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 リリーが帰宅し、やっと店員が離れたところで酒が再スタートされる。

「で?さっきの何だったの」

呆れた笑顔で部下を見るジョン。
彼らは正気を取り戻したようだ。普段の表情に安心する。だがいったい何が彼らにあんな事をさせたのか気になった。

リヒャルトがジョンの瞳を真っ直ぐ捉えた。

「ねぇ団長、リリーって娼婦だった?」

率直に聞けるリヒャルトに悪気はないのだろう。リリー本人がこの場に居てもリリーなら気にしないだろうと彼女をよく知るジョンは笑顔で頷いた。

やっぱり彼女だったんだ・・・。

きっと騎士全員がそう思っただろう。
思考が固まる者、顔を綻ばぜる者等様々な反応をしている。

「・・・何で娼婦に?彼女強そうだけど」

こういう聞きづらい事を素直に聞けるリヒャルトの存在が有難いと他の騎士達は思った。

「いや~さすがに個人的な話はちょっとね~」

「何本かボトル奢るから・・・エレンが」

(なんで、僕・・・?)

突然のリヒャルトからの名指しに困惑するエレン。だが彼自身も聞きたい話だったので笑顔で受け流すことにした。現金なジョンは笑顔でリリーの素性を話した。

「リリーは子供の頃からそれはそれは苦労してね。彼女の親がクソだったんだ。親の残した借金で妹ちゃんが人質になってね、影で働いているのにお金稼ぎたいって言うから俺が紹介したの。んで、その妹ちゃんが亡くなって借金も終わったから娼婦を辞めて影だけで働いてるってとこ。・・・・・・あれ?もしかして君達が気に入ってた娼婦ってまさかリリーのことなんじゃ・・・」


彼らの反応を見て確信に変わった。
ジョンは面白いものを見つけた少年の様にウキウキワクワクしている。
ここは彼らを酔わせて根掘り葉掘り問いただそうと決めた。



 テーブルには空のボトルが数本無造作に置かれている。ここまで呑ませてやっと酔ってきた可愛い部下達を前にジョンのニヤつきが止まらない。

「いやーまさか君達全員がリリーを指名し続けてたなんて意外だなー。だって彼女最後までしないから他の子より安くても物足りないんじゃなかったの?」

「・・・他の女は要らん事を喋り過ぎて疲れる。その分あの女は必要最低限な事しかしないから楽でよかった」

紫色の前髪を掻き上げ酔って頬を染めたルークがムスッと口を尖らせた。

「だが突然辞めるとは薄情過ぎる。この私があれ程指名してやったのに・・・まさかあんな女だったなんて」

今あるグラスを飲み干して手酌をし、どんどん酒を飲むルーク。彼にとっては初めて興味を持った女が謎の娼婦だったのだ。それが影の一員で無愛想なリリーだった為思うところがあるのだろう。

そんなルークとは真逆の表情をしているのがノエルだ。酔っている彼はくしゃっと可愛らしく笑った。

「僕は想像通りでした。あまり喋らなくて小さい子だと思っていたので」

「何で小さい子だと思ったの?目隠ししてたでしょ?」

ジョンの問にノエルがビクッと反応し、恥ずかしがりながら赤らめ、顔を逸らした。

「触られた時の手が小さかったからです。両手で掴まれた時も足りてなかったし」

え、どんだけ大きいの?

ジョンはノエルの下半身を凝視した。
テーブル越しだから見えないのにノエルは慌てて手で隠す。

「そ、それに贈り物をした時乗って来た彼女が軽かったんです!」

「あ、それはわかる」

便乗してきたのはエレンだけ。残りの三人はなんの事だと首を傾げている。

「プレゼントを彼女が気に入ればお礼の代わりに顔にキスしてくれたんだよね。それが嬉しくて毎回何かしら用意してたな」

「えー何それ俺もやればよかったなー」

まあ今更かーと残念そうに酒を飲むリヒャルト。酔ってはいるのだがまだまだ余裕なのだろうエレン、リヒャルト、ウィルフレッドだけ顔が変わっていない。

「サービスを受けた者と受けてない者に別れたって訳ね。受けた者の方がモテるね」

「モテたいとは思っていない。娼婦に入れ込む方が馬鹿だろう」

ジョンの言葉に冷めた態度で酒を飲むウィルフレッド。

そう言えばこいつは彼女と会えた最終日に花束を持っていたと思い出しエレンを見た。
反対に言われたエレンは隣に居るウィルフレッドを流し目で見る。

「入れ込む気はないよ。楽しい空気を作りたいだけ。あの子と居ると心地良かったのは皆も同じだったんじゃない?」

「確かに添い寝をお願いした時すごく良かったです。良い匂いがしたし繋いだ手とか密着した体温が温かくて・・・あれは、良かったなあ」

「「「・・・・・・・・・。」」」

ノエルの中では相当良い思い出なのだろう。無邪気に微笑む最年少に他の騎士達は表情を変えずに彼を睨んだ。

(僕もそこまではしてもらってないのに・・・むかつくなあ)

特にエレンは笑顔のままノエルを睨む。
この光景が相当面白いのかジョンは震える肩を自分で抱き締め笑いを堪えていた。

「それで、リリーの事気になっちゃった?これから仲良くなりたいとか思う?」

「謎だったから興味があっただけかな。正体知っちゃったらもういいかも」

意外にも言い切ったのはエレンだ。
これが数多く女を泣かせている男の正体である。

「僕も楽しかった思い出と影の彼女は割り切ります」

「私は端から興味がない」

「同じく」

「え~つまんない。リヒャルトは?君結構リリーの事気にしてるよね。さっきも連れて来たし」

「んー、俺も別に。俺って平民じゃん?だから仲間意識で連れて来ただけ。それに俺Sだから反応良い子がいい。あの無口で無表情なのはちょっとなー、楽しくなさそう」

リヒャルトの言葉を理解出来ないジョンは暫くきょとん顔で固まってしまった。

リリーが無口で無表情?確かに口数は少ない方だけどあんなに可愛く笑って表情豊かなのに?・・・・・・ああ、そうか。リリーはこの子達に気を許してないだけか。うん。納得。そして、良い。気を許してる俺に向ける笑顔ってやつ。いい。

「・・・リリー尊い」

艶やかな黒髪に琥珀色の美丈夫が顔を赤らめうっとりとニヤつく姿に部下の騎士達が怯える。

「団長やばい顔してるよ」

「もう会うことはないんだしこの話はいいだろう?」

リヒャルトにジト目で見られウィルフレッドに呆れ顔をされたジョンは生意気な部下に対し怒るわけでもなく笑顔を向けて紙と金を渡した。

「何言ってるの合同訓練と特別任務は始まったばかりでしょ。明後日の早朝そこに書いてある場所集合ね。もうリリーに興味ないならその金で他の女抱いてスッキリしてきなさい。それじゃ、おやすみ」

呆気なく帰ってしまった団長のジョン。
彼が置いていった金を見続ける男達。

「僕行かないから行く人でわけてよ」

エレンが言い切るがどうやら他の男達も娼館に行く気は無いようで各々手酌酒を楽しむ。

今更面倒な相手と体を重ねる気になれない。
リリーの正体を知らずに彼女が辞めてなきゃいいのにと五人全員が思った夜だった。


「・・・それで、ノエルが他に受けてたサービスってどんなの?」

「膝枕してもらったりーークッキーを食べさせ合ったりーーあとはーー」

「・・・ふーん」

(やっぱりむかつくな・・・)

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