【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

文字の大きさ
上 下
28 / 89
第二章

28

しおりを挟む


 仕事の話をし終えたリリーとシルヴィはお酒を頼み騎士達と乾杯をした。リリーはきょろきょろと他の客達を見回し例の男がいないことを確認すると少しだけ肩を落とし酒を飲んだ。

「僕さあ、リヒャルトとキャラ被りしてると思うんだよね」

突然のシルヴィの発言に困惑するリヒャルト。

「どこが?シルヴィは可愛いけど俺は違くない?」

シルヴィは完全なる可愛い男子だ。
大きい瞳に小柄な見た目は初対面での時美少女と間違えてしまった程の彼と、どこがキャラ被りなのかと疑問を抱く。

「小悪魔系チャラ男じゃん?僕チャラそうとは思われないけど小悪魔系が被ってる」

「はあ~?どっちも合ってなくない?全然チャラくないのに何で皆そう思うわけ?」

「んー、ピアスしてるからかな」

リヒャルトは右耳に一個、左耳に三個耳たぶと軟骨に付けている。その見た目は顔の良さも相まって遊び人と捉える人もいるだろう。シルヴィが彼を小悪魔系と言ったのは瞳が大きく、かっこいい顔立ちをしているのだが可愛らしくもあり生意気そうな雰囲気を持っているからである。

全くそんな自覚がないリヒャルトは不服そうに唇を尖らせた。

「ほんと見た目で損してる!」

ふんっと拗ねて酒を飲むリヒャルト。
そんな彼を不思議そうに見るリリーは何故損をしてると言うのか疑問だった。

いい顔で生まれたのに損だなんて、羨ましいのに。


 リヒャルトは過去に初めて自分から話しかけた女性がいた。華やかとは離れた地味な女性だったが惹かれるものがあり、仲良くなりたいと思ったのにそんな彼女はリヒャルトの見た目がいいという理由で彼を拒んだ。その時の彼女はこう言っていた。「遊ばれて終わるのが目に見えている」と。そんなことはしないと言ってもその女性は聞いてくれなかった。

過去を思い出しグッと眉間に皺を寄せたリヒャルト。

「リリーは例の男見つけたらどうやってアピールするの?」

エレンがリリーに質問をした。
彼はリリーから男に言い寄る姿が想像出来ないのだ。彼から見たリリーは野良猫気質で自分から行くタイプとは思えない。いったいどうやって男を口説くのか気になったエレン。

リリーはごそごそと鞄から一冊の本を取り出し表紙を皆に見せた。

“気になる男を落とす方法”

表紙いっぱいに書かれたタイトルを見て騎士達はパチパチと瞬きをし、リヒャルトが笑いを吹き出した。

「ぷはっ!なにそれ見して」

リリーから男の攻略本を借りたリヒャルトはパラパラと本を捲り内容を見る。彼の左右に座っているエレンとノエルも本を覗いた。

「君は影の任務でこういうのは得意じゃないのか?」

てっきり影の仕事で男を口説く等簡単にやってのけてしまうのだろうと思い込んでいたウィルフレッド。きょとん顔でリリーを見ている。

「リリーさん胸が小さいからお色気担当は任されなかったんだよね」

お色気担当は主に妖艶な体付きをしている影に割り振られ、リリーはそれ等の任務から外されていた。胸が小さいのが好みのターゲットを相手にした事はあったがそれは極わずかにしかない。しかも少女趣味の男だったので自分から口説く必要が無かったのだ。

その為リリーは昨日会った男を口説くためにサブタイトルにあった“男の口説き方”という本を買い勉強をした。

リリーはリヒャルトから本を返してもらい、ページを捲りある文の一行を指さし皆に見せた。そこには“自分からアピールすべし!さり気なく出来れば尚良し!”と書かれている。

「最初にかける言葉決まってるの。鏡の前で練習した」

少しドヤ顔で話すリリー。
やる気の良さにエレンは驚いた。

本気・・・なのかな?

「へぇ。何て言うの?ルークで実践してもらってもいいかな?」

エレンに言われ、たしかに練習相手がいた方が改善点が見つかるかもと思ったリリー。

隣に座るルークに少し近付き、ちょんちょんと彼の服を掴み軽く覗き込む仕草で顔を近付け、ふわっと優しく微笑んだ。

「会いたかった」

まるで彼女の背後に花が散らばるかのような、綺麗で可愛らしい笑顔に騎士達は瞠目し、練習相手のルークがしどろもどろ慌てる。

「き、貴様が一ヶ月以上連絡を取らなかったのだろう!呼べばすぐに行ったものの・・・」

「あはは!ルークに言ってないし、何慌ててんの」

たかが練習相手に何をそんなに慌てているのかとゲラゲラ笑うシルヴィ。そんな彼の言葉にルークは顔を真っ赤にして酒を一気に飲み干した。影の訓練が一ヶ月間も空いたことを彼は気にしていたのだ。

ちょんちょん。

リリーが再びルークの服を掴んだ。
横目で何だとリリーを見る。

「どうだった?」

「・・・いきなり会いたかったは早急だ。すぐヤれる女だと思われるぞ」

歯切れ悪く答えたルーク。
そうか。と考え込んでしまったリリー。
今の言葉がリリーにとってベストだったのに考え直さなければならないと攻略本を捲りヒントを探す。見かねたエレンがアドヴァイスをくれた。

「普通に偶然だね?でいいんじゃないかな?そもそも、本当にその男でいいの?」

「好きって言ってくれたから」

ナターシャがいた時はずっと言ってくれたその言葉がすごく嬉しくて、ナターシャにも言えることが嬉しい。もう一度心からそう言える相手がいたらどんなに幸せだろう。

「・・・それだけで?」

エレンには理解出来なかった。
好きと言われただけって、そんな簡単な言葉誰にでも言えるじゃないか。

「僕が好きって言ったら同じように探し求めてくれるの?」

瞳を瞬きさせるリリー。
冗談を言っているのは分かりきっているし、そんなの答えは決まっている。

「貴方達は好きになるなと前に言われたから」

それは過去裏カジノの任務でのやり取りの事。ルークが言った言葉だ。リリーはそれだけ言うとトイレに行ってしまった。

ズキッ 誰かの心に痛みが走った。

リリーがいなくなりイケメンしかいないボックス席にて、シルヴィが足を組み手を頭の後ろで組み直した。

「君達見てると昔の僕を思い出すな~。今はリリーさんで頭いっぱいなんでしょ?その内落ち着くよ・・・うん。たぶん」

自分達よりも年下な男の子の余裕な言葉と態度にノエルは戸惑った。

「シルヴィはリリーに拾われたって言ってたよね。最初から慕ってたんですか?」

白髪に蜂蜜色のクリクリとした瞳を持つ美青年が同じ系統の顔付きをしているシルヴィに話しかけた。

「全っ然!最初は僕の外見目当てで拾われたと思い込んでたから。貴族相手に戻るよりはあの人のとこに居た方が安全だったから超猫被って接してたよ。でも全然笑ってくれないし、拾われたのも偽善ぶってんじゃねえよって思って本性晒そうかと色々試してたな~」

「そ、そうだったんだ」

「でも全然僕に手出してこないし、裏切られたりしたら流石に本性出すかなって思って金品盗んだんだよ?でもそれも何のお咎めもなくいつの間にか元の場所に戻ってたし、本番無しの睡姦しても全然起きないの。あんだけめちゃくちゃイかせて証拠残しても次の日の朝ケロッとしてるし何なの?って感じ。」

「す、睡姦て犯罪じゃ・・・」

ノエルの戸惑いにケロッとした表情のシルヴィは話を続ける。

「でもある日妹さんと話してる時のリリーさんを見ちゃったらさ、笑顔とか優しさとか、人となりが一気に僕の中に流れ込んで来て、もっと色んなリリーさんが見たいって思い始めちゃったらどんどん沼に嵌っちゃって、今ではその沼に気持ちよく浸かってるって感じ。たぶん他の影にも何人か同じ考えの奴はいると思うし、君達の気持ちわかるよ。リリー沼第一段階だね」

「・・・その沼って抜け出せるの?」

戸惑うノエルに対し、シルヴィは綺麗な笑顔を向けた。

「嫌いになればいい。なれたらね」

シルヴィだって離れようとした事がある。
それでもチラつく彼女の存在。
離れてモヤモヤするぐらいなら一緒にいて沼に浸かっている方が心地良いと思う時が彼らにも来るだろうと悟ったシルヴィだった。



しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...