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第二章
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しおりを挟む床に正座をさせられた現在へ戻る。
経緯を説明したエレンを見下ろす仲間達。その表情は相変わらず怒っていた。
「どうして俺達に何も言わなかったの?」
リヒャルトの問いに視線を泳がせたエレン。
そんなの決まっている。
皆に話したら絶対についてくる。
それではリリーと二人きりになれない。
エレンは笑って誤魔化した。
その態度に余計に眉間に皺を寄せた騎士達。
ただならぬ雰囲気を感じ目を覚ましたリリーはもぞもぞと布団から顔だけ出し目を擦った。
「エレン?」
ごしごしと目を擦るリリー。
次第に覚醒し床に正座しているエレンと仁王立ちしている騎士達を見比べて首を傾げた。
夜中にリリー宅を訪れてしまい気まづくなった騎士達は視線を泳がせた。
リリーは体に巻いていた布団をどかし猫のように四つん這いになり背中を伸ばした。
すると、プリッと何も穿いていないリリーの小尻が顕になった。
ピッと固まったエレン。
ビギッと額に青筋を浮かべた騎士達。
しまった。服を着せただけでショーツを履かせ忘れたとアワアワするエレン。そんな彼を鬼の形相で見下ろす騎士達。
「「「本当にヤってないんだろうなあッ」」」
「本当にヤってません!」
騎士達に責められているエレンを見たリリーは彼が何か仕出かしたのかと未だに眠い瞼を擦りながらベッドから降り、ノエルの袖をちょんちょんと引っ張った。
「どうしたの?」
ふぁあ~と欠伸をしたリリー。
騎士達はリリーの格好を見てギョッとした。
明らかな男物のシャツを着ている。サイズが大きすぎてミニワンピースの様になっている。
「リリー今着てるのって誰の服?」
リヒャルトの発言にリリーは着ている服の匂いを嗅いだ。
「エレンの香りがするからエレンの服?」
一斉にエレンを睨み付けた騎士達。
一発で自分の匂いを嗅ぎ分け当ててくれたのは嬉しいが気恥しい。嫌な匂いじゃないかと不安になりつつも視線が痛いエレンは立ち上がりクローゼットの中からリリーのショーツを探した。
レースで肌が透けるショーツかTショーツしかない。一番面積の広いショーツを選びリリーの前に膝立ちになり自ら履かせようとするエレンをノエルが慌てて止める。
「はい、リリー足上げて?」
「ん。」
「ちょっと何してるんですか!?」
「え?僕何か変なことした?」
ただショーツを履かせようとしただけなのに怒鳴るノエルが分からないと不思議そうにリリーを見上げるエレンに対し、リリーはさあ?と首を傾げた。そのまま何事もないかのようにリリーにショーツを履かせたエレン。お尻に食い込まないようお尻と布の間に指を入れ整えた。
「下も履く?寒くない?」
「大丈夫。履いた方がいい?」
「んー、僕としては履いてくれた方が足が隠せるから穿いて欲しいな」
「わかった」
とてとてとクローゼットへ行きスカートを出して着用するリリー。二人のやり取りを見て混乱するウィルフレッド。
「二人は付き合ってるのか?」
「まさか、こんなの普通だよ。さっきから皆おかしいよ?」
え、俺達がおかしいのか?
エレンの発言に混乱する騎士達。
「ちょっと待ってよ。頭が追いつかない。付き合ってないのに何その距離感。エレンどうしちゃったの?」
普段のエレンだったら女性と壁を作りながら接する筈だ。ショーツを履かせるなど有り得ない。リヒャルトの言葉にハッとなり頭を抱えだしたエレン。
そうだった。つい影達の行動に感化され距離感をはき違えてしまった。この距離感は普通じゃない。リヒャルトに言われてやっと思い出した。
「・・・ごめん。皆の言う通りだよ。僕が間違えてた。これからは気を付けるね」
良かった。理解してくれたとホッとした騎士達。
ぐぅう~。
リリーの腹の虫が鳴った。
そういえば昨日からろくな物を食べいていなかったと思い出し、お腹に手を当て蹲るリリー。
「お腹空いたんだね。何か作るよ」
キッチンの中へ入ったエレンの手を握り慌てて止めたリリー。
「エレンはダメ!焦がすからダメ」
以前意気込んだエレンが作った焦げ焦げの卵。おかげでフライパンがひとつダメになってしまい無駄な出費をした。暫く部屋中から焦げた臭いが無くならず困ってしまったのだ。
そう、エレンは究極の料理音痴だ。
今から料理を作るのは面倒くさいので軽食を探したリリー。バナナがある。これでいいか。
「お、パスタ作れそうじゃん。俺作ろうか?」
いつの間にかキッチンに入って来たリヒャルト。材料を手に取り作る気満々だ。
「作れるの?」
「俺兄弟いたからよく作ってたよ。簡単な物しか作れないけどね」
「僕の分もいいかな?」
「任せてよ。他に欲しい人はー?」
リリーとエレン以外は先程酒場で飲み食いしていたので要らないと言った。
テキパキと料理をしていくリヒャルトを期待の眼差しで見つめるリリー。
「リヒャルト兄弟何人?」
「四人兄弟で姉ちゃんの次が俺。下が二人。姉ちゃんは料理が下手で俺がよく作ってたんだ~」
ほおほおとリヒャルトの話を聞きながらこれから食べられるご飯の過程を見続けるリリー。
「エレンは頻繁にここに来ているから最近影と仲がいいのか」
ルークの言葉にエレンはニッコリと笑った。
「そうだよ。爺ともメルとも一緒に寝たことがあるし、ヴォルフガングは流石に大きすぎてソファに寝てもらったけど。ティアラが来た時は僕がソファに寝てたかな。皆の話が面白くて気付いたら仲良くなってたって感じかな」
「・・・え?ちょっと待ってください。それってつまり、基本的にリリーと一緒に同じベッドで寝ていたって事ですか?」
「うん。ベッドが一台しかないからね。流石にずっとソファだと疲れちゃうよ」
「「「・・・・・・。」」」
なんの悪びれもなくノエルの言葉を肯定したエレン。そんな彼をジト目で見る騎士達。
リヒャルトが出来上がったミートスパゲティが乗ったお皿をテーブルへ運んだ。
キラキラとした瞳でパスタを見つめたリリーはクルクルとフォークで巻き付け口に運んだ。
パァアッとあまりの美味しさに顔を輝かせリヒャルトを見上げたリリー。
「おいしい!すごい!おいしい!」
「ハハッそんなに喜んでくれるの嬉しいよ」
賞賛を受けたリヒャルトはリリーの頭を撫で笑顔を向けた。実家の兄弟達を思い出す。
「そんなに美味しいのか?」
ウィルフレッドが近付いてきた。
「食べる?」
コクンと頷いたウィルフレッドの為にフォークにパスタを巻き付け彼の口元へ運ぶ。パクッと口を開け咀嚼し、確かに美味いと呟いたウィルフレッド。
彼はリリーに顔を近付け彼女の口の周りに付いているケチャップを舌で舐めた。
「ついてるぞ」
!?!?!?
その行動に驚く騎士達。されたリリーはきょとん顔でウィルフレッドを見上げた。
「布で拭けばいいんじゃないかな?」
「こっちの方が早い」
笑顔でウィルフレッドを睨み付けるエレン。
対してウィルフレッドは全く気にしていない様子でエレンを見返した。
そんな二人を見たリヒャルトは勢いよくルークとノエルの元へ駆け寄り、三人でひそひそ話を始めた。
「なにあれ?エレンもウィルもリリーが好きって事?三角関係?」
「し、知らん。あんなウィルフレッド初めて見た」
「どちらにせよ何でしょうこの敗北感。土台にすら立てていないようで面白くないです」
チラッとリリーを見た三人は再び顔を向き合わせた。
「でもリリー本人は何とも思ってなさそうだよ?」
「だが確実にエレンが有利だろうな」
「一緒にいる時間が長すぎです・・・僕もここ通おうかな」
「エレン抱っこして?」
リリーの発言にハッとなった三人は慌てて顔を上げリリーを見た。いつの間にか食べ終えた二人は食器を片付ける為キッチン内に入っており、食器棚の上に置いてある菓子缶を取ろうと腕を伸ばしているリリー。
別にリリーを抱っこしなくてもあの位の高さなら余裕で手を伸ばせば届くと思ったエレンだったが、素直に自分を頼ってくれる事が嬉しくて笑顔でリリーを持ち上げようとした。だがウィルフレッドが簡単にその菓子缶を取ってしまった。
「どうしてエレンを頼る?俺の方が近かっただろう」
「・・・最近一緒に居る事が多いからつい?」
(((・・・おもしろくない・・・)))
それではなんだ。一緒に居るのが自分だったら真っ先に自分を頼ってくれるのか?
食器を片付け終えたエレンはひょいっとリリーを抱き上げそのままベッドに腰掛けた。
「エレン?」
「抱っこしてって言ったでしょ」
キュッとリリーを抱きしめ首筋に顔を埋めたエレン。
言ったけどそれはクッキー缶を取ろうとしただけでウィルフレッドが取ってくれたからもういいのだけど。
「皆でクッキー食べようと思って」
「・・・皆要らないって」
「「「食べる!」」」
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