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しおりを挟む今日は珍しく三人が騎士服を着てやって来た。三人が揃うなんて何日ぶりだろうと思うくらい久しぶりな気がする。それにどうして騎士服?
久方振りの彼等の騎士姿は本当にかっこよくて見惚れてしまう。次元が違いすぎて、何だか遠い存在に感じた。
仕事着で来たということは監視期間が終わった報告だろうか。三人が来なくなるのは寂しいな。
胸の奥が鈍く痛むが彼等は仕事で通っていたのだから仕方がないと自分に言い聞かせる。
「監視期間が終わりました?」
「え?違います!その、例の飴のことがバレちゃいまして・・・」
え?
珍しく仕事着の三人だったから監視期間が終わった報告かと思っていたら、予想と違っていた。ロイドから飴を出して欲しいと指示を受け、言われた通り例の飴が入った瓶をテーブルに置く。
舐めろと言われるだろうか。恥ずかしいから嫌だな。
願望虚しく、ロイドに例の飴を舐めてほしいと言われた。
なぜ私が・・・ウォルト君代わってくれないかな。
ウォルトを見ると彼は困り顔をしているが黙ったままで助けてはくれなさそうだ。そもそも彼が言わなきゃ恥ずかしい思いをしなくてよかったわけで、そう考えると少し責めたくなった。
コハルはウォルトが怯えない程度に近づき、控えめに睨んだ。
「二人だけの秘密って言ったのに」
「うっ、ごめんなさい!」
そもそも監視として来ている為、報告せざるを得なかったのだろうとコハルも頭では理解している。ただちょっと虐めたくなったのだ。
謝るウォルトにぷいっと顔を逸らし、「準備するので少々お待ち下さい」と言い二階へ上がった。
今度はどんな動物になるのだろう。分からないが尻尾がまた生えたらこのワンピースでは見えないし、だからと言って下着姿になるわけにはいかない。前回穴を開けた服は干している為、もう一着の白い露出用(?)のワンピースに昨日同様穴を開けて着用した。
リビングに戻ると両膝と両手を床につけて落ち込んでいるウォルトと、そんな彼をじと目で見ているロイドとルイスが居た。コハルはウォルトの姿を見て慌てて駆け寄る。
「ウォルト君!?どうしたの、どこか痛い?」
ぷるぷる、ぷるぷると震えている。
「・・・心が痛いです。コハル、俺を嫌いになりました?」
うるうると子犬の様な顔で見られたコハルは罪悪感で胸がいっぱいになった。
「嫌いになるわけないでしょ、ちょっと意地悪しちゃっただけなの・・・ごめんね」
それを聞いたウォルトは何度も良かったと言ってやっと笑顔を見せた。元に戻った彼を見てコハルは安堵のため息を吐く。
「コハル、なぜ着替えた?」
ロイドが眉を寄せて聞いてきた。彼等は本当に多少の露出も許せないようだ。尻尾が生える可能性があるから穴を開けたと説明し、その穴を見せるとロイドとルイスはため息を吐く。穴からはコハルの肌が見えていた。何の躊躇いもなく見せてくるというのは、男として見ていないのかと三人は眉を寄せる。
さすがに飴を半分噛じる姿は見せたくないので、キッチン内へ入り隠れて噛み砕いた。半分を皿の上に乗せ、急いで舐める。舐め終わる頃に三人のもとへ戻ると、丁度よくあの熱を感じた。
「「「・・・・」」」
変わった筈だよね・・・?
三人は固まったまま瞠目している。コハルの頭からは白くて長く、内側が桃色の可愛らしいウサギの耳が生えていた。無言のまま、ただ見られているだけの状況に変な姿なのかと不安になり下を向くコハル。その心境に合わせて直立していたウサ耳がへにゃりと折れた。それを見た三人は片手で自身の顔を覆い各自別方向へ顔を逸らした。
「変わってますよね?・・・そんなに変ですか」
更にしゅんとウサ耳が垂れたのを見て慌ててウォルトが両手を前に出し、左右に振る。
「変じゃないですよ!ウサギの耳が生えてます!」
「え、ウサギ?・・・・・・本当だ!」
手でウサ耳を触り、彼等と共に確認する為お尻を向けて尻尾を確認すると、野球ボール位の大きさの丸くてふわふわしている白い尻尾が穴から出ていた。意識するとピコピコと動く。
ウサギのコスプレもやってみたかったんだよね。思わず笑顔になる。
その姿を見たロイドは衝動的に動き出し、コハルを抱き締めようと腕を伸ばしたが、瞬時に動いたルイスに止められた。
「ロイド様落ち着いてください」
「ぐっ・・・だが・・・・・・」
こんな愛くるしい生き物を愛でずにいられるか?と目で訴える。その気持ちを理解しているルイスは、それでもダメだと顔を横にふった。コハルはそんな無言のやり取りをしている二人を見て、ウサ耳に触りたいのだと判断し二人に近づいた。
「耳なら触っても大丈夫ですよ」
「「・・・本当に?」」
笑顔で頷くと二人はお互いの顔を確認し、頷き合って徐にウサ耳へと手を伸ばし触れた。あまりの触り心地の良さに、各自片耳を両手で、壊れ物を触れるかのように優しく触る。相変わらずの気持ち良さにコハルも蕩けている。無我夢中で撫でている上司達を今度はウォルトがじと目で見ていた。
次にロイドが尻尾に手を伸ばしたのを確認して、ウォルトが慌てて止めに入る。
「ロイド様!尻尾は性感帯だから触れてはダメです!」
その言葉にロイドとルイスはふわふわと小さく動く尻尾を凝視し、コハルはボンッという音でも鳴ったのではないかと思われるくらいの勢いで顔が赤くなった。
もしかしてあの時感じていたの、バレてたの!?うわっ恥ずかしい・・・。
コハルはゆっくりとウォルトを見上げた。
「き、気づいてて触ってたの?」
「え!?いや、触った後にコハルの顔を見て気づいたのですが・・・」
終わってから気づいたのか。それでも今みたいに大きな声で言わなくても・・・。墓場まで持っていてほしかった。
あの時感じていた事を知られたという事実が恥ずかしく、感じさせられた犯人であるウォルトが憎らく思ったので、少し睨みつけるように彼を見た。
「・・・ばか」
「ッーー」
少しばかり怒っているコハルだが、赤ら顔で、身長が低い彼女は意図知れず上目遣いになり、誹謗されているのにも関わらずウォルトの胸の鼓動が早くなる。しかもウサギの耳が片耳だけ折れている状態で愛らしくて仕方ない。コハルを見ていられなくなったウォルトは、両手で顔を覆い、謝罪の言葉を口にしながら身体を反転させた。
性感帯と言われてしまえば尻尾に触ることは出来ないとロイドとルイスは諦めた様だ。
「私も飴を舐めてみよう」
「ロイドさんもですか?」
ロイドも好奇心が湧き、舐めたいと言い出した。だったら自分が舐めなくても良かったではないかと心の中で愚痴り、瓶の蓋を開けて彼自身から一つ取ってもらう。その飴を何の躊躇いもなくコハル同様半分噛み砕き、それを舐めた。
例の熱を感じたのか顔を歪めたが、それが治まるとニョニョニョと銀色の尖った耳が生えてきた。その耳の形は狼のものだろうか、とてもロイドに似合っていた。尻尾はズボンの上から外へこぼれ出ている。
コハルはその姿に瞳をキラキラさせ、わなわなと震えている。
「かわ、可愛い・・・!!」
ウサ耳が直立でピコピコ動き尻尾もピクピク動いていて彼女こそ可愛いと思うが誰も言わない。
ロイドは鏡を見る為、一度二階に上がり自身の姿を確認するとリビングに戻って来た。
「本当に生えるとは、驚いた」
「あの!耳触ってみてもいいですか?」
そんな興奮冷めやまないといった顔でお願いされたら断れないなとロイドはコハルの前で彼女が耳に触りやすい様に膝立ちをした。すると何故かコハルも目前で両膝小僧を床につける。これではあまり意味が無いなと笑いながら彼女を見るとキラキラしている瞳をそのままに狼の耳に集中していた。
コハルは狼耳に触れると、その触り心地の良さにうっとりする。ロイドは気持ち良さに顔が蕩けそうになるが、部下が居ることを思い出し、顔の表情が変わらないよう努める。
「本当に姿が変わるとは不思議ですね。丸々一つ舐めればどうなるのか気になります」
ルイスの言葉に確かに気になると思った。コハルはロイドから離れ、キッチンに置いた半分の飴を誰に言うわけでもなく口に入れた。なんの躊躇いもない行動に驚いた三人だが、どう変わるか緊張しながら見ている。
すると半分舐めていた時に感じた熱等の前触れは一切無く、ポンッという音がしてコハルの姿が無くなった。
慌てた三人が駆け寄ると、床には先程コハルが身につけていた着衣が無造作に置かれていて、その上に小さなウサギが居た。
「・・・コハルなのか?」
ロイドの問にウサギ姿のコハルは顔を縦に振った。どうやら完全に動物の姿になったら言葉が出せない様だ。しゃがみ込んだロイド目掛けて、ピョンピョンとウサギらしい跳び方で彼の膝上に乗った。そんなコハルを抱え少し撫でると、ロイドは思いついたと顔をニンマリさせる。
狼の姿になってどの程度の速さで走れるか試してみたいと言い、コハルをウォルトに預けて残しておいた飴を舐め、狼の姿になった。
白銀の大きな狼は凛々しく、タロウとジロウにも負けないくらい神々しくて、かっこよかった。彼は器用に玄関の扉を開けて駆け出した。あまりの速さにもうその姿は見えない。
どのくらい時間が経っただろうか、まだロイドが帰ってくる気配はない。その間ウサギ姿のコハルはずっと立ちながら撫で続けているウォルトの腕の中に居た。そろそろ抱っこを交替してほしいとルイスが言ったので、ウォルトがコハルを持ち上げルイスに背面向きで渡す。ルイスがコハルの両脇を持った瞬間、再びポンッという音がして産まれたままの姿、つまり人間姿の裸のコハルが現れた。
何を血迷ったか、裸を見られてしまうと焦ったコハルは慌てて胸のそばにあったルイスの両手を掴み、彼の手のひらを胸に押し当て、胸の蕾が露にならないよう隠した。つまり手ブラである。そして自身の手で下腹部にある陰部の前と後ろを隠した。
「み、みみみ、見た!!?」
目の前にいるウォルトに叫ぶ様に問うと、彼は面食らった表情のまま首を高速で横に振る。本当は少しだけ見てしまったのだが、見たと言えない状況だ。
「お願いウォルト君!二階からバスタオル取ってきて!」
「はっはい!」
ウォルトは駆け足で二階に上がりバスタオルを探した。その間、コハルは自身の失態に気づく。ルイスの手が自分の胸を包んでいる事に。
自分がやってしまった事だと破滅的な羞恥心が掻き立てるが他に打つ手がなかったと信じたい。
「・・・ルイスさん、ごめんなさい。もう少しだけ、我慢して下さい・・・」
「・・・・・・わかりました」
後ろを向いているコハルの表情は見えないが、耳が真っ赤になっている事から彼女の心情が伺える。見てはいけないとわかっていても、綺麗な肌をしている背中と、形が良くて小さく、柔らかそうなコハルのお尻を見てしまった。ルイスは自分達が向かい合っていない事に心底良かったと思った。きっとこれまでにない程に自身の顔に熱が集中している。さぞ情けない表情をしているだろう。柔らかな肌触りを感じながら、指が動かないよう努める。そしてもう一箇所熱が集中しつつある下腹部を戒めた。ウォルトが戻って来るまでの時間がやけに長く感じる。
ウォルトは持ってきたバスタオルでコハルを包んだ。コハルは礼を言うと床に落ちていた自身の服を持ち二階へ逃げ込むように駆けた。
最悪だっ 恥ずかしいー!恥ずかしすぎるっ
コハルは服を着てベッドの上で転がっていた。もっと早く服が床に落ちている事がどういう事かと理解していれば、こんな事態にはならなかった筈だ。自分が情けない。彼等を責めるのはお門違いだ。
暫くして落ち着きを取り戻したコハルは徐にリビングへ戻った。ルイスとウォルトは戻って来てくれたコハルに深く頭を下げる。
「申し訳ございません。コハルの服が床に落ちていたのを目視していたにも関わらず、的確に対応せずに貴女を困らせてしまった」
「コハル、申し訳ございません!」
罪悪感でいっぱいだという顔をしている二人に、コハルは彼等よりも深く頭を下げた。
「お見苦しいものを見せた挙句、謝罪までさせてしまってごめんなさい!」
「「・・・・・・?」」
なぜコハルが謝るんだと二人は理解出来ないでいる。自分達はコハルの裸を見てしまったのだぞ。
「コハル、謝るべきは私達なのですよ?それに私は貴女の胸に触れてしまーー」
「うわーあーあー!」
ルイスの発言に、これ以上は思い出させないでと彼の口を手で押さえた。「お互い許し合いましょう」というコハルの謎の言葉にやっと場が和む。
「あ、そういえば団長は大丈夫でしょうか?」
ウォルトの発言に、大丈夫ではないだろうと三人は顔を見合わせた。ウォルトが慌ててロイドの服を抱え玄関の外に飛び出した。少し走ると直ぐに、此方へ戻って来ていた人間の裸姿のロイドが見えて無事に帰宅してくれた事にほっと息を吐く。
動物の姿になる時はタオルを巻こうと心に決めた。
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