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しおりを挟むすっかりと日が傾き夕焼け空の中、ロイドの腕の中で馬に揺られながら帰る。門兵は別の人に変わっていてジークバルトの姿もなかった。
「今日はとても楽しかったです。本当にありがとうございました」
「喜んでくれたのなら良かった」
行き同様にロイドの袖丈を掴みながら今日感じたことを思いのままに語った。
「おかげさまで目標が出来ました」
「目標?」
「はい!あの街で、住み込みで働こうと思います」
欲しい物や、やりたい事が出来た。やはり何時までも一人であの森に居続けるのも寂しいので社会に出ようと思う。お金を稼いで三人に恩返しをしたい。何時までも甘え続けるのは性にあわない。
それに、忘れてはいけない。三人はお仕事で今の関係を続けてくれているのだ。また木の実や果物だけの食生活は嫌だ。彼等とは何かしらの形で都度連絡を出来れば良いだろう。
コハルの言葉に三人の表情が固まり、馬の足も遅くなる。
「職業紹介所とかありますか?あ、監視期間はいつまでとか決まっていますか?」
コハルの質問にロイドは黙ってしまった。重い空気が漂い居心地が悪い。なぜ?助けを求めるようにルイスとウォルトを見ると、彼等はコハルが見ている事に気がついているのだが目を合わせようとせずただ前を向いていた。
急な彼等の態度の変わりようにオロオロしていたらロイドが鋭い目でこちらを見る。
「コハルは我々と会えなくなってもいいのか」
「えっそんなわけないじゃないですか。毎日一緒に居れて楽しいですし、これからも会えるなら会いたいですよ?」
突然何を言い出すんだと間髪入れずに答えた。
「・・・コハルは我々のことどう思っている?・・その、好きか?」
「好きに決まってるじゃないですか。大好きですよ。どうしてこんな話になるのですか?私は自立しようと思って話しただけなのに・・・」
「監視期間の終わりを気にしたから・・・」
「え、監視期間が終わったら会ってくれないんですか?はくじょうものー」
最後の悪口は小声で言ってみた。幾分か重い空気がなくなり三人の顔を見ると普通の顔つきに戻っていた。良かった。
考えてみれば騎士団をまとめるロイド達がここまで構ってくれているのは物凄く有難い事なのだろう。ここまで情がわくとは思わなかった。もっと壁を作れば良かったかな。今日の街の雰囲気だと何とかやっていけそうだし、新しい出会いも楽しめそうだ。
「せめて三ヶ月に一度か、半年に一度くらいご飯行きましょうね」
この手の口約束はだいたい叶うことが無いと思っているけれど、三人との関係が全く無くなるのはとても寂しいから言ってみた。
「・・・半年に一度・・その程度・・」
誰の呟きかは分からないが三人は同じ事を思っている。その言葉はコハルには聞こえていない。再び空気が重くなり馬の歩くスピードが更に遅くなった気がする。帰りが夜にならないか不安だ。するとルイスがロイドの足と自身の足が触れそうな程近くにやって来た。
「コハルはどうして自立したいと考えたのですか?」
「欲しい物がいっぱいあるんです」
「俺が用意しよう」
「とんでもない!自分で稼いだお金で欲しい物を手に入ると達成感があって嬉しいものですよ」
「女性は働かないのが一般的です。職を探したところで中々見つからないですよ」
「ふむ、専業主婦が多いのですね。でも今日何人かの女性が働いてるとこを見ましたよ?」
その問いにルイスが答えてくれた。
基本的に女性は働かず家に居る。働いている女性は家業を持つ者だけで、それでも全ての夫が許さない限り表に立って働く事は出来ない。子育てを終え、初老の頃になって漸く働ける者が多いという。
たしかに今日見た働いている女性は皆見た目五十歳は過ぎていた様に見えた。
「なるほど、表がダメなら裏方ということですね。お皿洗いとか、品出しとかで雇って貰えれば嬉しいです。料理も作れるし、今日行ったレストランに売り込もうかな・・・」
一人ぶつぶつと今後の計画を考え、自分の売りを考案していたら三人から深いため息が聞こえた。きっと心配してくれているのだろう。だがこれは自分の死活問題だ。彼等が午前中に来た日の午後にでも街に行こう。タロウが背中に乗せてくれればいいのだけど。
「・・・コハル?もしかして今、私達が居ない時に一人で街に行こうなんて考えました?」
ウォルトの言葉に見透かされたと勝手に体が反応してしまった。これでは肯定していると思われても反論出来ない。その反応を見てロイドが先程よりも深いため息を吐いた。
「わかった。コハルの仕事はこちらで用意しよう」
「本当ですか!?」
「ああ。ただ、上の許可が下りればの話だが。確認が取れるまで待ってほしい。決して一人で街に行かないと約束するんだ」
「はい!もちろんです。良い子で待ってます」
片手を上げ誓いますと表現して見せるとロイドは微笑み、握っていた手網から片手を離し、コハルの手の前で小指を立てた。ゆびきりだ。だいぶ前にしたゆびきりを覚えてくれていた事が嬉しくて、少し恥ずかしくなりながら、指切りげんまんの言葉を言い、約束をした。
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