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第二章
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しおりを挟むコンッ コンッ
「どうぞ」
ガチャッ
「失礼します」
「あれ?君達どうしたの?・・・もしかしてそれってリリー?」
騎士団寮の最上階にある騎士団長ジョンの部屋を訪れたウィルフレッド達。確かに五人誰かの部屋よりかは団長の部屋で過ごしてもらう方が安心だ。突然の訪問に驚いたジョンだったがリリーを抱えたウィルフレッドを見た途端彼は面白そうにニヤニヤしている。これ迄の経緯を説明したウィルフレッドはここにリリーを泊まらせて欲しいと頼んだ。
ジョンの指示通りに彼のベッドにリリーを寝かせたウィルフレッド。ジョンはリリーの寝顔をまじまじと見つめている。
「リリーの寝顔懐かしいなあ。最近は全然会えなかったから久しぶりに見れて嬉しいよ。子供の頃から一緒に寝てたけど寝顔が天使で癒されてたな~。君達もそう思わない?」
ニマニマしながら同意を求めるジョンに対しそうですねとしか言えない騎士達。リリーが子供の頃から一緒に寝てたとは・・・二人の関係が気になり始めた。
ジョンはずっと彼らにニヤついた顔を向けている。リリーと出会った頃の彼らは彼女に対し素っ気なく興味も無いと言っていたのに今ではこんなにも甲斐甲斐しく世話をしているではないか。この中の誰かがリリーと結ばれるのではないかと期待せずにはいられない。
「今夜は責任持って俺が面倒見るよ。あ、女抱きに行く?金渡そうか?」
「「「結構です」」」
彼らが断るのを分かって言ったジョンはクスクスと笑い、彼らを部屋から追い出した。
さて、明日の朝まで愛おしい妹を愛でますか。
***
ー翌朝ー
コンッ コンッ ガチャッ
「ふぁ~おはよう。入りなさい」
欠伸をしながら扉を開けたジョン。
扉の外には可愛がっている直属の部下である騎士五人が揃っていた。朝からイケメンを見ることができ眼福だとジョンはいい笑顔で彼らを迎えた。
一方五人は上半身裸のジョンを見て嫌な予感を働かせた。ジョンは誰もが見惚れる筋肉質な裸体を恥ずかしげもなく晒している。きっとここに女がいたら瞳をハートにして黄色い悲鳴をあげていただろう・・・リリーはどこだ?
ベッドを見ると布団が膨らんでいた。中に居るのだろうかとウィルフレッドが布団を剥ぐとそこには全裸のリリーがすやすやと眠っていたではないか。
ピシッと体を硬直させた五人は錆びたロボットが動くようにゆっくりと顔だけをジョンに向けた。
「団長もしかしてヤったの?」
リヒャルトの問にアハハッと笑ったジョン。ウィルフレッドはそっとリリーに布団をかけ直しジョンを睨んだ。
「まさか!妹みたいに可愛がってるんだからそんな事しないよ。俺巨乳好きだし。裸の方が抱き心地いいでしょ?」
だから脱がしたの。とさも当然のように話すジョンに対し彼らは本当だろうなとジト目で睨みを効かせた。だがジョンは服を着ようともせず彼らの反応を見て楽しんでいる。
コンッ コンッ
再びジョンの部屋の扉がノックをされた。
「ユリウスです」
「オリヴァー・クロノスです」
扉の向こうから騎士団第二部隊隊長のユリウスと第三部隊隊長のオリヴァー・クロノスの声が聞こえた。オリヴァーの声に反応したエレンは眠っているリリーを隠すようにベッドのそばに立った。その横に列なる四人。彼らは皆リリーを隠そうと一列に並んだ。
ジョンが二人の入室を許可した。入って来た二人はビシッとジョンに敬礼すると部屋の中に居た騎士五人を見た。五人は先輩である二人に敬礼をした。
上半身裸のジョンと騎士五人を見たユリウスはハッと口元に手を当てそういう事かと何かを察すると、何も言わないから安心して欲しいと温かい表情を彼らに向けた。
この人また勘違いしてると悟った五人はユリウスと視線を合わせる事が出来ず視線を泳がしている。
「朝早くに申し訳ございません。会議よりも早くお伝えしたい事がございまして」
オリヴァーが近頃発生している魔獣被害についての報告を始めた。
小規模ではあるが魔獣の発生が頻繁に起こっている。大規模な魔獣ビッグウェーブが起こりかねないと危惧し備える必要があると訴えに来たユリウスとオリヴァー。
ジョンは二人の意見を取り入れ早速調査に当たると返答した。結果次第では今後多忙になる為全軍団に伝え警備と守備、更に武器の確保と徴兵を進めていく予定だ。
緊張感が漂う話し合いが終わり、ジョンが服を着たのを見て帰ろうとしたオリヴァーだったが、足を止めて真っ直ぐエレンを見た。
「エレン・オルレアン。君の元恋人について情報をくれないか」
オリヴァー・クロノス公爵家の嫡男である彼は以前開かれた貴族パーティーの日、エレンの隣にいたリリーの笑顔に一目惚れをした。エレンから以前別れた話を聞き、時間が許す限り街に繰り出すが未だにリリーを見つけられない。折角のタイミングでエレンに会う事が出来たのだから恥を承知で彼に聞こうとしているのだ。
(え、何なに?楽しそうな話だね)
ジョンは話の内容が気になってソワソワしている。
エレンは爽やかな笑顔をオリヴァーに向けた。
「申し訳ございませんが教えられません」
「・・・なぜだ?別れたのだろう」
「復縁する予定です・・・それに、ライバルもいますのでこれ以上増やしたくありません」
チラッと横目でリヒャルトを見たエレンだが、見られたリヒャルトは知らん顔をしている。
「お前なら女は選び放題じゃないか」
女に人気のあるエレンが復縁しようとしているなんて信じられないとオリヴァーが眉間に皺を寄せた。
エレンも彼に似た感情を抱いている。公爵家の嫡男であり騎士団の隊長も務め、しかも美丈夫だ。そんな人がなぜ平民であるリリーに執着するのか分からない。それにリリーはその辺にいる普通の女と違う事を彼は知らない。
「あれ程の良い女性は何処を探してもいないので」
堂々と発言したエレンにジョンが真っ先に興奮し詰め寄った。
「なんだエレン好きな女いるなら言いなよ。話聞かせてくれるよね」
まったく、この人は空気を読まないんだからと遠い目をしたエレンはジョンに肩を揺さぶられている。
エレンの話を聞いたオリヴァーはそれでは何故別れたのだと疑問を抱いたが、エレンが彼女にふられたのだと決めつけエレンに対し好戦的な態度を示した。
「ますます欲しくなった。では、失礼致します」
颯爽と部屋から出ていくオリヴァーに続くユリウスの頭上には?マークがいくつも浮かんでいる。
(男が好きなんじゃないのか?)
オリヴァーとユリウスが部屋から居なくなり緊張感が無くなった部屋ではジョンがニコニコと笑顔を浮かべエレンに詰め寄っていた。
「ねえどんな女?胸でかい?」
「・・・・・・。」
凄く言いたくない。
モゾモゾとリリーが動き出した。
リリーの存在がユリウスとオリヴァーに見つからなかった事には安心したがあのオリヴァー・クロノスがリリーを探している事に警戒心を抱いた五人は絶対にリリーを見せないようにしたいと誓った。
上半身を起こしたリリーはなぜ裸になっているのだと首を傾げた。そしてベッドのそばで一列に並んでいる五人とエレンと距離が近いジョンを見て更に混乱する。
なんでここにジョンが?
どうして裸?
ハッとなったリリーは手で顔を隠し俯いた。
「初めてなのに覚えてない!」
裸ということは誰かとしたのだろう。勘違いをしたリリーは折角の初体験を覚えていないなんてとショックを受け落ち込みながら五人を見上げた。
「私どうだった?」
気持ちよかったか?気持ちよさそうだったか?やっぱり血は出たのか?誰が相手してくれたんだ?といくつもの疑問が頭に浮かぶ。
そんな彼女の頭をノエルが撫でて落ち着かせた。
「誰ともしてないですよ。団長のとこで寝ただけです。ほら服着て下さい風邪ひきますよ」
なんだ、してないのか。
良かったのかよくないのか分からなくなった。
「ボサボサだな。髪食べてるぞ」
寝起きでボサボサの髪をルークが手ぐしで整えてくれた。そんな彼の意外な一面を見たジョンはエレンからターゲットをルークに移した。
「ルークが女の面倒見てる!」
別にこのくらい何だって事ないだろうと首を傾げたルークだったがジョンに指摘され改めて裸で見上げてくるリリーを見ると急に羞恥心が込み上げてきた。
「こッこいつがだらしないから世話するしかないだけだ!」
バッと布団でリリーを包み少しの肌の露出もさせなくすると彼女の服を探した。見つけた服を掴みスポンと手際よく服を着させる。そのルークの一連を見たジョンはニヤニヤが止まらない。
「愛だね」
「違う!」
ルークはリリーをファイヤーマンズキャリーに担ぐと逃げるように部屋から出て行った。騎士四人が慌てて追いかける。あの状態では他人にリリーを見られてしまう。
そんな可愛い部下達をケラケラと笑ったジョン。
「早くしないと、居なくなっちゃうよ」
その声は誰にも届かない。
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