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 晴天の下、心地の良い風が吹く中で大きな木の下で読書をしていた。それは以前ルイスが差し入れてくれた本だ。コハルは冒険小説を読んでいる。

 この世界の文字が読めるというチート能力があって本当に良かった。本が読めるって素晴らしい。

 隣に座っているロイドは仕事関係の書類に目を通している。難しい顔をしていて、かなりお疲れの様だ。何度も視界の端で欠伸を堪えてるのが気になる。

「ロイドさん、お疲れの様ですね。たまには肩でも揉みますよ!」
「え?いや、大丈夫だ」

 遠慮するロイドを無視して彼の肩を揉み始めた。これでも両親や祖母によくやっていて、上手さに太鼓判をもらっている。続けていると、彼は書類を地面に置き体を預けてくれた。

「なかなか気持ちがいいな」
「良かったです。他にして欲しい事はありますか?」

 足ツボも得意ですよと、したり顔で話すコハル。それを聞いたロイドは口をもごもごさせている。何か言いたそうだ。どうしたかとコハルが聞くと、ロイドは視線を泳がせ小声で話す。

「・・・友人が・・・・・・妻の膝枕がすごく良いと自慢してきて・・・・やっぱりいい。聞かなかった事にしてくれ」

 背後にいるのでロイドの表情はコハルには見えていないが、耳が赤くなっているのを見つけ笑顔になる。膝枕くらいどうって事ない。むしろ、それだけで赤くなるなんて可愛い。

 「いいですよ。はい、どうぞ」

 頭を乗せやすいようにお姉さん座りに座り直し、ここにどうぞと自分の腿を軽く叩いた。ロイドは少しの間躊躇うが、ゆっくりと自身の頭をコハルの腿の上に乗せた。

 体重がかからないように頭を少し持ち上げているみたいで、重みを全く感じない。これでは膝枕の意味がないじゃないかとクスクスとコハルが笑う。

「ロイドさん、あたま、ちゃんと乗せてくださいね」
「・・・わかった」

 素直に、今度こそ頭を乗せて膝枕が完成した。さらさらと風で揺れる銀髪がとても綺麗で、改めて見ると毛先が遊ばれていて癖毛だと気がついた。髪に触れていいか了承を得てから彼の髪を触る。コハルの髪よりは硬い毛質だが、指通りが良くて太陽の光に当たるとキラキラと輝いている。ロイドは大人しく瞼を閉じていて、されるがままだ。

「私、銀髪の人と会うの初めてだったんです。すごく綺麗で羨ましい」

 さらさらとロイドの髪で遊ぶ。瞼を閉じていた筈の瞳が、コハルをじっと見ていた。綺麗な顔の人に見られると、ドキッとしてしまう。彼はコハルの髪をすくい上げ、指で撫でた。

「俺はこの黒髪の方が綺麗だと思う。柔らかくて、いい香りがして、好きだ」
「・・・・・」

 体内に仕込まれた爆弾が破裂したかの如く、コハルは顔を真っ赤に染め憤悶する。今まで髪の事を褒められたことは無い。さらっと恥ずかしい言葉を言っても様になるロイドのかっこよさが眩しい。ロイドもルイス同様、普段は自分のことを俺と言うのか。ああ、ドキドキし過ぎて頭が回らない。

「どうした、足が痺れたか?」

 本気で心配しているロイド。貴方のせいで顔が赤くなってるんです。なんて言えず、大丈夫だと伝え、膝枕の感想を聞いた。

「思っていたほど大したものではないでしょう?」

 膝枕の経験は昔、母親に耳かきをしてもらった時でしかない。膝枕では自分の理想の高さに調整が出来ないから寝具の枕の方が疲れは取れるだろう。

「・・・想像以上だ」
「想像以上にこんなものでした?」
「違う」

 ロイドは徐に起き上がりコハルと同じ様に座ろうとする。しかし、男であるロイドに同じ体勢は出来ない。左脚を曲げ、右脚を伸ばして座った。言葉にしないがここに頭を乗せろとコハルがそうしていたのと同じ様に自身の右脚の腿をポンポンと叩いている。

 え、無理無理!こんなかっこいい人に膝枕してもらったら恥ずかしくて死んじゃうっ。

 首を何度も横に振り抵抗するコハル。拒否権は無いと言いたげに微笑むロイドは、その表情を変えないままずっと腿を叩く手を止めない。諦めたコハルは徐にロイドの腿に頭を乗せた。

 どこを見ればいいのか分からず顔を横に向けると、向く方向を間違えた事に気づく。外側に向ければいいものを、ロイド側に向けてしまった。彼のシャツが目の前にあり、彼の香りが鼻孔をくすぐる。爽やかな香りだ。

 ロイドはコハルの頭に手を乗せ、乱れてしまった髪を直しながら優しく撫でた。彼の行動一つ一つが、コハルの心を刺激する。


「想像以上に照れくさいだろ?」


 彼を見上げると、照れた笑顔がとても可愛らしかった。

 真っ赤な顔のコハルは、このままでは胸きゅん死すると思い、起き上がろうとしたその時

 ッーー!!!??

 背筋が凍った。ソレは足元から背中まで一気に来た。虫か爬虫類か分からないけれど、ナニかが服の中に侵入して来たのだ。

「ロ、ロロロロロロイドさん、ふ、服の中、にナニかが!助けて下さい!!」

 大の虫嫌いであるコハルは涙目になり、飛びつくように彼の胸に額を当て、哀願した。ロイドはどうすればとあたふたしている。

「し、死んじゃいます!このままじゃ死んじゃいます!ひぃっ!気持ち悪いです!脱いでいいですか!?」

 いっそ脱いでしまった方が早く不愉快極まりないこの感触から解放される。しかし強めの声で「ダメだ!」と言われてしまった。

「とって!とってください!今胸の辺りにいます!!」

 ひいぃっと奇声を出す。ロイドはコハルの言葉に雷に打たれた様な衝撃を受け驚愕した。何度も手を入れるぞとコハルに確認し、彼女は同じ回数頭を縦に振る。

 ロイドは極力肌に触れないよう心がけ、ワンピースの足元から腕を伸ばした。

 胸の方と言っていたな・・・

 頑張って腕を伸ばし排除対象を探すが、手にあたるのはコハルの柔らかな肌だ。そして更に柔らかな感触があった。それが胸だということは、意識しているせいか直ぐに分かった。ふよふよとしている触り心地が極上で、あまりの気持ちよさに対象では無いと判断しているが、そこから手が離れない。

「ーー!?せ!背中に来ました!」

 パニック状態のコハルはそんなロイドの心境を考えている余裕がなく、次はどこに行った、今度はここだ、と必死に場所を指示していた。

 数分の苦悶後、衿口から一匹の蜥蜴が出てきた。ロイドはその尻尾を掴みコハルに見せて、もう大丈夫だと言うとそれを逃がした。

 叫び続け悶えていたコハルと、様々な葛藤で苦しんだロイドの二人は、各自四つん這いになり大きくて浅い呼吸を繰り返す。

 自我を取り戻したコハルは深々とロイドに頭を下げた。

「命を助けていただき、誠にありがとうございます」

 蜥蜴を服の中から出すだけだというのに、人命救助だなんて大袈裟だなとロイドの口元が緩む。

 「蜥蜴からコハルを守れて良かった」

 冗談交じりの文言に二人して笑い合った。
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