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第三章
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しおりを挟む「リリーも言ってよ」
リリーは今、愛してる拷問を受けている。
エレンに両腕を掴まれてしまったリリーは顔を隠す事が出来ず真っ赤な顔を晒したまま身動きが取れない。リヒャルトが助けてくれると思っていたのに彼はエレンの隣で膝立ちをし様子を見ているだけだ。
「俺も言って欲しい。好きはいっぱい聞いた。でも愛してるは言われたことない」
「・・・へえ。ムカつくなあ」
悪気のないリヒャルトの言葉も今のエレンには嫌味に聞こえてしまう。そもそもエレンは自分の感情を抑えるのが得意だったはず。こんなにも態度に表すこと等なかったのに。
「言わないとふにゃふにゃになるまで唇犯すよ」
「・・・えっちしてくれるの?」
「ダメ。唇だけだよ」
エレンは昨日リヒャルトが帰ってくるまで妊娠の本を読んでいた。そこに性的な事も書かれていたのでそれは否定する。そっちの方が拷問だと思ったリリーは愛の言葉を言う方がましだと気付いた。
チラチラとエレンとリヒャルトを見てぎゅっと目を伏せる。
「あ、愛してるッ!」
何のロマンも感じられない愛の言葉に二人は小さく笑った。
「・・・どうするリヒャルト」
「まあ、妥協点じゃない?これから毎日何回も言わせようよ」
先程まで険悪な雰囲気だったのに話合いを終え、エレンを受け入れることを決めた途端仲直りを成立させたのだろうか、二人は以前のように仲がいい。
そう、三人は話合いをしたのだ。
エレンが元々リリーのことを好きだと知っていたリヒャルトはいつかこんな日が来ると思っていたのだ。入籍まで済ませてしまったので離婚させる事も出来ず、同盟契約も結んでいた為受け入れるしかないと思った。
リリーは入籍を済まされてしまった以上どうする事も出来なかった。リヒャルトが彼を受け入れた以上、エレンを拒絶する理由がないからだ。それを分かっているのかエレンはニコニコと笑顔を浮かべるだけ。
ただリリーは気になった。
オルレアン伯爵家はどうするのか。貴族であるエレンが平民と結婚したとなると迷惑なんじゃないか。性を名乗った方がいいのか名乗らない方がいいのか疑問を浮かべるが、エレンに家のことは気にしなくていいと言われてしまった。
それから、家のルールが定められた。
・お腹の子は皆の子。平等に愛して育てる。
・家事と育児は平等に分担。
・愛してると言われたら必ず愛してると返す。
現在リリーは妊娠六ヶ月目に入ったばかり。まだ出産まで時間がある。次回の妊婦健診にはエレンも同行する事になった。
リヒャルトとリリーが受け入れてくれた事が余程嬉しいのか、エレンは本物の笑顔を浮かべている。
エレンとリヒャルトは臨月までハンターとして稼ぐ予定らしい。ギルドの話が出たところでリヒャルトが昨日の事を思い出しリリーを問い詰めた。
愛嬌を振り撒いてたと怒ったリヒャルトに対しリリーは言い掛かりだとたじろぐ。リリーにそんなつもりは無いと分かっているが責めずにはいられなかった。復帰した時に誰もパーティーを組んでくれなくなるんじゃと考えたリリーにリヒャルトとエレンが冷たく笑った。
「僕達以外と組む必要ないんじゃないかな」
「てゆうか、俺達以外と組むのダメでしょ。リリーは今後夫以外とギルド行くの禁止ね」
「・・・たまには違う環境で過ごすのもいいと思う」
言うことを素直に聞かないリリーに対し二人は笑顔のまま空気の温度を下げた。
「リヒャルト鎖買おっか」
「首輪か足輪どっちにしよーかなー」
「わ、わかった!夫以外とパーティー組まない」
リリーの発言にやっと納得したのかうんうんと笑顔で顔を縦に振る二人。
リリーは顎に手を当て悩んだ。
これが俗に言う束縛というやつか・・・?
***
ー夜ー
いつもはリヒャルトと寝ているベッドに今はエレンと二人きり。結婚初夜に気を使ってくれたリヒャルトが自分はソファで寝ると言った。結婚初夜と言っても夜の営みはない。もう安定期を過ぎたのだから気をつけながらすればいいものの夫二人からの許可がおりない。
リリーとエレンはベッドに横になりお互い向かい合っていた。エレンのアメジストの瞳が窓から差し込む月夜に照らされ宝石のように輝いている。
「・・・愛してる。もう絶対離れないよ」
「あ、あい、愛してる」
クスっとエレンが笑う。まだ愛してるという言葉に慣れないリリーは顔を赤くし視線を逸らしてしまう。そんな姿も愛おしい。強制的に言われせている言葉だと分かっている。それでも、嬉しいんだ。
距離を近付けさせリリーの額にキスを落とした。
まだきっと片思いのままだ。
でも結婚出来た。これでもう離れることは無い。
どれほど時間が掛かってもいい。グズグズに甘やかして自分を頼ってほしい。いつか本当に好きにさせる。
本当は自分が一番に見つけたかったけど、リヒャルトで良かったのかもしれない。ウィルフレッドが先に見つけてしまっていたら自分を受け入れてくれていないだろう。
リリーが妊娠していなかったら気を失うまで抱くのに。
エレンがそっとリリーのお腹に手を当てた。
タイミングを計ったのか知らないが、ボコっとお腹が動いた。赤ちゃんが反応してくれたのだ。エレンは驚きと共に嬉しくなった。
「赤ん坊も僕のこと受け入れてくれてるみたい」
「・・・エレンは男の子と女の子どっちがいい?」
「どちらでもいいなあ。でも、呼び方はパパがいいかな」
「なんで?」
「お父様とか固いの嫌だったんだ。この子にはもっと身近に感じてほしい。仲良し親子になりたい」
自分が両親から愛情を与えて貰えなかった同士その気持ちがわかる。
「どうしよう、僕構ってちゃんで子供に嫌われちゃうかもしれない」
父親から構ってもらえるなんて嬉しい事じゃないのか?でも子供がもし嫌がったらその時は・・・
「そうなったら私が構ってあげる」
上から目線に嫌がられたかな?と思い視線を合わせた。エレンは大きい瞳を更に大きくしパチパチと瞬きをしている。あどけなさを感じる表情が可愛らしく思い昔した時のように彼の頭を撫でた。
エレンはぎゅっとリリーの頭を体に寄せ彼女の後頭部へキスをし続ける。
初めて心から好きになった人。
やっと手に入れた人。
何を犠牲にしてもそばにいたい人。
リリー、愛してる。
本当に心から愛してる。
僕の一生をかけて君を幸せにするよ。
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