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第二章

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 月日が経ち騎士達はリリー宅を頻繁に訪れ彼女との交流を深めていた。

エレンを除いて。

彼は騎士寮の自室から窓の外から見える夕焼け空を無言で眺めている。

頻繁にリリーに会いにいく仲間達。
最初は自分だけが訪れていた場所。
自分以外の人が遊びに来てもなんの抵抗もなく受け入れる彼女。

自分だけが特別だとは思っていない。
だけど、少なくてもあの時までは仲間よりも自分だけが知れるリリーがいて心が温かかったのに、誰にでも等しく接する彼女を見て次第に心が冷めていくのが分かった。

自分だけを見てくれないのならいっそ仲良くなることをやめたい。

そう思い行動するのは簡単だった。
会いに行くのをやめただけ。

仕事中は無表情で必要最低限でしか会話をしない彼女はプライベートで会わない限り話し合う事はない。目も合わせない。所詮、その程度の関係。

でも大切に思っている仲間達の無駄話はリリーに関する事が殆どだ。最初は話題にすら上がらない存在だった筈なのに、仕事の合間でも寮の食堂でもちょくちょく話題になる。今日も聞きたくないリリーの話を聞いた。ノエルがまた暴走しリリーを襲いかけたらしい。

それを笑顔で聞き流すエレン。

自分だけを見てくれる女性が欲しい。
こんなこと願った事なんて一度もないのに、そう思う程欲張りになってしまった。

実家のオルレアン伯爵家は平民であるリリーとの交際を認めず貴族とのお見合い話を進めていた。断っていたエレンだったが最近になり、相手を選定しお見合いを続けている。

彼女達は素晴らしい。貴族らしく上品でおだて上手で華やかだ。だけどいつもお見合いを終えてから気付くことがある。

令嬢とリリーを比べてしまっていること。

リリーは普通の令嬢とは全く異なる人物だ。
似ている共通点があるなんて有り得ないのに探してしまう自分がいる。それでも彼女達は自分にだけ熱の籠った瞳で見つめてくれる。自分だけを見てくれる。他人に体を許したりしないだろう。

リリーに向けても返されない熱量を彼女達なら返してくれるかもしれない。リリーを相手にするより確実に愛情を貰え、合理的で幸せになれる確率が高いのに・・・どうしてこうも虚しいのだろう。

コンッ コンッ

部屋の扉がノックされた。
入室を促すと入ってきたのはリヒャルトだった。

「今度の休みの前日リリーの家に一緒に行かない?」

「・・・行かないよ」

「エレン最近忙しそうだもんな。なんかあったら相談乗るからいつでも言ってよ」

「・・・リヒャルトはリリーと二人きりになりたいって思わないの?」

「俺は別に・・・大人数の方が好きだし。この前リリーが爆笑したんだけど良い笑顔だったよ?」

リリーの爆笑・・・気になる。あのリリーが爆笑する内容はなに?どんな笑顔だった?
悶々としてしまうエレン。

「エレンもリリーと話したそうにしたがってるじゃん。そんなに忙しいの?」

「僕が・・・話したがってる?」

「え!?あんなに物欲しそ・・・用がありそうに見てたのに・・・また俺の勘違い?」

顎に手を当て首を傾げ考え込んでしまったリヒャルト。彼の勘違いなんかではない。影の訓練前に訪れていた時も、訓練の休憩中も、訓練後の解散までの間も、ずっとエレンはリリーを目で追っていた。その事に気付いていないのは本人のみ。

「俺もうそういうの全然わかんなくなっちゃったんだけどさ、好きなら会いに行けばいいしゃん。リリーなら受け入れてくれるんだし難しく考えないで素直になればいいんじゃない?」

忙し過ぎて過労死するなよと冗談を言い笑顔で去って行ったリヒャルト。彼の言葉が頭の中でループされる。

好き・・・好き・・・好き。

やっと感情の着地点を見つけられたエレンはベッドに仰向けで倒れ込んだ。グッと腕で目を押さえる。

「・・・バカみたいだ」

認めてしまえば呆気ない。
自分はただリリーに嫉妬をしていたんだ。
自分だけを見てくれないリリー。
自分以外に笑顔を向けるリリー。
キスをして、体を許して、自分以外にもあんな表情を見せて、悔しくて苦しい。
それなのにこの気持ちを抱いてるのは自分だけ。それが惨めで認めたくなかった。

まさか僕が片想いをするなんて思ってもみなかった。

片想いって辛い。
凄く胸が痛い。
それでも・・・。

「・・・会いたい・・・」

会って抱きしめたい。彼女の笑顔が見たい。
会話をして笑い合って彼女の瞳に映る人物は自分であってほしい。

ぎゅううっと胸が締め付けられ目頭が熱くなる。

“素直になりなよ”

リヒャルトの言葉が頭を過ぎった。

「・・・リヒャルトありがとう」

勢いよく起き上がったエレンは自室を飛び出した。



***


コンッ コンッ コンッ ガチャッ

「エレン?入ってよかったのに・・・大丈夫?」

リリー宅の玄関にて、彼女が扉を開けるなり視界に入ったぜーぜーと肩で呼吸をしているエレンの姿。何事かと彼を覗き込もうとしたら目の前いっぱいに紙袋を渡された。

「閉店ギリギリで間に合ったよ」

紙袋の中を覗き瞳を輝かせたリリー。
中に入っていたのは宝石の様な装飾を施された青いお菓子の箱。娼婦で働いてた頃エレンが持って来てくれ、リリーが気に入った貴族御用達の高級菓子だ。

キラキラとした瞳で箱を見つめるリリーを見て愛おしい気持ちが溢れたエレンは彼女を抱きしめた。

やっと会えた・・・ずっと会いたかった。

「リリーそれ好き?」
「好き」

胸が温かくなる。ドキドキする。
自分に対して言っているのではない事は分かっている。

それでも嬉しい。

早く食べようとリリーはエレンの手を握り部屋の中へ入れた。

エレンは繋がれた手を見つめた。

不思議だ。意識しただけで触れてるとこがこんなにも熱くなるなんて。

「忙しいの終わった?」

最近パッたりと来なくなってしまったエレン。どうやら忙しいようで仲間達も彼を心配していた。

「うん。・・・リリー、僕が素直になっても嫌いにならないで受け入れてくれる?」

不安そうな表情をしたエレンに対し首を傾げ見上げたリリー。

彼は何を言っているのだ?
以前話した事を覚えていないのだろうか。
リリーは今度こそ伝わるようにゆっくりと喋った。

「エレンはもっと素直になった方がいい」

じゃないと

「・・・本当に欲しいものが出来た時手に入れられなくなる?」

以前リリーから言われた言葉をそのまま言ったエレン。リリーは黙って頷いた。

「これから僕はどんどん我儘になるよ。それでも受け入れてほしい」

「うん」

「でも嫌われたくないから本当に嫌になった時は言ってね」

「わかった」

「・・・もう。そんな簡単に返事して知らないからね」

リリーは知らない。
エレンがどれ程リリーが好きか。
でも彼はまだ自分の気持ちを彼女に伝える気はない。フラれるのは分かっている。彼女に断られるのは辛過ぎる。だから今はただそばに居られるだけでいい。特別に思ってほしいとかそんな欲は出さないから、せめてそばにいさせて。

でも、我儘は言わせてもらう。

「お菓子食べる前にリリーチャージしたいな・・・いいよね?」

はて?リリーチャージとは何ぞや?
コテンと首を傾げたリリーはエレンに抱えられベッドへ移動した。

「キス、してもいい?」

キスだけでチャージになるの?
不思議に思いながらも組み敷かれているエレンを見上げ、頬に手を添え、自ら彼の唇に自分の唇を合わせた。

軽く触れ合っただけで直ぐに顔を離したリリーは真っ直ぐ見下ろしてくるエレンと視線を合わせた。

彼は頬を染め苦しそうな表情をしている。
お互いの瞳に映るのはお互いの姿。

「ぜんぜん足りないよ・・・」

今度はエレンからリリーにキスをした。
触れて離し、また角度を変えてキスをして舌を入れた。長い時間キスをし続けた二人はお互い蕩けた顔をしている。

それでも足りないエレンは行為を止めない。
リリーの耳朶を舐め、耳の形に沿って舐めた後、彼女の耳中を舌で犯した。

逃げようとする彼女の顔を抑えジュポジュポと耳を犯すその動きは緩急をつけ抜き入れ、次いで首筋を舐め上げた。

声を抑えていたリリーは次第に我慢する事が出来ず、気がつけばギュッとエレンを抱き締め、脚も彼の胴に巻き付けていた。

リリーの耳に満足したエレンは再び深くキスをし彼女を堪能する。

今まで会えなかった時間を埋めるように、気持ちが伝わるように優しく丁寧に。

「・・・えれんっ・・気持ちいいよぉ・・・・」
「僕も・・うれしい・・・ねぇリリー、このまま・・・」

もっと気持ちいいことしよっか。

そう言いたかったのにバンッと勢いよく玄関の扉が開いた。キャーキャーと酔っ払いのシルヴィとティアラがワインボトルとグラスを持ちながら入室する。

「あれえエレンじゃん珍しい!」
「シルヴィと性癖一緒すぎて盛り上がるわー!同類最高!あ!このお菓子貴族御用達の超高級菓子じゃない!やった~早く食べましょー!」

邪魔をされたエレンはギッと二人を睨みつけた。そのあまりの形相に一瞬瞠目した二人だが酔っ払いには通用せずヘラヘラと笑いソファで寛ぎ始めた。

ため息を吐いたエレンは仕方がないとリリーを抱えたまま対面のソファへ座った。



その晩、エレンがリリーを離す事はなかった。

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