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しおりを挟む騎士達五人は先日団長のジョンから渡された紙に記載された場所へたどり着いた。そこは王宮の裏庭を進んだ先にある木々が生い茂る場所。苔を生やした地下に繋がる階段がぽつんとあり異様な雰囲気を放つ。
不気味な階段を下り松明を灯された洞窟を進んだ先に大きな扉があった。
ウィルフレッドがノックをすると扉が軋み悲鳴を上げながら開いていく。洞窟の暗がりから一転、眩い光が騎士達の目を細めさせた。
扉が完全に開き、目が慣れると広々とした道場の様な部屋に数多の覆面を着けた影達が一斉に並び騎士達に殺気を放っていた。
一瞬息を飲む騎士達。彼らは怯んだ様子を見せることなく堂々と立つ。
一人のデカい覆面の男が騎士達の前に現れ覇気を放つ。この男は強い。騎士全員が思った。
覇気を放つ男が覆面を取った。一瞬団長が悪ふざけをしているかと思う程そっくりな影のリーダーであるジャックが、ニヒルな笑みを浮かべて騎士達に近付く。
「全員覆面を取れ!」
覆面勢が一斉にその姿を露にした。
子供、女、男、老人、男か女かわからない者等様々な人種がいて瞠目する騎士達。
騎士は成人した男しかいない。
だからこの異様な光景に驚きを隠せない。
「皆話した通りだ。今日からこいつらの面倒を見る。お前らはこの場所を知ったからには多言するな。喋ったら殺す。いいな?」
ジャックの圧倒的な気迫に頷く事しか出来ない騎士達。ビリビリと肌に当たる空気が痛い。
「お前達の面倒はリリーが見る。リリーの補佐はシルヴィ、お前だ。他の者も請け負った仕事が無い限りリリーの協力要請に従う事。わかったな」
影達は一斉に片膝を立たせ跪いた。一糸乱れぬ動き、統制の取れた組織に感心せざるを得ない騎士達は固唾を呑む事しか出来ずジャックの指示に従う。
「ジョンの頼みだから特別扱いしてやるよ。ま、精々足掻いてついてきな」
ジャックなりの励ましの言葉だが、彼を知らない騎士達には皮肉に聞こえただろう。
影達は散らばった。任務へ出ていった者、訓練をする者、任務の作戦を練る者。もう騎士達の存在が無い物といった様に誰も彼らに関心を持たない。
そんな中、リリーと一緒に一人の美少女が近付いて来た。ノエルより歳下に見えるその女の子は、青みがかった銀色の髪を顎下辺りで揃えている。片方の髪を耳にかけ、クリクリとした大きい水色の瞳を輝かせ、長い睫毛が遠くからでも際立っている美少女だ。
「僕がシルヴィ。リリーさんの為に仕方なく君達の面倒を見てあげる。・・・君達顔だけは良さそうだけど、それしか取り柄無さそうだね」
何とも生意気な言葉と態度に騎士達の額に青筋が浮かんだ。それでも大人の対応をしようとノエルが頑張る。
「僕はノエル・スフォルツァだよ。えと、君は女の子だよね?」
「あ゛?なんだチビ助」
ビキィッとノエルの額に青筋が増えた。
シルヴィはリリーよりも若干背が高い位でノエルよりも身長が低い。だからこんな子供相手にチビ助と呼ばれる筋合いはないのだ。だがノエルの言葉はシルヴィの癇に障ったのだろう。シルヴィの女の子にしては低い声がより低くなった。
「言っとくけど僕男。はい、証拠」
「「「!?」」」
ボロンと下半身を露にしたシルヴィ。勃起していないへにょんとした男根はそれでも大きく、まさに男だと体が語っていた。
「更にサービス。はい、割れた腹筋。僕良い男でしょ」
シルヴィは更に上半身を露出し、六つに割れた腹筋を晒した。顔も名前も妖精の様なのに身体は憎たらしい程男だった。瞠目し固まってしまった見目麗しい騎士達。こんなやり取りを他の暇な影達はニヤニヤしながら傍観している。
「君達の名前と顔は影全員が覚えてるから自己紹介はしなくていいよ。先ずは君達の戦力を見てあげるね。君達の慣れた剣でリリーさんと戦って貰う。プライドズタズタにされて悔しがる君達の顔が早く見たいよ」
シルヴィが騎士達に剣の形をした木刀を渡した。
「真剣でやると君達死んじゃうから木刀ね。あそこに一列に並んで」
騎士達が大人しくシルヴィに従う。
リリーは下ろしていた髪を高い位置にひとつに結い上げた。白く細い項が露になりそれに興奮するのはシルヴィのみ。彼は騎士達に接する時と百八十度態度を変え、リリーの事をベタ褒めしている。
「リリーさんポニーテール可愛い!項綺麗!興奮するー!舐めたーい!」
(なんだこいつ)
白けた顔をしてシルヴィを見る騎士達。
確かにリリーの姿は可愛いらしい。
とても戦える人に見えない。
リリーは騎士達の前に立ち木刀を構えた。
「じゃあ先ずはルークね。死ぬ気で攻撃して」
指名されたルークが前に出るが、彼は木刀を構えようとしない。
「私は女を嬲る趣味はない」
呆れた物言いに溜息を吐いたシルヴィ。
「あのさあ、敵が女の時だってあるんだよ?そんなこと言ってたら君、死ぬから。リリーさんお願いしまーす」
ガンッ!!
「「「ッーー!?」」」
一瞬でルークが吹き飛んだ。
何が起きたのか理解出来ない騎士達。吹き飛ばされたルーク本人も状況が掴めず瞳をパチパチさせている。吹き飛ばされたと理解出来た時には攻撃を食らったであろう腹の辺りがズキズキと痛み出した。
「今の見えた人ー?」
シルヴィの問に騎士達は驚愕しながら顔を横に振った。
「リリーさんが一発蹴りを入れたの」
まさか・・・。
信じられないと言った表情でリリーを見る騎士達。そんな彼女は飛んだルークを一瞥し騎士達を見た。
「次ノエル」
ガンッ!!
「リヒャルト」
ドンッ!!
「エレン」
ドシッ!!
「ウィルフレッド」
ドシャッ!!
全員がリリーの攻撃を防ぐ事が出来ず床へ転がった。速すぎて見えなかった衝撃にプライドがどうとか、悔しいとかそんな感情すら起こらずただ唖然としてしまう。
「あははは!あっけなー。誰も交わってないじゃん」
訂正しよう。シルヴィの態度だけは許せん。
騎士達が忘れていた悔しい気持ちを取り戻した。
一方リリーはノートに書き留めている。
このノートはリリーが用意をした彼らの記録だ。その後リリーはメモに何かを書いてシルヴィに渡した。受け取ったシルヴィは意外なことでも書いてあったのだろうか驚きながら手を顎に置いた。
「へぇーちょっと意外。見込みあるって事かな?・・・ヴォルフガング!ロビン!爺!ティアラ!メル!ちょっとこっち来てー」
シルヴィの呼び掛けに呼ばれた影達が一瞬で現れた。
二メートルはあるゴリマッチョ。
ヴォルフガング。
「弱そうだな」
筋肉質な二の腕を晒した色気ダダ漏れの男。
ロビン。
「顔が良い男は嫌いじゃないけどね」
老いぼれおじいちゃん。
爺。
「ふぉっふぉっふぉ。若いっていいのぉ」
ボンッキュッボンの妖艶な美女。
ティアラ。
「あらぁ、お姉さんが食べてあげる」
可愛らしい少年。
メル。
「貴族うざい。貴族うざい。貴族うざい」
キャラが濃い影の一員が集まった。
シルヴィが説明をする。
「今から組手をしてもらうね。この子達に合わせてゆっくり動いてあげて。殺さないでね?四肢も折っちゃダメ」
ヴォルフガングvsウィルフレッド
ロビンvsエレン
爺vsリヒャルト
ティアラvsノエル
メルvsルーク
この組み合わせで組手を行う。これに不満を抱いたのはリヒャルトとルークだ。
「なんで俺の相手お爺ちゃんなの?ヨボヨボ過ぎて攻撃出来ないんだけど!?」
「私もだ!子供なんぞ相手に出来るか!」
シルヴィが何かを言いかける前に、爺がリヒャルトを背負い投げた。倒れたリヒャルトの上にゆっくりと座り欠伸をかく爺。
「ひ弱いのお」
一瞬の行動に驚く騎士達。先程から驚くことしか出来ず、何なんだこの組織はと顔を引き攣らせる。
「影はね適者生存なの。弱いやつは死んでる。だからここには強いやつしかいないから歳とか性別なんて関係ないよ。わかったらさっさと始めちゃって」
組手が始まった。影達は指示通り騎士達のレベルに合わせて攻撃をしている。それでも騎士達は一方的にやられる側だ。
リヒャルト、ノエル、ルークの三人は相手が非力そうであった為最初こそ攻撃するのに抵抗をしていたが、今となっては一発も攻撃を当てることが出来ずに苦戦している。
五人の攻防を観戦しているリリーとシルヴィ。リリーは黙々とノートに書き留め、シルヴィはリリーの肩に頭を乗せながら欠伸をしている。
リリーがノートを閉じた。それが終わりの合図だと悟ったシルヴィが組手を止める。余程体力が削られたのか全身で呼吸をする騎士達に対し、対戦していた影達は余裕な態度だ。
「メル」
今日初めてリリーが喋るのを聞いた騎士達はピクっと反応し耳を澄ませた。呼ばれたメルという先程ルークと対戦していた少年がリリーに駆け寄る。何を話しているのか聞こえないが戻ってきたメルは随分と嬉しそうな表情をしていた。
「あらメルったら随分嬉しそうねぇ」
「うん。リリーに褒められた」
その姿は先程と違い年相応の笑顔を浮かべていた。
「皆ご苦労さまー。リリーさんに報告し終わったら解散していいよ。君達はそれまで休憩ね」
影達はリリーへ報告をしに行った。その場に残った騎士達は立つことも無理な様で床に座っている。シルヴィはウィルフレッドとリヒャルトを見た。彼の予想だとこの中で一番強いのは二人のどちらかだろう。そんな事を考えていたらふとリヒャルトと目が合った。
「なに?ピンクチャラ男」
「チャラくねぇし・・・ねえ、シルヴィはどうしてリリーの言ってる事わかるの?無口で無表情で全然わかんなくない?」
「あ゛?何言ってんの。リリーさんめちゃくちゃ喋るし表情も豊かじゃん」
(((・・・どこが?)))
リリーを見ても影の連中に埋もれててその姿が見えない。
「リリーのこと慕ってるけど、どういう関係?」
「リリーさんは神!尊い存在。僕の命を救ってくれた女神様」
「命を救った・・・?」
「うん。僕・・・愛玩奴隷だったんだよね」
「え・・・」
騎士達にとってこれ迄にない衝撃が走った。
奴隷の存在は知っている。だが日常では触れることも話題に出ることも殆ど無い遠い存在だった。彼らにとって目の前にいる生意気な少年が元奴隷、しかも愛玩奴隷などという非現実の衝撃を受け、悪気無く少し距離をとってしまった。
「元主人の貴族のババアのアソコが臭すぎてむせたらボコボコのボロボロにされて捨てられたの。リリーさんが拾ってくれて今に至る。・・・僕のこと嫌になって触れられたくなかったらさっさと強くなってここを卒業するんだね」
喋るシルヴィの瞳に光が無くなっていた。
話しかけたリヒャルトがシルヴィに手を伸ばそうとし、止めた。拒絶したわけでも、引いたわけでもない。どちらかと言うと慰めたくなった。だが会ったばかりの彼にかける言葉がなかったのだ。
影達と話を終えたリリーが近付いてきた。
シルヴィの瞳は輝きを戻し、犬が主人を見つけ喜ぶかの様に彼女に抱き着いた。
「リリーさんおかえり!次どうする?こいつら弱過ぎるからその辺に捨てちゃう?」
(((おい・・・)))
先程と違い明るく話すシルヴィの顔をリリーは見つめた。
「・・・何かあった?」
「んー?何もないよー」
うそだ。
シルヴィの誤魔化しはリリーに通用しない。
リリーは絶対何かあったとシルヴィを見続けた。誤魔化しても僅かな事でも気付いてしまうリリーをシルヴィは愛おしそうに見つめ、彼女の頬にキスをした。
「ほんと、リリーさんには敵わないや。ちょっと昔を思い出してね。でも、もう大丈夫。僕にはリリーさんがいるから」
シルヴィのイチャつきを遠目で見る騎士達。二人の少女がじゃれ合っている様にしか見えない姿にシルヴィの裸を思い出し、気持ち悪くなり忘れようと彼らは頭を振った。
「はい、じゃあ今からリリーさんの代弁をします。君達動き遅すぎ。筋力無さすぎ。腕力も脚力も全然ダメ。ちゃんと目開けて見てる?寝てんじゃないの?顔が良いだけのヤリチンカス野郎がお前らが出来んのは女口説く事だけか?と言うことで今から外で基礎体作りをしまーす!」
ビッッキイィイッとこれ迄にない程の青筋が騎士達の額や首筋に浮かんだ。
そこまで言ってないんだけどなと遠い目をするが否定しないリリー。
言い切ったシルヴィは爽やかな良い笑顔だった。
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