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第三章
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しおりを挟む時が遡ること数刻前、リヒャルトは独りでギルドを訪れていた。今日からハンターデビューだ。リリーはついて来ると言っていたが、断固として拒否をした。ハンターは良い奴も居るだろうが悪い奴の方が多い。変な菌がリリーとお腹の子に移ったら大変だ。
街にある大きいギルドにたどり着き、早速受付をした。受付嬢はリヒャルトの姿を見るなり瞳をハートにし、楽しそうにハンターとしての説明をしている。一通り説明をし終えた受付嬢はなぜか興奮していた。
「最近見目麗しいハンターが増えているんですよ!お兄さんもその内の一人ですね!掲示板のご案内をします。こちらへどうぞ!」
受付嬢は普段ならその場で指をさして説明を終えるだけの掲示板の案内を、リヒャルトの近くに居たいが為に同行をした。
掲示板の説明を受けながら様々な依頼書を見たリヒャルトは固まってしまう。
複数に渡りなぜか特定の人物への依頼が掲載されていた。
“キラービースト討伐依頼!リリー求む”
“薬草摘み(B級魔獣遭遇有)リリー求む”
「これって・・・」
「ああ!リリーさんと言う名のハンターが居るのですが彼女は最速でAランクまで上がった凄腕ハンターです!とても可愛らしく美しくて、リリーさんとパーティーが組みたいと多数の応募があがっています!そう言えば最近リリーさん来てくれないんですよお。あちらの方々はリリーさんが来るまで待っているんですけどねえ」
受付嬢が指した方をチラッと向けると、柄の悪そうな男達が昼間から酒を飲んでいた。受付嬢の話し声が聞こえていた様子で、その中の一人がリヒャルトに近付く。
「悪いがあんちゃんみたいなイケメンに紹介してやらねぇぞ?リリーちゃんクエスト中は素っ気ないけどその後の打ち上げで飲んだ時に笑う笑顔が可愛くって、俺あ惚れちまった!ぷりんとしたケツも最高でさあ!次一緒のクエスト受ける時はわざと触っちまおうかな~」
下品に笑う男に対し、リヒャルトの眉間に青筋が立った。ガシッと片手で男の胸倉を掴み男の体を持ち上げる。
「俺リリーの旦那だから気持ち悪い事考えないでよ。あとリリーは今妊娠してて暫く来れないから」
「「「何だってーー!?!?」」」
!? !?
黙って様子を見ていた他のハンター達もリヒャルトの発言に驚きギルド中が騒いだ。どうやら柄の悪い男達以外にもリリーを狙っていたハンターが多かったらしい。
驚いたリヒャルトだったが、面白くないと頬を膨らませ、どういう事だと初対面にも関わらず絡んで来る様々なハンター達を無視し、掲載してある簡単なクエストを受けることにした。
(・・・リリー、帰ったら説教しよ)
***
簡単な任務をこなし帰宅したリヒャルトは声にならない声をあげ驚いた。
ソファに見知らぬ男が、寝ている妻を抱きながら妊娠の本を読み寛いでいたのだ。
「リヒャルト、久しぶり」
聞き慣れた懐かしい声に驚いたリヒャルトはまさかと男に近付き、男の前髪をかきあげ再び驚く。
「エレン!?」
エレンに会えた喜びよりも見つかってしまったという焦りが生じた。咄嗟にリリーをエレンから引き離し腕の中に抱え込む。
突然の振動で目が覚めたリリーは目を擦りながらリヒャルトに「お帰り」と告げた。
初めてのギルドはどうだったとか、何の依頼を受けたのか聞きたいが、まずはエレンが居ることを話さなくてはとリリーは嬉しそうにエレンの事を話した。
「街でエレンと会ったの。凄いでしょ?」
こんな偶然中々ないだろうと嬉しそうに話すリリーをよそに、リヒャルトは眉間に皺を寄せつつも眉尻を下げ困惑している。
エレンと会えた事は勿論嬉しい。
だがどこまで知っている?自分達の関係は?お腹の子のことは?リリーが連れ去られていなくて良かった。何しに来たんだよエレン。
エレンがソファから立ち上がると警戒心からか後ずさってしまう。その様子を見たエレンの表情は顔が隠れて見えない。
近付いてきたエレンに警戒すると彼は片手を伸ばしてきた。
「結婚おめでとう」
「・・・あ、ありがとう?」
意外だった。まさか祝福されるなんて思わなかったリヒャルトは呆気にとられながら差し出されたエレンの手を握り握手をした。そんな二人を見たリリーは今日はご馳走を作ろうと意気込み袖を捲った。
「エレン泊まってく?」
「・・・街に用事があるから戻らなくちゃ。また来るよ」
「え?もう帰っちゃうの?」
やはり街に用事があったのか。
という事は仕事だな。
変装任務か何かだろうか?
リリーは顎に手を当て考えた。
リリーをとられるか警戒していたリヒャルトだったが折角再会出来た友人が直ぐに帰ってしまうと言い慌てる。折角だから夕飯を共にするなり酒でも飲むなりゆっくりすればいいのに。
だがエレンは表情が読めないまま玄関まで進んでしまった。慌てたリリーが駆け寄り彼の袖を掴む。
「また会える?」
リリーの言葉にグッと眉間に力が入るエレン。
どうしてそんなことが言えるのだろう。
消えてしまったのはリリーの方なのに此方の気も知らないで簡単にそんな言葉が言える彼女にムカついた。
「またね」
「・・・うん。またね」
エレンの姿が見えなくなるまで見送った後、リヒャルトが深いため息を吐いた。どうしたかと首を傾げると彼はリリーを抱き締める。
「とられるかと思った・・・でもなんか、寂しい」
何をとられると思ったのか聞きたかったが敢えて聞かなかった。それよりも仲の良かった二人が折角会えたのに、積もる話でもあっただろうに、大した話もせずに帰ってしまったので寂しく思うのは当然だろう。自分では埋められないけど、せめてもと思いリリーはリヒャルトの頭を撫で続けた。
ー翌日 朝ー
朝ご飯を食べ終えた二人は食器を片付けていた。今日もギルドへ行くのかと話をしていたら玄関の扉がノックされる。客なんて珍しいとリヒャルトが扉を開けると、そこには何と昨日のみすぼらしい姿が嘘のように髪と髭をさっぱりとしキラキラ輝く王子様のようなエレンがにこやかな表情を浮かべて立っていた。
「二人ともおはよう。今日から家族だね」
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