48 / 89
第二章
48
しおりを挟む騎士団団長ジョンに命じられた騎士達五人は休日出勤を課せれた。その内容とはリリーの休日に付き合うこと。彼女の休日はいい刺激になると言われた。
・汚れてもいいラフな格好をすること。
・リリーに従うこと。
上記二点を守れば出勤手当を貰えるらしい。
騎士達はまだ人集りの少ない早朝に、リリーに指定された場所で彼女が来るのを待っていた。皆それぞれラフな格好をしているのだが顔が整っているせいかどう見ても気品があるように見えてしまう。
一段とオーラが違うその集団を行き交う周囲の人々はチラチラと覗き見していた。その中にリリーも含まれていた。彼女は少し離れた場所からイケメンオーラを放つ集団を見ていたのだ。
・・・目立つな。
スタスタと彼らに近づいたリリー。
リリーを見つけると、今度は彼らが固まって彼女を見続けてしまう。
「「「・・・・・・」」」
今日のリリーの私服はどんなだろうか少し期待をしていた騎士達。だが現れた彼女の服装はとてもボロボロだった。土汚れが残ってしまっている生地にゆったりとしたズボン。普段の服装よりもだいぶみすぼらしい。
彼女は服を買う余裕がないのだろうか・・・。
「リリーお金ないの?」
可哀想なものを見る目で視線を送るリヒャルトに対しムッとしたリリー。
「作業着だからいいの」
作業着?
騎士達全員が首を傾げた。
今日はリリーの休日じゃないのか?
それからリリーの後に続き歩き出す。
暫く歩くと街から少し離れた郊外に広がる畑が見えた。
一軒の家の扉をノックしたリリー。
徐に扉が開き中から現れたのは赤道色の髪で梔子色の瞳を持った眉目秀麗な顔立ちをしたイケメンだ。
彼はリリーを見るなりわかり易く顔をほころばせたが、彼女の背後にいるイケメン騎士達を見ると、瞠目し慌ててリリーの肩を掴み彼女と共に彼らに背面を向けた。
その行為にムッとする騎士達。
男とリリーとの距離が近過ぎる。
「おいリリー誰だよこのキラキラ王子様達は!」
男が小声で話すものだからリリーも吊られて小声になる。
「職場関係の人。今日は手伝いに来てくれたの」
「職場関係か・・・わかった」
赤道色の男はリリーの肩を抱いたまま改めて騎士達に向き合った。
「どうもリリーがいつもお世話になってます。農家のアランです」
礼儀正しく挨拶した農家のアランはリリーの後頭部を押さえ一緒に頭を下げた。まるで家族を紹介するようなその態度にピクッと反応する騎士達。エレンが笑顔で挨拶をした。
「こちらこそリリーがお世話になっています」
お前のじゃないぞという言葉を笑顔に含んだエレン。それに反応したアランはリリーの耳元に顔を近づけた。
「なあ、本当にただの職場関係の人なのか?あの人笑顔怖いぞ」
エレンの笑顔?特に怖くないぞ?
リリーはアランの言葉に頷くと騎士達を見た。
「これから畑仕事手伝うの。みんな頑張ろう」
「「「・・・はい?」」」
ザクッ ザクッ
畑を耕す騎士達。
リリーは慣れているのか、ほーいザクッ、ほーいザクッとリズミカルにどんどん畑を耕している。
どうして休日に畑仕事を?
疑問を抱いた騎士達だったが慣れない動きに腰に痛みを感じ始めた。
「イケメンお兄ちゃん達ちょっと休憩するかー?」
気さくに彼らに話しかけたのは中年のイケおじであるアランの父親。アランは父親似だと人目でわかる程彼らはよく似ている。
「リリーちゃんの周りにこんな良い男がいたんじゃうちの倅も焦るだろうなあ!」
チラッと騎士達はアランを見た。
彼は畑で採れたトマトをリリーに食べさせていた。美味しかったのかキラキラした瞳でアランを見上げるリリー。アランはそんな彼女の口周りについたトマト汁をタオルで拭っている。仲の良い二人を見た騎士達はムッとした。
( おもしろくない )
「おーい!二人ともそろそろ終わりだぞー!」
アランの父親が大きな声を出して二人を呼んだ。
騎士達五人は家の裏で休憩をしている。
痛めてしまった腰を摩ったり背筋を伸ばしたりと自由にしていたのだが人の気配を感じ身を潜めた。
アランとリリーの声が聞こえたのだ。
「お前のことが好きだ」
突然の告白に反応した騎士達。
自分達の気配を消し黙って聞き耳を立てる。
「・・・異性の好きが私には分からない」
リリーならそう言うと思っていた騎士達はうんうんと頷いた。
「八年も一緒にいりゃお前がそういう感情に鈍い事は分かってたよ。だからまずデートからってのはどうだ?それを重ねて好きにさせてみせる。俺は、お前が俺の隣で笑ってくれたらそれでいい」
八年・・・結構長い。
でもリリーならよく分からないの一言で断るだろう。
「いいの?」
!? !?
まさかのリリーの発言にギョッとした騎士達。
「デートしてみたかった。デートって何するの?」
「君のお父様が呼んでたよ」
間に入ったのはエレンだ。
「あ、ああ。すんません。リリーまた後でな」
いなくなってしまったアラン。
ぞろぞろと騎士達がリリーに集まった。
「告白された」
アランに告白されたのが嬉しいのかリリーは瞳を輝かせている。
「隣で笑うだけでいいって。変なの」
微笑む彼女に異常な程の怒りが込み上げた。
ダンッと彼女の顔の背後にある壁を叩いたウィルフレッド。眉間に皺を寄せリリーを睨んだ。だがその後ウィルフレッドは何も言わない。他の騎士達を見ると彼らも険しい表情をしている。でもウィルフレッド同様に何も喋らない。
アランと付き合わないでほしい。
仲良くならないでほしい。
でも、そんな事を言える間柄じゃない。
「畑仕事嫌だった?」
「「「・・・・・・はぁ~。」」」
首を傾げながら言ったリリー。
全くもって見当違いだ。もはや呆れてしまうと盛大なため息を吐いた騎士達だった。
「リリーはデートしてみたいの?」
リヒャルトの問いに頷いた。
「だったら次の休み俺としようよ。お互い平民だから普通のデート出来るし」
「いいの?」
ウィルフレッドの腕から顔を出したリリー。
その瞳は期待に満ちていた。
そんな彼女を見た騎士達は先程まであった負の感情を失くした。そして思う。どうしてアランだとあんなにイライラしたのにリヒャルトだとイライラしないのだろうと。
「約束ね」
「うん!」
リヒャルトの約束に笑顔で同意したリリーを見て騎士達は微笑んだ。
その後彼らはアランとリリーを二人きりにさせないようピッタリとリリーに密着し何とかデートの約束を防いだ。
頂いた野菜をかじりながら街へ戻る騎士達。
時刻はまだ午前中だ。
「どうしてリリーは休日に畑仕事をしてるんですか?」
ノエルの質問にリリーは真っ直ぐ前を見て答えた。
「将来の知識になる」
(((将来の知識?農家にでもなるつもりか・・・?)))
リリーの休日はまだまだ続く。
28
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる