【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第三章

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 巷で人気のあるカフェにやって来た一行。このお店は女性客に人気のようで行列が出来ていた。

「二名で予約入れてたんだけどこの人数だと並ばなくちゃダメそうだね。先に予約のキャンセルしてくるね」

ユリウスは当初リリーと二人だけのデートだと思っていたのだが、いきなり七人に増え流石に席は無いだろうと思った。だからまず予約を断らなければと行列の先頭へ行きスタッフに事情を話したのだが、スタッフはユリウスの背後にいたルークやウィルフレッドといった高位貴族の姿を見るとギョッとし慌てて腰を低くした。

「二階に貴族様専用の個室がございますのでそちらにご案内させて頂きます!」

「え?でも悪いですよ。こんなに行列も出来てるんだし並んでいる他のお客さんに迷惑なんじゃ」

チラッと先頭に並んでいる女性達に目を向けたユリウス。そんな彼と目が合うと一番先頭に並んでいた女性がガシッと力強く両手でユリウスの手を握った。

「もちろんかまいませんわ!どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ!」

「は、はい。ありがとうございます」

その女性の勢いに負けたユリウスだったが素直にお礼を言うと女性は頬を染め、弓なりに、仰け反りながらもユリウスの手を離さない。

面白くないとムッとしたリリーが女性からユリウスの手を離すとキュッと恋人繋ぎをし彼を見上げた。

まだリリーは何も言っていないのにユリウスは顔を赤く染め空いている方の手であわあわと口元を押さえている。

「リリーが嫉妬してくれるなんてッ!」

嫉妬?
リリーはユリウスの言葉に固まった。
これが嫉妬なのか。まさか自分がナターシャ以外の相手に、しかも異性に対し嫉妬する感情があったなんて・・・すごい!

リリーは自分の新たな感情に驚き、感激し照れながらもキラキラとした瞳で喜んだ。

「同僚から嫉妬深い恋人の話を聞いた事があって大変だなって思ってたんだけど、好きな人にされる嫉妬って凄く嬉しいんだね」

繋がっているリリーの手をキュッと握り返し優しく微笑むユリウスに客やスタッフの女性が悲鳴を上げた。

すると、ガバッと背後からリヒャルトがリリーを抱き締めた。

「・・・俺もさっきめっちゃ触られた。今も見られていい気持ちしない」

顔をリリーの肩に埋めギュッと抱き締めるリヒャルトを見た女性達はギャーッと叫び顔を赤らめ、どういう関係なのかしら!?と興奮している。

リリーはハッとし読んだことのある小説を思い出した。その本のタイトルは“傲慢な逆ハーレム”。一人の悪女が数多の男を傍に置き皇帝になる話だ。シチュエーションは違うが似たような場面があった。たしか、こうだ。

リリーは腕を組み、顎を上げて女性達を見下ろした。

「私のリヒャルトをそんな目で見ないで」

ドンッと堂々と発言したリリーだったが言われた女性達は固まり頭上に?を浮かべている。

・・・あれ、間違ったかな?
語尾が違ったかも。「見ないでくださいまして?」が正解だったかも・・・。

首を傾げたリリーだったがリヒャルトにひょいっと抱き抱えられてしまった。上から見下ろすが彼の表情が見れない。だがその耳は赤く染まっていた。

「・・・やばい。俺、相当重症だ」

“私のリヒャルト”その言葉が嬉しくてしょうがなかった。



***

 
 カフェの二階にある個室に案内された七人はそれぞれメニューを見ていた。

「このお店、生クリームを動物の形にしてくれるんだって」

ユリウスの言葉にリリーは何匹まで出来るんだろうと考えた。だが手間で迷惑だろうと思い一匹に絞る。

「リリーは猫みたいだから僕は猫にしようかな」

「猫みたい?」

「うん。僕の部屋に来る時窓から入って来るでしょ?寝てる時も擦り寄って来て凄く可愛い。今でもずっと窓の鍵開いてるからいつでも来ていいからね」

甘い雰囲気を流すユリウスにウィルフレッドが横槍を入れた。

「君は、犬もいい。顔を擦り付けて甘えられた時はそっくりだった」

「・・・へえ、そうなんだ」

笑顔のユリウスだが少しだけ暗いオーラが漂った。エレンが更に追い討ちをかける。

「パンでウサギを表現した時も可愛かったですよ。小さく飛び跳ねて食べたくなりました」

「・・・へえ。これから時間かけて色々なリリーを知れたらいいな」

ウィルフレッドとエレンの意地悪な発言にドス黒いオーラを出しそうになったユリウスだったがこんな気持ちを持ったらいけないと顔を横に振った。まじまじと五人を見たユリウスは彼らの美貌に自信を無くし段々と落ち込んでいく。

飲み物とデザートを注文し終え、運ばれるのを待つ間に口数が減ってしまったユリウスを心配するリリー。首を傾げて隣に座る彼の顔を覗き込んだ。

「どうかした?」

ハッとなったユリウスは困り顔で笑った。せっかくのデートなのだから楽しく過ごさなくちゃ。

「ごめん。皆がカッコよすぎて僕なんかがって思っちゃった。こんな考えよくないよね」

弱気のユリウスに対しリリーはどうしてそんな事を思うのかと首を傾げる。

「・・・比べる必要なんてない。皆はかっこいい。ユリウスもかっこいい。ユリウスのいい所いっぱいある。これからもっと知りたい」

「リリー・・・ありがとう」

ふわっと笑い合う二人はお似合いのカップルだ。ノエルはギュッと下唇を噛み締め握り拳に力を込めた。

注文したメニューが運ばれる。
目の前に置かれたのはコーヒーとシフォンケーキ。ケーキの隣には立体の可愛らしい耳が垂れた子犬がこちらに笑顔を向けている。

可愛い!リリーはキラキラの瞳でそれを見た。

「リリーは犬にしたんだね。なんとなく?」

「皆が犬みたいだからこれにしてみた。見て?凄く可愛い。皆みたい」

最近の五人は泣いたり、構ってほしいと寄ってきたり犬みたいで可愛い。ユリウスも犬みたいだと思いクスクスと笑うリリー。

ノエルは目の前に置かれた猫の生クリームをじっと見た。その猫はちょっとツンとしているようだけど愛嬌がある。そんな猫がリリーみたいだと思ったら目頭が熱くなって瞳から涙が溢れた。

ポロポロととめどなく流れる涙にギョッとしたリリーは慌ててノエルを呼んだ。

「ノエルどうしたの?おいで。何があったの?」

リリーがノエルを呼んだことにより彼が泣いていることを知った仲間達もギョッとし食べようとしていた手を止めた。

ノエルは俯きながら立ち上がるとリリーに近付き、彼女を抱えリリーが座っていた椅子に座ると、自分の膝上にリリーを座らした。

泣き続けるノエルの涙を手で拭きながら落ち着かせるようにするリリーの胸元に顔を埋め背中に腕を回される。

「リリー、僕を捨てないでください」

「・・・・・・え?」

捨てるとはどういう事だ?そもそもノエルは所有物じゃないだろう。

「リリーは僕とユリウス様どっちが好きですか」

・・・え?
リリーは突然の質問に悩んだ。ノエルとユリウスどっちが好きだなんて考えた事がなかったから。どちらかと言うと付き合いが長いノエルの方が好きだけどユリウス本人の前で言うべき言葉じゃない気がする。

「同じくらい好き」

「それなら僕もリリーの恋人にしてください」

? ? ? ?

「恋人は一体一って本に書いてあったよ?」

「・・・そんなのデタラメです。好き同士なら何人いたっていいんです」

(((・・・無理があるだろ・・・)))

「そうなの?」

(((・・・え、信じるの?・・・)))

「リリーの事になると感情のコントロールが出来なくなる。それくらい好きなんです。僕だってリリーに嫉妬されたい。私のノエルって言ってほしい。このままじゃ僕おかしくなりそうです。薬漬けにして監禁したいです。そばにいたいです。ユリウス様だけの人にならないで。僕にも同じくらい好きでいてほしいです。僕が一番なんて我儘言いません。でも僕もリリーと好き同士になりたいんです!」

(((・・・薬漬け・・・監禁・・・サイコパス・・・)))

ふむ。と考えたリリー。
恋人は一体一じゃないのか。
でもそれはつまりノエルも他に好きな女が出来るという事だろう。果たしてそれを自分が許せるのか?・・・いや、無理だな。

リリーはノエルを正気に戻そうと力強く彼の肩を握った。

「ノエル、前に言ったこと覚えてる?私はきっと愛が重い。好きな人が他の人とイチャイチャしてるのを見て耐えられないと思う。だからノエル、よく考えて?」

「・・・リリーは僕が他の人へ行くのが嫌なんですね。それなら大丈夫です。リリーしか好きにならない自信しかありません」

「私はユリウスと付き合ってる。私が他の人と仲良くしてるの見るの嫌でしょ?私だったら嫌だ」

「リリーを好きになった時点で覚悟はしてます・・・なにせ、あのシルヴィがいるから」

シルヴィの名前を出したノエルは諦めたように遠くに目を向けた。だがすぐ真剣な面持ちでリリーを見つめる。

「でもリリーが特別に想う男の中に僕がいないことだけは絶対に嫌だ!それだけは諦めません!シルヴィを真似するわけじゃないですがどんな手段を使ってでもそばにいます。絶対安心出来る確約がない限り付き纏います!僕を拒否するならその覚悟持ってくださいね」

「・・・え・・え?・・でも、本にはそれだと不誠実だって・・・え?・・・そしたらユリウスをあきらめーー」

珍しく酷く動揺している。
そんなリリーが自分を諦める発言をしかけ咄嗟にユリウスが思い切り立ち上がって言葉をふさいだ。

「待って!二人とも落ち着いて」

頭を抱えふうーっと盛大なため息を吐いたユリウスは膝を床につきリリーの手を握り彼女を見あげだ。

「リリー、彼らと真面目な話をしたいんだ。凄く申し訳ないんだけど少しだけ席を外してくれるかな」

「あ、ユリウス・・・ごめん」

戸惑い焦っていたリリーだったが彼の目の前で失礼な発言をした事に罪悪感を感じ俯いたリリー。そんな彼女をユリウスは優しく抱き締めた。

「大丈夫。どんなリリーも受け入れるよ。ちょっとだけ、ごめんね」

リリーは頷きトイレに行くと言い個室から出ていった。

「さて」

リリーが出ていったのを確認したユリウスは席に戻るとニッコリと笑った。


「君達に提案がある。僕達・・・重婚しないか?」


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