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しおりを挟むジークバルト達と別れて街の中心部にやって来た。中世のヨーロッパはこういった雰囲気かな?といった建物が並び多くの人々が行き交う。
確かに女性の数は圧倒的に少ない様だ。ただ少し不思議なことに一人の女性に対してそれ程年の離れていない複数の男性が囲うようにして歩いている。家族というには容姿は似ていない。ボディーガードだろうか・・・。
今は景色を楽しもう。
本当に異世界だなと思うほど周りの人達は髪や瞳の色が色鮮やかで、見たことのない花を置いている花屋や気味の悪い果物を売っている出店がある。
きょろきょろ きょろきょろ
楽しく周りを見ていると何人かと目が合った。中には女性もいて、当たり障りの無いように微笑んだり、目を逸らしてみたりした。
そんな事をしていたらルイスに「男に微笑むと勘違いされますよ」と言われた。こんな事で勘違いするか?と疑問だが素直に頷いたコハルを見てルイスが微笑んだ。
すると何処からか黄色い悲鳴が聞こえた。
何事かと声をした方向を見ると、一人の女性が瞳をハートにして此方を指さしている。
「ロイド様よっ!」
「ルイス様が微笑んでいるわ!」
「ウォルト様が私服を着てらっしゃるわ!!」
ーーー!!!??
一人の女性が叫べば、四方八方から女性の叫び声が聞こえ、黄色い歓声と共に勢いよくロイド達に群がった。コハルは驚きながら、あれよあれよとバケツリレーの様に群れの外へ追い出される。
い、イケメン怖いっ!
あの容姿だからこの人気は頷ける。そりゃめちゃくちゃかっこいいもん。今までそばに居た人がとられちゃったみたいで少し寂しいけれど、違う事で安心した。思っていたほど女性は多いじゃないか。彼等に群がっている女性は何十人もいる。こんなに多いのなら一人で行動しても問題なさそうだ。暫く収まりそうにないし、近くをふらふらしようかな。そんな女性達の群れを周りにいたであろう男性陣はやれやれといった顔で見ているだけであった。いつもの事なのか?
群れから離れようと二三歩足を進めたところでとても重大な事を思い出し、勢いよく振り返った。
ウォルトは女性恐怖症だ。まずい、早く救出せねば。
身長の高い彼等は女性陣から頭一個分は余裕で出ているので直ぐに何処にいるか分かった。
ウォルトの顔は正しく顔面蒼白だ。それでも騎士であるから女性達を拒絶したくても出来ないのだろう。今のウォルトの心境を自分に置き換えると、何匹もの巨大なゴキブリが至近距離で群がり、身体を触っているのだ。おぞましい。恐怖だ。
女性の群れを必死に掻き分けて、やっとこさウォルトにたどり着き、彼にすがり付いている女性達の手を頑張ってチョップをして離した。女性からは物凄く怖い顔で睨まれ内心で謝罪をし、悲鳴を上げた。ウォルトの手を掴み自分に引き寄せて、ちゃんと周りに聞こえるように大きく声を張り上げる。
「この人私のアレなんでっ失礼します!」
アレって何だ?周りの女性達が怒り心頭で叫んでいる。自分でもよく分からないが、咄嗟に出ていた言葉がそれだった。
女性達を無視し、ただただ驚いているウォルトを力の限り引っ張ってその群れから逃げるように走り去る。
ロイドとルイスならきっと大丈夫だろう。
後で合流しましょうね。
置いていかれたロイドとルイスは動きたくても女性達にしがみつかれて動けず、哀しげな目をし、去り行く二人の背中を見ていた。
***
ウォルトを引っ張りながら走っていたコハルは、大きな噴水がある広場に出て、端にあったベンチに彼を座らせた。体力のないコハルは息を切らしている。体力のあるウォルトは安定した呼吸のままだが相変わらず顔の血色が悪く、力なくコハルを見ていた。
「大丈夫?」
「・・・はい・・あの、ありがとうございます。少し休めば大丈夫なので・・・」
うん、これは大丈夫じゃないね。
ウォルトは握り拳を震わせていた。
水を飲ませてあげたいと思い、周りを見て探すと人気の少ない路地で男の子が大人の男に蹴られている姿を見てしまった。
何あれ、酷いっ 虐待だ!
どうしよう・・・ウォルト君には休んでてほしいし他の人に助けて貰おうかな。
怖くて、自分でどうにかしようと思えなくて、でも周りを見ても誰も彼等に気づいてはいない。
暴力を振っている男が地面に落ちていた瓶を徐に拾ったのを見て、身体が勝手に動いた。
まさかその瓶で男の子を殴るつもり!?
「っ!コハル!?」
ひたすらに走った。帽子が飛ばされないよう片手で押さえる理性は保てている。でも暴力男を説得する方法を考える余裕はなくて、走っている勢いのまま暴力男に
飛び蹴りをかました。
ぐはっ!と男が壁に叩きつけられ地面に崩れ落ちた。
飛び蹴りを今までしたことが無いコハルは、かっこよく着地することが出来ず、背中から地面に落ちた。帽子が脱げ、髪を纏めていた紐がとれ、艶のあるさらさらと柔らかい黒髪が顕になる。
そのコハルの一連の行動は周囲の視線を集めていた。その視線に気づく余裕が無いコハルは帽子と紙紐を拾い、地面に座り込んで呆然としている男の子の手を掴み引っ張り上げ立たせた。
「逃げるよ!!」
暴力男が状況を把握する前に逃げたかったので、男の子の意思を確認せずに腕を掴んだまま広場と反対方向の路地へ走り去る。
必死に、ただひたすらに、後ろを振り返ることもせずにがむしゃらに走った。
息を切らし、これ以上走れない位遠くまで走った。そこで漸く振り向いて、暴力男が追ってこない事を確認し立ち止まる。
激しく呼吸をするコハルと男の子。コハルはもう立っていられなくて崩れるように地面に座った。
こわかった・・怖った、怖かった!
今頃身体が震えだした。特に手なんてブルブルマシーンを持っているのではと思うくらい小刻みに震えている。
「お姉ちゃん大丈夫?」
ハッと自分の失態に気がついた。この子は暴力を振るわれていたんだ。怪我をしているのに無理に走らせてしまった。
「大丈夫!?怪我は?」
必死の形相で男の子に問うと、その勢いが怖かったのか、声を出さずに顔を横に振っている。とりあえず走れない程の怪我をしているわけではないようで安心し、震える身体で男の子を抱きしめた。
「もう大丈夫よ。怖かったね」
「・・・体震えてるよ、お姉ちゃんの方が大丈夫じゃないよね?」
あやすべきはコハルの方なのに男の子よりも怯えた様子に、抱き寄せた体に腕を回され背中を撫でて貰っている。これでは立場が逆だが、あんな経験が初めてでアドレナリンが出ているコハルの口はよく動く。
「だって大人が子供に暴力振るうところ見るの初めてだったし、人のこと蹴るなんて初めてだったし、逃げきれて良かったよー!」
男の子の肩に顔を埋めて泣きそうになるのを堪える。彼はそんなコハルの背中を撫でて「もう大丈夫だよ」と優しい言葉をかけ続けてくれる。暫くして落ち着きを取り戻したコハルは何故あの状況になっていたか説明を聞いた。
今日は母親の誕生日なので花を摘みに出かけたら、運悪く酔っ払いに絡まれてしまい暴行されたと言う。お母さんの為になんて、なんて良い子なんだ。でもあの暴力男が父親だったらどうしようとも思っていたので他人で良かった。
「じゃあお姉ちゃんがついてくね。お花摘んでお家まで送ってあげる」
笑って言うと男の子はキョロキョロと周りを見回した。
「でもお姉ちゃん一人なの?男の人が周りにいないけど」
・・・しまった!
完全にロイド達の事を忘れていた。ウォルトは大丈夫だろうか、また女性と言う名の恐怖に群がられていたりして・・・。しかもあれだけ一人行動をしないと約束していたのに。
・・・まあ、何とかなるか。過ぎたことだし、この子を連れて探し回るよりかは、まずこの子を親元へ返そう。ウォルト君、本当にごめんなさい。
「大丈夫よ!連れとは後で合流するからまずはお花を摘みに行きましょう」
「花はこっちにあるぞ」
「うん。ありが・・・え、誰?」
いつの間にそばへ来ていたのか、見知らぬ男が現れた。
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