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しおりを挟む家の中へ招くと、コハルはおもてなしの為にハーブティー等の準備をする為キッチンをうろちょろしている。
昨日と同じ騎士服を着こなす三人は本当にかっこいい。かっこいいが、椅子に座らず立ったままこちらを見てくるので少々怖い。
「あの、座らないのですか?」
「貴女が先に座ってからだ」
ロイドが言うのにはそれが騎士として当たり前のことらしい。
はあ、まあそういう事でしたら。でもずっと視線を感じるのでやりづらい。まだハーブティーも出来上がらないし、なにか話題をふろう。
「御用があって来たのじゃないですか?」
「・・・神獣について詳しく話を聞きたく伺った。まさか今日も見れるとは思っていなかったが、コハルと彼等の関係は?」
それからロイドはコハルにタロウとジロウの情報を聞き出した。コハル自身もタロウ達の存在がこの世界でどういう立ち位置なのか知っておきたい。
どうやらタロウ達はかなりの希少な存在で、人前に現れることは殆どない。最後に確認されたのが数十年前とのこと。タロウの角にはあらゆる〝奇跡〟が起こる。それを煎じてのめば難病もたちまち治り、無くなった腕も生えるという。それはジロウの牙も同様。
そんな奇跡の生物が二頭も同時にコハルという少女と共にいるのが不思議でしかないというのだ。
タロウ達そんなに凄かったんだ。毎日一緒にいるから全然レア感がなかった。
ロイドは、何時からどうやってタロウ達を懐柔したの等、詳しい説明を求めてきた。その姿が何やら必死に見えてコハルは疑問に思う。
「・・・もしかして貴方達、タロウ達を狙ってるんですか?」
さーっと血の気が引いた。
こんなに色々聞いてくるなんて、もしかしたらこの人達はタロウ達を捕獲しようとしてるんじゃ。じゃなきゃこんなかっこいい人達が二日続けてここに来るとは思えないし、シャツをくれたり洗濯を手伝ってくれたり・・・・・・もしかしてこれが、ハニートラップか!?私を懐柔して油断している隙にタロウ達を連れ去るつもりじゃっ!
「タロウ達は渡しません。出て行って、二度とここへは来ないで!!」
咄嗟に判断したコハルは急いで玄関の扉を開け追い出そうと必死に叫ぶ。相手は男三人で腰に剣を下げている。大人しく帰ってくれればいいが、剣で襲いかかって来たらどうしようかと想像すると、身体が小刻みに震え始める。
ふるふる ふるふる
だがここで怯むわけにはいかない。あの子達は私が守らなくちゃ。と震えながらも威嚇をやめないコハルの姿はある小動物の様に見えた。
「・・・ウサギみたいだ」
「「ぷッーー」」
ウォルトがまじまじとコハルを見つめながら言うと、その通りだと思ったロイドとルイスは吹き出し、笑いを手で抑え顔を横に向けている。一方、馬鹿にされたコハルは顔を赤く染めウォルトに睨みつける攻撃を仕掛けたが、効果は今ひとつの様だ。
ロイドは咳払いをした後コハルの前に跪いた。
「コハル、我々は決して彼等も貴女も傷つけない。今はまだ信じて貰えないかもしれないが、私の名と命にかえて誓おう」
その姿には誠意が込められていた。
「・・・嘘ついたらどうします?針千本のみますか」
「ああ。何本でものもう」
コハルは小指を立てて、それをロイドに差し出した。ロイドは首を傾げ同じ様に小指を差し出すと、コハルの小指がそれに絡みつき腕を思いきり上下に振られる。
「ゆーびきーりげーんまーん嘘ついたら針千本のーます。ゆーびきった」
おまじないの言葉は羞恥心から小声になってしまったが、ロイドは擽ったそうに笑った。
「コハルは昨日から変な呪文を唱えるな。何の呪いをかけているんだ?」
昨日の〝痛い痛いの飛んでけ〟が聞かれていた事に顔を赤らめ「ただのおまじないです」と言うと、ロイドはまた笑った。
改めて出来上がったハーブティーをテーブルへ並べると「お腹は空きませんか?」とルイスが袋から、それはもう美味しそうなサンドイッチを取り出した。この世界で初めて見る木の実や果物以外の食べ物に興奮を隠しきれず、瞳を輝かせてそれを凝視する。
ああ、涎が出てきた。感動で涙が出そうっ
出てきてしまった涎を手で拭き、感動の眼差しでルイスを見る。先程のシャツといい、彼は欲しい物を出してくれる未来型ロボットなのかもしれない。
「食べていいんですか!?」
「もちろん。昨日、団長を手当してくれたお礼です」
サンドイッチ程度でそこまで喜ばれると思っていなかったルイスはクスクスと優しい笑みを浮かべている。
コハルが座り、やっと三人も座ってくれた。コハルは両手を合わせ「いただきます」と言ってからサンドイッチに手を伸ばす。ロイドが「今度は何の呪いだ?」と笑いながら聞いてきたので生産者や食材に感謝の気持ちを込めた言葉だと説明すると、三人は感心し同じ様に「いただきます」と言った。
「ん~美味しいです。感動です。ありがとうございます」
何日ぶりかも分からない調味料の味に心底感動しているコハル。あまりにも美味しそうに頬張るその姿を三人はリスの様だと思ったことは口にせず、穏やかな空気が流れた。
このトマトのみずみずしさ、レタスのシャキシャキさ、ゆで卵の味の濃さ、パンもふっくらしっとりと甘みもあって、それでいて胡椒も程よく効いていて美味しすぎる。私は今、とても幸せです。
「・・・・・・なのだが・・・・・・構わないか?」
「はい!ありがとうございます」
「ありがとう。ではまた」
三人は突然立ち上がり帰ろうとする。話を聞いていなかったのに返事をしてしまったコハルだったが、今更何の事だったのか聞ける勇気もない。まあ、次会えるとも限らないからいいかと、玄関で見送る。
今度こそまた逢う日まで、さようならイケメン’ズ
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