【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第二章

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 貴族パーティー当日。
着飾ったリリーとエレンはオルレアン伯爵家の馬車の中、打ち合わせをしていた。ワックスで髪型を整え、お揃いの服を着た見目麗しいエレンが真剣な眼差しをリリーにぶつけている。

「僕の兄弟も参加する。仲がいい関係じゃないから酷い言葉をリリーに言うかもしれない。周りの人間も酷い対応を取ると思う。今夜は君にとって嫌な思いをさせてしまうと思うんだ。本当にごめんね」

「大丈夫」

「僕達は仲のいい恋人同士だから表情も柔らかくお願いしたいんだけど、どうかな」

頷いたリリー。
要は常にエレンのそばにいて、熱の篭った視線を彼にぶつければいい。大好きアピールをすればいいのだ。殺傷任務ではない演技だけで済む簡単な仕事。むしろエレンがちゃんと演技出来るか心配だ。いつも仮面の笑顔をつけているが分かる人には分かってしまう下手くそな笑顔。リリーはエレンと会って直ぐに見破ったというのに彼は大丈夫なのだろうか。

「エレンはちゃんと演技出来る?」

どうでもいい相手を好きだと周囲に思わせる事が出来るのだろうか。

「自信しかないよ」

本当かな・・・。

随分と余裕そうなエレンを見て内心心配するリリーだったが、エレンも同様にリリーを心配していた。演技をしたリリーを見た事がないエレン。仕事の時は常に無表情だから今回も無になってしまわないか気が気じゃないのだ。

だが彼は、リリーの演技力に驚かされる。


 会場に入った瞬間エレンに寄り添い熱い眼差しを彼に向けたリリー。その上目遣いを受けたエレンはドキッと胸が高鳴り、慌てて視線を逸らしてしまった。彼はこの視線を知っている。女が本気で好きな相手を見る眼差しだ。そんな視線を彼女が向けてくるなんて・・・。

ザワザワと周囲が騒ぎ始めた。

「オルレアン様素敵っ!」
「なんて美しい方なのかしら」
「隣にいる女性は誰なの!?」
「なんと美しいご令嬢だ」
「あのご令嬢も遊ばれて終わりよ」

興味、嫉妬、欲望等様々な視線を受けた二人。
エレンはそんな視線からリリーを守るべくエスコートをしている腕に力を込めた。気にしなくていいと言っているように。

従業員からお酒を受け取った二人は小さく乾杯をし見つめ合った。

「例の女は?」
「まだ居ないみたい」

ニコニコと寄り添ってお酒を飲む二人は本当に仲の良い恋人に見える。それに近付く二つの影。

「愚弟が、また女を連れてるのか」
「エレン様お久しぶりでごさいます」

「兄様・・・サーシャ様」

話しかけて来たのはオルレアン伯爵家長男のカーティス・オルレアンとその妻のサーシャ・オルレアン。妻のサーシャはわかり易く熱い視線をエレンにぶつけている。誰がどう見てもエレンの事が好きなのだろう。そんな妻とエレンを苦虫を噛み潰したような目付きで睨むカーティス。

エレンの兄のカーティスは見た目がエレンに似ているが何処かエレンに劣っている。顔はかっこいいのにエレンよりもキラキラが足りない。

やがてその二人から視線を受けたリリーは
誰もが見惚れる程のカーテシーをとった。驚いたエレンだったが落ち着いて兄のカーティスを見る。

「僕の恋人のリリーです」
「そんな!」

酷く驚いたのは妻のサーシャだった。彼女はキッと鋭い視線でリリーを見た。リリーに興味を抱いたのはカーティスだった。

「こいつが自ら恋人と紹介したのは初めてだな」

エレンの傍に侍る令嬢は今迄に何人もいたが、エレン自らが恋人とし紹介してきたのは今回が初めてだ。そのせいで動揺するサーシャ夫人が口を開いた。

「失礼ですが爵位をお伺いしても?」
「・・・彼女は平民なので爵位はありません」

答えたのはエレンだった。
貴族であると嘘を付いたとて直ぐにバレてしまう。身分を偽る事は罪に問われてしまう。だからエレンはリリーが平民であると伝えるしかないのだ。

彼女が平民だと知った瞬間、カーティスとサーシャは顔を歪めた。カーティスは嫌悪感を滲み出させ、サーシャは皮肉な笑みを浮かべた。

「下賎な血を産み出すんじゃないぞ」
「まあ!恐ろしいですわ。先の短い二人の恋仲を邪魔するのも心苦しいですが、身分が違いすぎますの。貴女も恋情が薄い内に身を引いた方が宜しくてよ」

二人の言葉を皮切りに周囲の貴族達がリリーを侮蔑し始めた。明らかな侮辱に切歯扼腕をしたエレンはその後冷たい眼差しをカーティスとサーシャに向けた。

「お兄様がいて下さるお陰で三男である僕は自由恋愛を楽しませて頂いています。こうして最愛の彼女と出逢えたのもお兄様のお陰です。彼女のそばにいられるのであればいつ勘当されても構いません」

笑顔で話すエレンの言葉を聞いた全員が驚愕した。そこにはリリーも含まれる。いくら演技だからといっても勘当は言い過ぎだ。元貴族が平民として暮らす事がどれだけ大変かエレンは分かっていない。リリーはエレンを守るように彼の前に立った。

「私が彼を好きになってしまったばかりにご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ございません。ですが私達は愛し合っております。今はどうかあたたかくお見守り下さい」

「下賎な平民如きが貴族の家族間に口を挟むな。同じ空気を吸うだけでも吐き気がする。さっさと失せろ」

「かしこまりました。失礼致します。エレン」

リリーはエレンを連れてカーティス夫妻からゆっくりと離れた。エレンは眉間に皺を寄せリリーに謝る。

「ごめん。リリー、本当にごめんね」

「勘当は言い過ぎ」

「・・・いいんだ。あんな家に未練なんか無いよ」

オルレアン伯爵家は一夫二妻である。
三人兄弟で上二人とエレンは異母兄弟だ。
兄弟は似ているがエレンが一番整った顔をしていた。末っ子でもあり使用人等周囲から可愛がられてきたエレンを良く思わない上の兄弟達は幼い頃からエレンを虐めていた。

顔だけしか取り柄のない男。この家に居られるのは顔だけで何の才能もない虫けら以下の男だと常に罵られてきた。生き残る為に頭を働かせ周囲を味方につけ何とか大人になったのだ。

目の前で虐められても両親は見向きもしない。寧ろ母親は父親を一方的に好いており、父親の機嫌取りに忙しかった。父親を熱心に誘惑する母親を見てきたエレンは好意を抱いてくる女性が母親と重なり嫌悪として見えてしまう。

あんな家族に嫁ぐ人が可哀想だ。
いっそあの家から離れて自由に暮らしたい。
そう思い寮がある騎士へと道を進めた。
エレンに興味の無い両親はあっさりと認めた。寧ろ早く家から出て行けと言わんばかりに。

エレンが女遊びを始めても両親は何も言って来ない。エレンは愛情を求めていたのかもしれない。本当の自分を見てくれる人を。結局様々な女性と一緒にいても母親と重なりダメだった。そんな彼の救いが騎士団長のジョンと仲間の騎士達だった。彼らはエレン自身を見てくれる。ダメ出しをされ本気で語り合い笑い合えるエレンの唯一の救いなのだ。いっそ彼らと家族になれたらいいのにと思える程に。


「エグかったね。二人とも大丈夫?」

遠巻きに陰口を言われていた二人に話しかけたのはここに居るはずのないリヒャルトだった。彼は騎士服を着用し壁際に立っている。

「二人が心配だったから警備の仕事代わってもらった。さっきの見てたけどやっぱ貴族怖いわ。リリー大丈夫?」

大丈夫だと頷いたリリー。リヒャルトが現れたことによりエレンの心配が増えた。いくら騎士と言えどリヒャルトも平民出身だ。しかも顔が良いから酒に酔った貴族が何をするか分からない。

「リヒャルトは外の警備の方がいいんじゃないかな。ここだと貴族ばかりだから何が起きるか分からないよ」

「平気平気。影の訓練のお陰で存在感消してるし、直ぐにどっか隠れるよ」

確かに普段目立つリヒャルトを話かけられるまで気づかなかったと思ったエレン。それでも心配が拭えない。そんなエレンの肩に手を置き慰める様に微笑むリヒャルトが彼の肩を叩きながらリリーを見つめた。

「俺は大丈夫だから。今日は二人が頑張るんでしょ。エレンが話し合いとかで離れなきゃいけない時は俺のとこにおいでよ。何人かリリーの事狙ってる奴がいるから」

確かに先程からリリーに視線をぶつけている者達がいる。女性も男性も。女性は嫉妬から何か仕掛けて来そうな雰囲気が出ており、男性は好意的な眼差しを向けている。

(むかつくなあ・・・)

エレンはきゅっとリリーの手を握った。

ダンスの曲が流れ始めた。
貴族の上流階級達が踊りだし、その中にはルークとウィルフレッドの姿がある。

「そう言えばリリーは踊れるの?」
「うん」
「それじゃあ・・・美しいお嬢様、僕と一緒に踊って頂けませんか」

リリーの手の甲にキスをしたエレン。

「喜んで」

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