。

「私は両親から曾祖母様の話をよく聞かされていました。曾祖母様の文献を探す為一度国へ帰り、一通り目を通しましたが、監視報告を聞く限りその女性は異世界人の可能性が高いと思います。我が国では重要保護対象となりますので、場合によっては連れて帰りたいのですが宜しいでしょうか」

 ユリウスの真剣な眼差しに第一騎士団の三人は目が泳いだ。断ってほしいという眼差しをメイディウスに向け彼の言葉を今かと待つ。そんな三人の視線に気づいた皇子はため息を吐いた。

「俄に信じ難い話だ・・・万が一彼女が異世界人だとするならば他国に渡すつもりはない。国に繁栄をもたらしてくれるのだろう?」

「・・・ええ。曾祖母様のおかげで食・娯楽・観光等が栄え、そのお陰で我が国は現在でも潤いを保てていると言っても過言ではありません。しかし・・そうですか・・・彼女が我が国に転移してくれなかったことが残念です。ですが寮で働くと言っても住む場所はどうするのですか?まさか寮の一室を寝床にさせようなんて言うんじゃ・・・」

 ユリウスは顔を歪めた。彼の意見は間違っていない。寮の部屋は危ない。いくら有能な騎士達でも、誰かが襲う可能性がある。ダビレアが丸メガネを上げ、首を傾げた後意見を述べる。

「寮の敷地内に納屋があります。昔寮母が暮らしていたので、あれを修繕しそこで暮らしてもらうというのはいかがでしょう。デイジーの仕事負担も減りますし、あれも寮の部屋は嫌だとごねているのでちょうど良いかと。・・・そうですね、明日手配をしても半月程はかかると思いますが皇子、如何なさいますか」

「・・わかった。寮で働くことを許可しよう。開始期間は納屋の修繕が終わってからだ。初日はここに連れて来るように。本当に異世界人か確かめる。それまでは彼女が異世界人である事を探るな。万が一逃げられるかもしれないからな」

「「「はっ!」」」

 皇子の言葉に第一騎士団の三人が敬礼をした。ジュフェリーが機嫌良さそうに腕組みをして、指をリズム良く動かし腕をタップしている。

 「第一騎士団は明後日より遠征があるだろう?確か半月かからないくらいか。その間の監視はどうなる?私が代わろうか」

 コハルの事が気になるジュフェリーは早く会いたいと、うずうずしているのが傍から見て分かる。そんな彼にロイドは睨みをきかせた。

「貴様に任せる方が危険だ。彼女の監視は我々以外ありえない。居場所も教えない」

 いや、そこは教えろよ。皇子の言葉はロイドに届かなかった。


その後いくつかの酒が運ばれ楽しい友人同士の宴会が始まった。
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