20 / 67
18
しおりを挟む「・・・コハル、どうしたのですかコレ。誰かに・・・襲われた?」
ウォルトの言葉に勢いよくロイドとルイスが立ち上がり彼の隣へ移動した。そして、ウォルトが指をさす先にあるコハルの首筋にハッキリと赤黒く咲いてしまったキスマークを見つけ固まった。
「ああ、コレね。実は毒蜂に刺されちゃって親切な人が毒を吸い出してくれたの。危うく死んじゃうところでした」
助かって良かったです。ヘラヘラ笑うコハルとは対照的に三人は黙り、険しい顔で怒っている様に見える。
コハルはこの世界の毒蜂を知らない。ここいらの毒蜂は針が太く、一度刺されると穴が目立ちその周囲は膨れ上がるのだ。しかし、実際にはラウルがコハルに見つからない様に腕を伸ばして爪をたてていただけなので爪痕は既に消え、毒蜂に刺された跡は無く、結構強めに吸われたのであろうキスマークのみあった。
「え?ちょっ・・いたたたた!」
ウォルトが無言のまま持っていたハンカチでそのキスマークを消す勢いでコハルの肌を強く擦る。その痛みに強めの口調でやめてと言って漸く擦るのを止めてくれた。キスマーク辺りの肌が赤くなっても未だ目立つ跡に眉を寄せる。
「まだ目立つな」
そう言ったのは意外にもロイドで、ウォルトが再びハンカチで擦ろうとするのを察し内心で悲鳴を上げたらルイスが止めてくれた。感謝の眼差しを向けていると彼はすぐ隣で跪き、腕や足を隠している服を捲り他に跡がないか確認している。
こんなところで何してるんですか!
店中で何をしているんだと恥ずかしくなり慌てて服を元に戻す。ルイスが肌を確認している間、ロイドとウォルトが壁になり周りから見れないようにしていた事は知らない。
「コハル、それ以外何もされていませんか」
思い切り頷いた。噴水広場まで道案内をしてくれたり本当に良い人だったと伝えると三人は無言のまま目で会話をしているかのように見つめ合って、頷き合い、漸く席に戻った。
「私と席を交代しよう」
「え?どうして・・・はい」
隣に座っていたロイドが提案してきた。コハルが座っていた席は通路側で周りの様子が良く見えていた。可愛らしいインテリアや他のテーブルに運ばれるデザートの盛り付けを楽しく見ていたのでこの席のままが良かったのだが、ロイドの圧が凄かった為大人しく席を交代した。高身長で体格の良い彼等と壁に挟まれ周りの景色を楽しめなくなり、周囲からもコハルの姿が見えないほどに隠れる。
「今から私達が言う言葉を復唱して誓ってください」
ルイスの言葉にどうしてかと聞こうと口を開いたら直ぐに言葉が述べられるので慌ててその言葉を復唱した。
・一人で出歩かない
・三人のそばを離れない
・他所の男に愛想を振りまかない
「これを守れなかった時はお仕置きですよ」
なんだ、この程度のものかと少し安心し、約束した。
「お待たせしました」
うわーかわいいっ!
ウェイターが注文したデザートを運んでくれた。目の前に来た可愛らしい盛り付けと美味しそうなフォンダンショコラが乗ったプレートに感動し、持って来てくれたウェイターに笑顔でお礼を言ったら少し驚かれた後、直ぐに笑ってくれて彼はテーブルから離れた。
さあ食べましょう。気分よくフォークを手に持つと、隣に居るロイドから腕が伸ばされ頬を軽く抓られた。
なぜ?
「言ったそばから約束を破ったな」
「いけない人ですね」
何を破ったのだろうと首を傾げる。どうやら先程ウェイターに礼を言った事がダメだったらしい。いやいや、人としてお礼を言うのは当然でしょうと抗議をしたらため息を吐かれた。
「だからってあんなに笑顔で言わなくてもいいじゃないですか」
「コハル、お仕置き確定です」
ええー、理不尽。
「お仕置きってなんですか?」
狼狽えながらルイスに聞くと内容を決めていなかった様で、ロイドの意見を待つ。彼は少し考える素振りを見せてからコハルのフォンダンショコラが乗った皿を手に取った。
「罰としてコレは私が食べよう」
思わぬ罰に驚愕し必死で止める。
「やだ、やだやだ!それだけは勘弁してください」
普段のコハルでは見れないであろうその慌てぶりが可愛くてルイスとウォルトは微笑ましく見ている。ロイドは自分のモンブランとフォンダンショコラを見比べていた。
この人絶対食べたいだけだっ!
なんの罰にするか決める前に、先にデザートを食べてしまおうという結論になった。
フォンダンショコラを真ん中で割ると、トロリと中のチョコが流れ、お皿に広がる。感動しながら流れが止まるまで見続け、口に入れた。
濃厚なチョコの味が口いっぱいに広がる。思ったほど甘くなく、とても食べやすくて美味しい。コハルの好きなビターチョコの味だ。
ふとルイスが食べているシフォンケーキに目がいった。それは子供の頃から何度も母親と一緒に作っていたケーキだった。
「懐かしいな・・・」
母との楽しかった日々を思い出し、口角が上がる。コハルの呟きに気づいていた三人は何が懐かしいのか理由が聞きたい様だ。
コハルが母との思い出を語ると彼等はとても驚いた顔をしている。
「驚いたな、ケーキを作れるのか」
ロイドの言葉に首を傾げる。別に簡単なケーキが作れるくらいどうって事ないのでは?
「料理は結構好きですよ?手の込んだ料理やデザートは出来ないけど自立していたので簡単なものならある程度は作れますよ」
そういえば今まで三人に女子アピールをしてこなかったのでここぞとばかりに言ってみた。普段は頂いてばかりだが私だってやる時はやるのだぞと。
・・・。
凄いねとか、偉いねとか言ってもらえるかなと少し期待していたが彼等は愕然としているだけであった。
「あの、そんなに意外でした?」
そんなにも何も出来ない人に見られていたのかと少し悲しくなる。
「あ、いや女性が料理をするなんて聞いたことがなくて驚きました」
ウォルトの言葉にコハルが驚きました。
女性が料理をするなんて聞いたことがない?そんなこと有り得ないのでは・・・。料理が苦手であまりしない人はいても、多少なりとも多くのご家庭では女性が料理や家事等をしているのでは?
「そんな細い腕で包丁が持てるんですか?」
ちょっとウォルト君、バカにしすぎよ?
「野菜の千切りとか得意なんだから。こうシュババッて切っちゃうよ」
手で包丁を真似て縦に振る。右利きなので左手は猫の手で獲物を押さえるふり。高速で振っていたら左手に当たり、ウォルトがそれだと自分の手を切ってますよと笑い、穏やかな空気が漂う。
コハルはフォンダンショコラを一口分スプーンですくい上げロイドの口元へ運んだ。
「ロイドさん、コレと悩んでいたでしょ?はい、どうぞ」
ロイドが戸惑いを見せたのは一瞬で、差し出されたケーキを口に入れた。兄弟が多かったコハルは人に食べさせる事に慣れていて、ロイドの口に入ったスプーンに付いているチョコを食べやすい様に角度をつけて彼の口からスプーンを抜いた。
美味しいですよねと同意を求めれば彼は小さく頷き、口を動かして味わっている。コハルは特に意識せず同じスプーンを使い再び食べた。自分の口に入ったスプーンを使っているコハルを見続けるロイド。彼はお返しに自分のモンブランを一口分スプーンに乗せコハルの口元に運んだ。
自分がすることには慣れているので抵抗は無いが、されることは経験も少なく、ましてや相手がロイドだと羞恥心が込み上げる。
コハルは差し出されたモンブランではなくお皿に乗っているモンブランに腕を伸ばした。
「じゃあこっちを頂き・・・」
「ダメだ。・・・お仕置きはこれにする」
モンブランが乗ったお皿を遠くに置かれ届かなくなってしまった。ちょん ちょんと差し出されたモンブランが唇に当てられている。ロイドを見ると面白そうに笑っていた。彼の楽しそうな表情にいよいよ顔に熱が集中する。これがお仕置きなら安いものだと羞恥心を抑え、こうなったらヤケクソだと「あーん」と小さい声を出してそれを口に入れた。
そのモンブランの美味しさに先程の羞恥心はどこへ行ったのやら、瞳をキラキラさせ美味しいと顔で表現をし口を動かす。
「なるほど、これがお仕置きですか」と前置きをしルイスがシフォンケーキに刺さったフォークを差し出す。恥ずかしいけれど一度やってしまえばあっという間だし、大丈夫だと自分を納得させ口を開けようとしたら
「コハル、あーん?」
まさかのルイスが「あーん」と言ったものだから羞恥心が再びこみ上げる。言い慣れていないのだろう可愛らしい発音に心臓が鷲掴みにされた。何とか心を落ち着かせ、差し出されたシフォンケーキを咥え咀嚼して彼を見ると満足気な顔をしてフォークを舐めていた。
やめてほしい。悶え死にそうです。
自暴自棄になり最後はウォルトだと彼を見ると既に持っているスプーンにクリームたっぷりのショートケーキが乗っていた。しかし斜め向かいに座っている為かなり身を乗り上げなければ届かないだろうと思い、席を立ち彼の隣に移動をしてしゃがんだ。顔の位置はテーブルと同じ位の高さになる。躊躇ったウォルトだが徐にそのショートケーキをコハルの口に運ぶ。
クリーム多くて甘そうだな。
少し億劫になりながらもそれを口に入れると意外なことに甘さが控えめだった。スポンジが濃厚で感動する程美味しい。「もう一口下さい」とお願いをし、頂いた。あまりの美味しさに何度も美味しいと口にし笑顔でウォルトを見ると優しい顔をしているウォルトと目が合った。彼はコハルの口の端に付いてしまったクリームを指で拭き取ると、その指についたクリームを舐めたのだ。顔から火が出る思いにかられ礼を言った後、慌てて席へ戻り真っ赤になっているであろう顔を両手で隠す。
「もう絶っ対約束を守ります」
「是非そうしてくれ」
43
お気に入りに追加
2,397
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ヤンデレ義父に執着されている娘の話
アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。
色々拗らせてます。
前世の2人という話はメリバ。
バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる