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六章 奴隷にされた少女

奴隷商人、ガウイン

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「ん……んう……?」

 目を覚ますと、私は薄暗い所に倒れていた……。

 リーツェでハンスという人と護衛の打ち合わせに行ってからの記憶がない……。
 少なくともここはリーツェではないようだ……。

 立ち上がろうとすると、天井が低いようで、頭を打ってしまった。

「あた……!なにこれ……?」

 天井を触ってみると、鉄で出来ているようだ……。
 取り敢えず、現状を把握するためにもまずは明かりが必要だろう……。

「『照明魔法イルネート』」

 私はイルネートを唱えた……が、何も起こらなかった……。

「え……?」

 私はもう一度イルネートを唱える……。

 しかし何も起こらない……。
 魔法が使えない……?

 手を前に差し出してみると、鉄の棒みたいなものを掴んだ。
 なんだろうこれ……?

 しかもそれは一本だけだなく、いくつもある……。
 さらに言えばその鉄棒は私がいる所をぐるりと取り囲むように取り付けられていた。

 低い天井……、鉄の棒に取り囲まれた場所……。
 まさか……ここは……。

「檻か何か……?」

 どうやら私は猛獣を閉じ込めておく檻のようなものに閉じ込められてしまっているようだった!

「ちょっと……!ここはどこ……っ!?ここから出してよ……っ!!」

 私は誰かいないかと叫んでみると、突然灯りが灯される。
 突然の灯りで目が眩みそうになる……。

 そして、一つの足音が聞こえて来た。

「これはこれは生きの良い女奴隷だ……」

 私の目の前に頭にターバンを巻いた、商人のような男が現れた。

 その男は顔も腹もブクブクと太った、如何にも悪徳商人のような見た目だった。

「あなたはだれ……?私が奴隷ってどう言うこと……っ!?」

「ワシはガウイン、奴隷商人だ。お前は奴隷として売られたんだ。嘘だと思うのなら今自分が着ているものを見てみろ」

 ガウインと言う男に言われ自分が着ているものを見ると、さっきまで着ていた鎧ではなく、誰が着ていたのかも分からない、汚くてボロボロの服と呼べるかもわからない粗末な物だった……。

 辛うじて胸元や下腹部こそ隠れて入るが、まるで奴隷が着ているような、そんなみすぼらしい格好にされていた……。

 更に周囲を改めて見ると、私は四角い檻に閉じ込められ、手には手錠がつけられていた。

 さらに、私の周りには幾つも檻が置かれており、その中に沢山の人間やエルフ、獣人族など老若男女問わず様々な人々が囚われていた。

「そんな……!なんで私が奴隷に……っ!?」

「いっただろ?お前は売られたんだよ」

 売られた……?一体誰に……。

 その時ふと、ハンスの名前が頭に浮かぶ……。

「まさか……、ハンス……?」

「ハンス……?お前はハンスに売られたのか。ヤツはワシの上得意でな。ま、可愛そうだがヤツに捕まったのが運の尽きだと思って諦めるんだな」

 だからと言って、はいそうですか……と言うほど私は聞き分けはいい方ではない。

 それなら力付くで出てやるまで……っ!!

「『ファイヤーバレット』っ!!」

 ファイヤーバレットをガウイン目掛け唱えるが、イルネートの時と同様に発動されることはなかった……。

「言っておくが、魔法は使えん。お前の首につけられている首輪がある限りお前は魔法を使えない」

「な……っ!?」

 言われて首元に手をやると、確かに首輪のようなものがつけられている。
 そして、その首輪には鎖が付けられ、檻の端へと続いていた。

「奴隷にされるくらいなら死んだほうがましよ……っ!!」

「それは困る。お前は大事な商品なんだ。死なれたらワシは損をしてしまう。さあ……!こっちに来い……!」

 ガウインは檻の外から首輪へと繋がっている鎖を引っ張ると、私はガウインの方へと引き寄せられる。
 前へと逃げようとするも、逆に首が締まって苦しくなる……。

「ちょっと……!やめ……!なにする……むがぁ……っ!?」

 そして、檻の隅へと引っ張られた私に、ガウインは猿ぐつわを噛ませると、引っ張っていた鎖を手放す。
 すると、その拍子に前へと転んでしまった。

 猿ぐつわを噛まされてしまい、これでは喋ることも舌を噛み切る事も出来なくなってしまった……。

「お前にはお前の名前があるようだが、ここでのお前の名は1165番だ、腕に番号も書いてあるから忘れるな」

 私は自分の腕を見てみると、剥き出しとなっている腕には1165という番号が書かれている。
 私は人ではなく、物として扱われてしまっていた……。

「あと、これは返しておく。ワシが持っていても必要ないからな。」

 ガウインは私に何かを放り投げる。
 拾ってみると、それは私の冒険者カードだった……。

 今となってはこれに写っている私の笑顔が遠く感じる……。

「奴隷のオークションが始まったらまた来てやる。それまで大人しくしていろ」

 ガウインが立ち去ると、灯されていた灯りが消される……。

「う……、うく……!ぐす……!ひぅ……っ!う……、ううぅぅぅ……っ!ザクス……!助けて……っ!ひっく……っ!助けてよぉぉ……っ!」

 なぜか頭の中にザクスの顔が思い浮かぶ……。
 もうザクスに会えない……。そう思うと途端に胸が苦しいほどに締め付けられる……!

 私は冒険者カードを胸に抱え込むと嗚咽を漏らすように泣くのだった……。
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