19 / 89
19
しおりを挟むー翌日ー
順調に進んだ一行は午前中にジャングルを抜けた。王都の出入口付近で先頭を進んでいたリリーが立ち止まりウィルフレッドを振り返る。
「仕事終わり?」
「ああ、ここまででいい。これが報酬だ」
どこに隠し持っていたのか、ウィルフレッドは荷物の中から拳二個分程の大きさをした麻袋をリリーに渡した。
中身を確認したリリーは驚き瞠目している。
麻袋の中身、それは子爵家から盗った金貨やサファイヤ等の宝石がいくつも入っていた。
「おい、これはどうしたんだ?」
どこか焦りながらルークがウィルフレッドに問うた。他の騎士達もその中身を覗き見て驚いている。
「郷に入りては郷に従えという言葉がある」
真面目な彼がとった意外な行動に驚きを隠せないでいる仲間達。
今まで固まっていたリリーだったが真っ直ぐ彼を見つめた。
「・・・全部いいの?」
「そうだ。足りないか?」
まさか。足りるに決まっている。
ただ彼らを案内しただけなのだから金貨二枚でも十分なのに・・・。
リリーは思いがけない豪華なボーナスを貰い
ふにゃっと笑った。
太陽の光がピンクアメジストの髪を照らしオーロラのように輝いている。
目元が緩み口角があがったその笑顔はいつもの無表情が嘘のように可愛らしかった。
「「「・・・・・・・・・。」」」
その笑顔を見てしまった騎士達は石像のように固まってしまう。
ちゅっ。
リリーは笑顔のまま、その嬉しさからウィルフレッドの頬にキスをし姿を消した。
キスをされたウィルフレッドも他の騎士達も今は居ないリリーがいた場所を幽霊でも見ているかのように立ち尽くしている。
「・・・今のは、幻か?」
暫く経ったあと、ウィルフレッドが沈黙を破った。その言葉にやっと我に返った騎士達は首を傾げた。
さっきのは本当に幻覚だったのでは?
だってあのリリーが笑うなんて有り得ないもの。
***
騎士団長ジョン・アーノルドの執務室。
「影の移動勉強になったでしょ。ちゃんとついていけた?」
あの後騎士達五人は業務報告の為ジョンの元へ直行した。いつも身なりが整っている彼らの汚らしくも美しい容姿を見てニコニコしているジョン。てっきり追いつけなくて辛かったとか愚痴を言うかと思っていたのに心ここに在らずな彼らの様子に首を傾げた。
「どうしたの?」
「・・・あの女が笑ったんだ」
「あの女って誰?」
「・・・リリー」
ルークの言葉にきょとん顔のジョン。
「いつも通りじゃない?」
ジョンの言葉に今度は騎士五人がきょとん顔をしている。彼らにとって初めて見た彼女の笑顔。その笑顔をよく知っているジョンは何をそんなに動揺しているのか不思議に思った。
「・・・あ!もしかしてリリーの笑顔初めて見たの?」
コクンと頷く騎士達。
「そういう事かあ。それって任務外の時?」
任務外?確かにあの時は依頼した仕事が終わった後だったような・・・。
コクンと再び頷く騎士達。
「あー!なるほどね。彼女変に真面目だから仕事の時は感情を出さないようにしてるんだよ。もちろん演技が必要な時はちゃんとするよ?・・・そうだ、今度から訓練開始時間より少し前に行ってみたら?面白いものが見れるかもね」
いつも穏やかな笑顔のジョンが急に楽しそうにニヤニヤし始めた。
「初めてのリリーの笑顔どうだった?可愛かったでしょ?花がほころぶ感じ」
ジョンの言葉にずっと脳裏に焼き付いていたリリーの笑顔が再びフラッシュバックされる。いつも無表情だったからかあの笑顔が頭から離れない。
「まあでも君達リリーに興味無いって言ってたしなー。女の笑顔なんて見慣れてるだろうしなんて事ないか・・・・・・まだ早いけど業務報告終えたら今日はゆっくり休みなよ。夜になったら久しぶりに女の温もりでも感じてきなさい」
可愛い部下が娼婦を抱けるようにお金を渡したジョン。彼らは歯切れ悪く業務報告をし終え、騎士寮へ帰宅した。
ー夜ー
寮に戻ったエレンは荷物を片付け風呂に入り、夕方までふかふかのベッドで寝た。起きた彼は窓から見える夕焼け空をぼーっと見つめている。
頭の中に浮かぶのはリリーの笑顔。
寝れば治ると思ったのに寝て起きても彼女の笑顔が忘れられない。
笑わないって思っていたのに・・・。
このままじゃ今日一日彼女の事を考えてしまうのではと思い、エレンは騎士四人全員に声をかけ飲みに誘った。
誘いに乗ったのはウィルフレッドとリヒャルトのみ。ノエルは自室に居ると言いルークは実家の公爵家に用があると出かけてしまった。
三人で夜の酒場へやって来た。
乾杯し軽く飲むが三人とも口数が少ない。上の空で内容のない話をゆっくりとしている。
少しも時間が経たないうちに別客の女性達が話しかけてきた。元気の良い彼女達はまだ一緒に飲む承諾をしていないのに各々隣に座り盛り上げようとしてくれている。だが騎士達の反応がイマイチだ。焦り出す女性達の必死な空気間が漂い始めた中、突然ノエルが現れた。
美青年が現れたことに黄色い声を上げる女性陣。
「ノエル、どうしたの?・・・あ、ちょっと移動して貰ってもいいかな?」
「はい!どうぞどうぞ!キャー!」
女性に挟まれていたエレンが通路側に居る女性に対しノエルに席を譲ってくれと頼んだ。話しかけられた女性は嬉しそうに悲鳴を上げノエルに席を譲ると今度は彼の隣へ座った。
椅子に座った途端頭を抱えだしたノエルの悩ましい姿を見た仲間達は彼を心配した。
「何があった」
ウィルフレッドの言葉に勢いよく顔を上げたノエル。
「笑顔が・・・忘れられないんです」
「「「・・・・・・。」」」
同じ悩みを持つ彼らは何も言えなくなった。
自分達も同じことを考えていて気分転換のためにここに来たのだ。
「えー!羨ましい!そんなお相手がいるんですか~?」
ノエルに席を譲ってくれた女性が彼の裾を軽く引っ張りながら話に乗ってきた。他の女性陣も話題に乗っかる。
「笑顔が忘れられないってきゅんとしたって事ですよね?い~な~」
「ときめいたんだね~笑」
リリーにきゅんとした?ときめいた?
そんなはず・・・
今度は女性客達の言葉が頭から離れなくなった。
「私の笑顔はどうですか?」
エレンの隣に座っている女性が上目遣いで可愛らしい笑顔を彼に向けた。
「可愛いよ。ときめいちゃった」
「キャー!忘れないでくださいね!」
エレンの言葉にテンションが上がった女性は満面の笑みで照れながら彼の腕をぎゅっと掴み離さない。
(・・・違う)
エレンは空いてる手で酒をクイッと飲んだ。
“訓練開始時間より前に行ってみたら?面白いものが見れるかもね”
ふいにジョンの言葉を思い出した。
またあの笑顔を見られるだろうか・・・。
次の訓練はいつだろうか、今度は少し早く行ってみよう。
興味が沸いたのに次の訓練が一ヶ月も先だなんて、この時は思いもよらなかった。
35
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる