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 その後二日かけて目的の領地へ辿り着いた一行。街の悲惨な状況に騎士達は顔を歪めた。

街全体がスラム化している。
殆どの領民が痩せ細り見るも無惨だ。

領主が居る子爵家に着くと街の状況が嘘かの様な煌びやかな外見に吐き気がした。

さぞ私服を肥しているのだろう。
領主がどれ程クズなのか見なくても分かる。

「もうじき派遣された使節団が来る。お前達は使用人に紛れ子爵家の領主を生け捕りにしろ。金髪の醜い豚がターゲットだ」

影のリーダー、ジャックが命じるとシルヴィが騎士達に子爵家使用人の制服を渡した。
詳細な説明も無しに姿を消した影達。
騎士達は使用人に紛れ子爵家へと侵入する。



 堂々と使用人として廊下を歩くリヒャルトだが、すれ違った他の使用人を見て気味悪がった。

目が死んでいる・・・。

彼らはリヒャルトという初めて会う使用人にも関わらず誰も声を掛けてこない。まるで生きていない人形の様な無気力さにここの人間がどの様な生活を送っているのかおぞましく感じた。

「ピンク髪は初めて見たぞえ。どれ、顔を見せてみい」

耳障りなダミ声が背後から聞こえた。
リヒャルトは人懐こい笑顔を作りヘラヘラとした態度で接する。

「新しく雇われた者です。今日が初日なもんで・・・主人様ですか?」

リヒャルトの顔を見た男はニタァッと嫌な笑顔を浮かべた。

「ワシがこの地の領主様だ。お前顔が良いのお!ついて来い」

ターゲットを見つけたリヒャルトは笑顔の仮面をつけたまま金髪で太っていて似合わない宝石を身にまとい、ドスドスと音を立て重そうな足取りの領主に着いていく。

平民出身の彼が貴族社会が蔓延る騎士の中でぞんざいに扱われないよう身につけたごますりを使い豚男を上機嫌にさせると、ある部屋の中へ迎えられた。

その部屋は随分と豪華な寝室だった。
リヒャルトは異様な光景を見て瞠目する。

整った顔立ちをした若い男三人の使用人が涙を流しながら体を交合わせていたのだ。
豚男の趣味に嫌悪感が込上げる。

カチャカチャと音がしたと思ったら豚男がズボンをおろしガチガチに勃起したポークピッツを見せつけた。

「さあ、舐めろ」

「・・・嫌っすよ。俺男趣味じゃない」

取り繕う素振りを見せなくなったリヒャルトに豚男が興奮した。

「ワシに逆らう男がいるなぞ滑稽だ!その態度、快楽で従順にさせよう。貴様の様な顔だけが良い弱い生物などワシを悦ばせる他に生きる価値などない!!」


ブフウゥッ!!

拳に力を込めて思いっきり豚男の頬を殴り飛ばしたリヒャルト。彼にとって言ってはいけない言葉を豚男は言ってしまったのだ。

“見た目だけ”

見た目は変えられない。
何のツテもない平民が上位騎士になるのは有り得ないと言われた事がある。努力して剣の腕が強くても上が認めてくれなければのし上がれない。

そんな中出会ったのが騎士団長のジョンだ。
彼は身分関係なく強い人間を騎士に迎えた。
リヒャルト以外にも数人平民出身の騎士がいるが入団当初はリヒャルトを含め貴族達から差別を受けていた。特にリヒャルトは平民出身の中でも群を抜いて顔が良いため、団長の愛人とも言われる様になってしまっていた。

血を滲む努力をし続け今では強くなったリヒャルトに文句を言ってくる者は減った。

だから久しぶりに面と向かって直接言われた心の無い言葉に苛立ちが隠せない。

殴り飛ばされた豚男は動揺しフゴフゴと鼻息を荒くしている。

リヒャルトは何が起きたか分からず混乱している使用人の男達に優しく話しかけた。

「もうそんな事しなくていいよ。こんな糞野郎は牢屋にぶち込むから」

そんなリヒャルトの言葉を聞いた豚男が慌てふためいた。

「ままま待ってくれ!金なら幾らでも渡す!ほら、こここれを見よ!!」

仕掛け扉のスイッチを押した豚男。
すると、本棚が動き出し新しい部屋が現れた。
中を覗くと山積みにされた金銀財宝が置かれていた。

こんなに金があるなら・・・この金でどれだけの領民が助かると思っているんだ。

ギロリッ

「ひぃっ!!す、好きなだけ持って言ってくれ」

「そりゃどーも」

リヒャルトではない、ジャックの声が響いた。
この場には居なかった覆面を被った影達が一斉に瞬時に現れた。突然の出来事に驚愕する豚男。

騒ぎを聞きつけた他の騎士達も部屋へ入って来た。

「リヒャルト無事か?」
「あ・・・うん。」

豚男を殴った拳が少し痛む程度で何ともない。
心配してくれたウィルフレッドに作り笑顔を向けたリヒャルト。そんな彼をウィルフレッドは無言で見続けた。

リリーは山積みにされた金貨を少し手に取り強要されていた使用人にそれぞれ渡した。戸惑う使用人達は覆面を被ったリリーと渡された金貨を交互に見て焦っている。

これは貴方達の物だ。

リリーは使用人が手の平を広げて持っている金貨を彼らの手ごと握った。

彼女の思いが伝わったのか慌ててお礼を言う使用人達。そんな彼らを見て豚男が叫んだ。

「そいつらはワシの物だ!勝手な真似はするな!!お前達、仕置するぞ!!」

仕置というワードに怯える使用人達。
リヒャルトがもう一発殴ろうと近づいたが、それよりも先に豚男の服が切り刻まれた。ワイヤーが裸になった彼を縛り上空へ持ち上げる。ワイヤーが体の肉へくい込み、その姿はまさにタコ糸で巻かれたチャーシューの様だ。

「あははは!ぶっさ!まじで豚肉じゃん!・・・ああ、でもダメだ。こんな腐った豚肉食えたもんじゃないね」

「ひぃいいっ!お許しぐだざい゛!!」


覆面を被った小柄な影が豚男に近づき小刃をチラつかせた。シルヴィだ。

領主を捕らえたので、任務が終わった。
仕事が終わり肩の荷がおりた騎士達は安堵のため息を吐いた。

だが騎士達は行きの姿と異なる影達を見て不思議がった。彼らの腰にある袋だ。先程までは無かった筈なのに皆三袋程ぶら下げている。リリーなんかは腰周り全体に袋がぶら下がっている。

「それはなんだ?」

ルークが聞くとジャックが淡々と答えた。

「俺達影は表の人間がやりたくない仕事をこなす。人道的では無いこと含めてな。給料だけじゃ割に合わないんだよ。だからここにある売れる物を頂いた。それだけだ。悪党からしか物盗らねぇから安心しな」

そう言っているジャックのドス黒いオーラこそ悪党に見えた騎士達だった。

騎士がそんな事をしたら許されない。
だが騎士達は反論出来なかった。
これが影のルールならば仕方がないのかもしれない。悪党からしか奪わないという言葉を信じよう。

「この金は盗らない。お前達で好きにしろ。俺は使節団の長と話をしたら帰る。他の影も任務や休暇で忙しい。だから帰りはお前ら自力で帰るんだ。わかったな?」

“ 散!”

ジャックを残した影達全員が姿を消した。リリーもシルヴィももう居ない。残された騎士達は宙吊りにされた豚男が喚く声が響く中、呆気にとられていた。

「・・・どうしよっか」

エレンの問いにリヒャルトは仲間の騎士達を見回した。

「皆に頼みがあるんだ。俺、この金を領民に配りたい。食料も・・・渡せる物は全部渡したい!」



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